13.想像以上に
――ルマに案内されてやってきたのは、『ルーゼの村』と呼ばれる場所だった。
確かにルマのいた森からはそれなりに離れており、わざわざ森から離れて村までやってくる魔物はいないのだろう。
「おや、旅の方ですかな?」
村に入ると早々に、入口付近にいた老人に声を掛けられた。
「あ、えっと、はい、一応……?」
旅の方――と言っても、ミリシャはルマに連れてこられただけ。
それに、村にも立ち寄っただけなので、問いかけられて思わず言い淀んでしまう。
「そうですか。こんなところまで大変だったでしょう。何もないところですが、ゆっくりなさるといい」
「ありがとうございます」
老人にお礼を言って、その場を立ち去る。
やはり、この村は辺境地にあるのだろう――老人も、ミリシャが森の方から来たとは想像もしていないに違いない。
村の敷地内には畑もあり、村人が作業をしているのが遠目からでも分かった。
「何と言うか、あんまり変わってない気がする」
「五百年前と比べて、ですか?」
「うん。実感はなかったけど、やっぱり五百年って想像もできないくらい長い年月だから。ひょっとしたら、私の想像を遥かに超えるようなことになっているのかもって」
「ここがあくまで地方の村っていうこともあるでしょうね。技術的に言えば、人間は進歩していると思いますよ」
「そうなんだ」
ルマの言う通りなのだろう――長い年月が経っても、変わらないものはある。
正直、ミリシャは少し安堵していた。
この世界はもう、ミリシャの知らないものになってしまったのだと思っていたから。
けれど、村に入れば話しかけてくれる人がいて――受け入れてもらった気持ちになる。
「町に行く前に、ここに来てよかったかも。物凄く発展とかしてたらどうしようかと思って」
「ミリシャ様はこういった村で暮らしたいですか?」
「うーん、どうだろう。雰囲気は好きだけど、ここの人達にも苦労はあるだろうし」
「ご要望があれば、村で暮らせるように手配致しますので」
「あ、ありがとう」
思わず、苦笑しながら礼を言う。
ルマはフェンリル――のはずだが、さらりとこんなことを言うくらいには、ミリシャよりよっぽど人間の暮らしには慣れているのだろうか。
「ルマってあの森で暮らしてるんだよね」
「はい、そうですよ」
「ミリシャ様のお身体と魂の安全確保には適しておりましたし。ただ、やはり森の奥地ですから、ミリシャ様の今後のことを考えますと、こうした人里の方がよいかとは思います」
「ルマはその、人里での暮らしとかは……?」
彼女も共に暮らす前提になるが、率直な疑問でもあった。
ルマはそういう暮らしを望むのだろうか。
「わたしはミリシャ様のいらっしゃるところならどこでも」
さらりと笑顔で言い切る辺り、徹底していると言えるのかもしれない。
けれど、ミリシャが聞きたいのはそういうことではなく。
「わたしのことは一旦抜きにしたら、どうかなって」
「……ミリシャ様はわたしと一緒にはいたくないですか?」
しゅんとした様子で聞かれ、何だか罪悪感が出てきてしまう。
あくまで例え話のつもりだったのだが――ルマにとっては『わたし抜き』という前提がそもそもあり得ないようで。
「ご、ごめん。ルマの率直な気持ちが聞きたかったというか」
「わたしの気持ちはいつだって一つですよ。ミリシャ様のお傍にいることです。ミリシャ様が望むのなら、森の奥地でも辺境の村でも、都市の中心部でも構いません」
――ルマは想像以上に、ミリシャに依存しているらしい。




