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海獣部隊の跳梁 ①

 サワカ事件は連合軍総司令部に衝撃を・・・すぐには与えなかった。と言うのも、サワカの港自体が爆発によって外部との連絡機能を喪失し、事件の詳細がすぐには伝わらなかったからだ。また事件発生が伝えられた後も、その被害の規模に関する報告が錯綜し、被害の全体像をつかみ損ねてしまった。結果的に、被害状況の詳細が判明するのは救援隊が入った後、すなわち事件発生から丸二日が経過した後であった。


 この時点で、サワカの港が壊滅的被害を被り、爆発した「ミルキー」号乗員を含めて多数の死傷者が出たことが判明した。ただし、この時点においてはまだ緊急招集が発せられることにはならなかった。


 それは「ミルキー」号の爆発が当初事故であると見られていたからだ。これは同船が弾薬輸送船という、そもそもが燃えやすい状況にあったこと、そして同船の乗員の多くが死傷し、事件発生時の状況が詳らかにならなかったことによる。


 しかしサワカ事件発生から10日間の間に、実に6隻の艦船が船底を傷めるという事件が発生した。しかも、この内日本海軍駆逐艦の「如月」は、哨戒任務を終えて帰投中のところでやられてしまった。同艦の不幸は浸水こそ軽微だったものの、よりにもよって爆発による衝撃で舵機を破損し、人力操舵に切り替える前に岩礁に速度が付いたままで乗り上げてしまったことだ。


 幸いにも艦長以下死者は出なかったものの、岩礁に乗り上げた「如月」の艦体は激しく削り取られ、全損判定を受けてしまった。


 これは、異世界における初めての戦闘艦艇の喪失となり、同艦の艦長が自決未遂を起こす騒ぎに発展した。


 この「如月」の撃沈(厳密には座礁による艦体全損だが喪失には違いない)と、サワカ事件の聴取が進んでようやく「ミルキー」号で爆発前に船底において爆発が起きたという証言が得られたことで、ようやくのこと総司令部もこれが敵軍による意図的な攻撃の可能性が高いと判断した。そして改めてサワカでの一件を含めて、再度調査が行われた。


 そして数日の後、ルース湾に停泊する総旗艦「最上」に、派遣軍に属する主だった海軍提督が須田の命令の下で召集されて緊急会議が行われた。


 ちなみに、何で連合軍総司令のショーンではなく、あくまで海上部隊の総司令である須田による海軍内だけでの召集になったかと言えば、この時点では海上における戦闘行動故の召集であり、その権限を須田がショーンから一任される指揮系統が整備されていた故にだ。


「諸君、由々しい事態が発生した。サワカの事件を皮切りに、今日までに実に艦艇3隻と船舶4隻が被害に遭い、このうち輸送船1隻と駆逐艦1隻が喪われた。我々連合軍が戦争に突入して以来の被害と言っていい。そして何よりも問題なのが、これが敵の攻撃であるということだ」


 須田の言葉に、出席した各国の提督や参謀たちのうちの幾人かは頷き、そうで無い者はざわめいた。何故なら須田が可能性ではなく、敵の攻撃と断言したからだ。


「須田提督。事故ではなく敵の攻撃と判断した根拠をお聞かせ願いたい」


 ざわめいた側の1人、現在中将となって異世界におけるドイツ海軍の全権を有するエーベルト提督がまず手を挙げた。


「エーベルト提督の質問ももっともだ。当初派遣艦隊総司令部でも、サワカの一件を含めて事故だと考えていた。しかしながら、発生時の状況を詳細に聴取、精査した結果これは事故ではなく、人為的な破壊行為であると判断するにたる事実がいくつも見つかった。詳細はこれより担当士官から説明するとともに、手元の資料にも記したので、各自目を通して欲しい」


 最終的に須田らが一連の艦船被害を攻撃と判断したのは、いずれの場合も乗員の複数が艦底部からの爆発音を聞いていたこと。これはようやく聴取したサワカで爆沈した「ミルキー」号にも言えたことであった。ただそれ以上に決定的であったのは、ドック入りした船の底から、明らかに爆発によるものと思しき損傷が発見されたためである。


「これは間違いありませんな」


 写真を見たエーベルトが頷く。


「現在のところ被害艦船は輸送船1隻と駆逐艦1隻。サワカの被害は別とすれば、全体としてはそう大きな被害とは言えませんが、しかしこれは・・・」


 最近着任したばかりで、露西亜艦隊を指揮するワシリー・マレンコフ少将が苦い顔をする。彼の言わんとしていることは、誰もが理解していた。


 それは敵が有力な対艦攻撃法を編み出したということである。しかも、その攻撃法が明らかに魚雷か機雷、すなわち水線下に被害を与える水雷兵器の類であることも、悩ましいと言えた。


 ちなみに、機雷戦術に関しては露西亜帝国海軍に一家言がある。日露戦争時に、機雷のみで日本の主力戦艦の3分の1をもぎ取ったのは伊達ではない。


 そのため、現在に至るも露西亜帝国海軍は機雷戦術では世界のトップを走っている。革命騒ぎとその復興で海軍予算が削られて、大口径砲や魚雷に掛ける予算に事欠き、安価な機雷に頼っているという事情はあるにしても、機雷敷設や機雷自体の性能はよいものを取り揃えている。


 それだけに、今回技術的に大きく劣っているとされていた異世界の敵に、水雷兵器で一杯食わされたことは悔しいのである。それが、彼の苦い顔と苦言に繋がっていた。


 現状の被害そのものは、異世界側に派遣されている艦船の数からいうと、もののかずではない。それでも、やはり衝撃的な事態には違いなかった。


「ま、今さら終わったことを口にしても始まらない。それよりも、大事なのは今後だ!どうすればこれ以上、魔法使いどもの好きにさせないかだ!」


 米艦隊を指揮するカールセン提督が吼える。


「順当に考えれば沿岸部の対潜哨戒を強化するというとこだな。おそらく敵は、イルカやクジラを使っているだろうからな」


 カールセンの言葉に最初に反応したのは、英艦隊を指揮するコネリー提督であったが、実際のところ他の提督たちが思っていることも同じであった。


 今回の攻撃は水線下、すなわち海中から行われている。モラドアにしろバルダグにしろ、潜水艦は有していない。しかし、イルカやクジラと言った海獣を利用した魔術師の部隊があるのは既に確認済みだ。


 ただし、これまでの情報では海獣部隊の攻撃力ははなはだ脆弱で、艦船に被害を与えられる類のものではなく、主に哨戒任務に使われていると思われていた。


 しかしながら、今回の状況を推測するに、その海獣部隊による攻撃の可能性が高かった。もちろん、別の手段と言う可能性も無きにしも非ずだが、仮にそうだとしても海中への警戒レベルを上げるという選択肢に間違いはない。


 だが、ことはそう単純ではない。


「対潜哨戒を強化すると言っても、現段階でもそれなりの数の艦艇を投入していますが?」


 須田の部下である日本海軍の参謀がそう漏らせば。


「それでは足りないということだろう。前大戦の忌々しいUボートから船団を守るために、どれだけの艦艇が必要となったか」


「しかし日本人に同情するわけではないが、艦艇の数がいきなり増えるわけでもない。どこかの国が前大戦の講和条約で艦艇数を制限してくれたからな」


 英独の佐官たちが嫌味を言い合い。


「まだ艦艇があるだけいいじゃないか。うちなんか予算不足で現状維持が精一杯だというのに」


 と露西亜海軍の参謀が零す。


「諸君。愚痴を言い合うなら会議後にしてくれ。それよりも、現状我々ができることを考えよう」


 すると、アメリカ人の一人の参謀が手をあげた。


「何かな?ニード中佐?」


「月並みではありますが、航空機による哨戒を強化してはいかがでしょうか?前線に派遣する航空機が減ることにはなりますが、上空からの対潜哨戒は効果がありますから」


「なるほど、ただそうなると総司令部の許可も必要となるな」


 現在イルジニアには各国の航空部隊が進出している。その中には洋上飛行も可能な多発機や多座機も多く含まれている。これらの機体は沿岸部の哨戒に使用されているものもあるが、もちろんそれだけではなく前線での爆撃や偵察、或いは輸送任務に用いられている機体の方が圧倒的に多い。


 それを対潜哨戒に投入すれば、沿岸部における敵の動きを大きく牽制できるだろう。一方でそれは、他の任務にしわ寄せが行くことになるし、須田の管轄下にない機体であるから、全軍をまとめる総司令部の許可を得る必要があった。


 しかし、早急に行える手段であることには間違いなかった。


 参加者からは。


「須田提督、総司令部に要請を!」


「空軍や陸軍の連中を説得するのは骨が折れるでしょうが、我々も協力します」


 という軒並み賛成意見が出た。


「わかった。とりあえず、ショーン元帥に要請しよう。それから、航空戦力の強化もな」


 こうして、航空戦力の強化案が決まった。


 もちろん、これだけでは済まされない。何故なら、この時代の航空機には致命的な欠点があったからだ。


「昼間は航空機でいいが、夜間はどうする?」


 そう、この時代の航空機の夜間行動力はほとんどない。出来なくはないが、それはパイロットの技量に頼る部分が大きかった。


 夜の守りも考える必要があった。






 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 司令は駆逐隊とかのレベルの指揮官なので、全海軍部隊の指揮官に対して「須田司令」というのは気になります。
[気になる点] 「ミルキー」号はママの味。 姉妹船に「ギニー」号が居たりして(サキュ嬢ネタ)。 [一言] 新兵器として、航空部隊の中にケレット製かなんかのオートジャイロが欲しかったり。低速で爆雷積んで…
[一言] 更新お疲れ様です。 姿なき襲撃者?に打つ手は限られ・・・・ 機材や技術が限られる中、防衛策は実るのか? 次回も楽しみにしています。
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