大陸反攻 ②
異世界における地球側連合軍による初の本格的な陸上攻勢。それに伴い、敵陣地や地竜を攻撃する際、威力を発揮したのは各種の砲(迫撃砲を除く)である。魔法で強化され、あるいは分厚い鱗で覆われたそれらを、砲弾はその強力な破壊力で撃破あるいは殺傷し、大きなダメージを与えた。
もちろん、新型でより口径が大きい砲ほどその効果を発揮した。ただし、口径の大きい砲は破壊力に優れる反面で機動力に劣るため、進撃しながらの使用には色々と難があった。だから総合的に見ると破壊力は劣るものの、機動性の点(特に相手も動く対地竜戦の場合)から見て戦車搭載砲が一番活躍した。
ちなみに二番目に活躍したのは日本陸軍が投入した89式擲弾筒で、軽量で持ち運びに便利ながら一定の威力ある弾薬を使用できる点が評価された。
なお、後に各国とも歩兵が持つ大威力の携帯式兵器としてバズーカや、パンツァー・ファウスト、PIAT、携帯噴進砲等を配備しているが、この時点では持ち運ぶには不便さが伴う歩兵砲や、威力が中途半端な対戦車ライフル、集束手榴弾など装備が限られていた。
そのため、日本側から戦場で密かに融通されるなどの行為が、大戦初期には時折行われた。そしてこの時に、その形状から誤って膝打ちする各国兵士がいたという。その結果は負傷と言う形で跳ね返ったのだが。
それはともかくとして、この攻勢で戦車はその威力を如何なく発揮した。
「撃て!」
日本の89式中戦車が搭載する57mm砲は短砲身で装甲の貫徹力はそれほどではない。そのため、後に表面の鱗を強化するなどした地竜や火竜が出現するとたちまち陳腐化することとなるのだが、地上陣地やこの時点での地竜相手であれば十分に威力を発揮できた。米軍使用のルノー戦車搭載の37mm砲も同様である。破壊力では物足りなさを感じたとしても、やはり対人・対陣地用に榴弾を撃てるのは大きかった。
一方独軍の1号・2号戦車の機関砲は、ピンポイントの破壊力では小口径砲に劣らない部分を見せた。現に地竜の撃破数は、砲に劣らないものだった。しかしそうは言うものの、破片効果が薄いために広範囲に打撃を与えるという点では、やはり劣っていた。
陣地の壁を破壊できたとしても、榴弾なら破片をまき散らして周辺の敵兵を一気に殺傷できるが、機関砲だとその後も当たり一面に銃弾をまき散らさないと効果が薄い。
「やはり機関銃だけでは使い勝手が悪すぎる!」
「砲を積まない戦車なんて、装甲車と変わらないじゃないか!まったく!」
1号や2号戦車に乗り込んだ戦車兵たちは口々に悪態を吐いた。
「まさかイワンの戦車を羨ましく思う時が来るなんてな」
1号・2号戦車の乗員たちは、45mm砲をぶっ放すBT5型戦車を羨望のまなざしで見た。彼らは前大戦でいい所がなかった露西亜軍、その彼らが開発した兵器を下に見ていた。
「君の国の戦車も中々やるじゃないか」
「お褒めに預かり恐縮です閣下」
狭い指揮戦車の中で、第一独立装甲師団司令官アルベルト・シュタイアー少将は横に立つ青年士官に声を掛ける。独軍の緑色の制服ではない。紺色地に双頭鷲の紋章が目立つ帽子とセットになった制服。露西亜帝国陸軍の士官服だ。
観戦武官としてシュタイアーと行動を共にしている露西亜帝国陸軍中佐のミハイル・H・ヤンスキーである。普段から冷静な彼であるが、その顔には喜びの色が浮かび上がっている。自国製の兵器が評価されたことが余程嬉しいらしい。
もっとも、第一次大戦後の露西亜を巡る情勢を見れば、それもやむを得ぬことであった。
日露戦争頃から燻っていた革命の火の手は、第一次大戦中の1918年についに爆発し、皇帝と貴族による政治体制を打倒する共産主義者などの革命勢力と、皇帝を支持する勢力との間で大規模な内戦となった。
この革命騒ぎの際に特に勢力を伸長させたのは、共産主義勢力であった。一部では、世界初の共産主義国家が誕生するのではないかと言う憶測が流れた。
しかしながら共産主義勢力は指導者を欠いて内部抗争が激化したことや、肝心の皇帝一族の確保に失敗したこと。その暴力的な姿勢が他の革命勢力の支持を得られず、さらには外国人記者などによってその実態が国内外にも喧伝されたこと等が重なり、一時はヨーロッパ露西亜の大部分を占拠したにも関わらず、その後シベリアに脱出後諸外国の支援で盛り返した皇帝率いる白軍や、露西亜からの独立を目指す各国の独立軍、さらには共産主義の拡散を恐れて出兵した各国軍の前に、最終的には敗北した。
その他の革命勢力に関しても、内戦による国内荒廃や、ウクライナやフィンランドをはじめとする各国の独立の前に、それ以上の内戦継続は不可能となった。
結局、最終的に皇帝がそれまで有してきた専制制度の大幅な撤廃を確約したことで、革命勢力と白軍の間に停戦が成立し、露西亜内戦は1922年に終結した。
この内戦の最中にウクライナやフィンランド、バルト三国やグルジア、中央アジアの国々が次々と独立を果たした。内戦によって疲弊した露西亜帝国にはそれを止める力はなく、各国の独立を承認するしかなかった。また内戦の最中に大規模な援助を行った見返りに譲渡されたサハリンのような領土もあった。
だから内戦が終わった時、露西亜帝国の版図は以前に比べて大幅に減少した。
内戦終結後の露西亜は、皇帝や貴族が放出した各種資産を活用して外国からの技術導入を拡大しつつ、国内には外国資本を受け入れて、大規模な重工業化を図った。特にウラル山脈麓や沿海州に大規模な工業団地が新たに造られた。
そして世相が落ち着いてきた1920年代後半から軍の近代化にも着手した。アメリカやイギリス、ドイツなどから最先端技術の導入を図り、航空機や戦車の開発が進められた。この結果完成したのが日本に輸出したI16型戦闘機であり、今回ドイツに売却したBT戦車であった。
これらはカタログスペックだけ見れば、列強諸国の最新兵器に何ら劣ることのない、優秀な兵器であった。現にI16型戦闘機はエスタル会戦でその強力な武装で敵翼竜を撃破し、またBT戦車もドイツ戦車以上の威力を発揮し、各国将兵を驚かせていた。
第一次大戦では敗北続き。そしてその後の内戦で国土を大幅に減らし、その混乱によって様々な面で停滞したと思われていた露西亜であったが、露西亜製兵器の活躍はかつての大国が復活しつつあることを、各国にアピールするものであった。
もっとも、当の露西亜自身はモラドアやバルダグと直接戦う理由が乏しいので、現在の所は兵器の売却や観戦武官の派遣に留めていた。もちろん、兵器の売却は貴重な外貨獲得の手段となり、観戦武官の派遣は自国製兵器の威力を知るのに必要不可欠なものであった。
もちろん、カタログスペックだけでは見えてこない問題点を探るのも、重要な任務であった。
「ですが閣下、お国の将兵からは様々な不満も聞かれます。そうした面では、我が国はまだまだです」
搭載する45mm砲の威力は素晴らしいBT戦車であったが、ではそれを運用するドイツ兵に不満がなかったかと言えば嘘である。むしろ、様々な面で文句を言われた。
「スリットの窓ガラスの質が良くない!」
「トランスミッションの出来が悪い!」
等々。内戦終了後重工業化を促進したとは言え、まだ10年ほどしか経過していない。まだまだ十分とは言えない工業レベルの部分も多々あるのであった。
「我々は貴重なそうした戦訓を持ち帰り、次なる戦車の開発に生かすのみです」
若いながらも冷静沈着で真面目、中々に見どころのある青年だとシュタイアーは思った。また彼の容姿が目立つのも、シュタイアーとしては気になる所であった。
(確かヤパナ(日本人)が父親だとか言っていたな。日本人は生真面目だと言うし・・・確か父親の性はヒロ)
と彼から聞いたことを思い出していた時、シュタイアーの耳に新たな報告が入る。
「師団長、戦車部隊よりこれまでの被害報告が集計されてきました」
「うん、御苦労・・・う~ん。意外と被害が大きいな」
彼の手元にある戦車は120両で、この内稼働して戦線に投入されたのは100両ほどであった。戦闘が開始されて丸1日。その間に出た被害は全損2、大破5、中小破8。またハッチから顔を出していたところを襲われるなどして、撃破された車両の乗員とは別に4名が戦死していた。
完全破壊こそ2両だけだが合計15両、つまり出撃車両の1割5分が何らかの被害を被ったのは、シュタイアーとしては少々見込みより多かった。
これは後に判明することとなるが、この時期の戦車の装甲がまだまだ薄く、魔法による貫通を容易に許したためであった。
例えば。
「奴らわざわざ自分たちの鉄竜(戦車のことを当初モラドア兵はこう呼んだ)に目立つマーク描いてるぞ!」
「舐め腐りやがって!あそこに集中して撃ち込め!」
森の中を進んでくる独戦車を見つけた魔術師は、砲塔や車体にこれ見よがしに描かれた白の十字マーク目がけて魔法の集中攻撃を加えた。炎を出す魔法でも、使い方によっては威力を1点に集中させることが出来た。そしてその1点集中攻撃を、ドイツ戦車が砲塔や車体に描いていた国籍マークに集中した。
この時期の戦車は後の時代のそれほど装甲が厚くないし、また間接防御に有用なシュルツェンなどの装備もしていなかった。そのため、易々と装甲貫通を許した。
被弾した戦車は運が悪いと弾薬に引火して誘爆、そうでなくても損傷を被って戦闘不能、或いは行動不能に追い込まれた。
「やられた!」
「脱出だ!」
と慌てて脱出すれば。
「死ね!」
「グハ!」
接近してきたモラドア兵の剣に切りつけられる事態も無きにしもあらずだった。
とは言え、こうしたモラドア側の反撃は有効な部分はあったものの、総合的な戦局を覆すには至らなかった。地球側の近代兵器に押されていったのに加えて、やはりレグプール空襲や事前の空爆で兵站を破壊されたことが、大きく尾を引いていた。
加えて、地球側の攻撃は何も内陸部だけの話ではなかった。
御意見・御感想お待ちしています。
なおこの世界の露西亜革命(厳密には未遂)の発生年などは史実とはズレていますので、御注意ください。




