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大陸反攻 ➀

「戦車前進(パンツァー・フォー!)」


 指揮官の号令と共に、鋼鉄の鎧に身を包んだ戦車と、それを支援する歩兵が前進を開始する。


 1935年5月10日、10日間に及ぶ前線への各国空軍によるモラドア・バルダグ軍陣地への爆撃の終了をもって、今度は各国陸軍部隊の前進が開始された。


 作戦名「鉄槌」の開始であった。


 これまでは海空のみからの攻撃であったが、この作戦では終に陸軍を投入し、モラドア・バルダグが占領しているイルジニア領を奪還するのである。


 そうして進撃する部隊の中で、特に異彩を放っているのがドイツ帝国陸軍の部隊であった。この時進撃に参加したのは日米英独の4ヵ国軍(厳密にはこれに当事者たるイルジニア軍が加わるが、戦力的にはアテにならなかった)であったが、その中でもドイツ軍の部隊は戦車を中心として編成されていたからだ。


 第一次大戦後のヴェルサイユ条約によって、保有禁止にこそならなかったものの、戦車の開発を厳しく制限されたドイツ軍であったが、前大戦の戦訓を基に逸早く戦車の集中運用による機動戦と突破戦術を研究した彼らは、今回その研究の成果を異界の地で発揮することとなった。


 厳しい制限下でも海外で共同研究するなどして開発した1号、2号戦車に加えて、ロシア帝国製のBT5型戦車を輸入するなどして数を揃えることで、今回進撃を行う1個師団に実に120両もの戦車(実際は故障などでこれより少ない)を集中投入した。


 性能的に見れば、1号戦車と2号戦車は既に旧式化しつつある日本の89式中戦車にすら及ばない。両車の搭載武装は2号戦車でも高初速の20mm機関砲であり、1号戦車に至っては7,92mm機銃だけで装甲車と同レベルだ。装甲も薄い。


 しかしながら、ロシア製のBT5型まで購入して数を揃えたことと、全車に無線機(ただし送受信可能な車両は指揮車のみ)を搭載したことで、ドイツ陸軍は戦車の集中運用に関して他国よりも抜きんでた実力を備えていた。


 加えて戦車隊と行動を共にする歩兵部隊も、ハーフトラックやトラックによって機械化が進められているのも特徴であった。


 もっとも、歩兵の機械化自体はイルジニアに展開する各国部隊でも急速に進みつつあり、その原動力となっているのは単にアメリカ合衆国の存在であった。


 異世界との戦争前のアメリカは、緊縮財政もあって軍備は貧弱であった。また異世界との戦争が開始されてからも、開発に時間と予算を要する戦車や装甲車両の配備には梃子摺っており、中々進んでいなかった。


 しかしながら、さすが自動車大国。戦時の産物である戦車や装甲車の準備には時間が掛かっていたが、自動車やトラックに関しては民生用のラインを拡大、或いは転用することで、各国軍が求める必要量を簡単に用意することができた。


 無論、日本にしろドイツにしろ、イギリスにしろそれぞれ自動車メーカーが自国内にあり、車もトラックも自前で製造していた。しかしながら、これらの国々ではモータリゼーションの度合いはアメリカの比ではなく、製造していると言っても、そこはアメリカには及ばなかった。だから、国内の最低限の需要は満たすことが出来ても、急拡大するイルジニア大陸における必要量を賄うことは困難であった。


 だから、それらの国々に対してアメリカが売り込みを図り、各国が受け入れるしかなかったのは当然のことであった。


 もちろん、これによってアメリカのデトロイトをはじめとする自動車企業や工場が潤ったのは、言うまでもない。


 前線を進撃するドイツ戦車隊は、次々とモラドア軍の陣地へ襲い掛かった。


「フォイアー!」


 車長の叫びと共に、ドイツ戦車が搭載する7,92mm、20mm機銃、そしてロシア製の45mm砲がモラドア軍の陣地に向かって火を噴く。


 この日までに、前線には航空部隊による空襲が行われていたが、それでもこの世界では翼竜という空中からの攻撃手段があるだけに、モラドア軍兵士たちも空襲に対する術と言うのをそれなりに身に付けていた。とりわけ、塹壕や土壁を築いた簡易陣地はかなりの数が生き残っていた。


 加えて。


「撃てえ!異界人どもに手痛い一撃を食らわせてやれ!」


「魔法舐めるな!」


 イルジニア軍から鹵獲した小銃や大砲も少数ながら配備されるとともに、彼らお得意の攻撃系魔法、さらにはエスタル会戦で戦車を撃破した地竜部隊など、投入できるあらゆる武器を投じて反撃に転じた。


「ガッデム!魔法使いどもも意外とやるじゃないか!」


「火力が不足気味だな」


 日米英軍は意外としぶといモラドア軍に苦戦を強いられる場面が起きた。各軍とも最終的にはモラドア軍に対して近代兵器の火力で圧倒してその陣地を蹂躙していったのだが、敵は構築した陣地に魔法による強化を加えたらしく、機関銃や小銃の攻撃に意外な堅牢さを発揮した。


 エスタル会戦時は相手の攻撃の出鼻を挫く形であり、加えて奇襲効果も加わって地球側の軍隊はモラドア軍を圧倒した。しかしながら、今回は敵の陣地に対する攻撃である。当然ながら、敵は万全とは言わないまでも、しっかりと準備して地球側の攻撃を待ち構えていた。


 それでも、保有する火器の威力や有効射程の長さを活かして、最終的に力押しで地球側の部隊は次々とモラドア軍の陣地を落としていった。とりわけ、ドイツ軍はそのスピードが速かった。


「抵抗の激しい陣地には集中攻撃!でなければ迂回して側面か後方から当たれ!とにかく敵に隙を与えるな!」


 第一独立装甲師団司令官アルベルト・シュタイアー少将が、指揮戦車(火器を降ろして無線装置を強化した戦車)から全部隊へ指示を飛ばす。


 彼の言葉を受けるまでもなく、ドイツ軍は高い機動力を発揮してモラドア軍に手痛い打撃を与えていた。


 とは言え、問題が出てないわけではなかった。特に戦闘開始後目に見えて顕著になったのが、歩兵との連携が円滑になされないことであった。


「おい!歩兵はどこに行った!?」


 周囲に味方の歩兵がいないことに気づいた戦車長が絶叫する。この時点でのドイツ戦車は無線機を指揮車以外は受信用しか搭載しておらず、歩兵との常時連絡が不可能であった。


「トラックがスタックして後方に置き去りです!」


 この時点で、ドイツ歩兵の主な移動手段はトラックであった。アメリカから供与された物も含めて、軍用のトラックはある程度戦場での過酷な使用に耐えられる。とは言え、キャタピラを持った装軌式車両と、タイヤしか持たない装輪式車両では、根本から不整地における機動力に差があった。


 戦車の不整地走破能力に、トラックが付いてこられずスタックする事態が続発した。そうなると、歩兵はトラックから降りて戦車に追随しようとするわけだが、人の足と戦車では余計に差が出る。


「!?ええい、歩兵がいなければ丸裸だ!後退して歩兵と合流しろ!」


 戦車は強力な兵器であるが、万能無敵ではない。特に1号、2号戦車は武装も装甲も貧弱である。また戦車自体、車体全周を鉄板で覆っている関係上、視界が利かないという致命的な弱点を持ち合わせていた。


 この弱点を補うため、戦車長はハッチから身を乗り出すのであるが、それは無防備な自身の体を敵に対して暴露することを意味する。


「あの鉄竜から身を乗り出してるバカな奴を狙え!」


 戦車のハッチから身を乗り出す戦車長は、たちまちモラドア軍兵士のいい的になった。特に厄介だったのが、森の中に隠れて至近距離から襲い掛かってくる敵兵だった。


「死ね!」


「グハ!」


 いきなり草陰から飛び出したモラドア兵が、その長剣で二号戦車の車長を傷つけ絶命させた。


「野郎!」


 その光景を見ていた近くの1号戦車が機銃を発砲して、そのモラドア兵をズタズタに引き裂く。


「ええい!歩兵は何してるんだ!?」


 と多くの戦車兵は考えていたが、当の歩兵たちにしてみれば。


「戦車の連中、何勝手に自分たちだけで突撃してるんだよ!?」


 自分たちを置き去りにした戦車に悪態を吐いていた。


「クソ!ハーフトラックがあれば!」


 戦車と歩兵の協同が上手く行かず、被害が続発しているという報告に、シュタイアーは拳で指揮車の壁を叩いた。


 トラックよりも不整地走破力が高い、後部の車輪がキャタピラになっているハーフトラックを、ドイツ軍は自前で開発してはいる。しかし、ついこの間まで軍備に制限が課され、なおかつ予算的にも厳しかったドイツ軍では、ようやく最近本土の一部部隊に配備が開始された所であった。第一独立装甲師団には、戦車の供給が優先されたこともあり、まだ1両も届いていなかった。


 そして戦闘終了後、彼は余計に腹を立てることになるが、実はこの歩戦協同と言う意味では、日本やイギリスの方が成功していた。と言うのも、日本やイギリス軍は戦車を歩兵の支援兵器として運用しており、少なくとも高速の戦車が歩兵を置き去りにすることなどなかった。


 加えて、日英両軍はそれぞれブレンガン・キャリアやそれと同系列の91式装甲牽引車や94式軽装甲車を配備しており、歩兵や砲兵にある程度の不整地における機動力を提供していた。多数の戦車で高速突進するドイツ軍のような速度は望むべくもなかったが、戦車と歩兵が共同する上ではいい塩梅になっていたりした。


 もちろん、高速は出せないのだから日英軍の進撃速度はドイツ軍のそれに比べて遥かに遅く、占領地域を拡大しているという面だけに搾れば、圧倒的な力を発揮しているのはドイツ軍であった。


 そして今回進撃した中で一番影が薄かったのがアメリカ軍であった。原因は未だに戦車の中心がFT17型のルノー戦車であり、どう足掻いても機動力も威力も不足していたことだ。


 実戦経験に関しては、過日のエスタル会戦や、遡れば満州での馬賊退治などで積んではいたが、攻勢の衝撃力を担う戦車が旧式過ぎては、どうにもならなかった。歩兵の機動力もトラックだけであり、大きく欠けていた。


 もちろんアメリカ兵はそのヤンキー魂を奮い立たせて果敢に勇戦した。しかし残念なことに、戦果と言う数字上の結果に結びつかなかったのだ。


「うちの軍隊は本当に戦争が出来るのかね?」


 他国軍に比べてパッとしない自国軍の戦いに、アメリカ陸軍派遣の連合軍総司令官ショーン大将は、副官にそんな言葉を飛ばすのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] >塹壕や土壁を築いた簡易陣地はかなりの数が生き残っていた。 地球軍が陣地の攻略に手こずっていたのがどう活かされるのか。第一次大戦でも塹壕戦でかなり使われた火炎放射器は投入されなかったのでし…
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