表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/90

帝都東京 ①

お待たせしました。リアルが色々ありまして、投稿期間が長引いてしまいました。


ようやく書きあがりましたが、今回は異世界の魔術師、イアチ少尉から見た、この作品の東京です。

 モラドア軍少尉イアチ・ナイレは、今日の日本海軍の高級士官たちを前にして行われた尋問のことを思い出し、改めて憂鬱となった。


(まさか本当に禁忌の魔法・・・古代魔法を使うなんて!)


 異世界の軍人たちが聞いてきた魔法の内容は、明らかに現在は使われていない古代魔法の類だ。魔法養成校時代、イアチは「やったって意味ない」と同級生たちのほとんどが取らなかった古代魔法の授業を選択し履修した。


 どうして古代魔法の授業に人気がなかったかと言えば、答えは簡単。現在のモラドアの魔法技術では利用できないとされる魔法であるからだ。


 モラドア帝国が成立する以前から、かの地に住む人々は日常的に魔法を使用してきた。しかしながら、その魔法は現在イアチたち魔術師が使う魔法よりも遥かに強力かつ、さらに複雑なことを為す魔法だったとされている。


 現在イアチたちが使う魔法はその時代の劣化版とも言うべきもので、どうして魔法が古代の物に比べて貧弱なものになったかは、現在に至るも判明していない。


 当時の魔法でも抗しえない疫病の蔓延により優秀な魔術師の多くが死んだから。東西の大陸より攻めてきた獣人やエルフによって、土地の魔力を吸い取られたから。その強力過ぎる魔法が天の怒りに触れて封じ込まれたから等、様々な説が唱えられている。


 特に一番最後の天の怒りを買ったという話から、古代魔法を「禁忌の魔法」と呼ぶ学者もいる。実際、イアチもその古代魔法に関しての伝承を聞いたが、「こりゃ神様が怒っても仕方がないわ」と思わずにいられなかった。


 何せその魔法の中には、死人を蘇生したり、人をその意思に関わらず操るなど、誰がどう考えても問題があるものも含まれていたからだ。他に戦争に使ったら恐ろしい結果をもたらす魔法もあったことを、朧気ながら覚えていた。


 もちろん、それ以外の日常生活で使えるレベルの魔法もあったはずだが、どちらにしろ大いに危険な魔法も含まれているのだから、問題には違いない。


 とは言え、その古代魔法は今や伝説だ。魔法養成校時代こそ、その話を面白がって聞いて、伝承を図書室で調べたりもしたイアチであったが、卒業し軍の魔術師として奉職した後は、実用上何ら意味のないその古代魔法のことは、すっかり忘れていた。


 その忘れかけた記憶を、日本海軍の尋問が彼女の脳裏から引きずり出してくれた。そしてそれは、彼女にとっても大きな衝撃だった。


 機密事項である以上、彼女の方から日本海軍に詳しいことを尋ねることなど出来はしなかった。しかし、死者を蘇生させる魔法があるか?破壊した物体を再生し操る魔法があるか?と聞かれれば、祖国がそうした類の魔法を使ったことなど、容易に推測できた。


 そしてイアチは返答にしばし窮した。古代魔法のことはしっかりと思い出したものの、それを敵国の軍人に話すことは利敵行為ではないかと。


 一方で、祖国が禁忌とも言うべき魔法に手を出したことを、看過してもいいのかと。人として越えてはならない一線を越えかねない魔法の使用。それを自分は止めるために、敵にそのことを伝えるべきなのではないかと。


 二つの想いがせめぎ合ったものの、イアチは自分の情報を喋る道を選んだ。ためらいも大きかったが、禁句とされた魔法に祖国が手を出したことに、心の底から憂いてしまったからだ。


(いくら異界の国に負け続けてるからって、限度ってものがあるわ)


 それがイアチの偽らざる想いであった。


「どうかしましたか?少尉。御気分でもすぐれませんか?」


 隣に座る日本海軍の女性下士官が声を掛けてきた。憂鬱な気持ちが顔に出ていたらしい。


「いえ、大丈夫です」


 今イアチは自動車に乗って、東京を走っていた。

 

 重要な情報を提供することとなったイアチは、そうして3日間ほど日本海軍(厳密には2日目以降は陸軍や外国の武官らも加わった)による尋問を受け、情報を提供した。


 もちろん、イアチが知っている古代魔法の情報は、数年前に魔術師養成校で習った範囲のことであり、現在モラドアがどの程度開発し、どのように運用しているかといった核心に当たるものではなかった。


 それでも、魔法を知らない異界の人間たちには、これだけでも大きな成果であったらしく、イアチは重ねて感謝の言葉を掛けられた。


 そして東京に到着して4日目、休息と情報提供の対価と言う意味合いもあり、彼女には2日間の休みが与えられた。その2日間、イアチは案内(兼監視)付きでの東京観光をすることとなった。


 事前に希望を聞かれたイアチは「なるべく東京の色々な所を見たい!」「電車やバスと言うものに乗ってみたい!」と言ったので、様々な交通機関を使って東京のあちこちを回ることとなった。


 まずは宿泊中の帝国ホテルから、車で東京の中央駅である東京駅へと向かうこととなった。この間の移動は短時間であるが、それでも舗装されて道路に整備された街並み、駅までの間に建つ高層ビルを何棟も目にすることが出来た。


「東京は本当に高い建物ばかりですね」


 モラドアにもそれなりの建造物はあるが、それでもこれほどの数はない。日本に来る前から知識としては知っていたが、やはり実物を見るとそのスケール感に圧倒される想いだ。


「ニューヨークの摩天楼に比べれば一歩劣りますが、それでも東洋一の都市であることには間違いありません。12年前の関東大震災では大きな被害を出しましたが、その復興計画でより巨大で近代的な都市になりつつあります」


 案内役としてつけられた海軍の女性下士官、南三等兵曹が自慢気に言うが、実際イアチは彼女(日本人)が自慢できるだけの街だと思った。


 車は短時間のドライブを終えると、東京駅へと到着した。赤煉瓦の巨大で、それでいて美しい駅舎にイアチは目を奪われる。


「大きな駅ですね」


 既にイルジニアや黎明島で鉄道は体験済みのイアチであったが、東京駅の駅舎の大きさに目を瞠る。


「ここには様々な路線が乗り入れていますから。大阪や九州に行く列車もここから出るんですよ」


 モラドアにはまだ鉄道はなく、国内の主要な公共交通機関は馬車か、ゴーレムなど魔法道具で運行する車である。比較的裕福な人間は航空便用として飼いならされ、鞍や籠を装備した竜や天馬を使えるが、価格が高いために、庶民の足と言う存在ではない。瞬間移動できる転移魔法は、術者により転移できる場所や範囲を選ぶし、体力を消耗するため、気軽な移動手段としては使えない。


 イアチはイルジニアに侵攻して、エルフたちが使う鉄道を見て、最初はどうしてこんな物を使うのかと思った。鉄で出来たレールや機関車は、製造が面倒であろうし、蒸気機関車を運転するには石炭や莫大な水を用意するとともに、機関手は熱や煙に苦労しなければいけない。加えて、イルジニアの鉄道の規格が低く、輸送量が小さかったのも、彼女にそんな感慨を抱かせる理由であった。


「あれは何の工事をしているのですか?」


 イアチが指さしたのは、道路の一角で行われている工事だ。巨大な建設機械が槌音を響かせ、作業員が歩き回っている。


「あれは地下鉄の建設工事です」


 南の言葉に、イアチはすぐにその単語の意味を思い出す。


「地下鉄?確か、地面の下を電車が通るという?」


 イアチが意外に地球(日本)についての知識を持ち合わせていることに、南は感嘆の声を上げる。


「ナイレ少尉はよくお勉強されていらっしゃいますね。その通りです。現在東京には地下鉄は渋谷と浅草を結ぶ路線がありますが、5年後の東京オリンピックまでにさらに3路線の建設が予定されています。あそこで建設しているのは、中野から池袋までの2号線です。今日は乗る予定はありませんが、後日乗れるように頼んでみましょうか?」


「出来ればお願いします」


 せっかく異界の国に来たのである。イアチはせっかくだから、様々なことを体験しておきたかった。


「では、行きましょう」


 今回イアチは、南ともう一人女性水兵とともに東京の街を回る。ちなみに、3人とも現在の東京では一般的な女性が着る服装をしている。イアチはワンピース、他の二人もブラウスにスカートといういで立ちだ。


 南が切符を買い、改札で入鋏してもらってホームへと上がる。


 するとすぐに、クリームと赤茶色の二色に塗られた電車が入って来た。


「この電車に乗るんですか?」


「あ、この電車は山手線なので乗りません。次に到着する京浜線の電車に乗ります」


 到着した電車から、どっと乗客が吐き出される。


「うわ~。スゴイ人」


 イアチは乗り降りする乗客の数に圧倒される。既に黎明島で電車への乗車体験は済ませていたが、その時は護送用に仕立てられた専用電車に乗り込んだので、実際に営業して乗客を運んでいる電車を見るのは初めてである。


 そうしている間に、発車を告げるベルが鳴り、扉が占められた電車はモーター音を響かせて発車していった。


 そして、山手線の電車が発車してしばらくすると、3人が乗る京浜線の焦げ茶色一色の電車が、ホームへと入って来た。ブレーキを掛ける金属音とともに、電車が止まり、自動扉が開く。さきほどの山手線の電車と同じく、ドッと乗客が降りてきた。


「さ、乗りますよ」


 南兵曹に手を引かれ、イアチは電車に乗り込んだ。空いてる座席に腰を降ろすと、ベルが鳴り扉が閉まる。先ほどの山手線の電車と同じく、モーターの重々しい音と共に電車が加速を始める。


「うわ~」


 電車の車窓からは、高架線の両側に広がるビル群がイアチの視界に飛び込んでくる。有楽町の日劇をはじめとするモダンな建物の数々に目を奪われる。


 その間、電車は有楽町、新橋、浜松町と停車していく。


「南兵曹、私たちはどこまで乗車するのですか?」


「私たちは大井町まで乗ります。そこで今度は、山手急行電鉄線に乗り換えます。東京の外側をグルッと回る電車ですから、少尉の東京を広く見たいという希望に添えると思いますよ」


 その言葉に、イアチは期待を膨らませずにはいられなかった。


 出発する前の陰鬱な気分は完全に飛び去り、この異世界の巨大な近代都市を見ることに夢中になっていた。 


御意見・御感想お待ちしています。


作中に登場する東京の街(というより東京を走る鉄道)は、この世界の日本経済が史実よりも遥かに好調のために、発展しています。特に地下鉄は史実の銀座線が既に全通し、丸ノ内線など戦後開業路線が着工されています。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ