新たなる脅威 ②
「今回のレグプール空襲では、日米ともに複数の喪失機を出している。その多くは発動機の故障や燃料切れなどの理由で海上に不時着し、乗員は救助された。しかしながら、我が海軍のSBNが1機。敵の攻撃により撃墜されたのだが、攻撃してきた翼竜が火を噴いたという報告がなされている。これまで我々が遭遇した翼竜にはそんな能力はなかった。これは捕虜への尋問などからも裏付けられている。つまり、我々が新型機を導入するように、敵も品種改良した新型翼竜を導入したということに他ならない」
ショーンがまずもって第一の脅威としたのは、今回確認された新型翼竜であった。これまでの翼竜の攻撃法は、乗り手が放つ魔法か、翼竜の翼や脚を使っての衝撃と言ったもので、効果が限定的であった。
しかし今回現れた新型は、口から炎を吐いて、かなりの距離から一撃で、米新型艦爆SBNを叩き落した。
この衝撃の事態に、参加者の醸し出す雰囲気は二種類に分かれた。楽観と警戒である。
「確かに敵が新型竜を出してきたのは警戒するべきかもしれませんが、今回確認されたのは2騎だけだとか。しかもその内の1騎は、艦爆の旋回機銃で落とされたと言うではないですか。そこまで過敏に警戒する必要もないのではないでしょうか?既存の型には我が方の戦闘機で充分なことも証明されておりますし」
と言う楽観論が、イルジニア方面艦隊参謀長の都築大佐から出る。今回艦上から攻撃隊に指揮を執る立場にあった彼は、今回の攻撃成功で自軍の航空機や航空隊に対してかなりの自信を深めたようだった。
実際今回の攻撃に関して、日米にはその後の評価に温度差があった。
それを表すように、警戒論を口にしたのは。
「いや、確かに今はいいかもしれんが、敵がさらに翼竜の性能を向上させ、大量配備してきたらどうだろうか?今回確かに我々は敵の新型翼竜を1騎落としたが、そうは言っても敵に関しての情報が少なすぎる。警戒するに越したことはないと思うぞ」
落とされた艦載機を発艦させた米A1任務部隊司令官のポール・レノー少将だ。
今回敵がこれまでにない方法で攻撃を仕掛けて来たこと、さらにはそれによって最新鋭機を撃ち落とされたことは、かなりのショックを米軍に与えていた。
レノー少将にしても、今回自軍艦載機が日本海軍のそれより優れた機体を投入したと思っていたし、パイロットも腕の立つものを連れてきていた。加えて彼自身、簡単な飛行が出来る程度の飛行ライセンスは持っていた。そのため、飛行機の操縦が出来ないイルジニア方面艦隊司令桜井中将や都築に対して、航空戦を理解しているという自負もあった。
今回の攻撃で米側が制空権奪取に必要な飛行場への攻撃を日本側に譲ったのは、異世界における領土を有する日本側に配慮したのに加えて、桜井中将の方が階級で上にあったからである。レノーとしては、その点忸怩たるものがあった。
だから航空先進国たる自国の新鋭機の活躍に大いに期待していたが、それが呆気なく撃ち落とされたのだから彼もショックを受けたし、警戒するのも当然だった。
この二人の言葉と雰囲気が語るように、同じ攻撃当事者にも関わらず、これだけの差があった。後にこれが機体開発に思いもよらない形で波及することとなる。
一方当事者間ですらこれだけの認識に差が出るのだから、参加しなかった独仏英の関係者としても評価や今後対応するべき点としたこともバラバラであった。
「この火を噴く竜は地上攻撃にも有用なのではないでしょうか?そうなると、より一層の地上部隊や基地の対空装備を充実させるべきなのでは?」
と提起するのは、派遣ドイツ空軍部隊の指揮を執るハインツ・ヨードル大佐だ。陸軍航空隊を母体とし、その主任務が地上軍直協であるドイツ空軍らしい視点の当て方であった。
「ヨードル大佐の意見に付け加えるなら、敵の接近を事前に知るための警戒網の構築も忘れてはいけません。イルジニアとも協力し、警戒部隊の編成と体制構築を急ぐべきかと」
と具申するのは、先遣派遣された英空軍のリック・ベンジャミン中佐だ。
「敵が以前出現した地竜に関しても、品種改良を施して火を吐くということになれば、脅威は格段に増します。部隊の強化とともに、前線に近い基地の機能強化も必要なのでは?堅固なべトンに地下陣地を備えた要塞的な基地が有効になるかもしれません」
ロッサーヌ中将の言葉は、マジノ線要塞建設を推し進めたフランス陸軍らしいとも言えた。
「意見が多数出るのは結構だが、長期的なものはこの際後回しだ。早急に行えるべき対策を、今回は出してもらいたい」
活発な意見が出るものの、今すぐできる対策ではなく、長期的なものが出てきたので、ショーンは議論の焦点を絞った。
「とりあえずは、全航空部隊に警戒を促すとともに、遭遇したパイロットや捕虜からの情報収集を進めて、敵の新型翼竜についての性能を推測値で良いから見極めるべきですね。多少なりと性能を推測出来れば、対抗策も立てやすいかと」
米陸軍航空隊を指揮するロッシュ大佐が意見具申した。彼が指揮する航空隊には新たに高速爆撃機として名高いB10が30機、さらに近代的な単葉爆撃機のA12が20機近く加わり、異世界における完熟飛行訓練中であった。それが終われば、P26戦闘機とともに最前線の敵への攻撃任務に就くはずだ。それだけに、敵の新型翼竜への警戒心は強く、対抗策も早急に練らねばならないところであった。
なお既存の翼竜の性能は、捕虜からの聞き取りでほぼ把握できている。そしてそれにともない、ウィークポイントや制圧法もほぼ研究されつつあった。
ちなみに翼竜のウィークポイントは、背に乗る御者、翼、下腹部、さらには正面の顔であった。背中から側面にかけての鱗は12,7mm以上の口径の機銃でないと貫通は難しいが、7,7mmなどの小口径機銃でも当たり所がよければ充分撃破できる。その場合数機で1騎にあたり、多方向から銃弾を浴びせることが奨励された。
実際、レグプール空襲では日本側戦闘機は翼竜に対して数で圧倒したため、多方向から銃弾を浴びせてこれを撃破していた。
とは言え、それは既存の竜の話。こちらが新型機を投入するように、相手が改良型を逐次投入してこれば厄介である。そのためにも、その性能を出来る限り抑えるのは重要であった。
「その点については、捕虜からのさらなる聞き取りも有効でしょう。それから、イルジニア軍からも情報を提供していただきたい。そちらで得た前線の情報や捕虜の情報で、有益なものがあるかもしれない」
須田の言葉に、イルレが頷いた。
「わかりました。持ち帰って上層部と協議いたします」
「あと、前線部隊に改めて敵の情報収集を強化するよう促しましょう」
ロッシュの意見に、ショーンも賛成する。
「そうだな。また食われてしまってはたまらん」
その言葉に、参加者から失笑が漏れる。
エスタル会戦で敵の地竜を味方が食べてしまうという珍事を起こして以降、全部隊に無機物・有機物含めて有望なサンプルは極力保存回収することが通達されていた。生き物が兵器として、地球よりもはるかに広い範囲で使用されている以上、その生態研究は重大事であった。
このため、各国の生物学者などがその研究・解析に動員されていた。
「竜もそうですし、敵が海獣を兵器として使っていることも脅威です。攻撃力については不明ですが、これは敵が索敵手段として潜水艦を持っていることも同意です」
異世界における独艦隊を束ねるクルト・エーベルト中将(昇進)が今回の作戦で判明したもう一つの大きな脅威について口にする。
モラドア軍がイルカやクジラなどの海獣と魔術師を組み合わせて使用していることに、海軍関係者は予想されたこととは言え衝撃を受けた。
イルジニアなどから得た情報で、この世界にはクラーケンやシー・サーペントなどの巨大海獣や地球にはいない海獣の存在が確認されている。それらの中には船を襲う可能性もあるものがいるため、各艦隊では警戒していた。
しかしモラドアは地球の予想以上にそれらを組織的に運用しているようであった。今回その海獣部隊に所属する魔術師を、偶然とはいえ捕虜に出来たことは僥倖であった。
「今回は相手がイルカだったから索敵だけで済んだが、これがシー・サーペントやクラーケンとなると、攻撃手段として使われる可能性があるぞ」
レノーの言葉に、イレルが付け足す。
「さすがに戦艦や空母が即沈むようなことはないでしょうが、駆逐艦以下の艦艇なら充分脅威となりえます。それに、万が一それらも品種改良されて、強力な攻撃手段を手にすれば、空母や戦艦でも危ういかもしれません」
異世界の生物に関しては、異世界人の方が当然詳しい。
「これは潜水艦を出さなくて正解でしたな」
須田の言葉に、ショーンが苦い顔をする。
異世界派遣連合軍では、各国が有する潜水艦を使って敵国深部への索敵や、工作員の派遣を一時期計画した。しかしイルジニア側から大型海獣の存在が伝えられたため、中止になった。
今になってそれが正しい決断だったということが証明されたわけだが、一方で現状潜水艦を使うのが危険であることも判明してしまった。現状潜水艦がそれらに襲われても、反撃する手段がないのだ。
せっかくの装備が完全に封じられてしまっている現状に、地球側関係者のだれもが面白くないのは、当然と言えば当然であった。
もちろん、一番不満なのは潜水艦隊の乗員だ。モラドアやバルダグが近代的な軍艦を持っていない以上、異世界における彼らが活躍できる余地は少ない。せっかく活躍できる場が出来たと思ったら、それも無理とわかった彼らの憤懣やるかたないこと、非常に大きかった。
「ま、海に関しては当面大規模な作戦を行う予定はない。海軍各部隊は陸上戦闘を支援しつつ、補給路の確保と新海道の防衛に全力を尽くしてもらいたい」
海軍軍人である須田としても、それ以上言いようがなかった。
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