表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/90

レグプール空襲 ⑤

「少佐!基地が!」


「わかっている。だが、どうしようもない・・・クソ!いくら新型騎でも、数が違い過ぎる」


 モラドア帝国空軍第1003竜騎士隊隊長のドエ・ズラエ少佐は、自分たちの10倍以上はいるであろう敵の攻撃を受けるイアルト基地を遠巻きに見ながら、舌打ちした。


「まさかこんな後方で空襲に遭うなんて・・・」


 今回の空襲はあまりにも見事な不意打ちであり、歴戦の彼をしても予想外な出来事であった。


 彼らが所属する第1003竜騎士隊は、新型竜や装備を試験する1000番台の部隊である。そしてその彼らが今回最前線に赴き実戦試験を行う予定だったのが、今乗っている翼火竜だ。


 これまでモラドア帝国軍の主力であった翼竜は、飛行性能こそ異世界の飛行機械に匹敵する高速であるが、打撃力は乗り込んだ竜騎士自身の魔法や、搭載する小型で威力の低い爆弾、もしくは翼竜自身の体を体当たりさせる等の戦法に依存していた。とは言え、これまでは対空火器が発達していないこの世界でなら、それで十分な威力を発揮できた。


 しかしながら、やはり地上から何らかの反撃を受ければ被害が出る可能性は皆無ではなかった。そこで、モラドア帝国では、長年に渡って翼竜の品種改良を続けていた。


 これまでの品種改良では、主に翼竜の体を強化して飛行速度を速めたり、人に慣れた個体同士を掛け合わせてより人に懐くようにしたり、或いは卵のうちに魔法を掛けて防御力の強化(鱗の強化)や持久力を強化した個体を生み出すという、竜の性能を高めることに重点が置かれていた。


 しかしながら、この翼火竜の場合は翼竜に自前の攻撃力を持たせるという、体の仕組み自体を変える大掛かりな品種改良が行われた。具体的には、火を吐く火竜とのハイブリット化であった。しかしながら、この火竜自身は同じ竜ではあるが空を飛ぶことはないし、モラドア軍でよく使われる翼竜や地竜のように人に懐く類のそれでもなかった。

 

 そのため、翼竜と火竜の掛け合わせは中々の難物であったが、近年になり急速に進展した。バルダグとの同盟で魔法技術や翼竜などに関する情報がもたらされ、改良が促進されることとなったからだ。おりしも異世界人の拠点を空襲した翼竜部隊から、異世界人の強力な飛行機械の情報がもたらされ、改良に拍車が掛かった。


 そして関係者の努力の末にようやく完成したのが、翼火竜であった。


 小柄な火竜との掛け合わせゆえに、体は翼竜に比べ一回り小さく、その分持久力も弱い。その一方で、竜騎士たちの悲願であった強力な武器、ブレスを吐くことが出来るようになったのは、まさに革命であった。


 ドエが率いる1003竜騎士隊は、その革命的な翼火竜を最初に配備され、実地試験を任された栄誉ある部隊であった。本来であれば、イアルト基地で前線へ向かう前の最終調整を行ったのち、前線の竜騎士隊基地へ進出。最前線で対峙しているイルジニアとの戦闘に投入される予定であった。


 しかし、その予定は敵側の先制奇襲空爆と言う予想外の事態により、完全に吹き飛んでしまった。


 前線に出れば敵との戦闘も当然あるとは思っていたが、まさか後方のレグプールを直接襲うなど、ドエの想像の埒外のことであった。


 そしてイアルト基地に進出していた1003竜騎士隊に所属する1個中隊8騎の内、午前中に試験飛行を予定していたドエを含む4騎は、飛行準備が済んでいたこともあってなんとか飛び立てたが、残る4騎は発進する前に基地が攻撃を受けたので、恐らく助かるまい。


 部隊は地上で半滅してしまった。


「異世界人どもめ!」


 と、ドエは悪態を吐くが、相手が圧倒的に優勢である以上、下手に手出しはできなかった。


「少佐!反撃しないんですか?」


 部下のゴラル・ルーベ少尉が念話で問いかけてくる。


 竜騎士養成所をトップクラスの成績で卒業し、若くして1003竜騎士隊に配備され、その腕はドエも認める秀才である。しかしながら、やはり経験が足りないようだ。


「今はダメだ!下手に突っ込んでも数で抑え込まれるのがオチだ!」


 イアルト基地上空に来襲したのは、少なくとも20騎以上だ。翼火竜の性能をもってすれば、2~3騎は葬れるであろうが、最終的には数で押しつぶされるは目に見えていた。


 貴重な翼火竜を預かる身として、無意味な消耗は避けたいところであった。


「ですが、このまま見てるだけですか!?」


「今はこらえろ!敵が油断した瞬間を衝くぞ!」


 と言った直後、ドエは背中に殺気を感じた。


「しまった!?」


 いつの間にか異世界人の飛行機械が背後から急接近していた。その数3騎。


「逃げるぞ!付いてこい!」


 ゴラルに念話で伝達すると、彼は翼火竜を急降下させた。




「中尉!下方に敵!!」


「うん」


 第1003竜騎士隊所属のエサラ・コッタ中尉は、後続するダレル・メカタ曹長に言われるまでもなく、下方にそれを、異世界の飛行機械の姿を捉えていた。


 突然の全騎出撃命令、その直後の敵の空襲の中、彼は直属の部下を率いてイアルト基地より少し離れた空域を高度を上げつつ旋回していた。


 自分の所属する1003竜騎士隊には8騎の内、確実に飛び立てたのは隊長騎を含む4騎のみ。しかも、その内隊長の所属する分隊は自分たちよりも先に発進したため、行方不明であった。


 エサラは最初、先行した隊長のズラエ少佐と念話で連絡をつけて合流をしようかと考えていた。しかし、滑走場を翼火竜の脚が蹴り上げたのとほぼ同時に敵を視認した彼女は、ダレルを率いて急旋回をした上で、低空での高速離脱を試みた。


 このため、敵の飛行機械からの襲撃は受けずに済んだが、ズラエ少佐とは完全にはぐれてしまった。


 安全な空域まで退避したところで、ズラエ少佐と念話での交信を試みたが、向こうが受け取れる状況にないのか、叶わなかった。


 それとは対照的に、基地からの念話は強力な力で発信されたのかちゃんと受信できた。しかし、その内容は敵により攻撃を受けて大打撃を受けている。しかも、滑走場は破壊されて離着陸不能という聞きたくもないものであった。


 これでエサラたちは帰る場所を失ってしまった。代替の竜騎士基地に着陸と言う方法もあるが、新型竜である翼火竜には、それに対応した施設と装備が必要である。着陸は出来ても、しっかりと必要な手入れ(餌や世話)をしなければ、翼火竜は体調を崩してしばらくは戦線復帰が不可能となる。


 しかも悪いことに、あまりに急な発進だったため、エサラもダレルもイアルト基地周辺の狭い範囲の地図しか持ち合わせていなかった。


 本来の予定なら、今日は基地周辺を飛ぶだけだったので、それしか用意していなかったのである。だから代替着陸しようにも、周辺の基地の詳細な場所がわからない。

 

 こうなると、後はどこか適当な平地を見つけて着陸するしかないが、戦闘用に品種改良された翼火竜は翼竜と同じく、ある程度の整地された土地が必要であり、下手に不時着すると最悪転んで骨折してしまう。


 つまり、どう転んでももはや1003竜騎士隊は、しばらくの開店休業を強いられることとなる。


 それがわかっているだけに、エサラもダレルも目前に現れた敵に対して、ふつふつと闘志が湧いてくる。


 敵は明らかに自分たちに気づいていない。しかも、自分たちは敵の上をとっている。さらにうまいことに、今現在彼女らがいる空域には所々雲が張っている。


 こんなおいしい状況を捨てることなど、二人には出来なかった。


「メカタ曹長。攻撃準備だ!敵の最後部の騎に一撃を掛けるぞ!いいか、一撃だけだ!それ以上は厳禁だ!」


「了解!」


 体内の闘志は燃え上がっていたが、腐っても士官でもあり副隊長でもあるエサラは、自分たちが今できる攻撃の選択肢をしっかりと見極めていた。


 現状自分たちが出来るのは一撃だけであった。本来であれば、そのままさらに敵に食らいついて戦果を拡大するところだが、相手の数は明らかに自分たちより多い。深入りすれば、多少の戦果は挙げられるかもしれないが、最終的には袋叩きに遭ってしまう。


 そのため、とりえる選択肢は一つだけ。もっとも攻撃しやすい敵の最後尾の騎に一撃を与え、あとはさっさと急降下して離脱する。


 戦果は見込めてもお互いに1騎だけだが、遥かに高い確率で生還できる。


 エサラは士官として、確実な戦果と情報、教訓を持ち帰る道を選択した。


「では、行くぞ!」


 飛行ゴーグルを掛け、顔に防寒用の覆いを巻きつけながら、エサラは愛騎の手綱を引いて急降下させた。


 グングン速度が上がり、冷たい強風が正面から彼女の全身に打ち付ける。また加速によるGが体に襲い掛かってくる。


(まだ・・・あと少し・・・頼むよ相棒!)


 巧みに手綱と脚を翼火竜の胴体に打ち付けて、翼火竜の口の先を目標に持っていく。照準器はないため、狙いは彼女自身の目測と、あとは翼火竜自身が主の意志を読み取って、自ら口先を向けて照準をつけるのである。


 目標とした敵の飛行機械の姿がグングン迫る。元々竜騎士としての良さに加えて、朝食の時に支給される魔法薬によってさらに強化された視力が、しっかりと目標の姿をエサラの脳裏に伝える。


 これまでにモラドア軍が遭遇した異世界の飛行機械の絵を、エサラは見たことがあったが、今目の前に迫っている敵のそれは、絵のものと少し違っていた。羽ばたかない翼に、機首で回る風車の羽のようなものは同じだが、胴を貫いて映える翼は上下二枚ではなく1枚だけ。そしてその翼には、中心に赤い円を描いた白い星が描かれていた。


(未知の新型!?なら好都合!)


 俄然やる気が出てきた。敵の新型を落としたとなれば、多少は溜飲が下がると言うものだ。


 敵の姿がさらに近づき、ようやく後ろ向きに乗った敵の飛行機械の乗員がこちらに気づいた。


(気づかれた!?だけど遅い!もらった!)


 距離と狙いが最適となった一瞬を見逃さず、エサラはブレス発射の合図を愛騎に伝えた。


 彼女の愛騎が口を大きく開けてブレスを放ったのと、目の前に強烈な赤い火線が何本も伸びてきたのは、ほぼ同時であった。

  



御意見・御感想よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ