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戦訓会議 ②

 続いて会議で話題に上がったのは、敵が投入した武器と自軍の武器との比較、特に戦車を撃破した地竜は大いに関係者の耳目を惹くものであった。


「この地竜というトカゲは大したものです。骨董品とは言え、戦車を破壊したんですから」


 と地竜と破壊された戦車の写真を覗き込みながら唸るのは、ドイツ軍代表のパウル中将。


「イルジニア軍によれば、地竜は同軍の砲列や歩兵にも大打撃を与えています。その破壊力は大きく、野砲に勝るとも劣らないでしょう。そして地中に潜っている場合、対策は困難を極めます。しかしながら、その鱗は迫撃砲でも破壊可能であることは確認されており、また動きを指示する御者を倒せば動きは鈍くなります。今回の戦闘でも、空襲によって御者が地竜に命令を出せなくなったため、敵地竜部隊は壊乱した模様です」


「資料によれば2頭を捕獲したそうだが、現在その地竜はどうしてるのかね?」


 説明した船山に、パウルが質問する。


「基地から少し離れた空き地に連れてきて、とりあえずそこで飼っています」


 すると、黎明島から来た面々はギョッとした。


「おいおい、大丈夫かね?暴れたり逃げ出したりしないかね?」


 ショーンが当然の質問をする。生き物とは言え、敵の強力な兵器である。万が一のことがあれば、大きな被害を出しかねない。


「御心配なく。缶詰の肉をやって餌付けしたら、大人しくついてきましたから。元々人に飼われていたせいか、手なづければ大人しいものです。馬以上に牽引する力があるので、今は荷物運びなどをさせています。輸送事情の悪いイルジニアでは、中々重宝しています。ただ大飯食らいであるのも確かで、基地内の缶詰や肉が不足して困っています。ただでさえ調達困難なんですがね」


 船山が苦笑しながら言うと、参加者から笑い声が漏れる。


「捕獲したのは2頭となると、後の8頭は全部殺したのかね?」


 副司令官である須田海軍大将が質問する。


「はい、戦場にて死体を確認しています」


「その死体は回収したのかね?敵の生態を知るのも重要だぞ?」


 ところが、今度は途端に船山やクーパーの顔が渋くなる。


「どうした?」


 ショーンが問う。さすがに大将閣下相手では誤魔化すわけにもいかなかった。


「いえ・・・その、実は食べてしまいました」


「は!?食べた?」


 須田が声を上げ、他の新海道から来た総司令部の面々も目を見合わせる。一方イルジニア駐屯の司令官たちは苦笑いしている。


「その。イルジニアに来てから、皆肉に飢えていましたので」


 船山の説明によると、イルジニアに来てから日米兵は肉料理に飢えていた。と言うのも、エルフは基本的に肉を食べないため、現地で肉を調達するのは難しい。周囲の森で猪や鳥などを狩ったり、ヴァル河で魚を採ったりすることは出来ないことはなかったが、数千人単位の兵隊を養うとなるととても足りない。加えて、普段動物を捕獲しないエルフたちの感情へ配慮すると、河や海で漁を行う魚類に対して、居住地に近い地域で行う狩猟は大っぴらに行うのもはばかれる。


 そのため、イルジニア駐屯日米兵は肉類に関して(だけでもないのだが)は、新海道から持ち込まれる補給物資に頼るしかないのだが、何分設営されたばかりの基地である。倉庫や冷蔵庫などの保管用設備が限定される。しかもイルジニアの道路ならびに鉄道事情の悪さが輪をかけて補給体制に悪影響を与えた。こうなると、あとは缶詰に頼るくらいしかない。


 日米兵、特に米兵にとって肉料理がほとんど出ないというのは凄まじいストレスになったことは間違いない。


「俺たちいつからドイツ人になったんだ?」


 エルフたちもジャガイモ(厳密にはそれによく似た種の芋)は食べるので、そうした芋類の調達は容易であった。そのため、肉料理の代わりにジャガイモ(もどき)の料理が多く出されたが、それに辟易した米兵からは上記のような冗談まで出た。


 もちろん、イルジニア駐屯部隊からはこうした状況に対して、黎明島の総司令部に改善要請が再三再四なされたが、それが進展する前にエスタル会戦となってしまった。


 会戦後に戦場掃除が行われ、戦場では撃破された地竜の死体も回収された。その中には、状態のよい死体や、死にかけていたためそこで処分された個体もあった。


 さて、目の前に新鮮な肉の塊が落ちている。見てくれはデカイトカゲだが、内部に見えた肉は鶏肉のようであった。


 敵の死体やその肉片が飛び散った光景を見た戦闘経験無しの兵隊だったら、それを食べようなどとは思わなかっただろう。しかしながら、今回戦闘に参加した日米兵は、いずれも満州において盗賊やゲリラ相手に実戦を経験しており、そんな光景にもある程度耐性があった。そして、肉に飢えていた。おまけに腹も減っていた。


 そんな彼らの前に、旨そうな肉塊が転がっているのである。幸いなことに腐っていないし、虫もまだたかっていなかった。さっそく、有り合わせの道具で地竜の肉を焼いてみた。結果は。


「旨い!」


 であった。


 本来なら見たこともない肉を食べるなど自殺行為(毒があるかもしれないので)なのだが、一度箸(米兵はナイフとフォーク)が進み始めると、止めるのは難しい。あっと言う間に他の兵隊も集まってくる。


 地竜の死体は見る見るうちに解体されていき。


「とにかく、鳥に似ていたので兵隊たちの箸も進みまして。唐揚げや焼き鳥のようにすると、実際旨くて」


「それで全部食べてしまったというわけか。しかし、骨くらい残るだろう?」


「出汁を取るということで、主計班で全て鍋やスープの材料にしてしまいました。残った骨も、そのあと砕いて畑の肥料に「もういい。撃破した8頭が文字通り骨まで残していないのはわかった。しかし、地竜については軍だけではなく、各国の生物学の研究者なども注目している。よって、残る2頭は慎重に扱うように。もし死んでも、くれぐれも食べるなんてことはしないように」


「了解であります。総司令官」


 死体がないにしても、まさか全部食われてしまうというのは、ショーンをはじめとして、斜め上過ぎる事態であった。


「しかし、補給体制の構築が不十分と言うのはこの一件からも判明したな」


「新海道からイルジニア南西部までの航路の安全は確保されています。こうなると、あとは輸送船団の数を増やすしかありませんな」


 須田の言葉に、即座にクーパーが付け加える。


「それだけではありませんぞ、副司令官。内陸部の輸送事情が悪すぎる。こちらの改善も急務です。いくら物資を送り出しても、腐ったり港に山積みになっては話にならない!」


 船山も深く頷く。


 今回の戦闘に勝利し、今後連合軍はイルジニア内部に入り込んでいる敵軍を押し戻すこととなる。その方法は海上からの攻撃と言う手段もなくはないが、主となるのはやはり大陸上で活動する陸軍部隊と航空部隊になる。


 となれば、その部隊や基地を支える補給線の確保は最重要課題となる。


 しかしながら、イルジニアにおいてはその補給線の確保が中々に難しい。港湾設備は貧弱であるし、そこから内陸部へ向かう道路は国道であっても馬車が通れる程度のものでしかなく、舗装はされていないし道幅も狭い。当然車は1列にしか走れないし、雨になれば簡単にぬかるんでしまう。


 鉄道もイルジニア連邦鉄道あるが、これも日本人から見れば明治初期の、つまりは半世紀以上前の水準のそれであった。機関車や線路の規格がとにかく小さい。しかも、イルジニア連邦鉄道の線路幅は彼らがそれほど大量の輸送力を求めなかったのか、地球で言う所のメーターゲージ。すなわち軌間1000mm(厳密には998mm)ほどのものでしかなく、狭軌と言われる日本の鉄道省の在来線の1067mmより狭い。もちろん、ほぼ全線が単線である。


 そんなただでさえ貧弱な鉄道輸送が、この戦時下によってさらに弱っている。戦火で喪失した車両が多く、また動かす職員が徴兵や動員で不足し、さらにはそれに整備不良が輪をかけている状況であった。


 このため、先のエスタル会戦では陸上での機動を半ば諦め、日米軍は舟艇機動により敵軍の背後を衝いている。これは結果的に奇襲となって大戦果をもたらしたが、どちらかというと部隊移動のための間に合わせの手段である。そして、当たり前だが河や海がなければ行い得ないので、常に使えるわけではない。


 そうなると、やはり道路と鉄道の整備をするしかない。


 しかし、ショーンは渋い表情で答えた。


「それについては、我々としても全力でやっているが、何せ金も人も物資もいることだ。今は待ってもらうしかない」


 この問題はエスタル会戦以前からの問題なので、ショーンをはじめ関係者は解決のために尽力している。既にその整備に派遣軍が関わることは、イルジニア政府の了承も得ていた。しかしショーンの言う通り、道路整備にしろ鉄道の整備にしろ、莫大な資金と人員、物資が必要となる。その調達も行わなければならいし、もちろん地球や新海道から運び込まねばならない。そしてその動きは、お世辞にも早くなかった。


 これは異世界派遣連合軍のジレンマであった。異世界からの脅威に、各国は連携して派遣軍を組織して派遣してはいるが、何せ異世界でのことであるし、自国そのものがまだ攻撃を受けているわけではない。モラドア・バルダグへの攻撃を支持する世論も強いが、それとともに反対する世論や慎重な世論もある。だから戦争を始めてはいるが、第一次大戦のような総力戦とはならず、植民地での戦争のようなものであった。


 そのため、資金にしろ人員にしろ物資にしろ、全力が注ぎこまれるわけではなく、むしろ必要量を確保するために苦戦しているのが実情であった。


「だが、港湾設備と道路に関しては近日中に建設に必要な重機や資材の第一陣を黎明島より送り出す予定になっている。鉄道の方も、今後技術者の意見を参考に資材の手配と工事に取り掛かる。これらはイルジニア政府の許可は既に得ているから、春までには動くはずだ。それまでなんとか我慢してくれ」


 それがショーンが口にできる精一杯の回答であった。

 

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