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エスタル会戦 ①

「よし、全員乗車しろ!」


 モラドア・バルダグ軍が出現した日の夕方。イルジニア連邦臨時首都を守っていたイルジニア陸軍第156師団第143歩兵連隊に所属するヤム・レンツ一等兵は、自分の部隊は防衛線を構築するエスタル近郊へと移動を開始するとばかり思っていた。


 ところが出撃準備が掛かってから半日以上経過しても、出撃命令が出なかった。


「上は俺たちみたいな子供に期待してないんじゃないか?」


「人間どもの武器を使う部隊だから、出したくないのかもな」


「まあ、出なくていいならそれに越したことはないけど」


「でもさあ、せっかく銃の使い方覚えたんだし」


「そうだよ。それもスッゴイ威力ある兵器ばかりじゃないか」


 この部隊に所属するエルフは皆30~40代と、エルフの中では比較的若い者ばかりが集められていた。今回の戦争によって年上の人間たちは次々と徴兵され、人的資源が払底しつつあるため、彼らのような者たちまで集められたのだ。


 そしてそんな彼らに与えられた武器は、イルジニア軍の主力小銃であるダル5型ではなく、人間たちがサンパチシキと呼んでいる小銃であった。他にもテキダントウやシュリュウダン、キカンジュウというガトリング銃のような連発可能な兵器を備えていた。いずれも、最近になって同盟を組んだ人間の国から供与された兵器であった。ちなみに隣の中隊は、また別の武器を供与されているようであった。


 エルフであるイルジニア人にとって、人間と言うのは劣等な生き物であるはずだった。だから、ヤムたち若い兵士は彼らから供与された兵器を、最初は疑いの眼差しで見ていた。


 しかし、サンパチシキ小銃一つとってもその評価を容易に覆すに充分だった。何せダル5型は単発の小銃であるのに対して、サンパチシキは5発の装弾が可能で、レバーで排莢と装填の動作さえすれば次々に撃てる。


 さらに供与された軽機関銃や重機関銃は、これまでイルジニア軍が使っていたガトリング式に比べて引き金を引くだけで大量の弾をばらまけ、さらには伏せたまま射撃が出来るなど、様々な面で優れていた。


 手榴弾や擲弾筒に至っては、手持ち式の爆発兵器をほとんど持っていなかったイルジニア兵にとって、大きな火力アップであった。


 そして短期間であったが、ヤムたち第143歩兵連隊(の中の一部の部隊)はこうした地球製武器の扱いを習い、ある程度は使えるようになっていた。つまり、第143歩兵連隊のヤムらが所属する部隊に限って言えば、現在のイルジニア軍としては最強の装備を備えていると言えた。


 そんな虎の子と言うべき第143歩兵連隊も、臨時首都陥落の危機の前に動かずにはいられない。しかしながら出撃命令が出たのは他の首都警備にあたっていた部隊よりだいぶ後であり、さらにヤムたちを困惑させたのが、前線への移動手段であった。

 

 イルジニア軍の主要な移動手段は、鉄道か馬、馬車、そして徒歩である。しかし、イルジニアの鉄道は機能が貧弱であり、戦争による混乱によって信頼できる交通手段でなくなっていた。馬車や馬もその馬の数自体が限定されているので、歩兵部隊が使えるのはせいぜい高級士官クラスだけだ。


 だからヤムたちは、当然徒歩で移動するとばかり考えていた。そして、確かに最初は徒歩での移動を開始したのだが、その足で部隊が向かったのは、なんと異世界人の軍隊の駐屯地であった。


 そしてそこで待ち構えるように止まっていたトラックという、馬なしで動く機械仕掛けの車に乗せられた。街中などで時折走っている所を見たこともあったが、実際に乗るのはこれが初めてであった。


「こいつでエスタルまで運んでくれるみたいだな」


「歩かなくていいなんて。ありがたいよな」


 と仲間たちは初めてのトラック乗車にはしゃいでいる。そんな中、ヤムは首を傾げる。


「でも、あの異世界人たちはどこに行ったんだ?基地に人気はなかったぞ?」


 そう、確かにトラックの運転をする異世界人はいるのだが、それ以外の異世界人の姿がほとんど見当たらない。基地も閑散としていて、人気が感じられなかった。


「そりゃ、もう出撃したんじゃないのか?」


「俺たちにトラックを譲って?そんなお人よしなもんかな?」


 ここに来た異世界人は同盟国人だと繰り返し教えられたが、だからといって自分たちの移動手段を提供して歩いて移動するなどさすがに考えられなかった。


「こらお前ら!お喋りしている暇があったら、装備の点検をしろ。モラドアやバルダグの蛮族どもの餌になりたいのか!」


 ヤムの思考は、自分の上司である伍長の言葉によって遮られ、彼を含む若年兵たちは慌てて自分たちの装備の再点検を始めるのであった。




 転移後終日に渡って進撃を続けたモラドア・バルダグ連合軍と言えど、兵や竜たちの休息は取らねばならない。敵に反撃の時間を与えてしまうが、既に彼らは勝利を確信していた。


 敵の拠点である首都は目と鼻の先であり、こちらには強力な魔法使いに、竜騎士も地竜もいる。正面に集結しつつあるものの、弱体化したイルジニア軍など、全力で攻めれば簡単に打ち破れる。


 誰もがそう考えていた。

 

 ヴァル河沿いに進撃した連合軍は、そのまま河沿いに陣地を作り、そこで野営に移った。


 あえて河沿いに進撃しているのは、水が馬や翼竜、地竜に飲ませる飲料水に。さらに彼ら自身の飲料水になり、また輜重部隊配備の魔法使いは水を材料にして食料品や医薬品を生成できるからであった。


 ヴァル河の豊富な水量は、モラドア・バルダグ連合軍部隊のそうした行動を可能にしていた。そのため、なんら補給に苦労することなく、彼らは明日の戦いに備えた。


 日付も変わって数時間後、ヴァル河沿いに立ったモラドア軍の歩哨は、欠伸を噛み殺しながら周囲を見回した。魔法使いではない平兵士の彼の視界には、月明りによってぼんやりと照らされた世界だけが視界に入る。


 敵による夜襲も警戒されたが、ヴァル河方面からの敵襲は可能性が低いと判断され、夜目の効くバルダグ兵の多くは陸側の歩哨に配置されていた。


 しかし、当の兵士自身もこちらからの攻撃などありえないと考えていた。ヴァル河は川幅も深さもある大きな河で、渡るためにはそれなりの準備がいる。奇襲を受けた敵軍が渡河機材を用意するのにも、また対岸に軍を派遣するのにも時間は掛かる。だから少なくとも、今日この時間に河側から敵襲があるなど、常識的にはありえないことであった。


 そのため、兵士は敵への警戒よりも、早く交代して眠りたいことの方が頭の大部分を占めていた。


 ところが、そんな彼の思考はふいに耳に入って来た聞きなれない音によって、転換を余儀なくされた。


「なんだ?」


 河の方から聞いたことのない音が連続して聴こえてくる。動物の鳴き声かとも思ったが、その音は彼の記憶にあるどんな動物とも違っていた。そもそも、生き物が立てる音とは何かが違うように感じられた。


 そして、さらに頭上からも虫の羽音のような、やはり聴き慣れない音が近づいてきた。


「なんだなんだ!?」


 一体何かわからないまま、とにかく上官の所へ行こうと思った時、突然周囲が昼の様に明るくなった。


「光源魔法?いや、違う!」


 魔法使いが暗い場所を照らす時に使う光源魔法かと考えたが、その明るい何かはゆらゆらと空中を漂いながら降りてくる。光源魔法は術者である魔法使いが自分の周囲、或いは力を込めた光球を打ち上げる魔法だ。あんな風に空中を漂う筈がなかった。


 そして、彼が眩い光に手を遮りつつも空中を見上げると、その光の中を見たことのない何かが飛んでいくのが見えた。龍とも鳥とも虫とも違う何か。


 それが何か考える余裕もないままに、陣地の数カ所で爆発が起きた。ここに至り、彼は悟った。


「敵襲!敵襲!」


 声を枯らさんばかりに、大声で味方の陣地に向かって走りながら叫ぶ。


 が。


「!?」


 次の瞬間、彼の足元で爆発が起き、目の前が真っ白になった。




「空襲とヴァル河からの攻撃だと!?信じられん」


 将官用テントで惰眠を貪っていた所を、副官の叫びと爆発音でたたき起こされたモラドア・バルダグ連合軍司令官ロード・バッジ、モラドア軍中将は、報告に驚愕した。


 彼らの常識からすれば、空襲は通常夜間は行わない。翼竜は夜間も飛べるので、出来ないことはないのだが、爆弾や魔力弾の命中が期待できない。光源魔法と併用すれば命中率も上がるが、それをするための魔力使用とのコストパフォーマンスが悪すぎて、普通はしない。


 またヴァル河からの攻撃は、渡河にしろ対岸からの攻撃にしろ大規模な準備が必要なので、その兆候を掴めない筈がなかった。


 それなのに、空からもヴァル河からも奇襲を許してしまっている。


「司令官。敵に奇襲を許しこそしましたが、損害はいまだに軽微です。あと1時間で日の出です。ここは一気に正面のイルジニア軍に攻撃を掛けるべきでは?」


 副司令官でバルダグ軍少将のコウゾ・ジウ少将が進言する。


「バカな!それでは河側の敵に背を見せることになるぞ!」


 今のところ敵上陸の報は入っていなかったが、それも時間の問題であった。前方のイルジニア軍へ攻撃を行えば、ヴァル河から上陸する敵に背後を突かれるのは明らかであった。


 しかし、ジウ少将は顔色一つ変えずに進言を続けた。


「だからこそです。このままヴァル河から敵が上陸してくれば、どちらにしろ挟撃を受けます。かと言って敵のいない方向に後退すれば、ガランガン攻略が事実上不可能となります。そうなれば、完全に作戦失敗です。国王陛下や司令のお国の皇帝陛下を失望させます。ですが今なら全戦力を正面の敵に向けられます。夜が明ければこちらも翼竜を出して制空権も取れますし、何より正面には最精鋭部隊を置いています。敵防衛線を突破し、ガランガンを一気に攻略できましょう」


 イルジニア軍が自分たちの正面に集結し、防衛線を構築しつつあるのは確認済みである。そのため、そこからの敵の反撃を警戒し、有力な戦力である地竜部隊や魔法の使える人間を中心に編成された部隊はその方面に集中されていた。


 確かに、敵防衛線を突破するには充分な戦力集中が出来ている。


「そうなると、問題は河から来る敵か」


 もし前方の敵の突破に手間取れば、やはり河からの敵の攻撃を受ける。


「そればかりは、そちらに展開している部隊にがんばってもらうしかありません。あの方面は魔法の使えない人間や亜人、輜重部隊が中心ですが、無力ではありません。防衛戦ならば、時間稼ぎにはなるでしょう」


「・・・よし、副司令の意見を取ろう!全軍に伝令!我が軍は正面の敵に全力攻撃を掛け、一気に防衛線を抜いてガランガンを攻略する。その間、ヴァル河方面の部隊は上陸する敵の阻止!それで行くぞ!」


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