#68王宮の動乱
少し過去に戻ります。
条件に締結後、王宮では混乱が広がっていた。
「国王陛下、何故私にあの事を相談しなかったのですか」
凛とした声が国王を呼びかける。その声の主の名はミエ。すらりとした体に、
長く揃えてある黒髪、きれいな衣装に身を包んでいる。彼女は、女ながらもサチ国の重臣の1人。
男尊女卑のこの国では滅多にない話だが、彼女は、とても賢かった。実際、国王は賢明な人
だと言うが、ほとんどはミエの手柄なので、彼女の立場は強く、国王でも彼女には
あまり強く言えない。
「ああ、それはだな・・」
国王は考えているフリをした。あの事、というのは日本皇国の条件に合意したことで、
ミエはその事に自分が呼ばれなかったことに不満があったのだ。
何故呼ばなかったかと言うと、単に面倒くさかったからだ。彼女に相談したところでろくな
返事が返ってこない、そう思ったからだ。
「やはりこういう事は、国王自らが判断した方がいいと思うからだ」
「何故、そう言えるのですか」
彼女は不満げな顔で言った。苛立っているのか、さっきよりも声が大きくなっていた。
彼女の問いかけに、国王はたじろいでしまった。
「まあ、いいです。幸いなことに、条件に同意してくれたので。あのまま追い返していたら、
大変なことになっていたでしょう」
国王はほっとした。彼女も同じ考えだったようだ。
「ところで、日本皇国が来てから変化はあるか」
「いえ、特に。いつも通りシナ国の住民が反乱を起こしているようですが」
「ふむ・・」
シナ国とは、サチ国と国境がある九州南部の国。ひと昔前にサチ国がシナ国に侵攻し、
それは失敗したが、何とか、シナ国の領土の一部を奪取することに成功していた。
しかしその地の住民との紛争が絶えていないのだ。早いとこ、シナ国を征服したいのだが、
中々そこまでは至らないのだ。
「それより、日本皇国は徐々に西への領土拡大をしています。それに備えて、
国境の警備を急いで、武器も増産しましょう。それと、新田開発も進めましょう」
「そうだな。よし、そうしよう」
国王のあっさりとした返事に、彼女は、大事な事だけ自分でやって他の事は任せるのか、
と思ったが言わないことにした。




