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魔女のマギーはきらきらがほしい

作者: ru

 

 村のはずれの畑に、冬の夜がおりていました。

 ステラは畑の石にすわって、星を見ていました。


 星はたくさんありました。

 青い星、白い星、ふるえる星。

 どれも、きらきらしていました。


「あしたは、いい日かしら」


 星のきらきらを見れば、あしたのことがひとつ、わかります。

 それは、ステラの目がよく見えるからです。


 そのとき、うしろで、ざくざくと土をふむ音がしました。


「おじょうちゃん、まほうはいらないかい」


 ふりかえると、そこにマギーが立っていました。

 黒いマントをひきずって、長いはなをして、目だけがぎらぎらしています。


「こんな村を、たのしくする魔法だよ。けんかがおこる魔法だよ」


 マギーは村はずれのくらい森にすむ魔女です。きらきらしたものが大好きで、へんな魔法をおしつけては、たくさんのきらきらを欲しがります。


「ありがとう、でもいらないわ。けんかはたのしくないわ」

「そしたらあたいは、きらきらしたものが、もらえないねえ」


 マギーがしょぼしょぼと言うので、ステラはかわいそうに思いました。


「そうだ、いいものがあるわ、空を見てごらんなさい」


 ステラは言いました。

 空には冬の星がきらきらと、宝石をばらまいたように光っていました。


「ほら、あんなにきらきらしてるでしょう」


 マギーは空を見上げました。

 しばらくだまって、それから言いました。


「でも、手に入らない」

「たしかに、手には入らないけど」


 ステラは星を見たまま、言いました。

 ステラはあしたおこることが、ひとつわかったのです。


「あした、あなたはきらきらするものを、手に入れるわ」


 マギーは、ひっひっひ、と、ぶきみに、うれしそうに笑いました。


 ---


 次の朝。

 畑の土は、白くこおっていました。


「見て」


 ステラは、土を少し、けずりました。


 そこには、しもばしらが立っていました。

 ほそくて、とうめいで、朝の光をうけて、きらきらしています。


「きらきらしているねえ」


 マギーは、うれしそうに手をのばしました。


 けれど。


 さわったとたん、しもばしらは、しゅうっときえました。


「なんだい、これは!」

「つめたいものは、あったかい手でさわると、なくなるの」


 マギーは、足をふみならして、そこらじゅうのしもばしらを、ざくざくとこわしてしまいました。


 ---


 それからも、ステラは、いろいろ見せました。


 あさつゆ。

 こおったくもの糸。

 川べりのうすい氷。


 どれも、冬のきらきらでした。


 でも、マギーがさわると、みんな、なくなってしまいました。


「手に入らない、手に入らない!」


 マギーの声は、だんだんあらくなりました。


「おまえは、ずるいねぇ」


 マギーは、ステラをにらみました。


「わたし?」

「おまえは、きらきらのものをもっている。

 それをくれたらいいじゃないか」


 マギーはステラの顔に手をのばしました。


「おまえの目は、いつもきらきらしてるじゃないか!」


 ステラの目の前が、まっくらになりました。


 ---


「やった、やった、やった!」


 マギーはとびはねてよろこび、ステラの目を自分の目にはめました。


 するとどうでしょう。

 世界は、きゅうに、きらきらしはじめました。


 空の星は、宝石のように光り、

 森の木の葉は、銀の粉をまいたみたいで、

 風さえも、きらきらと音を立ててながれていました。


「見える、見えるよ!」


 マギーは、おおきく手を広げました。


「ぜんぶ、ぜんぶ、あたいのものだねぇ。

 こんなきらきら、誰にもわたさないよ」

「きらきらしている?」


 ステラはくらやみの中でたずねました。


「しているよ! しているとも!

 かえさないよ、これはあたいの宝石だ!」

「そう」


 ステラは、少し考えてから言いました。


「いいわ。あげるわ。

 でも、もしあまっていたら、あなたの目を、ひとつ、くれないかしら」


 マギーは、ふんとはなをならしました。


「いいよ。こんなもの」


 マギーは、じぶんの目を、ぽいとなげました。


 ステラは、それをひろいました。

 持ってみると、どんよりとして、光はなく、重たい目でした。


 ステラはそのマギーの目を、自分の目にはめました。


 そのとたん、世界は、くらくなりました。


 村は、くすんで見え、

 家は、ゆがみ、

 人の声は、ひそひそと、こわく聞こえました。


 ステラは、胸がぎゅっとなって、泣きたくなりました。


 それでも、ステラは、勇気を出して、空を見上げました。


 そこには、いつもと同じお日さまが、ありました。

 まぶしくて、あたたかくて、まっすぐでした。


 よく見れば、村も、変わっていませんでした。

 こわいものは、どこにもありませんでした。



「マギー」


 ステラは、静かに言いました。


「あなたの目も、きらきらしてて、すてきよ。

 たぶんあなたはいつもこわがっていて、うつむいていたから、よく見えなかったのだとおもうわ。

 だから、元に戻しても、きらきらしていると思うわ」


 マギーは、はっとして、目を押さえました。


「なにを言ってるんだい!

 これは、もうあたいのだ!

 取られるなんて、まっぴらだよ!」


 マギーは、目をぎゅっと閉じました。


 そして、自分に魔法をかけました。

 目が、二度と、開かなくなる魔法です。

 そして、くらい森のおくへ、まっすぐに逃げていきました。


 こうしてマギーは、

 まぶたの中に、きらきらの目を手に入れました。


 けれど、失うのがこわくて、

 二度と、それを見ることは、できませんでした。



 ---


 村のはずれの畑に、冬の夜がおりていました。

 ステラは畑の石に腰かけて、星を見ていました。


 星はたくさんありました。

 青い星、白い星、ふるえる星。

 どれも、きらきらしていました。


「明日は、いい日なのね」


 星のきらきらを見れば、明日のことがひとつ、わかります。


 それは、マギーの目でも、ステラにはよく見えているからです。



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