始まりの前。2
――その日は祝日で、コンビニにタバコを買いに行って店内の人の多さに後悔した日でもありました。
その帰り道、人の多さにうんざりした気持ちを晴らすために見上げた空が異様に綺麗に見えたのが印象的でしたね。
何かが始まる……そんな予感。
失礼、ラノベアニメ漫画脳なもんでついそんな妄想しちゃうんです。楽しいですよ? 妄想。
それはさておき、そんな風にいつものように妄想に深けつつ、車道を渡る為に横断歩道へと一歩踏み出したわけです。歩き出したので勿論、目線は前方。
そして、視界に入ったのは、小さめのエコバックを重たそうに肩にかけた少女が一人で歩いていました。
幼女、と言ってもいいかもしれないですね。
で、その先の歩道、横断歩道の終わりにはこれまた綺麗な若奥様風の女性がその少女に手を振り声をかけていました。
聞こえてきた声から内容を察するに、どうやらお子さんの初めてのお使い、のようでした。
なんというか……ほっこりしましたね。美しき親子愛ってな感じで。
まぁこの辺は車の通りも少なく、見通しもいいですしね。懸念としてはこの横断歩道に信号がない事でしょうか。
大都市に住んでるわけではないので地方だとよくあるんですよ? 信号のない横断歩道。ああ、大都市でもあるんですね。行ったことないんで知りませんでした。某、引きこもり故ご容赦を。
それはいいとして、ずれるエコバックを一生懸命担ぎ直し、頑張って母の下へ急ぐ少女の後ろ姿を見て「俺、なにやってんだろ」と自己嫌悪に横っ面ぶんなぐられた気持ちでいると、ふと――本当にふと横を見たわけですよ。
こういうのを『虫の知らせ』と言うんでしょうかね。
なんとなく見て、こちらに向かってくる車に目が止まりました。
車の通りが少ないとはいえ、今歩いている横断歩道それなりの距離があるわけです。
で我々の立ち位置ですが、少女が大人からすればあと少しで渡り切る感じ。
私はストーカーよろしく、少女の後方、約三歩後ろでしょうか。
まぁここで問題なのが車です。先ほど言ったこちらに向かってくる車。
人間の脳みそは普段三割ほどしか機能してなくて、なにか危機的状況に陥るとリミッターが解かれるなんて話を聞いた事がありましたが、ほんとなんですね。
この時の私の脳みそが灰色になったのでしょう。
何と言いますか、普段ではあり得ないほどの情報処理能力を発揮したのです。
先ず車の速度。体感ではありますが、横断歩道手前にしては早すぎる。
見通しがいいんです。渡ってる人がいればわかるんです。私も車持ってますし、ここよく通りますから。どんだけいいかと言えば猫が渡ってるのがわかるぐらいです。
それなので早すぎると感じる。
であるならば、運転者はこちらに気付いていない。
それすなわち、こちらを見ていない。先ほども言いましたが見ればわかるんですからね。
案の定と言いますね。運転者の横顔が見えました。
ありえないですよ? こちらは正面から見ているのに運転者の横顔が見えるんですから。
で、運転者の目線を追えば助手席に座るケバい姉ちゃんをがっつり見て、がっつり盛りに盛った乳を揉んでました。
それがわかった時の感想は「なにヤってんだ!? このバカ!!」ですね。
この時私だけ助かろうと思えば助かった気がします。
ですが、私の目の前には少女がいるんです。
身長から考えれば、このまま彼女が引かれれば先ず、助からない。
彼女の背の高さは目測で私の腰ぐらいしかないのです。
で、こちらを見てない運転者が乗ってる車はスポーツカーとか呼ばれてる車です。
ボンネットが長く、車高が低い。低いと言っても私のお腹辺りの高さはあります。
ここで先ほど言った私だけ助かるかもって話につながるんですが、ワンチャン、スタントマンのようにボンネットに体を倒して転がる様にすれば助かるかもって思えたので、私だけ助かる可能性を見出したわけです。
では私の腰ぐらいしか身長のないこの少女はどうでしょうか?
スタントマンのようにはできないでしょう。
具体的にどうなるか?
推測ですが全身を強く打たれ、そのまま車の下敷きになるのではないのでしょうか。
そして、運転者は前を見ていないので彼女を轢いた衝撃で気付きブレーキを踏むでしょう。
そう少女を下敷きにして数十メートル引き摺るかもしれない。そうならなかったとしても、一トン近くある鉄の塊に轢かれ下敷きになれば、人間など簡単にぼろ雑巾の様になるでしょう。
運転者の彼はそれら全てが終わってから気付くのです。
助からないでしょう、少女は。
きっと無残な姿になってしまう。少女とは判別できないぐらいになってしまうかもしれない。
母親らしき女性に似ているのであれば、この少女もきっと愛らしい顔立ちをしてる事でしょう。
少女の顔をまだ拝見していませんから私の想像ですがね。
私は二次元ロリが大好きです。敬愛、信仰してると自負しております。
リアルロリには興味はありません。リアルでしたらこの少女の母親らしき女性の方が断然好きです。
ママでありながら童顔で十代に見えますからね。旦那さんが羨ましいです。合法ロリとか最高じゃん。
ですが、ロリコンという爵位にも等しい称号を持っている私としては、いくら興味がないリアルロリとはいえ、ロリです。
見捨てる? 自分だけ助かる? 生きててもなんの価値もない私が?
答えは否。そう、否です。
この少女はこれから先いろんな選択肢があり、いろんな未来が待っているのです。
一人でお使いした今日も素晴らしい思い出となり、楽しい未来の布石になるでしょう。
あの下卑た顔で女の乳を弄ってこちらに気付いてないクズがいなければ。
そして、少女の後ろには私というゴミがいます。
『ゴミで終わるのか?』
そんな自分の声が聞こえました。
『あのクズと一緒でいいのか? 自分だけもし助かってその後どうするんだ? 今更社会復帰なんてできないのに? 未来がある少女とないお前。どっちが優先されるべき人間だ?』
そんなのわかりきってます。答えは出てるようなモノです!
この時私は、自分の生存率を全て捨てました。
その代わりに少女を生存されることに全力、いいえ私の命すべてをコールではなくレイズし、彼女の生存を勝ち取る事にしました。
助けるなんておこがましい事は言いません。勝ち取るのです。
私の生存を賭け、彼女の生存に全振りさせます。
手札は私と言う――ロイヤルストレートフラッシュだ!!
であるならば、今私が感じて見てるモノクロでスローモーションのように何かも遅い世界を最大限利用します。
だれかが言ってましたね。
『奇跡とは起きるのではなく、だれかが起こした行動の結果だ』と。
それと『奇跡とは素晴らしき勘違い』だと言っている……幼女がいましたね。
では早速、素晴らしき勘違いをして行動しようと思います。




