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転生したらスライムだった件  作者: 伏瀬
王都生活編
55/304

52話 旅路

急な会議で遅くなりました。

 魔人ミュウランはようやく報告出来た事で一安心していた。

 魔王ミリムが観察対象の町の長と親友になるなどという暴挙に出るなど、想像の範囲外の出来事である。

 弱そうなスライムが町の長であった事も驚きだが、ミリムの行動は意味が判らないレベルであった。

 凡人である自分に、魔王の考えている事など判らないのだ。

 というより、あの魔王は少し、いや、かなりおかしいのではないか? そんな疑念が浮かんではいたけれども。

 対象の町の様子や、文化レベル、魔王が長と友達になったらしい事。

 それに、その長はスライムで、仮面を被った人に擬態を出来る事などを報告した。

 ミリムが町に滞在している間は、念の為に報告しなかったのである。魔王間の密約を裏切る行為はしないだろうとは思うのだが、ミリムの考えが判らない以上、慎重な行動を取る必要があったのだ。

 ミリムの前で一切の魔法を行使していない。

 通信魔法等、ミリムの前で使うと一発で正体はバレてしまうだろう。そういう判断である。

 ひょっとすると、正体はバレているかも知れないが、ミリムに動きは無かった。

 そういった出来事等を報告すると、


「なるほど・・・。これは使えますね。ご苦労でした、引き続き監視業務を続けなさい。」


 クレイマンは何やら思いついたらしく、上機嫌でそう述べた。

 ミュウランには関係の無い話。

 彼女は今では警備隊の呪術師シャーマンとして、参謀職に取り立てられている。

(馬鹿な人達。私が魔人だなんて、疑ってもいないのでしょうね)

 見下すようにそう思うものの、長らく交わる事の無かった人との付き合いは、彼女の心を妙に浮き立たせていた。

 暫くは、このままでいよう。願わくば、もう少しだけこの状況を楽しみたい。

 彼女はそれと自分では意識せぬままに、そう願う。

 そして、何食わぬ顔でいつものように自分の仕事へと戻っていく。




 魔人グルーシスは警備隊の一員として、一部隊に参加し森を進む。

 獣人である彼にとって、騎馬を操るなど児戯にも等しい。そんな彼であるから、隊の中で頭角を現すのも自然な流れであった。

 実力を隠したままであっても、人間どもに遅れを取るなど有り得ない。

 そんな訳で、3部隊の一つの副長を任せられている。部隊長にと押されたのだが、流石に新参であるという理由で辞退したのだ。

 既に目立ってはいるが、身動きの取れやすい今の立場ならば然程の問題は無い。そう考えている。

 そんな彼の今の興味は、追随しているゴブリン狼兵ライダー達であった。

 珍しい進化の仕方をした星狼族スターウルフを駆る人鬼族ホブゴブリン達。

 熟練のコンビであるかの如く、その息はピタリと合っている。高い練度を窺わせる動きであった。

 中でも、ゴブタという人鬼族ホブゴブリンは飛び抜けていた。

 天然の勘が優れているのか、直ぐに魔物を見つけ仕留めるのである。

 グルーシスは舌を巻く。

 勧誘するのは、鬼人だけのつもりであったが、この様子では他にも有能な者は多そうであった。

 ゴブリン狼兵ライダー達は総勢100名らしい。部隊毎、是非とも引き抜きたい優秀な者達である。

 中でも、隊長のリグルと副長のゴブタ。この二名は他を圧する強さを持つ。

 他にも、たまに見かける龍人族ドラゴニュート達。彼らも鍛えれば戦士となりうる者達である。

 工作兵の猪人族ハイオーク。個別では大した者は居ないが、集団で力を発揮するだろう。

 それを率いるゲルドという猪人王オークキングがいるそうだが、町では見かけなかった。

 物資運搬で常に出掛けているそうだが、恐らくは強力な個体であると思われる。

(何だよ、何だよ! この町はおかしいってものじゃねーぞ!

 下手したら、俺達と戦争出来るくらいの戦力じゃねーか!)

 事実、鬼人達を間近で見てみたが、自分と互角かそれ以上の者も居る。

 獣王配下の中では末席であるとは言え、これは明らかに異常な事だと思われた。

 ま、いいけどよ! その方が、彼としても楽しめるというもの。

 強い仲間が出来るのも良し。失敗し、強力な敵が生まれてしまうならば、それもまた良し! である。

 彼等、獣人は戦いに生きる種族。強い敵もまた、歓迎すべきものなのである。

 こうして、彼はどうやって勧誘するか思案しつつ、警備隊の任務をこなしていく。






 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




 


 やっほーーーーーい!

 久々に感じる開放感。俺はそれを十分に満喫する。

 町に居る時は、何のかんのと言って、気が張っていたのだろう。

 町に残してきた二人の魔人が心配ではあった。

 だけど、ベニマルなど自分から、


「町の事は俺に任せて、行って来てくれ! 魔人二人くらい、何とでもなるさ!」


 と言い出したくらいだ。ベニマル達が何とかするだろう。

 ランガをずっと見張りに付けていたのだが、動きは見せなかった。今は引き継いでソウエイが見張っている。

 眠らない男、ソウエイ。

 分身を行い、交代で睡眠を取れるらしい。便利な能力だと思うが、眠る必要すら無い俺には言われたく無いだろう。

 町で様子を見ていたが、尻尾を出す気配は無い。

 ミリムの関係者では無さそうだが、知り合いだとは思う。此方から迂闊に接触も出来ないので、監視だけは慎重に行わせていたのだ。

 残念ながら、全く動きが無かった。

 こうなってくると、警戒だけ続けても仕方ない。『影移動』で直ぐに戻る事も可能なので、俺は町を出る事にしたのだ。

 かえって、俺が居なくなる事で動きを見せるかも知れないという思惑もあった。ミリムも去った事だし、動くならば今だろう。

 そう思って警戒していたのだが、町を出て初日には何の動きも無かったようだ。

 3日も過ぎた頃には、心配しすぎであったと思うに至る。

 彼等も高い能力を持っている。任せろ! と言うのだから任せよう。

 と言う訳で、現在は久々の開放感を満喫していたのである。


 こちらのルートは道が整備されていないので徒歩である。

 馬で通れる道に出たり、獣道を進んだり。

 本当に大丈夫か? という程、色々なルートを進んでいる。しかし、そこはベテランがいるのだ、任せよう。

 泣きそうな顔になってる奴がいるが、信じても大丈夫だろう。何しろ、初めて行き来している訳ではないのだ。

 一応、


「おいおい、まさか迷ってるなんて事はないよな?」


 と、冗談で言ってみたら、


「ハハハ。そんなハズ、ある訳がないでしょうとも……」


 変な言葉遣いになっていた。大丈夫だろう。

 そっと脳内マップを出したら、さっき通った道を通っていたけど、気のせいだろう。


「おい! 冗談じゃないぞ。お前等、迷ってるだろ!」


 3人は顔を見合わせ、


「「「すんませんでした!!!」」」


 と謝って来た。

 どうやら、近道をしようとして迷ったらしい。本当にこれでプロなのだろうか?

 まあいい。来た道を少し戻り、彼等の判る所まで案内した。

 途中に幻妖花が咲き乱れている場所があったが、原因はそれかも知れない。コイツ等には教えなかった。


「何であんな所で迷ったんだろ……」

「ちょっと自信喪失だよねぇ……」

「あっしなんて、道に関してはプロなんでやすよ? お二人以上にショックです……」


 少し可哀相になったので、幻妖花の事を教えてやると、


「それ、Bランク以上指定の採取クエストの対象ですよ! 結構探すの苦労するんですょ!」


 とエレンが勢い込んで言って来た。

 魔法品の素材にもなるらしく、結構珍しい花なのだそうだ。

 せっかくなので、戻って採取した。40株くらい採取出来たので、10株づつ分ける。もしかすると、これで何か作れるかも知れないので胃袋に入れて解析にかけておいた。

 そんなこんなで更に一週間が過ぎた頃、ようやく森の出口に辿り着いた。

 確かに、時間は短縮になったのだろうが、迷った日数で結局普通通りの時間がかかっていたらしい。

 俺にとっては急ぐ旅でも無い。むしろ、久々の旅行で楽しいくらいである。

 まあ、スライムの身体が疲れないし、清潔なままでいられるからそういう事を言えるのだろうけどね。

 エレンが〈浄化魔法〉とやらを使っていたので、教わった。

 試しに使用すると、俺の魔法の方が効果が大きかったので皆にかけてやる。お陰で、普段よりも快適な旅だったらしい。

 火を起こすのも簡単だし、寝ずの番は俺がするし。


「リムルさん! ずっと一緒に冒険しましょうよ!!!」


 エレンは感激したように言って来たが、流石に断った。

 皆に会う前ならばそれも良かったかも知れないが、今となっては俺は町の長だ。統治は任せているとは言え、放りっぱなしには出来ない。

 いずれ、皆に必要とされないようになったならば、その時は考えて見るのもいいかも知れない。

 だけどな、その時はお前達は死んでしまって居ないだろうけどな。ふと、そんな考えが頭を過ぎった。

 ミリムもこんな感じだったのだろうか? 大事な友達を作っても、先立たれてしまうならば、俺なら孤独を選ぶだろうか?

 判らない。

 今の俺には、その事を判断するには経験が足りていなかった。




 感傷を払い、街へと向かう。

 目指すは、小国ブルムンド。小さな国で、各村々と、その村の領主たる貴族。そして、王都しか無い国。

 ブルムンドの自由組合に所属している3人の案内で、街を目指す。

 大きな街は王都のみであった。城下町に自由組合のブルムンド支部もあるのだ。

 最初の村まで来ると、後は早かった。定時馬車が出ていたのだ。

 昼前に村に着き、飯屋で昼食を食べる。そこからは、馬車で3時間で王都に着くらしい。

 小さな国らしく、交通の便は良いそうである。


「でよ、俺が大斧グレートアックスで、グワーーーっと叩きつけてやってよ。

 仕留めたのが、コイツって訳よ!」

「すげーや! さすがはビッドさんだぜ!」

「ビッドの兄貴、コイツ強い魔物ですよね? 1人で仕留めたのですか?」

「まあな。俺様にかかれば、一角熊ホーンベアなんざ、敵じゃねーよ!」


 そんな会話が聞こえたので、チラリとそちらを見る。

 話の中心、一角熊ホーンベアとやらを見た時、思わず食べているモノを噴出しそうになった。

 ただの熊に一角兎ホーンラビットの角を埋め込んでいるだけの、魔物の死体が置かれていたのだ。

 いや、熊は魔物じゃなく動物なんだけど、その辺の区分けは難しいのだ。

 俺のように鑑定解析能力があるならともかく、無ければ見分けは付かない。

 明確な区分けは、"魔晶石"を落とすか落とさないかで見分ける事が出来る。けれど、それは普通の人には酷だろう。

 落とさなかったから動物とか言われても、何匹も倒していいやら判らない事になるのだ。

 妖気が出ていたら魔物なのだが、それも見分けをつけるのは難しい。結局、技量レベルを上げるしか無いというのが、結論であった。


「おい、偽物の一角熊ホーンベアで自慢してる奴がいるが、ああいうのはアリなのか?」

「え? あれ、偽物なんですか? 良く見破れましたね?」

「あ! 本当だぁ! 一角兎ホーンラビットの角付けてる。魔法使いにはすぐバレルのにねぇ……」

「やっぱ、すぐバレルのか?」

「いや、旦那。アイツの目的は違いやすぜ。

 王都に運べばバレやすが、こういう村では英雄になれるんでさ!

 で、村を守ってやってるからと上手いこと言って、宿と飯にありつくって寸法です。」


 なるほどな。

 ギドの解説で理解する。ようは、詐欺師って事だ。

 世の中には色々な種類の詐欺師が居るものである。一つ勉強になった。

 邪魔したら悪いので放置しようとしたのだが、


「おいおい、ちょっと待ちな! お前等、これが偽物とかイチャモンつけやがって!

 俺様をバカにするなんて、覚悟は出来ているんだろうな?」


 こういう奴等って、何で耳がいいんだろ。しかも無駄に絡んでくるんだよな…。

 そんな事を思っていると、


「あれ、あれってカバルさんじゃ……」

「エレンさんもいるぞ!」

「あっちはギドさんじゃねーか!」


 そんな声が聞こえ始め、あっという間に食堂の客に囲まれる。


「な、何だ……。お三方も人が悪い。帰ってきたのなら声かけて下さいよ!」

「誰だっけ、お前?」

「嫌だな、この前ボコボコにして貰った、ビッドですよ!

 王都で絡んでカバルさんに指導して貰った、ビッドです!」


 何という事でしょう。

 3人組バカの奴等、意外に有名人。

 詐欺師とは知り合いという程でもないようだが、相手は3人を尊敬しているようだ。

 変なのに尊敬されても嬉しくは無いだろうけど。

 だが、一番の驚きは、3人が有名な冒険者だと判明した事だった。

 主に、最近急に台頭して来た冒険者として有名なのだとか。

 ……それって、俺の所の町から魔物の部位を持って行って成績上げてるからじゃあ…。

 3人を見ると、慌てたように目を逸らした。

 ここは敢えて追求しない。

 人には触れられたくない事もあるだろう。しかし、だ。今は触れないが、そこはそれ。


「判っているんだろうな?」


「「「勿論です!!! 王都まできっちり案内させて頂きます!!!」」」


 なら良し。

 そんな事もあったが、概ね順調に旅は終わった。


 小国ブルムンドの王都に到着したのである。

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