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転生したらスライムだった件  作者: 伏瀬
王都生活編
52/304

49話 ミリム旋風

 魔人グルーシスと魔人ミュウランは、人化し森を歩いていた。

 もうすぐそこに人間の一団が通りかかる予定である。


 グルーシスは狼の獣人であり、元より変身を解けば人間と変わりは無いのだ。

 獣人族の王であるカリオンが、強さを求めて魔王を名乗ったのが500年前の事。

 当時は激動の時代であり、新旧の魔王の入れ替わりの激しい時代であった。500年周期で発生すると言われる世界大戦。その真っ只中の出来事である。

 同時期に生まれた魔王は他に3人いる。フレイもその一人であった。

 大戦を経験した事の無い比較的新しい魔王がクレイマンであり、最後に生まれたのが魔王レオン・クロムウェルである。

 この若い世代の魔王6人を新世代と呼ぶ。

 対する旧世代は、2度以上大戦を生き残った者達であり、強さの桁が違うと言われていた。

 故に、新世代の魔王達は、己の勢力の増大を画策する者が多いのだという。

 カリオンもそうした魔王であり、彼が強者を求めるのはある意味当然の事であった。

 グルーシスは100年前に魔人として取り立てられた。

 獣人の寿命は人と変わらない長さである。ただし、若い時間が長く成人してから30〜50年、外見に変化は無い。

 外見の変化が始まると同時に、肉体が急速に衰え、2週間程で寿命が尽きるのだ。

 獣王国"ユーラザニア"を治める王であったカリオンは、生まれついて強大な魔力を有していた。

 自らの自己進化により魔人を経て、魔王へと進化した者である。当時の魔王の一体を退治したとも言われているが、その真偽までは知らない。

 グルーシスには自己進化出来る程の魔力は備わっていなかったが、高い隠密能力と戦闘力を有していた。

 その能力を買われて、魔人に進化する機会を与えられたのだ。

 それは、王の血を授けられ、飲み干す事。

 生存率は10%しかない。これを乗り越える事こそが、勇者の証である。

 グルーシスはこの試練に打ち勝った。狭き門を潜ったのである。

 これにより、グルーシスの身体は王の眷属と変化し、王に準ずる寿命と能力の獲得に成功した。

 100年前に生まれた魔人ではあるが、グルーシスの能力は決して低くはない。


 対して、ミュウランは事情が複雑である。

 彼女は魔女であった。人間に迫害を受け逃げ出した先で300年。進化の秘術を発見し、自らにその術を施したのである。

 彼女は若返り、永遠の若さを手に入れた。

 そんな彼女が、魔王クレイマンに従っている理由。それは、取引であった。

 400年前に魔王を襲名したクレイマン。

 彼は当時、名のある魔人や魔物を倒し、その心臓を奪っていった。

 忠誠を誓わせると同時に、心臓に刻まれた呪印により、倒した者共を支配下におさめたのである。

 彼女もまた、倒された者の一人であった。

 魔人と進化していた彼女の力を持ってしても、魔王クレイマンには及ばなかった。彼女は倒され、心臓に支配の呪印を刻まれたのだ。

 同時に、魔人としての格も上がったのだが、彼女にとっては嬉しくもない話である。

 それ以来、彼女はクレイマンの操り人形マリオネットの一体である。

 ゲルミュッドのように、自ら支配されたがる者の気持ちなど、彼女には理解出来ない。

 彼女は常に隙を窺っている。自らに施された呪印を解除し、クレイマンを討つ機会を狙って。

 しかし、彼女の長い人生経験がそれはほぼ不可能である事を教えてくれる。

 うんざりする程、実力に差があるのだ。

 彼女は従い続ける。いつの日か呪縛から解き放たれる事に期待しつつ・・・。

 そして今回も。

 情報収集が目的なのだ、適当にこなそう! そう思い、作戦を立てる。

 利用出来るものは何でも利用する。グルーシスも、人間の一団も!

 自らの解放の為に手段は選ばない。

 今はクレイマンに従うしかないけれども。

 元より人間であった彼女には、人に化ける等、造作もない事である。




 ヨウム達の前に二人の男女が歩いていた。

 先程仲間になった二人。

 兄弟という話だった。姉と弟。どう見ても只者では無い。

 ヨウムは二人を観察するように眺めた。

 隊員達と親しげに話している。帝国出身らしく、身なりは良い。

 怪しいといえなくは無いのだが、そこそこの実力があれば、森を二人で抜ける事は出来ない話では無い。

 ジュラの大森林の魔物は、基本的にはそれ程強い固体はいないのだ。ただし、現在のように魔物が活性化している時でなければ、の話である。

 現在、わざわざ森を抜けるのは危険が大きすぎる。ドワーフ王国を経由する方が安全なのだ。

 やっぱ、怪しいな。油断しねー方が良さそうだ。

 ヨウムは心の中でそう結論付けた。

 話に怪しい所は無かったし、隊員と打ち解けるのも早い。一見、何の問題も無さそうである。

 しかし、自分の勘が怪しいと言っている。ならば、勘を信じる。それがヨウムの今まで貫いて来た生き方であった。

 ま、腕が立つのは確かなようだし、利用させて貰うとしますか!

 単純な話であった。相手が何らかの思惑があるのだとしても、こちらも利用仕返せば良いだけの事。

 隊員は数は少ない上に、腕の立つ者も少ないのだ。

 どう見ても腕の立つ二人。そんな者が仲間になるのは、歓迎すべき事であった。


 怪しいと言えば、捕えた3人の冒険者。

 この3人もまた大いに怪しい奴等であった。

 謎の町への案内を任せているが、嘘をついている様子は全く無い。となると、本当に町がある事になる。

 逃げるそぶりも見せないので、縛っていた縄は解いている。

 この3人も早々に隊員と打ち解けて、自慢話を繰り広げていた。

 冒険者であるのも本当の事のようだ。

 所属国が異なる為、名前は聞いた事が無い。それに3人はBランクであるらしく、名が知れ渡っているという程上位では無かった。

 腕の良いベテランという所か。


「へえ、この先に町があるんですか? しかも、魔物の町?」

「そうそぅ! そこに初めて行った時、焼肉出してくれたんですよぅ!

 美味しかったなぁ!」

「確かあの時は、巨大蟻ジャイアントアントの集団に追われてたんでしたっけね。

 酷い目にあったもんでやすよ!」

「でもよ、おかげでリムルの旦那とも知り合えた訳だし、良かったじゃねーか!」

「リムルの旦那って?」

「ああ、町の親分よ! 人鬼族ホブゴブリン達がほとんどなんだけどな。

 彼等を纏めるのが、スライムのリムルの旦那って訳さ!」

「何だと? スライムが魔物を従えているのか?」

「そうよぅ! すっごい可愛いスライムなの!」

「…ていうか、旦那方、そんなにペラペラ喋っても大丈夫なんですかい?

 あっしは、知らないですぜ?」

「……、だってよ、連れて行く時点で、駄目じゃん?

 だから少しでもいい印象を持ってて貰わないと、トラブルなんて起こしたらそれこそ不味いだろ?」

「そうよねぇ…二度と来るな! なんて言われたら、困るものね……」

「風呂も入ってないでやすしね……」


 油断しきっているのか作戦か、ペラペラと質問に答えている。

 ヨウムには、彼等の魂胆がまるで掴めない。

 ただ思うに、どうやら町は存在するだろうという事。

 もし、彼等の妄想だとしたら、具体的すぎる話であった。


「あ! 見えて来やしたぜ!」


 盗賊風の男、ギドがそう叫んだ。

 ヨウムも言われて前方を確かめる。遠く、木の陰から、町の外壁のようなシルエットが見えていた。

 本当だったか。そう思うと同時に、気を引き締め直す。

 魔物の作った町。俄かには信じがたい。それでも町は存在する。

 鬼が出るか蛇が出るか…。

 ヨウムは不敵な笑みを浮かべ、町を目指し突き進む。






 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




 


 町の中をミリムを案内して周る。

 それは、思った以上の重労働であった。

 小さい子供を連れてレジャーランドに行った経験のある方なら、想像出来るだろう。

 目を離すと居なくなる。まさにそんな感じである。


「おいぃ! 勝手に走るなと言ってるだろうが!」

「わははははは! こっちだ! これは何だ!?」

「聞け! いいから、落ち着いて俺の話を聞いてくれ!」

「わははははは! 何だ一体? 聞いているぞ?」


 どう見ても聞いてない。

 不思議な程のハイテンションを全開にして、走り回っている。

 さっきもガビルを見つけ、


「おおお!!! 龍人族ドラゴニュートではないか!

 わはははは! 頑張っておるか?」

「おう! 我輩は龍人族ドラゴニュートのガビルと申す!

 お前の名は何だ? チビっ娘よ!」


 ブチッ


「ああ? 今何て言った? 手前、ぶち殺されたいか?」


 ガビルの膝を軽く蹴って砕き、バランスを崩したガビルが倒れこんで来るのに合わせて、拳を腹に減り込ませた。

 ゴフゥ! とか言いつつ、一撃で死亡寸前まで追い込まれるガビル。

 ちょ、ちょっと待って…。俺の許可無く暴れないという約束は…?


「いいか、手前! アタシは今、とても機嫌が良い。だからこれぐらいで許してやるよ。

 二度と舐めた事、抜かすんじゃねーぞ! たく、誰がチビだ、誰が……」


 と言いますか。それ以上やったら、死ぬよ?

 ミリム、恐ろしい娘! というか、本当に怖いわ!

 ガビルは運よく試作品の回復薬を持って来ていた。クロベエに量産依頼をする所だったらしい。

 中回復薬では、体力が完全回復しなかった。

 まさしく、一撃必殺に近い威力だ。本当に手加減しての威力なのだろう。

 しかしこうなると、暴れないという約束なんて、当てにならないかもしれない。


 ガビルはペコペコしながら去って行った。

 ミリムは鷹揚に頷き、手を振っている。

 そして、何事も無かったかのように振り向いて、


「アイツ、結構頑丈だったな! 今度はもう少し強めでいっとくか?」


 俺に聞かないで欲しい。心底そう思った。


「いや、駄目だから! 本当、弱いもの苛めは駄目だから!」

「む? そうか…。弱いもの苛めは駄目だな! 知ってるぞ!」

「お、おう。知ってるなら、今度からはしないでね…」


 そう嗜める事しか出来ない。

 いや、止める間も無い出来事だったのだ。

 魔王ミリムの逆鱗は結構色々有りそうなので、被害者が彼だけである事を祈る俺だった。


 そんなこんなで案内は続く。

 防具工房を見学させ、防具セットを造る約束をさせていた。

 衣服工房を見学し、女性達ゴブリナの着せ替え人形になっていた。

 農地を見学し、畑を耕すのを手伝っていた。恐ろしく早い速度で畑が作られるのは、見ていて爽快だった。

 その日はそんな感じで日が暮れた。


 夜になる頃には、小さな暴君の噂は町に知れ渡っていた。

 大食堂に幹部を集めて、皆に紹介する事にする。


「ミリム・ナーヴァだ! 宜しくな!」


 ミリムがそう自己紹介したとき、


「あれ? ミリムって、魔王の名前じゃ?」


 今日一日、ベニマル、ソウエイと一緒にハクロウに稽古をつけて貰っていたシオンが呟いた。


「はは、お前、何言ってるんだ? 魔王がこんな所にいる訳ないだろ!」


 ベニマルが笑いながら否定した。

 不味い。先程のガビルの悲劇が思い出される。

 俺がフォローを入れようと口を開きかけた時、


「リムル様とは、どういう関係だ? どこかで友達にでもなったのか?」


 とソウエイが尋ねた。

 途端に、怒る寸前だったのが、モジモジし始める。

 何やら顔を真っ赤にしながら、


「え、えっと…、友達というより、親友マブダチ!」

「そうでしたか、それは失礼。自分はソウエイ。リムル様の忠実な僕です。宜しく!」


 ソウエイ、流石である、本当にイケメンすぎて言葉も無い。

 というか、ミリム君。いつから親友マブダチになったのかね?


「えっと、いつから親友マブダチに?」


 恐る恐る尋ねてみると、


「え? 違うのか!?」


 見る見る目に涙が溜まっていく。だがそれ以上に、拳に闘気オーラが溜まっていく方が早い!!!


「なーってね! 冗談だよ、親友マブダチ! 俺ら、一生仲良しダヨネ!」


 素早いフォローで危険を回避。

 俺も危うく地雷を踏み抜く所だった。ガビルの二の舞は御免である。


「だろ! お前も人を驚かせるのが上手いな!」


 とニコニコになっている。

 チョロイ奴である。チョロイけど、扱いの難しい奴でもあるのだ。

 今後油断は禁物。俺は一つ賢くなった。

 ベニマルは未だに事態に追いついていない。後で忠告してやろう。

 彼は、ソウエイに比べて女心など全く理解していない。俺と同等かそれ以下である。

 元が良い男だから許されているが、そうでなければ総スカンものであろう。

 鈍い男とはどこでも苦労するもの。

 ミリムが相手では苦労では済まないからな。

 一先ず話しは流れて、食事が運ばれてくる。

 ミリムはご機嫌で食べていた。

 俺も人間に変身し、仮面を外す。

 それを見たミリムが、


「あ! ゲルミュッドを倒したのはお前だったのか! やっぱりな!」


 そう言った。

 ニコニコ笑顔で食事を続けるミリム。

 だが、他の者はそうはいかない。その目が説明を促し、俺を見て来る。

 どうやら、誤魔化すのは無理そうだった。

 

 食事が終わると、ミリムは眠そうにしている。

 シュナに頼んで客用の寝室に連れて行って貰った。ベッドじゃないとか、文句言わないといいのだが…。

 ここにはベッドは無く、畳モドキと布団なのである。

 ま、無いモノは仕方無い。シュナに任せて、こちらは本題に入る。

 俺は、皆に本日の出来事を話して聞かせた。


「なるほど…。通りで、強烈な一撃でしたわ。

 我輩、親父殿が川の向こうで手を振っているのが見えましたぞ!」

「なんだ? まだまだ余裕そうだな。お前の親父、まだ生きてるだろうが!」

「あ! そうでしたな。失敬失敬!」


 ガビルの反応はともかく、他の者も驚いている。

 そりゃそうだ。魔王がやって来たのだから。

 

「でもま、一応、許可無く暴れないと約束してくれてるし、大丈夫だろ?」


 俺が問うと、


「いや、約束を破れない魔物ばかりではないぞ?

 ドワーフ王が言ったのは、一部正解であり、全てが真実ではないんだぜ?」


 とカイジンが言い出した。

 ハクロウや鬼人達も頷いている。


「リムル様、例えば、自分は平気で嘘をつけますよ。」

「俺も平気だ。むしろ、結構嘘つきな方だ!」


 と、ソウエイやベニマルは言った。

 どういう事?


「つまりですね……」


 説明によると、自然発生した魔物が嘘をつきにくいのは本当の話。

 でも、親から生まれた魔物はその辺りルーズになる。ドワーフ王の言っているのは、"誓約の魔法を行使した上で、自分の存在に誓った場合"という条件での話しなのだとか。

 『大賢者』の補足説明を聞き流したのが失敗だった。

 悪魔族だけは、より制限が厳しいようだが、単なる魔物なら然程ではないのだそうだ。

 という事は……


「ミリムの奴なら、平気で嘘をつけるという事か?」

「そうなりますな……」


 ハクロウが頷いた。

 さて、どうしたものか。


「しかし実際、暴れている訳ではないですし、そもそも、止めようとしても無理でしょう?」


 確かにそうだ。全員でかかっても無理そうだ。


「そうだな。好きにさせて、駄目なら駄目とリムル様に止めて貰おう。親友マブダチらしいし!」

「「「意義なし!!!」」」


 何い!!! ベニマル貴様!

 そう思った時は既に手遅れ。いつも俺がしている"丸投げ"を、逆にやられてしまう事になってしまった。

 仕方無い。俺は溜息をつく。

 こうして、魔王ミリムはリムルが担当する! という暗黙の了解ルールが成立してしまったのであった。


 魔王ミリムの旋風は吹き荒れ、何とか一日目を終えたのだ。


 明日は投稿出来そうにありません。

 次回は水曜日予定です。

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[気になる点] 今更誤字報告です。 上段、ミュウランとグルーシスの合流後の地の文にて。 それ程強い固体はいないのだ。 ↓ それ程強い個体はいないのだ。
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