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転生したらスライムだった件  作者: 伏瀬
王都生活編
49/304

46話 国の名前と二つの条約

 町も大分綺麗になってきた。

 俺の普段の努力の賜物であろう! 口しか出してないがな……!

 そんな事はこの際どうでも宜しい。

 俺が拘った点は、トイレ,水周り,虫除け,そして、風呂! である。

 最初の3つは日本式。蚊帳の代用に蜘蛛糸を加工し、網戸まで作らせたのだ。

 最初、木で便座を削り出してきたのだが、それは使い物にならないと変えさせた。

 和式である。木の便座なんて、掃除が大変だろう。腐るし。

 しかし、流石ドワーフ。器用なモノであった。

 便座関係以外は大きな失敗も無く、順調に製作していったのだ。

 ここで役に立ったのが、『思念操作』である。『思念伝達』が進化したスキルなのだが、同じように使う事も出来た。

 なので、俺の思い描いた事を伝えるのが容易だったのである。

 絵や言葉では伝えにくい事も、想像イメージをそのまま伝達する事により、簡単に相手に伝わった。

 蛇口を捻ったら水が出る! そんなイメージも伝えたが、流石に無理であるようだ。

 水の高位魔石を用い、空気から水を作る装置があるそうだが、かなり高額な上に嵩張るそうだ。

 また、魔石の交換で金がかかりすぎ、軍事目的などでも使えないとの事。

 本当に、一部の大金持ちだけの設備なのだそうだ。

 俺達にはそこまでの余裕は無いので、あるモノで何とか考えて代用していく。

 まあ、水道関係は今後の課題で実現は出来そうもないのだけどね。

 代用として、各家や水場に設けた桶に水を補給し、そこから水を出す仕組みを作り上げた。

 トイレと同様、最初に水を補給したら、蛇口を捻ると水が出るように出来たのだ。

 流石、カイジンに、ミルドである。言ってみるものだ。

 そして、魔物達に、水場を清潔に保つ事を徹底させ、手洗いうがいも癖付けた。

 魔物に雑菌がつくのかどうか知らないし、無駄になるかもしれないのだが、一応念のためである。

 カイジンによると、冒険者達は初期に〈浄化魔法〉の使い手を仲間にするか、自分で覚えるそうだ。

 長旅で不潔になるのをこれで何とかするらしい。

 とは言え、上位者でなければ気休め程度のようだけれど。

 そして、蚊帳。

 森であるだけに、流石に虫が多い。そういったものを防がないと、虫刺され等でも大変な痛みなのだ。

 俺は大丈夫だったが、ホブゴブリン達は痛そうにしていた。

 そこで、俺の発案で作成したのだ。

 後は、虫除けの結界を用意したいが、ドワーフ達では作れない。

 人間の町に行って買って来なければならない。お金も無いのだけどね。

 3人組バカに買って来てくれ! と頼んだ事があったのだが、


「無茶言わないで下さい! 滅茶苦茶高価なんですよ!」

「それにぃ、町を覆える程って、どんだけ必要か判らないですぅ!

 町を覆うなんて、王都くらいのものですよ!」

「リムルの旦那、お金があっても、運搬も大変ですぜ?」


 という事だった。

 遊びに来るのはいいが、来ても役には立たない奴等である。

 最も、シュナとは仲がいい。

 良く一緒に料理したり、裁縫道具を買ってきてやったりと、親しくしているようだった。

 アイツ等のように、お客がやって来てもいいように、長屋も用意してあった。




 魔物達も人間並に出生率が落ちている。

 そうした事を踏まえ、結婚制度をどうするか思案しないといけない。

 ゴブリンやオーク、そしてリザードマンも強い者が好きな相手を選ぶ権利を有するとの事。

 種族的により強い子孫を残す為の慣わしなのだろう。

 ここで問題となるのが、一夫多妻を認めるかどうか。

 旦那が亡くなった女性等なら、認めてもいいとは思う。鬼人達は、誰とでも子供を作れるそうだが、作らないと言っていた。

 魔素をごっそり奪われて、回復しない場合があるのだとか。

 ベニマル曰く、


「リムル様くらいのもんだぜ?

 名付けだけでも魔素が回復しない事あるから、魔王達ですらホイホイ名前付けないんだぜ?」


 との衝撃発言!

 おいおいぃ!!! ばんばん名前付けまくってるし! 今更そんな事を言うなよ!

 よく今まで魔素が回復してくれていたものである。

 今後は慎重に名付けも考えないといけない。しかし、回復するのが当たり前と思ってたし、大丈夫という確信もあったんだけどね。

 子供も2種類あるそうだ。

 種だけ授けるパターンと、本気で作るパターン。

 前者だと自分の能力をある程度受け継いで生まれて来るが弱い。後者は、強力に全ての能力を受け継ぎ生まれて来るらしい。

 本気で子作りすると、寿命も減るのだそうで、


「俺は独身でいいよ! 別に興味ないし!」


 的な事を言っていた。

 ところで、女性は話が異なってくる。

 強い種以外は拒否出来るのだとか。無理強い出来る時点で相手の方が強い事になるが、姑息な手段での行為など行っても、子供が出来ないのだとか。

 自分の認めた相手だけしか子供を作る権利が無いとの事。

 これは高位魔物や魔人に共通しているらしい。

 ゴブリン達、亜人族デミヒューマンの一種は、そこまでの強制力はなく、人間と変わりない。

 今までは生まれる子の数が5〜10匹とかだったのが、一人二人に落ちただけである。

 子孫を残すという観点から、一夫多妻は有り。ただし、未亡人に限る!

 というルールを設ける事にした。問題があったら変更する予定である。

 月初めに告白式を行い、成立したカップルに家を与える。そういう風習にしていこう。

 独身者は長屋暮らしである。

 まあ、上位の役付きになったら家を持つのも自由だ。

 その辺りは不満の出ないように決めていこうと思う。


 結局、皆の不満を無くすのは不可能だろうけど、俺の判断ジャッジに委ねるという風習が出来たようだった。

 意見が食い違った際、揉め事が起きそうなら俺に判断を委ねてきた。

 とはいえ、長老連中の所で大抵は解決するので、よほどの場合に限る。

 その辺は、皆俺に気を使い、面倒をかけないように心がけてくれているのだ。

 案外、魔物達の方が協調性が高いのが驚きだった。

 社会主義、資本主義、どちらもどちらで言い分があるだろうが、腐敗はどうしても無くならない。

 絶対正しい事を行う王様が治める国。そこでは、王の下で皆が平等になる。

 有り得ない夢物語だ。それでも……

 俺は目指す事にした。

 願わくば、俺が腐ってしまわない事を祈る。もし俺が腐ったならば、その時は誰かに討伐して貰いたいものだ。

 告白式を見ながら、そんな事を考えたのだった。




 さて、町での暮らしも安定し生活の上でのルールも決まって来た事だし、そろそろ人間の町へと行きたいのだが。

 せっかく人化も可能なのだし、堂々と見学に行きたい。

 普通、異世界転生というと、最初に来るべきイベントだろうに、俺は未だに出会った人間の数が少ない。

 ドワーフの町で絡まれた奴等と、シズさん。後は、3人組バカだけではなかろうか?

 そう考えれば1年以上経つというのに、出会った人間は少なすぎる。

 当初の目的であった、"異世界人"に会うというのも忘れてはいけない。

 シズさんの記憶の欠片にあった名前、二人の弟子。神楽坂優樹ユウキ カグラザカ坂口日向ヒナタ サカグチ

 その二人にも会ってみたいけど、坂口日向ヒナタ サカグチってのはヤバイ感じ。

 だが、俺には気にかかっている事があった。何故、優しいシズさんが、坂口日向ヒナタ サカグチを放って置いたのか?

 先輩として、同郷として、導いてやれなかったのか? 会って見る必要があると思う。

 『捕食者』は喰った対象の記憶の一部を引き継ぐが、万能では無い。記憶とはそれほどデリケートなものだからだろうけど。

 一度会って、その辺りの事を確かめてみたいと、前から考えていた。

 3人組が自由組合のギルドマスターに話を通してくれているとの事で、手紙も預かって来て貰った。

 その手紙では、俺に一度会いたいとの事。

 小国の自由組合支部とは言え、ギルドマスターを名乗っているのだ。コネもある。

 一度会い、色々と便宜を図って貰いたい。

 上手く行けば、王都にある自由組合本部の総帥グランドマスターである神楽坂優樹ユウキ カグラザカへの紹介状も書いて貰えるかもしれないしな。

 町も落ち着いて来た事だし、そろそろ俺が居なくても自分達でやっていけると思う。


 そうなると、必要になってくるモノがある。

 そう! お金だ。

 あの3人組は貧乏しているようで、お金は余り持って無かった。期待もしてなかったけど。

 町で野菜の苗も買いたいし、魔石や工芸品等でも珍しい物があるかも知れない。

 俺の持つ"魔鋼"を売ればいいと最初は考えていたのだが、その考えは捨てた。

 理由は簡単。"魔鋼"が希少だったからである。

 自分達の武装を揃えるのにも使用するので、売るのは勿体無いという結論に至ったのだ。

 騎乗武器の開発にも"魔鋼"は欠かせない。形状変化させる事で、斬撃と打突攻撃の使い分けも可能になるし、持ち運びにも便利なのだ。

 大量にあるが、限りある資源。補給出来る目処が立つまでは流出させるのは止める事にした。

 鉄鉱石等は、山岳地帯の一部に鉱山が発見されたので、猪人族ハイオークの鉱夫が定期的に納入してくれている。

 クロベエとカイジンにより、鉄鋼をベースとした武器作成は順調に進められているところなのだ。

 武器や防具は自給自足出来そうだが、魔法武具にする為にも魔石が必要なのだ。

 それに、研究するにも大量の魔石がいる。魔石は人間が精霊工学で加工した物であるらしく、天然物は少ないのだ。

 魔物を倒して手に入る、"魔晶石"というものを抽出し、加工するらしい。

 大規模な工場設備が必要で、本部の自由組合でしか加工出来ないそうだ。

 魔物の討伐時、希に出る"魔晶石"は各支部で集められて中央に送られる。その量で、各支部への支援金の額も決まる。

 そういうシステムになっているらしい。冒険者が魔物を狩るのは、被害を防ぐ目的だけでなく営利目的もあるという事。

 良く出来たシステムである。

 となると、魔石を入手するには、購入しかない訳で……

 ここでもやはりお金の壁に突き当たる。




 そうなると、お金を得るにはどうすればいいだろう?

 自分で働いて稼ぐのは、効率が悪すぎる。

 何か売るにも、野菜関係はまだまだだし、高値で売れるとも思えない。

 武器防具は、自分達で使用する目的以外で売る予定は無い。

 では、何も売れる物が無いのか? 

 実は、ありますとも! こういう事もあろうかと、ガビルに育成させているものがあった。

 そう! ヒポクテ草である!

 ガビルを呼ぶ。


「ガビル君。育成状況はどうかね?」

「ふふふ、よくぞ聞いてくれました! 順調ですぞ! 我輩の努力の結晶ですぞ!」


 そう言って、俺にそっと草を差し出してくる。

 雑草だった。

 俺は無言で、ガビルに向けて『黒雷』を食らわせる。

 なあに、死にはしない。最近、威力調整は完璧だ。


「ぐおぉ! 何をするのですか! 我輩が何か!?」

「バカ野郎! 雑草じゃねーか! お前は一体何を育てているんだ!!!」

「な、なんと! これは失敬! このガビル、少しばかり功を焦ってしまい申した!」

「功を焦ったで済む話じゃないだろ! たく。

 気をつけてくれよ! 大体、あの高密度の魔素の中で雑草を育てるほうが難しいっての!」


 そういう遣り取りはあったものの、概ね計画通り。

 希少植物であるヒポクテ草の育成は、順調に進められたのだ。

 ガビルに草との見分け方を教える事の方が、苦労したくらいである。

 そういうガビルであったが、洞窟内を我が物顔で歩き回り、今では洞窟の主となっている。

 魔物達もガビルを見ると逃げ出す程。

 配下の龍人族ドラゴニュートも個人でムカデに勝てる猛者も出始めて、洞窟内は彼等の領域テリトリーと化している。

 なかなか大した物なのである。決して言わないし、褒めないけどね。

 ヤツは褒めると調子に乗って失敗するタイプだ。俺に似ている。

 似た者同士、良く判る。そうして育成を任せて、結構な量のヒポクテ草が生産されていた。


 カイジンを呼び、ヒポクテ草を見せる。

 隣には量産したヒポクテ草から作った回復薬。鑑定したら"上品質"と出ている。

 天然物と変わらない、良い出来栄えであるという事だ。

 話を切り出す事にした。


「カイジンよ。この回復薬を町で売ったら、いいお金になると思うけど、どうだ?」


 カイジンは少し思案し、


「ふーむ。旦那、難しいぜ。この薬、効果が良すぎるんだよ。

 抽出効果が高すぎる。有り得ない程、完全なんだ!」


 こう言った。

 そして、色々とカイジンから説明を受けた。

 この回復薬は99%の抽出率でそれは完全回復薬と言われる最高位の薬である事。

 普通に抽出したら98%が限界であり、ドワーフの技術力でもそこまでが限界だった事。

 その98%の抽出率で、上位回復薬として高額の薬である事。

 等などである。


「という事は、これを市場に出したら……」


「悪目立ちするであろうな!」


 そう、空から反応があった。

 俺の『魔力感知』に反応は無かったのに!


「久しいな、カイジン! それに、スライム。余、いや、俺を覚えているか?」


 そう言いながら、空から羽の生えた馬に乗って一人の人物がやって来た。

 立派な白馬に翼が生えて、ペガサスだな。地面に着地し、馬から降り立つ人物。

 忘れもしない、ドワーフの王! 英雄王ガゼル・ドワルゴその人だった。

 

「こ、これは王よ! 何故、え、一体どうしてここへ?

 えええ!!! というか、城を抜け出して来られたのですか!?」


 カイジンは目が飛び出さんばかりに驚いて、うろたえている。

 それはまあ、そうだろう。王が一人、いやもう一人連れているな。二人でここまで来たのだから!

 ていうか、もう一人のヤツ、見覚えあるな……

 あれ! ベスターじゃねーか! 俺達を罠に嵌めようとしやがった…何でここにいるんだ?


「フン! 俺の警護の兵ども、100人もいて、俺が抜け出す事に気付かなかったぞ!

 弛んでおる。帰ったら鍛えなおしよ!」

「い、いや、それは王相手では……」

「ん? カイジン、何か言いたい事でもあるのか?」

「い、いえ! 何も御座いません!」

「そうか? ならばよい!」


 俺の考えを他所に、目の前でそんな遣り取りをしている二人。

 王が抜け出すって、一体どういう事だ!?


 俺達は、場所を移して話をする事となった。

 仮初ではなく、きっちりと新設された中央の建物。この建物に、この町の主要な者の部屋が割り当てられ、執務を行っている。

 その建物にある小会議室に俺達は入っていた。


「で、王よ、これは一体どういう事でございますか?

 ベスター殿まで連れてこられて……」

「おう! いや何、簡単な事よ!

 俺の一存で、立ち入り禁止と言ってお前達をドワーフ王国から追い出したからな。

 俺の方から出向いただけの事。

 ベスターのヤツも、お前達の件の画策の責任を取らせ、王宮への立ち入り禁止を申し渡した。

 で、有能なコイツが遊んでいるのも勿体無い話よ! だから、連れてきた。」

「……」

「だから連れてきた! じゃないでしょう!?

 そんな、王よ! ご理解されているのですよね?

 ベスター殿をここで働かせる御積りですか?」

「む? 駄目か?」

「そういう問題では無く! ベスター殿の技術が流出する事に繋がりませんか?」


 大真面目に言い募るカイジン。

 根が真面目なのだろう、必死に王に問い詰めている。

 対して、王は飄々として聞き流している。前に見せた威厳ある姿は本質ではなく、こっちの姿が本来の彼なのか。

 当のベスターは、何が何だか判っていない感じだった。


「流出…か。お前達が出て行った時点で、こちらは流失しておるわ!

 本当は、お前達を消そうか、そうも考えたのだぞ?」


 一転、ドワーフ王は真面目な顔をしてそう言った。


「王よ、そ、それは…」

「本当の話よ! 結局は止めたがな。俺は無駄な事はしない。

 ベスターを連れてきたのも、ここで働かせてやりたいからだ!」


 その言葉で、ベスターの目に火が灯った。


「お、王よ!」

「勘違いするなよ、ベスター。お前には期待していた。それは本当の話だ。

 俺に仕える事は許さんが、ここで存分に働く事は許可しよう。

 それだけの話よ!」

「王よ、それでは、ドワーフの技術を惜しげも無くここで出しても良いと聞こえますぞ?」


 カイジンが大慌てしだしたが、


「フン。良いか、聞くのだ。

 お前達が、ここにいるならば、ここが技術の最先端であるとも言える。

 判るか?

 ドワーフ国、国王としてではなくお前達の友として、興味があるのだ。

 良いか?

 ドワーフ王国は、今日この日を以って、ここと正式に相互不可侵条約を結ぶ!

 だが、それは建前。裏で本当に結びたいのは、相互技術提供条約だ。

 これは、何があっても表に出す事は出来ん。

 どうだ? 二つの条約、結ぶ気はあるか?」


 真剣な眼差しで俺を見つめ、そう言った。

 相互不可侵条約に相互技術提供協定だと? 願ったり叶ったりじゃないか!

 俺達を、一つの集団として正式に認める、そう言っているのだ。


「良いのか、それは俺達を国として認めると、そう言っているのと同義になるぞ?」


 俺の問いに、


「無論だ。相互に利益がある話だと思うが?

 あと、気になるのだが、この国の名前は何だ?」


 え? 国の名前?

 俺とカイジンは目を見合い、


「まだ決めてないな…」

「そういえば…」


 その事に思い至ったのであった。


 ドワーフ王ガゼル・ドワルゴはその日は滞在すると言い出した。

 飛翔馬ペガサスで移動するならば、王国とここを1日程度で来れるらしい。

 しかし、夜からの飛行は危険なので、明日帰るそうである。

 俺達は、主だった幹部を集め、急遽、国の名前を決める会議を行う事にした。

 そうして決まったのが、魔物の町"テンペスト"である。

 リムルという名前に決まりかかったので、恥ずかしいから止めさせた。テンペストなら辛うじて我慢出来る。

 自分だけの名前じゃない感じだし、響き的にギリギリ大丈夫な感じだ。

 その夜、町の名前も決まり、皆大はしゃぎの宴会になった。

 この町には結構豊富に食べ物があるので、それなりに質のいい料理が出せる。

 ドワーフ王も期待以上の料理に満足していた様子。

 それは主に、シュナの料理の腕前が素晴らしいからなんだけどね。


 余興と言いながら、ドワーフ王が模擬戦を行う事になった。

 城での生活で本気で身体を動かせないと愚痴りながら。案外気さくな人柄のようで、ここでは互いに名前で呼び合う間柄になったのだが…

 流石に模擬戦は不味いだろう。そう思ったけど、王は聞かない。

 思う所があるようだ。

 仕方無いので、相手をする事にした。

 人間形態に変身する。

 豚頭魔王オーク・ディザスターを喰って俺の体積が若干増えた。

 今は子供では無く、少年少女くらいの身長である。150cmないくらいか。少し成長した感じだ。

 訓練用の木刀を用意し、お互いに構える。

 ハクロウの掛け声に合わせ、試合開始である。


「始め!」


 瞬間、王が目前より消えた。俺の持つ全ての感覚に引っかからない。

 ヤバイ! そう思った瞬間に。正面から木刀を弾き飛ばされていた。

 勝負はついた。一瞬で負けたのだ。

 これが…ドワーフ王。英雄の実力の片鱗を見た思いである!


「いいか、リムル。お前、最初俺が空から来た事に気付かなかったな。

 魔力感知は確かに優れているのだろう。しかし、裏をかく方法は無数にあるのだ。

 お前がとっているであろう、探知の方法を予想し、裏をかく。

 戦の基本よ! もっと精進するがいい。能力に頼ってばかりいると、成長せんぞ!」


 そうか、これが言いたかったのか…。

 俺は納得し、感謝した。


「ありがとうよ、ガゼル。今度会ったら、こんな簡単にはいかねーぞ!」

「フン。言いよるわ、小僧が!」


 俺達の勝負が終わると、魔物達の歓声が広場に響き渡った。

 興奮と熱気が広場に満ちる。

 ベニマルやソウエイ、シオン達も思うところがあったのだろう、真剣な顔になっていた。

 ハクロウは頷き、顔を嬉しそうに綻ばせている。

 俺達はまだまだだ。それを実感させられた出来事だった。

 宴会は夜遅くまで続けられ、皆浮かれ騒いだのだ。




 そして翌日、ドワーフ王ガゼル・ドワルゴとの正式な調停を行い、二つの協定は調印されたのである。

 これが、歴史に魔物の町"テンペスト"が登場する初めての出来事となったのだ。

 

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