46話 国の名前と二つの条約
町も大分綺麗になってきた。
俺の普段の努力の賜物であろう! 口しか出してないがな……!
そんな事はこの際どうでも宜しい。
俺が拘った点は、トイレ,水周り,虫除け,そして、風呂! である。
最初の3つは日本式。蚊帳の代用に蜘蛛糸を加工し、網戸まで作らせたのだ。
最初、木で便座を削り出してきたのだが、それは使い物にならないと変えさせた。
和式である。木の便座なんて、掃除が大変だろう。腐るし。
しかし、流石ドワーフ。器用なモノであった。
便座関係以外は大きな失敗も無く、順調に製作していったのだ。
ここで役に立ったのが、『思念操作』である。『思念伝達』が進化したスキルなのだが、同じように使う事も出来た。
なので、俺の思い描いた事を伝えるのが容易だったのである。
絵や言葉では伝えにくい事も、想像をそのまま伝達する事により、簡単に相手に伝わった。
蛇口を捻ったら水が出る! そんなイメージも伝えたが、流石に無理であるようだ。
水の高位魔石を用い、空気から水を作る装置があるそうだが、かなり高額な上に嵩張るそうだ。
また、魔石の交換で金がかかりすぎ、軍事目的などでも使えないとの事。
本当に、一部の大金持ちだけの設備なのだそうだ。
俺達にはそこまでの余裕は無いので、あるモノで何とか考えて代用していく。
まあ、水道関係は今後の課題で実現は出来そうもないのだけどね。
代用として、各家や水場に設けた桶に水を補給し、そこから水を出す仕組みを作り上げた。
トイレと同様、最初に水を補給したら、蛇口を捻ると水が出るように出来たのだ。
流石、カイジンに、ミルドである。言ってみるものだ。
そして、魔物達に、水場を清潔に保つ事を徹底させ、手洗いうがいも癖付けた。
魔物に雑菌がつくのかどうか知らないし、無駄になるかもしれないのだが、一応念のためである。
カイジンによると、冒険者達は初期に〈浄化魔法〉の使い手を仲間にするか、自分で覚えるそうだ。
長旅で不潔になるのをこれで何とかするらしい。
とは言え、上位者でなければ気休め程度のようだけれど。
そして、蚊帳。
森であるだけに、流石に虫が多い。そういったものを防がないと、虫刺され等でも大変な痛みなのだ。
俺は大丈夫だったが、ホブゴブリン達は痛そうにしていた。
そこで、俺の発案で作成したのだ。
後は、虫除けの結界を用意したいが、ドワーフ達では作れない。
人間の町に行って買って来なければならない。お金も無いのだけどね。
3人組に買って来てくれ! と頼んだ事があったのだが、
「無茶言わないで下さい! 滅茶苦茶高価なんですよ!」
「それにぃ、町を覆える程って、どんだけ必要か判らないですぅ!
町を覆うなんて、王都くらいのものですよ!」
「リムルの旦那、お金があっても、運搬も大変ですぜ?」
という事だった。
遊びに来るのはいいが、来ても役には立たない奴等である。
最も、シュナとは仲がいい。
良く一緒に料理したり、裁縫道具を買ってきてやったりと、親しくしているようだった。
アイツ等のように、お客がやって来てもいいように、長屋も用意してあった。
魔物達も人間並に出生率が落ちている。
そうした事を踏まえ、結婚制度をどうするか思案しないといけない。
ゴブリンやオーク、そしてリザードマンも強い者が好きな相手を選ぶ権利を有するとの事。
種族的により強い子孫を残す為の慣わしなのだろう。
ここで問題となるのが、一夫多妻を認めるかどうか。
旦那が亡くなった女性等なら、認めてもいいとは思う。鬼人達は、誰とでも子供を作れるそうだが、作らないと言っていた。
魔素をごっそり奪われて、回復しない場合があるのだとか。
ベニマル曰く、
「リムル様くらいのもんだぜ?
名付けだけでも魔素が回復しない事あるから、魔王達ですらホイホイ名前付けないんだぜ?」
との衝撃発言!
おいおいぃ!!! ばんばん名前付けまくってるし! 今更そんな事を言うなよ!
よく今まで魔素が回復してくれていたものである。
今後は慎重に名付けも考えないといけない。しかし、回復するのが当たり前と思ってたし、大丈夫という確信もあったんだけどね。
子供も2種類あるそうだ。
種だけ授けるパターンと、本気で作るパターン。
前者だと自分の能力をある程度受け継いで生まれて来るが弱い。後者は、強力に全ての能力を受け継ぎ生まれて来るらしい。
本気で子作りすると、寿命も減るのだそうで、
「俺は独身でいいよ! 別に興味ないし!」
的な事を言っていた。
ところで、女性は話が異なってくる。
強い種以外は拒否出来るのだとか。無理強い出来る時点で相手の方が強い事になるが、姑息な手段での行為など行っても、子供が出来ないのだとか。
自分の認めた相手だけしか子供を作る権利が無いとの事。
これは高位魔物や魔人に共通しているらしい。
ゴブリン達、亜人族の一種は、そこまでの強制力はなく、人間と変わりない。
今までは生まれる子の数が5〜10匹とかだったのが、一人二人に落ちただけである。
子孫を残すという観点から、一夫多妻は有り。ただし、未亡人に限る!
というルールを設ける事にした。問題があったら変更する予定である。
月初めに告白式を行い、成立したカップルに家を与える。そういう風習にしていこう。
独身者は長屋暮らしである。
まあ、上位の役付きになったら家を持つのも自由だ。
その辺りは不満の出ないように決めていこうと思う。
結局、皆の不満を無くすのは不可能だろうけど、俺の判断に委ねるという風習が出来たようだった。
意見が食い違った際、揉め事が起きそうなら俺に判断を委ねてきた。
とはいえ、長老連中の所で大抵は解決するので、よほどの場合に限る。
その辺は、皆俺に気を使い、面倒をかけないように心がけてくれているのだ。
案外、魔物達の方が協調性が高いのが驚きだった。
社会主義、資本主義、どちらもどちらで言い分があるだろうが、腐敗はどうしても無くならない。
絶対正しい事を行う王様が治める国。そこでは、王の下で皆が平等になる。
有り得ない夢物語だ。それでも……
俺は目指す事にした。
願わくば、俺が腐ってしまわない事を祈る。もし俺が腐ったならば、その時は誰かに討伐して貰いたいものだ。
告白式を見ながら、そんな事を考えたのだった。
さて、町での暮らしも安定し生活の上でのルールも決まって来た事だし、そろそろ人間の町へと行きたいのだが。
せっかく人化も可能なのだし、堂々と見学に行きたい。
普通、異世界転生というと、最初に来るべきイベントだろうに、俺は未だに出会った人間の数が少ない。
ドワーフの町で絡まれた奴等と、シズさん。後は、3人組だけではなかろうか?
そう考えれば1年以上経つというのに、出会った人間は少なすぎる。
当初の目的であった、"異世界人"に会うというのも忘れてはいけない。
シズさんの記憶の欠片にあった名前、二人の弟子。神楽坂優樹と坂口日向。
その二人にも会ってみたいけど、坂口日向ってのはヤバイ感じ。
だが、俺には気にかかっている事があった。何故、優しいシズさんが、坂口日向を放って置いたのか?
先輩として、同郷として、導いてやれなかったのか? 会って見る必要があると思う。
『捕食者』は喰った対象の記憶の一部を引き継ぐが、万能では無い。記憶とはそれほどデリケートなものだからだろうけど。
一度会って、その辺りの事を確かめてみたいと、前から考えていた。
3人組が自由組合のギルドマスターに話を通してくれているとの事で、手紙も預かって来て貰った。
その手紙では、俺に一度会いたいとの事。
小国の自由組合支部とは言え、ギルドマスターを名乗っているのだ。コネもある。
一度会い、色々と便宜を図って貰いたい。
上手く行けば、王都にある自由組合本部の総帥である神楽坂優樹への紹介状も書いて貰えるかもしれないしな。
町も落ち着いて来た事だし、そろそろ俺が居なくても自分達でやっていけると思う。
そうなると、必要になってくるモノがある。
そう! お金だ。
あの3人組は貧乏しているようで、お金は余り持って無かった。期待もしてなかったけど。
町で野菜の苗も買いたいし、魔石や工芸品等でも珍しい物があるかも知れない。
俺の持つ"魔鋼"を売ればいいと最初は考えていたのだが、その考えは捨てた。
理由は簡単。"魔鋼"が希少だったからである。
自分達の武装を揃えるのにも使用するので、売るのは勿体無いという結論に至ったのだ。
騎乗武器の開発にも"魔鋼"は欠かせない。形状変化させる事で、斬撃と打突攻撃の使い分けも可能になるし、持ち運びにも便利なのだ。
大量にあるが、限りある資源。補給出来る目処が立つまでは流出させるのは止める事にした。
鉄鉱石等は、山岳地帯の一部に鉱山が発見されたので、猪人族の鉱夫が定期的に納入してくれている。
クロベエとカイジンにより、鉄鋼をベースとした武器作成は順調に進められているところなのだ。
武器や防具は自給自足出来そうだが、魔法武具にする為にも魔石が必要なのだ。
それに、研究するにも大量の魔石がいる。魔石は人間が精霊工学で加工した物であるらしく、天然物は少ないのだ。
魔物を倒して手に入る、"魔晶石"というものを抽出し、加工するらしい。
大規模な工場設備が必要で、本部の自由組合でしか加工出来ないそうだ。
魔物の討伐時、希に出る"魔晶石"は各支部で集められて中央に送られる。その量で、各支部への支援金の額も決まる。
そういうシステムになっているらしい。冒険者が魔物を狩るのは、被害を防ぐ目的だけでなく営利目的もあるという事。
良く出来たシステムである。
となると、魔石を入手するには、購入しかない訳で……
ここでもやはりお金の壁に突き当たる。
そうなると、お金を得るにはどうすればいいだろう?
自分で働いて稼ぐのは、効率が悪すぎる。
何か売るにも、野菜関係はまだまだだし、高値で売れるとも思えない。
武器防具は、自分達で使用する目的以外で売る予定は無い。
では、何も売れる物が無いのか?
実は、ありますとも! こういう事もあろうかと、ガビルに育成させているものがあった。
そう! ヒポクテ草である!
ガビルを呼ぶ。
「ガビル君。育成状況はどうかね?」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました! 順調ですぞ! 我輩の努力の結晶ですぞ!」
そう言って、俺にそっと草を差し出してくる。
雑草だった。
俺は無言で、ガビルに向けて『黒雷』を食らわせる。
なあに、死にはしない。最近、威力調整は完璧だ。
「ぐおぉ! 何をするのですか! 我輩が何か!?」
「バカ野郎! 雑草じゃねーか! お前は一体何を育てているんだ!!!」
「な、なんと! これは失敬! このガビル、少しばかり功を焦ってしまい申した!」
「功を焦ったで済む話じゃないだろ! たく。
気をつけてくれよ! 大体、あの高密度の魔素の中で雑草を育てるほうが難しいっての!」
そういう遣り取りはあったものの、概ね計画通り。
希少植物であるヒポクテ草の育成は、順調に進められたのだ。
ガビルに草との見分け方を教える事の方が、苦労したくらいである。
そういうガビルであったが、洞窟内を我が物顔で歩き回り、今では洞窟の主となっている。
魔物達もガビルを見ると逃げ出す程。
配下の龍人族も個人でムカデに勝てる猛者も出始めて、洞窟内は彼等の領域と化している。
なかなか大した物なのである。決して言わないし、褒めないけどね。
ヤツは褒めると調子に乗って失敗するタイプだ。俺に似ている。
似た者同士、良く判る。そうして育成を任せて、結構な量のヒポクテ草が生産されていた。
カイジンを呼び、ヒポクテ草を見せる。
隣には量産したヒポクテ草から作った回復薬。鑑定したら"上品質"と出ている。
天然物と変わらない、良い出来栄えであるという事だ。
話を切り出す事にした。
「カイジンよ。この回復薬を町で売ったら、いいお金になると思うけど、どうだ?」
カイジンは少し思案し、
「ふーむ。旦那、難しいぜ。この薬、効果が良すぎるんだよ。
抽出効果が高すぎる。有り得ない程、完全なんだ!」
こう言った。
そして、色々とカイジンから説明を受けた。
この回復薬は99%の抽出率でそれは完全回復薬と言われる最高位の薬である事。
普通に抽出したら98%が限界であり、ドワーフの技術力でもそこまでが限界だった事。
その98%の抽出率で、上位回復薬として高額の薬である事。
等などである。
「という事は、これを市場に出したら……」
「悪目立ちするであろうな!」
そう、空から反応があった。
俺の『魔力感知』に反応は無かったのに!
「久しいな、カイジン! それに、スライム。余、いや、俺を覚えているか?」
そう言いながら、空から羽の生えた馬に乗って一人の人物がやって来た。
立派な白馬に翼が生えて、ペガサスだな。地面に着地し、馬から降り立つ人物。
忘れもしない、ドワーフの王! 英雄王ガゼル・ドワルゴその人だった。
「こ、これは王よ! 何故、え、一体どうしてここへ?
えええ!!! というか、城を抜け出して来られたのですか!?」
カイジンは目が飛び出さんばかりに驚いて、うろたえている。
それはまあ、そうだろう。王が一人、いやもう一人連れているな。二人でここまで来たのだから!
ていうか、もう一人のヤツ、見覚えあるな……
あれ! ベスターじゃねーか! 俺達を罠に嵌めようとしやがった…何でここにいるんだ?
「フン! 俺の警護の兵ども、100人もいて、俺が抜け出す事に気付かなかったぞ!
弛んでおる。帰ったら鍛えなおしよ!」
「い、いや、それは王相手では……」
「ん? カイジン、何か言いたい事でもあるのか?」
「い、いえ! 何も御座いません!」
「そうか? ならばよい!」
俺の考えを他所に、目の前でそんな遣り取りをしている二人。
王が抜け出すって、一体どういう事だ!?
俺達は、場所を移して話をする事となった。
仮初ではなく、きっちりと新設された中央の建物。この建物に、この町の主要な者の部屋が割り当てられ、執務を行っている。
その建物にある小会議室に俺達は入っていた。
「で、王よ、これは一体どういう事でございますか?
ベスター殿まで連れてこられて……」
「おう! いや何、簡単な事よ!
俺の一存で、立ち入り禁止と言ってお前達をドワーフ王国から追い出したからな。
俺の方から出向いただけの事。
ベスターのヤツも、お前達の件の画策の責任を取らせ、王宮への立ち入り禁止を申し渡した。
で、有能なコイツが遊んでいるのも勿体無い話よ! だから、連れてきた。」
「……」
「だから連れてきた! じゃないでしょう!?
そんな、王よ! ご理解されているのですよね?
ベスター殿をここで働かせる御積りですか?」
「む? 駄目か?」
「そういう問題では無く! ベスター殿の技術が流出する事に繋がりませんか?」
大真面目に言い募るカイジン。
根が真面目なのだろう、必死に王に問い詰めている。
対して、王は飄々として聞き流している。前に見せた威厳ある姿は本質ではなく、こっちの姿が本来の彼なのか。
当のベスターは、何が何だか判っていない感じだった。
「流出…か。お前達が出て行った時点で、こちらは流失しておるわ!
本当は、お前達を消そうか、そうも考えたのだぞ?」
一転、ドワーフ王は真面目な顔をしてそう言った。
「王よ、そ、それは…」
「本当の話よ! 結局は止めたがな。俺は無駄な事はしない。
ベスターを連れてきたのも、ここで働かせてやりたいからだ!」
その言葉で、ベスターの目に火が灯った。
「お、王よ!」
「勘違いするなよ、ベスター。お前には期待していた。それは本当の話だ。
俺に仕える事は許さんが、ここで存分に働く事は許可しよう。
それだけの話よ!」
「王よ、それでは、ドワーフの技術を惜しげも無くここで出しても良いと聞こえますぞ?」
カイジンが大慌てしだしたが、
「フン。良いか、聞くのだ。
お前達が、ここにいるならば、ここが技術の最先端であるとも言える。
判るか?
ドワーフ国、国王としてではなくお前達の友として、興味があるのだ。
良いか?
ドワーフ王国は、今日この日を以って、ここと正式に相互不可侵条約を結ぶ!
だが、それは建前。裏で本当に結びたいのは、相互技術提供条約だ。
これは、何があっても表に出す事は出来ん。
どうだ? 二つの条約、結ぶ気はあるか?」
真剣な眼差しで俺を見つめ、そう言った。
相互不可侵条約に相互技術提供協定だと? 願ったり叶ったりじゃないか!
俺達を、一つの集団として正式に認める、そう言っているのだ。
「良いのか、それは俺達を国として認めると、そう言っているのと同義になるぞ?」
俺の問いに、
「無論だ。相互に利益がある話だと思うが?
あと、気になるのだが、この国の名前は何だ?」
え? 国の名前?
俺とカイジンは目を見合い、
「まだ決めてないな…」
「そういえば…」
その事に思い至ったのであった。
ドワーフ王ガゼル・ドワルゴはその日は滞在すると言い出した。
飛翔馬で移動するならば、王国とここを1日程度で来れるらしい。
しかし、夜からの飛行は危険なので、明日帰るそうである。
俺達は、主だった幹部を集め、急遽、国の名前を決める会議を行う事にした。
そうして決まったのが、魔物の町"テンペスト"である。
リムルという名前に決まりかかったので、恥ずかしいから止めさせた。テンペストなら辛うじて我慢出来る。
自分だけの名前じゃない感じだし、響き的にギリギリ大丈夫な感じだ。
その夜、町の名前も決まり、皆大はしゃぎの宴会になった。
この町には結構豊富に食べ物があるので、それなりに質のいい料理が出せる。
ドワーフ王も期待以上の料理に満足していた様子。
それは主に、シュナの料理の腕前が素晴らしいからなんだけどね。
余興と言いながら、ドワーフ王が模擬戦を行う事になった。
城での生活で本気で身体を動かせないと愚痴りながら。案外気さくな人柄のようで、ここでは互いに名前で呼び合う間柄になったのだが…
流石に模擬戦は不味いだろう。そう思ったけど、王は聞かない。
思う所があるようだ。
仕方無いので、相手をする事にした。
人間形態に変身する。
豚頭魔王を喰って俺の体積が若干増えた。
今は子供では無く、少年少女くらいの身長である。150cmないくらいか。少し成長した感じだ。
訓練用の木刀を用意し、お互いに構える。
ハクロウの掛け声に合わせ、試合開始である。
「始め!」
瞬間、王が目前より消えた。俺の持つ全ての感覚に引っかからない。
ヤバイ! そう思った瞬間に。正面から木刀を弾き飛ばされていた。
勝負はついた。一瞬で負けたのだ。
これが…ドワーフ王。英雄の実力の片鱗を見た思いである!
「いいか、リムル。お前、最初俺が空から来た事に気付かなかったな。
魔力感知は確かに優れているのだろう。しかし、裏をかく方法は無数にあるのだ。
お前がとっているであろう、探知の方法を予想し、裏をかく。
戦の基本よ! もっと精進するがいい。能力に頼ってばかりいると、成長せんぞ!」
そうか、これが言いたかったのか…。
俺は納得し、感謝した。
「ありがとうよ、ガゼル。今度会ったら、こんな簡単にはいかねーぞ!」
「フン。言いよるわ、小僧が!」
俺達の勝負が終わると、魔物達の歓声が広場に響き渡った。
興奮と熱気が広場に満ちる。
ベニマルやソウエイ、シオン達も思うところがあったのだろう、真剣な顔になっていた。
ハクロウは頷き、顔を嬉しそうに綻ばせている。
俺達はまだまだだ。それを実感させられた出来事だった。
宴会は夜遅くまで続けられ、皆浮かれ騒いだのだ。
そして翌日、ドワーフ王ガゼル・ドワルゴとの正式な調停を行い、二つの協定は調印されたのである。
これが、歴史に魔物の町"テンペスト"が登場する初めての出来事となったのだ。




