SS -『温泉』- 虎の穴様 二巻用特典
虎の穴様のご厚意で、掲載許可を頂きました。
ありがとうございます!
突然だが、リザードマンの生息地がある湿地帯から西に進むと山岳地帯に出る。
地下大洞窟とは、活火山が生み出した天然の迷路なのだ。それこそ無数に入り組んだ構造となっており、リザードマン達ですらもその全てを把握出来てはいないのだという。
一つの路の奥深くに入り込めば氷洞窟の世界となり、更に別のルートの奥深くにはマグマ溜りによる灼熱の世界が広がっているのだとか。
余りにも危険過ぎて立ち入り出来ないと判断された魔境が隠されているらしい。
だが、今回着目するのは迷路ではない。
活火山の存在である。
火山があるのなら、温泉もあるのではないか――そう考えたのが始まりなのだ。
◇◇◇
「という訳で諸君! 温泉に行こうと思うのだが、どうだろう?」
会議室に俺の声が響く。
だが、俺の計画は皆に上手く伝わらなかったようだ。
「とは言うけどな、温泉ってお湯だろ? 川で水浴びするだけでいいじゃねーか」
「そうそう。ドワーフ王国では、湯屋に温泉が引かれていたけどな。そんなに良いものでもないと思うんだがな」
ドワーフであるカイジンとガルムは興味がないようだ。ドルドとミルドも頷いているので、カイジン達に賛成なのだろう。
温泉が珍しいものでもなかったようだし、その意見もわからなくはない。だが、俺の考えているモノとドワーフ達の思い浮かべたモノはまるで別物なのだ。
「温泉、か。それはどういうものなのです?」
「確か、火山の熱で温められた温水が湧き出て溜まった場所、でしたか?」
ベニマルの問いに、ソウエイが答える。意外に物知りなんだよな、ソウエイって。それはともかく、あまり乗り気ではないコイツ等に、風呂の素晴らしさを説いて聞かせねばならないだろう。
衛生観念を徹底して風呂に入る事で、病気の予防にもなる。何よりも、俺は元日本人として風呂の文化を推し進める予定なのだ。自分が一番楽しみというのも理由だが、それは言わずとも良いだろう。
「その通り! まあ、火山が関係ない温泉もあるんだが、それは置いておく。今ソウエイが言った通り、火山で熱せられた温泉が今回の目的地だ。温泉には地下水が熱せられる過程で様々な成分が溶け込み、非常に身体に良いと言われている。戦いに疲れた身体を癒すには最適だと言えるだろう!」
と力説した事で、ベニマルも興味を持った様子。
「それは良さそうだな、試してみるのも面白そうだ」
「流石はリムル様、詳しいのですね」
どうやら俺の計画に乗り気になってくれたようである。
続いて、ドワーフの親父共の説得だが――
「それにな、想像して欲しい。川で水浴びをする時に、服を着たまま入ったりするか? 水桶で身体を拭うだけなら服を全部脱いだりしないだろうけど、風呂に入るなら服を脱ぐのが当然だ!」
「いや、そりゃあそうだろうけど……」
「別に俺達は水浴びだけでも満足だし、なあ?」
「…………」
えーい、察しの悪い親父共だ。
「お前達はどうでもいいんだよ。想像力をもっと働かせるんだ。例えば――」
「あっ!?」
俺が具体的に説明しようとする前に、カイジンが何かに気付いたようだ。
「……まさか! 旦那、アンタってお人は――」
カイジンに続き、ガルムもようやく俺の言わんとする事に気付いたようである。
「ふっふっふ、気付いたようだね。その通りだよ、君達。そこには桃源郷が待ち構えている、そうは思わないかね?」
俺の言葉にゴクリと唾を飲み込む一同。
さっきまでのやる気のなさそうな態度はどこへやら、皆の瞳に熱意が灯っている。
「それにな、温泉には『混浴』という素晴らしい風習が――」
「旦那、俺は協力するぜ」
「言うまでもない。俺達は仲間だ!」
「うむ。そういう事だな」
「…………!!」
ドワーフ達も惜しみない協力を約束してくれた。
ベニマルは若干引き気味、ソウエイは我関せずという風情だったけど。
こうして、魔物の国に温泉を引く計画が発動したのである。
◇◇◇
何故風呂では駄目なのか?
いや、別に駄目という訳ではないのだ。風呂にしなかった理由は簡単で、コストが掛かり過ぎるからである。
風呂を沸かすには大量に薪が必要となる。今は建設ラッシュの為に廃材を流用出来ているが、いつまでも調達出来ると考えない方が良いだろう。森で木の枝を集めるにしても、食事なんかでも火を用いるので、風呂に回す余裕はなくなるだろうと思ったのだ。
現地での調査を終え、入るのに最適な温度の源泉を発見した。
そこからは俺の出番である。魔鋼でパイプを作り、『影移動』にて源泉と魔物の国を直通させたのだ。
これは影空間内部での作業となったのだが、呼吸の必要ない俺にとっては何の問題もなかった。寧ろ、影空間からパイプが飛び出ている部分を上手く誤魔化すのだけが課題だっただけである。
それについても『大賢者』に丸投げしたので、実際には簡単に片付いたのだった。
ドワーフ達は大理石を削り出し、素晴らしい大浴場を作ってくれた。『混浴』の一言が効いたのか、気合の程が窺える。一目みただけで高級感漂う、豪華な作りとなっていたのだ。
この温泉が後の観光資源となり世界中に広まっていく事になるのだが、それはまた別の話である。
え、『混浴』がどうなったのか、だって?
世の中に、そんな美味い話がある訳がない。
「あら、素晴らしい出来栄えですわね。流石はドワーフの職人です。私達女性用だけでなく、男性用も用意しないといけませんね」
と、シュナに笑顔で告げられて、反論も出来ずに撃沈したようだ。
ベニマルは温泉に入れればそれで良いとばかりに、ドワーフ達を慰めていた。これで腐らずに男湯も頑張って作ってくれる事だろう。全ては計算通りである。
ちなみに、俺はスライムなので女湯でも入り放題なのだが、それは彼等には関係のない話なのだ。
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是非ともチェックしてみて下さい!




