番外編 -未知への訪問- 16 理不尽の申し子
ザザは、もうこれ以上驚く事はないだろう、と何度も思っている。
この物資が貴重な世界で、意のままに水を出せるラミリス。
児戯であるかのように簡単に、修復困難な各種装置を修理して見せたベレッタ。
どこからともなく食べ物を取り出すヴェルドラ。
これらの非常識は、彼等にとっては序の口だった。
最凶と恐れられていたカルマン率いる機甲化分隊を、ベレッタが一蹴してのけた時も。
説明のつかない不思議な現象を、ラミリスがごく自然に行使していた時も。
そして……。
絶望を体現した超獣を、ヴェルドラが殴って撃退した時も。
ザザはもう驚くまい、と誓ったのだ。
戦車を改造してバスを用意された時も、言いたい言葉をグッと飲み込み我慢したのだ。
ちょっと漏れ出てしまったかも知れないが、ザザからすれば我慢したのだ。
このヴェルドラの一行はオカシイのだと、自分達の常識では測りきれぬ何者かなのだと、ザザはそう理解したのだから。
だからこそ、一々驚いていても仕方ない、と……。
だが、だからと言って――
「これはないでしょう!? なんで、一体どうやって? いや、本当に何がどうなってやがるんだーーーーーっ!?」
目の前で、現在進行形で体験している現実を前に、ザザは絶叫せずにはいられなかった。
何しろ今現在、ザザ達は灼熱の業火に包まれて、その命を燃やし尽くそうとしている――ハズなのだから。
全く熱くないし苦しくもない――そんな非現実的な状況は、ザザにとっては夢としか思えないのだ。
(そうだ、俺は死んだんだ。これは夢、そうだ、夢なんだよ! だから、熱くなくても当然なんだな。俺は死んで、ここで未練がましく死後の世界を見ているって訳か――)
と、無理矢理自分を納得させるザザ。
しかしそんなザザを、ヴェルドラが笑い飛ばす。
「クアーーーッハッハッハ! ザザよ、お前は頭が悪いな。現実を見て、素直に受け入れるのだ」
「そ、その通りさ! 師匠がいるのに、この程度の事でどうにかなる訳ないじゃん!」
悟ったように言うヴェルドラやラミリスに、ザザは少しイラッとした。
この程度と簡単に言うが、これはどう考えても緊急事態。
というか、普通ならばジ・エンド――手遅れなのだ。
「これをどうやったら受け入れられるんですか!? これは一体、いや、どうなっているんですか?」
絶叫するように問うザザ。
それに頷いたのはラミリスだ。
「師匠、それはアタシも聞きたい。ビックリした。ほんのチョッピリだけど、アタシもビックリしたんだからね! ちょっと今何がどうなっているのか、この状況は何なのか、説明して欲しいワケ!」
どうあっても守ってもらえると安心はしていたようだが、驚いたのはラミリスも一緒だったらしい。ヴェルドラの周囲を飛び回りながら、ラミリスが喧しく言い立てる。
それに対してヴェルドラは、仕方ないとばかりに大きく頷いた。
「しょうがないヤツ等よ。状況など、見たままである。我々は予定通り、陽動を行っておるのだよ。敵方の罠に敢えて嵌り、見事に炎上中という訳だ。ちゃんと敵方の視線を集めておるので、作戦は上手く行っておるぞ!」
自信満々にそう言い放つヴェルドラ。
それを聞いたザザとラミリスは、唖然として顔を見合わせる。
そして、そんなザザ達を、レジスタンスの同士達が固唾を飲んで見守っていた。彼等としても今の状況に戸惑っており、どう反応していいのか迷っていたのだ。
ザザには責任がある。
ここに集ったのは、ザザが率いる陽動部隊だけではない。
レジスタンスの各支部から、選りすぐられた歴戦の戦士達も参戦していた。
あの後、夜を徹したシャルマの説得により、各支部でも動きがあった。今動かねば未来はないと、最終決戦に臨む覚悟で、援軍を出してくれたのだ。
そうして集った者達は、ザザの指揮下にて一つに纏まっていた。
だからザザは、彼等の命を預かっていると言えるのだ。
皆の視線を浴びたザザは、意を決して口を開いた。
「ええと、つまり……我々は罠に嵌った、と。そしてそれは予定通りという事ですね? ところで、今現在のここら一帯の温度ですが……三千万度を超えているっぽいのですが、我々はなんで生きているんでしょうか?」
恐る恐るという感じで、ヴェルドラに確認するザザ。
その口調は丁寧だが、自分の言葉を認めたくないのか、時たま引き攣っている。
ザザの脳内表示には、荒れ狂う熱線が観測されていた。
その膨大なエネルギー量から逆計算すれば、ギガトン級の核爆弾数基分に相当すると推測出来る。
自身の演算能力の向上に驚くよりも、その導き出された答えに驚愕するザザ。
信じるのは難しいが、これは――
六ヶ所を基点として、特異連環障壁が発生している。
これは、生じた熱をエネルギー源としており、熱線が荒れ狂う限り消える事なく、球状に張られ続けているようだ。
その隔離された内部空間には、膨大な熱量が封じ込められる事になる。
あらゆる物質を塵に変える、想像を絶する熱量が。
六ヶ所で生じた核爆発エネルギーは、大気へと拡散する事なく完全に密閉され――そして、中央へ向けて押し寄せる。
逃げ場なし。
囚われた者達は、全てを焼き尽くす熱線に晒され、全てを破壊する衝撃と圧力が加えられている――――ハズなのだ。
――六連暴爆帝――
ヴェルドラの言う罠とは、帝国最強の超兵器なのだとザザは悟っていた。
だからこそ……。
――なんで俺達、生きているの?
というのが、ザザの偽らざる心情なのだ。
そんな超兵器の中で、目も見えるし普通に会話も出来る。
何故? と思うのが馬鹿馬鹿しい程に、現実離れした状況だった。
どこから突っ込んでいいのかわからない、そんな気分にザザは陥っていたのだ。
それなのに、ヴェルドラから「お前は頭が悪いな」と言われてしまった。
これはザザも心外である。
最早、頭が良い悪いの問題ではない、と思うのだ。
「馬鹿め、少しは頭を使え。最初に言ったように、罠があるのはわかっておった。ならば、対策を立てるのは当然であろう?」
「いやいや、そこからですよ! どの時点で、罠があると思われたのですか?」
事もなく答えるヴェルドラに、ザザは食い下がった。
確かにザザも罠を警戒していたが、絶対にある、とまでは確信していなかったのだ。
だから質問したのだが……。
「何だ? あのジギルという女が嘘を言っていたであろうが。当然気付いているものと思っていたが、まさか気付いていなかったのか?」
と何食わぬ感じに、ヴェルドラから逆に問い返されてしまった。
ザザは思わずラミリスに助けを求める。
「ラミリス様は気付いておられましたか?」
「え、アタシ? も、モチロン、気付いていたよ? 当然よね。あの女は最初から怪しかったさ!」
目をグルグルさせて、ラミリスは気付いていたと答えた。
それは嘘だとザザは直感したが、言わないのが大人の優しさである。
となると、ラミリスは当てにならない。
この説明するのが面倒だと思っていそうなヴェルドラに、なんとしても説明してもらう他なさそうだ。
「ヴェルドラ様、出来れば俺達にも、今の状況とジギル様が疑わしい理由を教えて頂きたいのですが……」
ザザは直球で質問する。
気分屋のヴェルドラは答えてくれないかも知れないが、どちらにせよ、他に出来る事はないのだ。
現在は囚われの身であり、周囲の熱量が冷めやらぬ限り、特異連環障壁は解除されそうもないのだから。
ところが意外にもヴェルドラは、思ったよりも素直にザザの求めに応じた。
「ふむ、まあ良かろう。我の『矛盾世界』がこのエネルギー嵐を支配するには、もう少し時間がかかりそうだからな。その間の暇つぶしに、我が説明してやろう」
そう言って、ヴェルドラは偉そうに説明を開始した。
意味不明な言葉もあったが、それは今更だ。ザザは口を挟まずに、先ずはヴェルドラの話を聞く事にした。
◆◆◆
ヴェルドラは気分屋だが、実は今、得意の絶頂にいた。
だからこそ、気持ちよくザザの問いに答える。
ジギルがやって来たタイミングが良すぎた、それが疑うキッカケだった、と。
ヴェルドラ達が到着した直後にやって来た、これは疑えと言っているようなもの。
そしてその説明によると、ミッシェルが囚われたのだという。
ヴェルドラは、その点に疑問を持ったのだ、と説明した。
しかし、その実……。
「都市への影響を考慮して本気を出せなかったと言っていたが、では何故、逃げなかったのだ? ジギルに逃亡出来るなら、ミッシェルならば簡単に逃げ延びる事が出来たであろうよ」
「いや、しかし……。クリストフ大将は最強の戦士、ミッシェル様が足止めしたからこそ、ジギル様も逃亡出来たのだと……」
ザザが反論するが、ヴェルドラはそれを否定する。
「いいか、ミッシェルの力は巨大だ。我の見立てでは、ベレッタ以上なのだぞ。ザザよ、貴様やカルマンに与えた機動躯体では、その力を再現出来なかったのだ。それは、我やラミリスにも解析不能だった動力炉に秘密があると考える。が、それはまあいい。問題は、そんな力を持つ者が戦闘状態に入ったのなら、我が気付かぬハズがない、という点なのだ。断言するが、ここ数日の間では、そんな巨大なエネルギー反応は観測されなかった。つまり、戦闘は起きていない、という事だな」
と、得意気に言い放ったのだ。
これは事実である。
ヴェルドラはこの世界の法則を読み解こうとしていたので、大きなエネルギー反応があれば即座に気付いただろう。それが無かったという事は、ミッシェルが戦闘を行っていないという証明になる。
たまたまそれに気付いたヴェルドラは、その事を利用してザザ達からの尊敬を勝ち取ろうと企んでいた。
得意の絶頂にもなろうというもの。
今こそが最大のチャンスなのだ。
「そうよね、言われてみればその通りね。最高傑作の作品に仕上がったけど、出力だけは思った程には出なかったわね。多分、流用したエンジン――核融合炉――の限界なのかもね」
「ラミリスよ、その話は後だ。今問題なのは、ジギルがミッシェルが囚われた、と言った目的なのだよ」
「目的? それはどういう……?」
ヴェルドラもエンジンについては興味があるが、それは後回し。
今は自分の偉大さをザザ達に認めさせるべく、ヴェルドラは更に言葉を重ねる。
ザザの質問に答えるという風を装い、適当にそれらしい理由を述べたのだ。
「ジギルの言葉がどこまで本当かわからぬが、ミッシェルを生かしておく理由はなんだ?」
「そ、それはミッシェル様は総督という立場であり、都市の実質的支配者、つまりは王です。殺してしまっては、南部都市への影響も出かねません。それに、あの方は皇女です。それこそ、いくらクリストフ大将が皇帝からの信頼厚い英雄と言えども、独断でミッシェル様を殺害するなど不可能です」
レジスタンスと繋がっていたという明確な証拠を用意出来たとしても、処刑する理由としては弱い――とザザは言う。
なるほどな、とヴェルドラは思いつつも、さも当然という表情を崩さずに頷いて見せた。
「であろうが! そうした状況から考えても、ミッシェルとクリストフとやらが戦闘になったという話は疑わしいであろうが?」
「だけどさ、もしもミッシェルちゃんを邪魔だと考える者がいたら、殺そうとするんじゃないの? 生かして捕らえるよりもよっぽど簡単じゃん」
ここでラミリスが、普段は能天気なのに鋭い指摘を行った。
ヴェルドラ、内心で大慌て。
(何を言い出すのだラミリスめ! せっかく我が格好良く纏めたというのに、それでは振り出しではないか!?)
どうしようかと動揺するヴェルドラを救ったのは、ザザだ。
「いや、ラミリス様。それこそ、ヴェルドラさんの言う通りですよ」
ザザが思案するように、ゆっくりと自分の考えを述べるザザ。
(ほう? ザザよ、頑張れ!)
それをヴェルドラは、心の中で応援する。
そんなヴェルドラに気付く事なく、ザザは言う。
「確かに殺害を企てる方が、ミッシェル様を邪魔に思う者にとっては簡単でしょう。しかし、今述べた理由の通り、あの方を害するには理由が弱いのです。ですが、逆に考えれば――」
それこそが、ジギルの言葉が嘘であるという証拠だ、とザザは言った。
証拠を突きつけられて捕われて、中央で軍事裁判が行われるというのならばともかく、いきなりクリストフが粛清に動いたといのは考えられない、と。
「私も焦って信じてしまいましたが、考えてみればミッシェル様のように慎重な方が、帝国に表立って逆らうような悪手を取られるはずがない。となると、罠に嵌められたと考えるのが自然……」
ザザの言葉に、各支部からの援軍のリーダー達も頷いた。
"爆閃姫"ミッシェルの名はレジスタンスにも広まっており、彼女の功績と立場を考慮すれば、ザザの推測が正しいと誰もが思ったのだ。
「わかった! ミッシェルちゃんは、自分の信用している副官が裏切ってるなんて思ってなかったんだね! アタシも、ベレッタがアタシを裏切るなんて考えられないし!」
そしてラミリスも、当てずっぽうで真実を言い当てる。
頷くヴェルドラ。
「わかったようだな、我は最初からお見通しよ。故に、貴様等を守るべく、常に気を張っておったのだ!」
クアーーーッハッハッハと高笑いし、そう言ったのだった。
そして、見事に自分に尊敬の視線が集まった事に気を良くして満足する。
言うまでもないが、全て偶然である。
ジギルとの会話にも、特に疑いは持たなかった。
六連暴爆帝に対応出来たのも、全員が合流した時点で念の為に『結界』を張っていただけの事。
罠に備えてではない。
何が起きても皆が無事に生存する――という条件を付与した『矛盾世界』を維持するなど、ヴェルドラからすれば呼吸をする程度の労力に過ぎないのだ。
ヴェルドラの究極能力『混沌之王』は、それ程までに効率の良い、壊れた性能を誇るのだから。
この世界の法則を読み取った今、ヴェルドラは完全なまでの理不尽な存在になっていたのだ。
こうして、皆の尊敬を勝ち取る事に成功したヴェルドラ。
「――お前達も疑っているものと思っていたのだがな。というよりザザよ、お前はもっとその身体を使いこなすように努力せよ」
などと格好をつけ、話を締めくくったのだった。
◆◆◆
ヴェルドラへの尊敬の念を深めたザザ。
完全に騙されているが、疑いもしない。
そして、それはレジスタンス一同も同様である。
だが彼等も馬鹿ではなく、肝心な点を誤魔化されていた事を思い出す。
「ヴェルドラさんが罠を見抜いて、俺達を助けてくれたのは理解しました。ところで、その罠なんですがね、これってどういう仕組みなんですか? 俺には全く理解出来ないが、これって俺達、核爆発に巻き込まれてます……よね?」
そう、それが最大の謎なのだ。
罠を見抜いた、それはいい。
確かに凄い事なのだが、それならば回避すれば良かったのでは? と、ザザは思ったのだ。
どれだけの自信、いや、技術を以ってすれば、核爆発を無効化出来るというのか。
(いやいや、あり得ねえって。完全に爆発に飲まれてるのに、衝撃どころか熱も感じない。これって、技術云々の話じゃないぞ……)
脳内表示、そして経験。
こんな現象は説明がつかない。
ザザ達の常識では、今の数世代先まで科学が進歩したとしても、こんな現象を可能にするとは思えなかった。
レジスタンスの仲間とも視線でやり取りして、ザザが代表して質問した。
「ふむ、まだそんな事を言っておるのか? 理解せよと言っても、貴様達のレベルでは難しいかも知れぬな。簡単に言うと、生じた熱、衝撃、毒素などが貴様達を避けるように、指向性を持たせて誘導したのだよ」
そんな事かと気軽に答えるヴェルドラに、ザザ達は驚きを隠せない。
「馬鹿な! そんな技術、聞いた事もない!!」
「そんな、物理法則を支配したとでも言うんですか!?」
「それではまるで、神話にある神の所業ではないですか!」
騒がしく言い募るレジスタンス達。
誰もが信じられないらしく、騒ぎは収まる気配がない。
「ふむ、やはり信じぬであろう? まあ仕方ない。人間とは、自分に理解出来るものしか信じられぬ生き物なのだからな。それはこの世界でも共通のようだ」
ヴェルドラはそう言って朗らかに笑い、それ以上の説明を諦めた。
別に誤魔化そうとして言った訳ではないので、仕方ないのだ。全て真実を話しているのだが、凄すぎて理解されないのである。
しかしザザだけは、『では教えよう。我は異世界からの来訪者、超自然的な力の結晶とでもいおうか……まあ簡単に言えば、暴風を司る竜、だな』というヴェルドラの言葉が思い出されていた。
(もしかして……いや、まさかな……)
もしかしてという疑問が心に浮かんだザザだったが、それをゆっくりと考える時間はなかった。
ヴェルドラが不敵に笑いながら、とんでもない事を言い出したのだ。
「さて、把握したぞ。お出迎えも来ているようだし、そろそろ陽動に取り掛かろうではないか。カルマンも頑張っておるようだしな」
レジスタンス一同には意味不明でも、ザザには理解出来た。
ザザのセンサーにも、カルマンが戦闘状態に入ったと表示されていたからだ。
そして、その機能を最初から活用出来ていれば、ジギルの嘘が見抜けたであろう事も証明されてしまった。
(なるほど、これは凄い……)
感心したザザだったが、まだ問題が残っていた。
今現在、自分達は灼熱の地獄にいる。ヴェルドラの力で無事だが、特異連環障壁に囚われたままなのだ。
陽動作戦に移ろうにも、ここから出られない以上、何も出来ない。
「ヴェルドラさん、この内部の熱エネルギーがある程度消費されない限り、特異連環障壁は解除されませんよ?」
特異連環障壁は、最初の一瞬だけ外部からの力で発動している。その後は内部で発生した熱をエネルギーに変換して、強固に発動した状態を維持しているのだ。
そして現在も、内部と外部の膨大な圧力差をも封じ込めて、完璧な状態を保っていた。
この強力無比な最強の障壁で隔てられている以上、レジスタンス軍が無力化されたままなのだ。
しかし、ヴェルドラは動じない。
「フッ、くだらん。我を見縊るなよ、ザザ。こんな障壁など、砕けば良いではないか!」
と、とんでもない発言をするヴェルドラ。
「いやいやいや、それは流石に――」
無理でしょう――と続けようとしたザザだったが、その言葉は口に出来なかった。
何故ならば、ヴェルドラが目の前で、特異連環障壁を砕いて見せたからだ。
「ドラゴーーーーン、パンチ!!」
それも拳一発で。
アホな、とザザは思った。
もう驚くまい、そう思うザザを嘲笑うように、何度も何度も非現実的な事をするヴェルドラ。
もう疲れたよ、とザザは嘆く。
確かにヴェルドラの言う通り、人間とは自分の信じたいものを信じる生き物なのだ。
ザザはそれを痛感した。
だからこそ、もう悩まずにヴェルドラを信じ抜こうと決めた。
「流石ですね。じゃあ俺も、貴方から授かったこの力、存分に試してみるとしますよ!」
ニカッっと笑い、ザザは言う、
その言葉に迷いはなく、全ての悩みは吹っ切れて。
ザザはこの荒廃した世界で、希望を見出したのだ。
そしてそれは、ザザだけではない。
「クアーーーッハッハッハ! ザザよ、貴様もようやくマシな顔付きになったな。良し、では行くぞ! 我等の力を見せ付けてくれよう!!」
ヴェルドラはそう叫び、意気揚々と飛び出して行った。
その声は楽しげで、レジスタンス達の暗く閉ざされていた心に響く。
「ザザ殿、ワシは久々に希望を見たぞ」
「俺もだ。やってやろうぜ。ミッシェルが敵か味方か、そんな事はどうだっていい。精々暴れて、帝国に一泡吹かせてやるぜ!」
「おう、そうだな。敵だっていうなら、一緒に倒すまでだしな!」
そう。
長く苦しい時を耐えている内に諦念に支配されていたレジスタンス達が、ザザ同様にこの一時で、ヴェルドラを信じたのだ。
「ああ、敵は帝国じゃない。諦めちまってた、俺達自身の心だ! やろう。精々あの人の足を引っ張らないように、ド派手に暴れてやろうじゃないか!」
ザザは拳を突き上げて、そう叫んだ。
その言葉に、皆も笑いながら頷く。
敵は強大な帝国だ。
しかしザザ達には、常識などものともしない理不尽の申し子が付いている。
負けるはずがない――ザザ達はそう確信し、戦場へと踊り出るのだった。
活動報告にコミックスに関するお知らせ記事をUPしましたので、宜しければ確認してみて下さい!
感想への返信ですが、中々時間が取れなくて滞っております。
全て読ませて頂き、励まされております。
全てに返信出来そうもありませんが、ご容赦下さい。




