番外編 -未知への訪問- 06 襲撃
ヴェルドラの言葉に、各人が何かを感じた。
そして、その気持ちを行動に移す前に、ソレは起きた。
襲撃である。
レジスタンスが本拠地にしている地下シェルターの天井が、爆音とともに崩壊したのだ。
「何ッ!?」
と叫び、ザザは慌てて天井を見上げた。
そこは黒い煙を立ち上らせて、隙間から灰色の空が見えていた。
唖然とするザザ。
そんなザザを放置し、シャルマが真っ先に反応を示した。
「不味いわ! このままでは、外部から有害物質が入り込んでしまいます!!」
シャルマの叫びに、素早くリンドウが動き出す。
作業している大人達や周囲の子供達を集め、緊急時の避難場所となっている地下階層への避難誘導を始めたのだ。
何度も避難訓練を行っている成果か、それは見事と言っていい程に手際よく行われる。
泣き叫ぶのは、まだ年端も行かぬ小さな子供のみ。
大した混乱もなく、ヴェルドラ達のいる階層から人の気配が消える。
「馬鹿な……ここは核爆発にも耐えた、地下シェルターなんだぞ――!? それを、地上からここまで貫通する威力となると、まさか――特殊小型核貫通弾かっ!?」
ザザは呆然と立ち竦む。
自身の想像が正しいとするならば、それは帝国が本腰を入れたと見て間違いないと判断したからだ。
先手を打たれた格好となり、このままではこの隠れ家に住む者達が、皆殺しにされてしまうと恐れたのだ。
しかし、とザザは疑問に思う。
「――いや、待てよ? あれが特殊小型核貫通弾の仕業だったら、今頃はこの階層も灼熱の海になっていたはず……」
それなのに地上から天井までを貫通した暴威は、何故かそこで止まっていた。
ザザはそれを不思議に思い、思わず疑問を口にしてしまったのだった。
そんなザザを見て、ヴェルドラはニヤリと笑う。
まさに今、ヴェルドラの力で危機は防がれていた。
せっかく人気者になった今、無粋な者に邪魔されてはたまらない。そう考えたヴェルドラが、この階層部分を守るように『結界』を広げていたのだ。
「クックック、ザザよ。それはな――」
今こそこの勘違い男のザザに、自分の素晴らしさを知らしめる時――そう思ったヴェルドラが自慢しようとした、まさにその時。
まだ黒煙を吹き上げる天井の開口部から、五体の機動兵器が侵入してきたのである。
「師匠、何か来たよ!?」
「チィ、どこまでも我の邪魔をする……」
悔しがるヴェルドラ。
たまに良い事をしても気付いてもらえない、ヴェルドラの平常運転であった。
「どうしますかヴェルドラ様?」
「ん? ベレッタよ、打ち合わせ通りでよかろう。我が、ラミリスとここの者共を守っておく故に、お前が迎撃するといい」
「了解いたしました」
そう軽くやりとりするなり、迫り来る五体に対しベレッタが前に出た。
それを見て、ザザが慌てて制止する。
「ちょ、待て待て待て待てって! アイツ等はヤバイ。あの五体の特徴的なシルエットは多分――カルマンの野郎が率いる機甲化分隊だ。階級は軍曹か少尉だったはずだが、実戦経験豊富な機械化兵だぞ。幾つもの傭兵団を壊滅させてるって噂のイカレタ野郎だ。ベレッタさんだけでは分が悪いぜ!?」
ザザはカルマンを知っていた。
その残虐なまでの攻撃性を。
作戦行動を共にした事もある名うての傭兵団が、たった数体の機動兵器に壊滅させられているのを。
わざと見逃され生き残った者達の口から、恐怖とともにその名を知らされていたのだ。
ここ南方面において最悪と呼ばれる男、それが今目の前にいる。
ザザが慌てるのも無理のない話であった。
「来たみたい。ベレッタ、気をつけてね!」
「殺すなよ? 流石に殺してしまうと、マジでリムルを怒らせてしまうかも知れんからな」
「承知しております」
ザザの言葉を聞いても気負う事なく、三人は気軽に会話する。
そんな三人に、ザザは動揺を隠せずに言い募った。
「殺すなって……おいおい、本気か? そういう話じゃないでしょうが!? 確かにベレッタさんの強さは認めるが、あの機動兵器は殺人機犬のような対人兵器じゃなくて、本物の対軍兵器なんだぞ? それが五体もいるんじゃあ、俺達に勝ち目なんざない。時間を稼いでさっさと逃げださなきゃ、本当に全滅――」
「ザザよ、落ち着け。我もいるのだ、負けるはずがなかろう?」
「アンタがいたからなんだってんだ!? お好み焼きとやらを焼いたところで、アイツ等は見逃しちゃくれねーぞ!!」
ヴェルドラがせっかくザザを落ち着かせようとしたのだが、ザザには通じなかった。
それも仕方ない。
何しろザザの中では、ヴェルドラが一番の役立たずという認識なのだから。
「おーいっ!? 今のはちょっと、我、傷ついた……」
自分の扱いがかなり軽い事にショックを受けるヴェルドラ。
まあまあ、とラミリスに宥められるのだった。
――そして。
そんなヴェルドラ達のお馬鹿な会話を他所に、ベレッタとカルマンが対峙する。
◇◇◇
ベレッタは、迫り来る五体の機動兵器――カルマン少尉率いる強化外装群――を前に、気負う事なく立っていた。
五体は緩やかに降下して、地面に降り立った。
その瞬間に階層に震動が走った事から、かなりの重量であると推測された。
高さは三メートル強。
分厚い装甲に守られた、重騎士の如き人型をしている。
「巨人、か?」
小さく呟き、一歩前に進むベレッタ。
そんなベレッタに、先頭に立つ機体から声がかけられた。
「おっと、いきなりビンゴだぜ。貴様が殺人機犬を倒したっていう、レジスタンスの新兵器ってヤツか? 俺の名はカルマン、階級は少尉だ。この分隊を任されている」
カルマン少尉だった。
凝縮された感情抑制剤を葉巻にして口に咥え、深く吸い込みながら名乗りを上げた。
「新兵器とやらの意味はわからぬが、犬三匹を倒した事を言っているのなら、ワレであろうよ」
「へえ、そうかい。やっぱビンゴだな。こりゃあ、ついてるね。それで、貴様の名は?」
「――ベレッタ」
「ほほう、聞かぬ名だな。有名なテロリストじゃないって事は、新人かい? まあ、それはいい。一つ疑問に答えて欲しいのだがね――」
「――なんだ?」
「いやなに、ちょっと気になってな。俺達は、この地下核シェルターを破壊するつもりで特殊小型核貫通弾を使ったんだが……なんでここは無事なんだい? どういう手品を使ったのか、興味を持ってね」
「ふむ。その答えは簡単だ。あそこにおられるヴェルドラ様が、この地を守護して下さったまでの事……」
隠す事でもないので、ベレッタは素直に答えた。
しかし、その答えをカルマンは鼻で笑う。
熱量測定により、ヴェルドラが大した事はないとデータの数値が示していた。
なので、ベレッタの答えをまるで信じなかったのである。
「なるほど、答えたくないってか。まあいいさ。ところで……」
葉巻から煙が立ち上る。
その揺らめきにベレッタが視線を向けた瞬間、カルマンが動いた。
瞬速。
超科学の結晶である強化外装は、その鈍重な見かけとは裏腹に、静止状態から1,000m/sまでの加速が僅か十秒で事足りる。
しかしその行動は、攻撃が目的ではなかった。
カルマンからすれば気軽に歩いたつもりであり、ベレッタの反応を窺う為の挨拶のようなものである。
カルマンの手が、ベレッタの肩に置かれた。
瞬間的な動きで生じた衝撃波がベレッタを襲うが、ベレッタは何事もなかったように立っている。
微風程度にしか感じていないのだ。
「ほう? この程度じゃ動じないってか。流石だねえ、それでこそ壊し甲斐があるってもんだ。だがその前に、グラサム大佐からの命令だ、一応聞いといてやる。俺達に降り、貴様の性能の秘密を教えろ。そうすれば、都市での生活を面倒見てやってもいいとの事だ。十秒やるから、よく考えて返答しな!」
カルマンは葉巻の煙をベレッタに吹きかけながらそう言った。
本音では戦闘を望んでいたが、命令には従わねばならない。そう考えての、不本意ながらの問いかけである。
「カルマンと言ったか、ワレに命令するな」
仮面で表情は見えないものの、ベレッタの声には不機嫌さが滲み出ていた。
そんなベレッタの反応に、内心で喜びを噛みしめるカルマン。
肩に置いた手に力を込めつつ、言う。
「ま、クソ共に味方するっていうのなら、俺にとっちゃお前は、敵ってこったな」
そのまま獰猛な笑みを浮かべ、ベレッタの肩を圧壊しようとしたカルマンだったが……。
ベレッタは軽く、カルマンの手を払いのけた。
超加重をかけた強化外装の手を、片手で。
大きくバランスを崩され、そのまま仲間の下まで後ずさるカルマン。
そのあり得ない現実に怒りと屈辱で肩をふるわせ、そしてそのまま大きな声で哄笑を上げる。
「ククク、クッハッハッハッハッハ!! いいねえ、面白いじゃないの。久々に戦い甲斐のありそうな敵に出会えた。だがな――」
ここでカルマンは言葉を区切り、大きく葉巻を吸う。
すると、激しい怒りがたちどころに霧散し、カルマンは冷静さを取り戻した。
そして続ける。
「戦う前に現実を教えてやる。貴様も十万キロワット以上の高出力の動力炉を内蔵しているようだが、それが自慢なんだろう? 確かに都市外部の研究施設で製作されたにしては大したものだが、残念だったな。俺達の強化外装に内蔵している核融合炉は、最大出力八十七万キロワットを記録する。どうだ、八倍以上の出力差に絶望したか? それが五名もいるんだぜ? 貴様に勝ち目なぞ、最初からなかったのさ。これが最後のチャンスだ、大人しく軍門に降れ!」
と、荒い気性を抑え込むように、本部からの命令に従って勧告した。カルマンは問題児だが、命令を聞かないような無法者ではないのだ。
たが、一度戦闘になると、制止が利かなくなる。
それはレジスタンス達への激しい憎悪に由来するものであり、カルマン本来の性格とは無縁のもの。
だからこそ、自分の意思では止めようがないとも言える。
「軍門に降る? ワレよりも弱き者に従うつもりはないし、何よりも、今のワレには主がいる。お前の物言いは不快だぞ?」
「ハンッ! ならば、覚悟しろ。現実を知って後悔しやがれ!!」
「フッ、殺しはしないから安心するがいい」
葉巻は丁度、最後の煙と共に吸い尽された。
そして、それが合図となる。
「笑止! 貴様の性能、この俺が見極めてやる。簡単に壊れてくれるなよ?」
不敵に笑い、カルマンは叫んだ。
百万馬力を超えるカルマン達からすれば、目の前の敵を倒すなど訳はないと、そう信じて疑わない。
それなのに。
「ふむ、思った以上に手応えがありそうだ。もしかしたら、本気を出さねばならぬかも知れないな」
と、ベレッタが言ったのである。
この言葉にカルマンの感情が爆発した。
感情抑制剤の効果が切れたのだ。
カルマンの理性は吹き飛び、その暴威を解き放つ。
一心同体となっている強化外装は、カルマンの意思に従って唸りを上げた。
常に電磁力場にて封印されている高熱と高圧が、熱核融合エンジンに火を灯す。
その結果として生み出したプラズマ気流が、激しい血潮の如く全身を駆け巡った。
それは電磁流体発電により直接電力へと変換されて、カルマンに凄まじいまでの力を与えるのだ。
荒れ狂う力。
人でありながら、太陽の化身となるカルマン。
機械化兵としての自分を超越し、一個の戦術級兵器へと変身する。
同時に、カルマンの部下達も準備を終えていた。
カルマン同様に太陽の化身となり、絶大な戦闘能力を解放して。
分隊でありながら、一世代前の師団級戦力とも互角以上に渡り合える大戦力。
必勝。
カルマン達にとって、それ以外の結末は予想出来ないのだ。
そして、今のカルマンは荒れ狂う一個の戦闘機械であり――
「潰す。貴様は俺の手で潰してやるぞ、ベレッタァーーーーッ!!」
――作戦が完了するまで、彼は止まらない。
こうして、戦闘が始まったのである。
◇◇◇
激しい衝撃波を撒き散らし、大重量を持つカルマンがベレッタへ突進した。
今回は完全なる戦闘モードで、ベレッタを叩き潰す為の突進である。
核融合炉が生み出した絶大なる熱量を圧縮させて、カルマンの拳が唸った。
熱圧縮剛拳――強化外装の分厚い装甲がカルマンの拳を包み、一撃必殺の破壊力を荷重する。
圧倒的なまでの、力。
百万馬力を超えるその力によって、対象は粉砕されるしかない。
だがしかし――
ベレッタはその攻撃を見切っていた。
直線的な力の流れを受け止めるではなく受け流し、相手の体を崩して投げ飛ばしたのだ。
いわゆる、一本背負いである。
柔よく剛を制すというが、そんなものは幻想だ。
熱圧縮剛拳の力の向きを、単純なる運動力学で操る事など出来はしない。
生半可な力など、飲み込まれるだけなのだから。
それなのに、ベレッタがカルマンを投げ得た理由はただ一つ――ベレッタの力がカルマンに届き得るものだった、というだけの事。
「なんだと!?」
「カルマン隊長を投げた!?」
驚愕するのはカルマンの部下達だ。
音速を超える速度で放たれた必殺の一撃が、まさか想像もしない方法で防がれるなどと、思いもしなかったのだから当然だ。
驚いたのはカルマンも同じ。
だがカルマンは、素早く起き上がるなり反省した。
決して油断していたとは認めたくないものの、自身の力に頼りきっていたと自分を戒めたのだ。
「慌てるな! こいつは、格闘術を操るぞ。超音速に反応するなんざ、達人級とみて間違いねえ! 散開して、一対一での近接戦闘は避けろ!!」
慌てず指示するカルマン。
部下達はそれに従い、一瞬にして包囲陣形を整える。
そしてベレッタは。
「……やれやれ。思った以上に面倒な。魔素がないせいで、『万能感知』の精度が悪い。光の反射、風の動き、熱、音、そして直感。思った以上に厳しい戦いになりそうだ」
今の接触から、そう判断していた。
カルマンの一撃を受け流したその両腕と、掠っただけの胸部が、熱と衝撃で変形してしまったのだ。
ベレッタの『物理攻撃無効』や『自然影響無効』を以ってしても、少量のダメージを受けたという事である。
情報を読み解くのが遅れれば、今の一撃は致命となっていただろう。
魔素がない影響は、ここにも現れていたのだ。
ベレッタは『鉱物操作』により、自分の身体を流体化させた。
これで今のダメージは修復され、同じ攻撃を受けてもダメージは入らない。
そう判断しつつも、ベレッタは油断する事なくカルマン達を観察する。
「フンッ、『万能感知』だと? それが貴様のセンサーか。なかなか高性能のようだが、果たしてこれは回避出来るかな?」
カルマンは余裕の笑みを浮かべ、部下達に指示を出す。
包囲陣形から、素早く構えを取る四体の強化外装。
カルマンの用いた次なる戦術は、四体連携による波状攻撃だった。
強化外装の地上での最大速度は、音速の三倍である。
それは殺人機犬と同じであるが、その内情は大きく違う。
静止状態からの加速力でも強化外装が大きく秀でる性能だが、それだけではなかった。
殺人機犬には、細やかな軌道変更など出来ない。ジェット戦闘機などが、その構造上の問題から横殴りの衝撃に弱いのと同様の理屈だ。
急激な方向転換は、機体及びパイロットに凄まじいまでのG――遠心力による負担――を強いる。殺人機犬はコンピューター制御であるが、横から加えられるGに耐えられる構造になっていない点では同じなのである。
一方の強化外装は、超高速状態での変幻自在な動きを可能にしていた。
音速の三倍での急速機動など、中の人間にも当然影響がある。
だが、機械化兵であるカルマン達ならば問題はない。
補助の演算装置の助けも借りて、その速度を存分に発揮し、見事な連携を実現して見せたのだった。
「チッ――」
ベレッタは舌打ちしつつ、敵の連続攻撃に対処する。
両手だけでは足りない。
そこでベレッタは、究極贈与『機人形之王』により周囲の物質を取り込み、腕よりも太い触手を何本も生み出した。
その一本一本がベレッタの意思を反映し、自在に動く。
一本一本がセンサーにもなっており、より素早く状況判断も可能になっていた。
音は後からやって来る。
その場には凄まじいばかりの力場が形成され、巻き込まれた物を粉々に粉砕する。
互いに影響が出ないように動くカルマン達機甲化分隊も、初見でそれに対応してみせたベレッタも、両者見事と言う他ない混戦となったのだ。
◆◆◆
「……なんか、凄いね」
「うーむ、ベレッタめ。我を差し置いて目立ちおって……」
「いやいやいや! そういう問題じゃないでしょうよ!?」
ラミリスが感心して呟き、ヴェルドラが何か勘違いした愚痴を述べる。
そしてザザは、そんな二人にじれったいような気持ちで突っ込みを入れた。
ザザの視覚を通して得られた情報を、脳に付属する解析装置が再現している。それによってようやく、ザザにも今何が起きているのか認識出来たのだ。
嘗て見た事もないような、超高速戦闘。
そんな凄い戦いを目の当たりにして出るヴェルドラ達の感想は、ザザにとっては容認出来るものではなかったのだ。
「凄いってね、そもそも見えているんですかラミリスさん?」
「えっとね、ちょっと厳しいけど、なんとか見えてる」
「我も当然見えておる。クッキリハッキリとな!」
「いや、ヴェルドラさんには聞いてませんから。見栄を張らなくてもいいですよ」
「――ッ!?」
ラミリスが見えると言うのなら見えるのだろう、とザザは思った。
どれだけ高性能なのか想像も出来ないが、この小さな身体には未知なる技術が使われているようだ、と。
それは、目の前で戦うベレッタの凄さからも疑う余地はない。
何しろベレッタは、あの死神のようなカルマンの分隊を前にして、一歩も退かずに互角の戦いを演じているのだから。
それはザザの想像の更に上であり、ベレッタをかなり上方修正して認識する必要があった。
(都市外部の研究施設で、都市の第一線の大戦力と互角に戦えるだけの兵器が生み出されたのか……。信じられんが、これは認めるしかないな)
この事実は、レジスタンスにとっての光となる。
ザザはそう思った。
ベレッタがいるならば、先程の作戦にも勝機があるかも知れないと考える。
ザザは自分が興奮するのを自覚しつつ、戦いに意識を向けた。
そんなザザを、ヴェルドラが寂しそうに見る。
なんか、我の扱いが雑になっておるのでは? と思いつつ、ジト目でザザを見るのだが、ザザは完全に無視していた。
「なあラミリスよ……」
「何、師匠?」
「やはり、我が戦うべきだったかも知れんな」
「どうして?」
「どうしてって……」
それは目立ちたいからだ、とヴェルドラは言えなかった。
残念な竜である。いや、今は人型なのだけど。
「ムッ! 見よラミリス、あの者が、ベレッタに何か仕掛けようとしておるぞ!!」
ラミリスの純粋な視線に耐えられず、ヴェルドラは話題を変えた。
「あ、ホントだ。ねえ、あれってなんかヤバくない?」
「うーむ、ベレッタなら大丈夫であろう……」
ヴェルドラの指摘通り、一人戦いに加わっていなかったカルマンが何かしようとしていた。
強化外装の両腕を接続し、一つの砲塔のように構えているのだ。
ザザもまた、ヴェルドラ達の会話を聞き、何気なく視線をカルマンに向けた。
そして知る。
「あれは――」
ザザは自分の知識と、生き残った傭兵仲間からの伝聞などを総動員し、その構えの正体に辿り付いた。
しかし、その時既に――
「散開ッ!!」
カルマンの怒号が轟く。
同時に、一糸乱れぬ動きで、四体の強化外装がベレッタから離れた。
「――何?」
ベレッタがカルマンに視線を向けた時、ソレは既に完了している。
身構えていた触手が反応出来ずに吹き飛ばされ、生体魔鋼製のベレッタの身体に穴が空いた。
そして一条の光が、ベレッタの顔面を直撃する。
ポトリと、ベレッタの頭が地面に落下して……。
「ベレッタァーーーーッ!!」
ラミリスが叫びが届く前に、ベレッタがその場に崩れ落ちた……。
◆◆◆
カルマンはニヤリと笑った。
作戦通りだ。
如何なる強敵であれ、やはり自分達の勝利は揺るがない、そう思い満足する。
「おっといけねえ、こりゃあ、殺しちまったか? だがまあ、肝心な身体は残ってるから、ヒイラギさんは許してくれるだろ」
そう言って、高らかに哄笑した。
カルマンが選択した作戦は、部下達が囮となっている間に最強の主砲を撃ち込むというものだった。
それは、中性子収束砲。
高周波磁場の組み合わせによって中性子を加減速する技術を駆使し、核融合で生み出された中性子線を砲台となった両腕に集束させて、一気に放出する。
その初速は、毎秒一万キロ以上――亜光速である。
大気の影響で大幅に減速するとしても、回避など不可能。
そしてその威力もまた、言うまでもない。
如何なる存在であれ、中性子収束砲の破壊力を前にしては、無傷などあり得ないのだ。
対抗手段はただ一つ、発射される前に阻止するのみ。
カルマンは勝利を確信して、葉巻を取り出し咥えた。
「まあよ、貴様もよく戦ったぜ。俺の部下達で倒しきれるかと踏んでいたんだが、まさか互角にやりあうとはよ。俺に切り札の中性子収束砲まで使わせたんだ、誇っていいぞ」
そう言って、機嫌良さそうに笑うカルマン。
滅多にない全力戦闘、そして勝利。
弱者をいたぶるだけの戦場と違い、今回の戦いには久しく感じなかった血の高揚があった。
カルマンが機械化兵になってからは、感じる事のなかった感覚である。
一頻り笑って満足し、カルマンはベレッタの死体を回収しようとして――
違和感に足を止めた。
ピクリ、と。
死体となったはずのベレッタが動いたように見えたのだ。
「――待て。コイツ、まさか……」
部下を制止するカルマン。
そんなカルマン達の前で、ベレッタの手が動いた。
◆◆◆
地に落ちたソレを、震えるように拾い上げるベレッタ。
その身体はダメージからか、小刻みに震えていた。
いや、違う。
その震えはダメージによるものではなく――
「不味いよ、師匠……」
「う、うむ。ベレッタのヤツ、マジ切れしたっぽいぞ……」
「え、おい? ベレッタさんが無事だったのか? あの威力を受けて無事って……。いや、マジ切れってどういう……?」
ベレッタはソレを押し頂き、その目で損傷を確認する。
それは、仮面。
リムルとお揃いだった、ベレッタの素顔を隠す仮面であった。
長い髪が銀色の光沢を放ち、曝け出されたベレッタの素顔を隠しているが……。
「不味いよ。ベレッタの素顔は、リムルが自分の趣味で好みの貌を作ったって言ってた。それを知られると要らぬ騒動が起きるからって、あの仮面を被せたんだよ。今ではリムルも忘れてるかもしれないけど――その貌とリムルから貰った仮面は、ベレッタの宝物だったんだよね……」
「それでか。普段から感情を表に出さぬベレッタにしては珍しく、今は憤怒の感情に染まっておるぞ……」
ベレッタは、頭から被る形状の仮面を被っていた。
それはリムルが嵌めた仮面であり、その素顔を隠す意味をもっていたのだ。
ベレッタは忠実に、リムルの遊び心から出た命令を守り続けていたのである。
それが今、壊された。
ベレッタの怒りは一瞬にして我慢の限界に達し、突き抜けた。
――そして、報復が始まる。
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シリウス企画――サイン本応募の人気アンケート結果
1 リムル(三上悟)
2 ミリム
3 シエル(大賢者、ラファエル)
4 ディアブロ
5 シオン、ゼギオン
6 ソウエイ、ゴブタ
7 ヴェルドラ
8 シズさん、ラミリス
9 ベレッタ
と、なっております。
御応募、ありがとうございました!
※ミリムには個人での大量票が入っていたらしく、それがなければ2位はシエル先生だった模様です。
流石はミリム、僕も驚きました!




