SS -夜の蝶- 虎の穴様 一巻用特典
このSSは、虎の穴様の特典に書き下ろしたものです。
※17話の、夜の店へ訪れた際の話です。
虎の穴様のご厚意(ありがとう御座います!)で、掲載許可を頂きました。
意外にも、スライムの身体は快適である。
移動にも苦労しないし、疲労も滅多に感じない。大雑把な性格である俺としては、概ね不都合はなかったのだ。
だが、ここに来て重大な問題が発生した。
俺は、『夜の蝶』という名の店へとやって来ていた。
打ち上げとお礼を兼ねて、カイジンに連れて来て貰ったのだ。
俺は興味なかったんだが、カイジンがどうしてもと言うから仕方ない。
いや、本当に興味はないんだけどね。でも、カイジンがどうしてもと言うから……。
……。
仕方ない、認めよう。
本当は興味津々だった。久しぶりに綺麗なお姉ちゃんと一緒に酒が飲めると、俺は喜び勇んで店に入ったのだ。
ところが!
お酒を飲んでも、まったく酔えなかったのだ。これは非常に重要な問題であると言える。せっかくカイジンに連れてきて貰った店なのに、これでは楽しさが半減というもの。どうにかして酔えないかと試したのだが、そもそも味すらも感じないのでどうしようもない。不屈の精神で頑張ってみたのだが、こればかりは諦めるしかないようだった。
しかし、楽しみはお酒だけではない。
俺は切り替えの早い男、こんな事くらいでは諦めたりはしないのだ!
というわけで、『夜の蝶』という名に恥じぬ、美人で有名なエルフのお姉ちゃん達と戯れたいと思う。
ここでまたまた問題発生だ。
スライムの身体には不満は無かったのに、この店では問題ばかり発生する。
今度の問題は、手が無いという事だ。せっかくのエルフのお姉ちゃん達だというのに、触る事が出来ないとは大問題だといえるだろう。
しなやかで繊細な細い腕に抱かれ、豊満な胸に押し付けられて。
素晴らしい! ここは天国なのか!? そう絶叫したくなるような極楽な状況だというのに……。
悲しい事だが手が無い為に、それ以上何も出来ないのだ。
俺は今まで捕食した魔物達を思い浮かべ、手なり触手なり、俺の想いを伝える事の出来る器官が作れぬものかと必死に考えた。
こんな時こそユニークスキル『大賢者』だと考え、早速命令する。
しかし――
《解。データ不足です。指定部位の作製に失敗しました》
使えねーーー!! 何が『大賢者』だ。肝心な時には、全く頼りにならないヤツである。
だがまあ、捕食した魔物――蛇、百足、蜘蛛、蝙蝠、蜥蜴、狼――を思い浮かべてみると、確かにそんな機能を持つ者は居ない事に思い至った。
残念だが、オッパイを揉みしだくのは、諦めざるを得ないようである。
だが! 俺は、ここで諦めるような男ではない。
揉むのが無理だとしても、エルフのお姉さん方の、馥郁たる香りを楽しむ事は出来るのだ。
豊満な胸に包まれて、天上の香りを楽しむ。これぞまさに、大人の男の極上の生き方というものであろう。
さっそく楽しませて頂く事にする。
胸一杯に空気を吸い込む。そして到達するアロマの世界。
ここで牙狼族からゲットした『超嗅覚』が大活躍してくれた。
もっと知りたいという知的好奇心が求めるままに、俺はエルフの美女達の匂いを堪能する。
《解。成分は香水に加え、女性ホルモンの一種であるエストロゲン、オキシトシン――》
ストップ! 違う、そうじゃないんだ!!
そんな具体的な知識が知りたい訳じゃないんだよ……。そこまで知ってしまうと、わびさびがなくなるというもの。
本当に、『大賢者』とは名ばかりか? マジで使えないスキルである。
俺は『大賢者』に懇々と説明を行った。
確かに匂いを嗅ぎ、その素晴らしさを知りたいとは思うが、それは決して知りすぎては駄目なのだ、と。
ほどほどが良いのだ。何事も、超えてはならぬ一線があるのである。
知りたくても、知る事が出来ない。見たくても、見る事が出来ない。
それこそが、極意。
人とは、知ってしまえば興味を失うものなのだ。だからこそ、もう少しで到達出来るという極限まで攻めて、それ以上は自主規制が入るというもの。
これもまた、チラリズムの変異形と言えるだろう。
知的好奇心を抑圧する事で、より大きな興奮を得る。玄人にしか出来ない、大人の嗜みというものだ。
俺はそうした事柄を、とくとくと『大賢者』に説いて聞かせたのだった。
《……解。理解しました》
マジかよ? 流石は『大賢者』である。
俺の熱意が伝わったのか、極意を悟ってくれたようだ。
極意を理解した『大賢者』は素晴らしかった。
知りたくてたまらない、そんな気分にさせる直前まで悟らせてくれるのだ。
具体的に言うと、匂いで女性の気分が理解出来るほどであった。
喜んでいるや怒っているといった、喜怒哀楽程度の気分であるが、夜の店でその情報は、値千金に匹敵するというものだ。
俺は、この店での王者の立ち居地を確保したのである。
この効果は、匂いだけの事ではない。
視覚も同様、見えそうで見えない映像を、脳内で再現してくれるのだ。
俺の視覚は、未だに『魔力感知』に頼っている。
目という部位だけを再現する事は意外に難しく、『魔力感知』により映像を再現した方が負担が少ない上に視野が広いのだ。
その視野の広さを利用して、人の目では見えないハズの、スカートの下からの映像すらも入手可能。
しかし、エルフのお姉ちゃん達が巧みに死守しているだろう黄金三角形を、完全に見えそうで見えないように再現してくれる。
流石は『大賢者』……恐るべきヤツよ。
こうして、俺の夜の店での飽くなき探求は、無粋な邪魔者が現れるまで続けられたのだった。
本日より、漫画版が開始しました。
活動報告をUPしましたので、興味のある方はチェックをお願いします!




