番外編 -リムルの優雅な脱走劇- 21
約束の日は来た。
こちらの準備は万端である。
毒緑虎もやる気に満ちた様子だし、作戦通り進めば勝利も難しくないかも知れない。
おれ自身が戦う訳ではないので、応援しか出来ないのだけどね。
「先生、勝てるでしょうか?」
という不安そうな声に、俺は迷わずに答えてやる。
「知るか!」
と。
勝てるでしょうか、だと? まだそんな甘い事を言っているのか。
勝てる勝てないではなく、勝つんだ! という気迫が必要だというのに……。
「大丈夫だ。俺達は勝てる!」
「そうだぞ、ユリウスの言う通りだ。自分が為すべき事を為す、それだけを考えよう。皆が与えられた役割を全うすれば、勝利は間違いない!」
お、ユリウスとカルマが良い事を言った。
そうだよ、その通り。
やってみて、駄目なら駄目でその時に考えればいい。
やる前から諦めていたら、成功するものも成功しないのだ。
「その通り! ユリウスにカルマはよく理解しているようだね。まあ、全力で頑張ってみなさい。俺を含めて、先生方も見守っているから!」
「「「はい!」」」
そんな俺の言葉でも励みとなったのか、生徒達から迷いや不安が消えたようだ。
一斉に手順の再確認を始めている。
この調子なら、心配は要らないだろう。
それにしても、ユリウスにカルマ、考え方の違う二人だったが、俺の思っていた以上に仲良くなれたようだな。
片や貴族様。それも王家の跡取り。
片や一兵士の息子。それも魔物の仲間とされる獣人の。
そんな立場の違う二人が、気さくに手を取り合っている。
その事実一つをとっても、このサバイバルを実行したのは正解だったと思えるのだ。
危機的状況を演出し、人の本質を曝け出す。
荒療治だが、今回は成功したようで何よりだ。
今の世の中では、獣人だって立派な人類だ。
ゴブリンやオークだって、亜人と呼ばれる種族は皆仲間なのだ。
仲間なのだが、そこには根強い差別意識が存在する。
それを払拭するのは難しいだろうけど、子供同士なら案外簡単に偏見という名の垣根を越えられるのではないか、と思うのだけどね。
いや、やはり難しいか。
そうした意識改善には時間がかかるものだし、まあ慌てずにやっていけばいい。
嫌いな者を好きになれと言われても、そう簡単には納得出来ないものだしな。
だけど、大人の意見を介在せず、自分の目と耳と経験で相手を判断するならば、案外違った見方を出来るのではないかと思うのだ。
物事を素直な目で見れるというか……理想論かも知れないけれども。
ま、強制しても意味がないので、自主性に任せるしかないのが歯痒いのだけどね。
大人になれば、世の厳しさや不平等の荒波に晒される事になる。
だからせめて学生の間だけは、生まれや種族に左右される事のない、皆が公平に生きられる時間にしてやりたいと願うのだ。
この時間だけは、自分達の才能と努力が全て――そうあるべきだろう。
平等と公平は違う。
人は生まれながらに不平等なのだ。
才能や性別に違いがあるのに、全員平等とか在り得ない話である。それに加えて親の立場や国家の方針が加われば、話はどんどんとこんがらがってしまうだろう。
その不平等さをなるべく除外しつつ、大人は子供達の手助けをして、出来る限り正しく公平に生徒達を評価するだけでいい。
全員平等に一等賞とかいう話ではなく、生徒達一人一人を見て、正しく扱う事こそが肝要なのだ。
だからこそ、学校という特殊な環境は、大人の象徴でもある国家の思惑の関与出来ない空間だと定めているのに……。
そんな俺の考えに正面から喧嘩を売ってくるなど、"人類解放同盟"とは余程死にたいらしい。
俺でさえ自分の考えを押し付けぬように一歩退いているというのに、どこまでも自分勝手な奴等である。
公平であるべき空間に、身分差を持ち込むなどと……どうあっても許すべからざる暴挙であった。
マグナスの処分も含めて、今後の対策を考える必要がありそうだ。少なくとも、学園に手を出すのは止めるよう、釘を刺しておいた方がいいだろう。
学校の卒業生が、次代を担う教育者になっていってくれればとも思うのだが、それにしたって最初が肝心だしな。
今後の課題であった。
それはともかく、今はマグナスだ。
俺がユリウスやカルマ、そして生徒達を見て微笑ましく思っていると、マグナス達が設置していた魔法陣が光を放った。
どうやら約束通り、迎えに来たらしい。
それではせっかくなので、こちらも盛大に歓迎するとしよう。
さてどうなるやら。
まずはゆっくりと、生徒達の戦いの結末を見守ろう。
◇◇◇
ユリウスとカルマが先頭に立ち、マグナス達を出迎えた。
それを見たマグナスが、ギョッとしたように目を見開いた。
自分が殺したと思っていた相手が生きていたのだから、その驚きももっともだ。
「お前等、生きて……」
マグナスは驚きつつも、どことなく安堵しているようにも見えるな。
ひょっとすると、マグナスにも葛藤があったのかも知れない。
「ああ。ご期待に添えなくて悪いのだが、私は無事だよ」
「俺もな。それに、先生方も誰一人死んではいないぞ」
「なんだと?」
「それは本当なの!?」
カルマに反応したのはマグナスではなく、護衛騎士クラッドと研究教員のイリナだった。
「君達にとっては残念じゃろうが、本当じゃよ」
ウィリアム老師が前に出て、カルマの言葉が本当だと証明する。
別に隠す意味はない。
先生達は隠れていてもらい、不意打ちするという作戦案も出た。だが、その案は却下されたのだ。
正々堂々と戦うと、生徒達が方針を定めたのである。
今回の戦いは、勝つのは勿論の事、マグナスの真意を問い質すというのも目的にしている。
それが、生徒達の意思だった。
自分達を本当に裏切ったのかそれを知りたい、とモンドが言った。
本当はマグナスの真意は別にあるのでは? とジョージが言った。
マーシャやアイナも、共にNNU魔法科学究明学園に所属する生徒として、マグナスを信じたい気持ちは同じだったようだ。
そしてそれはNNUの生徒だけではなく、ユリウスやカルマも同様だったのである。
特にカルマは、普段から仲が良かっただけに、マグナスを信じたいという気持ちが人一倍強かったようだ。
アイツには何か事情があったに決まっている! そう言い張ったのである。
裏切られるかも知れない。
甘いかも知れない。
だがそれでも、彼等は信じるという決断を下した。
俺はただ、それを見守るだけである。
――その結末がどうなろうとも。
最初に立ち直ったのはイリナである。
イリナは素早く状況を把握して、方針を定めたようだ。
「――仕方ないわね。事を起こしてしまった以上、もう後戻りは出来ないもの。一応聞くけど、私達"人類解放同盟"に賛同する者はいないのかしら?」
最後通告とばかりに皆に問いかけるイリナ。
だが当然、それに対する答えはない。
「そう、仕方ないわね……」
イリナの瞳に、冷たい光が宿る。
それは、覚悟を決めた者の目だった。
「私は、自分の考えが間違っているとは思っていない。だから君達も信念を持って――」
「もういいだろう。我等に賛同しないと言うのならば、全員始末してしまえ!」
そう言ってイリナの言葉を遮ったのは、常に無口のままマグナスの後ろに控えていた白ローブだった。
確か戦闘系の教師で、名を――
「ベルナー! お前は一体何を――」
「そうよ。私達の理念を理解してもらえないからと言って、短絡的に行動するのは――」
そうそう、ベルナーだ。
戦闘教師として腕は確からしいが、強引な性格だったらしい。
普段から無口だったらしく、他の教師との付き合いは希薄だったらしい。
別段問題行動はなかったそうだが……。
マグナスにイリナがベルナーを諌めようとするが、ベルナーはそれを鼻で笑った。
「魔王は敵だ。魔物と人類が手を取り合うなど、考えただけでも虫唾が走るわ! お前達も、魔王リムルには恨みがあるのではなかったのか? であるならば、その肩を持つ者も同罪だろうが!」
ベルナーは俺に恨みを持つ者だったようだ。
そしてその口ぶりでは、マグナスやイリナも俺に恨みを持っているらしい。
残念ながら、俺に思い当たる事はないのだが。
ベルナーは続けて言う。
「ユリウスよ。貴様とて、魔王リムルには恨みを持っているだろうが。イングラシア王国の者ならば、俺の気持ちが理解出来る筈だ! 貴様が毅然とした態度で魔王との対決姿勢を見せるならば、他の生徒達が犠牲になる事などないのだぞ!」
ユリウスに向けてそう言い放ったのである。
イングラシア王国の者なら、中には俺に恨みを持つ者がいても不思議ではない、かな?
何しろ、それまでは各国の中枢として、政治、経済、文化の最先端都市として栄華を誇っていたのだから。
その地位を魔物の国が奪った事で、イングラシア王国が衰退したのは事実なのである。
だがしかし。
それについては、コチラにも言い分があるんだが。
そう思いつつも、今は大人しく話を聞く俺。
「――そうか。卿の兄は、あのライナーであったな。我が兄と共謀し、我が父を亡き者とした……。だが、その謀略の責まで大魔王になすり付けるのは、流石に無理があるのではないか?」
俺に良い印象を持っていないと思われたユリウスだったが、考え方は比較的まともだったようだ。
なんでもかんでも人のせいにしたりせず、物事の帰結は正しく理解しているらしい。
「ええい、黙れ! 貴様がそのように腑抜けた事を抜かす以上、俺の忠誠が貴様に向く事はない!」
ユリウスに比すると、このベルナーは視野狭窄に陥っている。
完全に自分の考えが正しいと思い込み、その真贋を正そうという意識はまるでないようだ。
自分にとっての都合の良い考えのみを支持する、非常に厄介な人物のようである。
「聞け、ベルナー。確かに大魔王リムルは、我侭で理不尽で好き放題やっている――」
なんだと? ユリウスめ、扱きが足りなかったようだな……。
「――自分勝手で気紛れで、我が国が西側諸国の盟主の座から蹴落とされたのも、卿の言う通り大魔王リムルの影響があっての事だろう。だがしかし――」
言いたい放題言ってくれちゃって。
だがそれよりも。気になるのは、俺をチラッと見てくる生徒がいる事だ。
何故に、我侭や理不尽と言った単語に反応して、俺の方を見てくるのか……。
まさか、俺が我侭で理不尽だとか思ってるんじゃないだろうね?
「大魔王が我が国にチャンスを残してくれたのも、これもまた、揺ぎ無い事実ではないか!」
ん? チャンスを残した?
なんの事だね、ユリウス君? と聞きたいが、今は駄目だ。
「はっきり言うぞ、ベルナー! 私は、大魔王リムルが嫌いだ。だがしかし、彼の行動が全て悪であるとは思っていない。我等にも至らぬ点があったのは事実だし、イングラシア王国に学園を残し、政治や経済の中枢からは外れたにせよ、文化を創出する場として生き残る道は示してくれている。あの、列車という大型輸送施設も開通させてくれたではないか! この事実こそが、大魔王リムルの公平性を証明する、揺ぎ無い証拠であろう!」
おお、所々で気になる言い方をしてくれたが、思ったよりもユリウスは俺を評価してくれているようだ。
しかし、嫌いだとハッキリ言われると、心にくるものがあるな。
それもまあ彼の素直な考え方なのだろうし、俺が文句を言う筋合いではないけどね。
「ぬるいわ! そのような甘い事を言っておるから、イングラシア王国が舐められるのだ! もう良い、最早これ以上の言葉は要らぬ。所詮は相容れぬ道ならば、ここで朽ち果てるが良かろう!」
ユリウスの説得空しく、ベルナーは剣を抜いた。
それにつられたように、マグナスにイリナ、クラッドにロザリーも剣を構える。
思想の違う者同士の会話は、そう簡単に交わらない。
残念であるが、やはり話し合いでは決着とならなかった。
そうして、戦いが始まったのである。
◇◇◇
"人類解放同盟"とやらは、マグナスを含めて五名。
どうも、個人個人の考え方の意思統一は出来ていないように思える。
そりゃまあ人間なんだし、皆が皆同じ考え方、という訳にはいかないだろう。
だからこそ、こういう反魔王組織が出て来る事も織り込み済みだったんだけど……。
さて、どうなるやら。
イリナとロザリーは『悪魔合身』出来ないようで、魔法による支援要員であるようだ。
しかし、三人ものA級騎士が居るとなると、毒緑虎一体では厳しいかも知れない。
中でもマグナスとベルナーの実力は抜きん出ている。
厳しい戦いになりそうだった。
最初に動いたのはベルナーだった。
剣に闘気を纏わせて振り抜き、ユリウスを真っ先に狙い撃ってきた。
それを防いだのは毒緑虎である。
素早い動きで前に出て、声震砲で斬撃を打ち払った。
毒緑虎は前回の戦い方と違い、見違えるように洗練された動きになっている。
それもその筈、後ろでカルマの友人達が指示を出しているからだ。
獣人特有の念話のようなもので、獣型の魔物と意思の疎通が出来るのである。
「チィ! 小賢しいわ!」
多種多様の魔法による援護もあり、毒緑虎は大幅に戦闘能力が増大している。
前回はマグナスに一蹴されていたが、今はベルナー相手に有利な戦いを見せていた。
「手を貸そう」
クラッドがベルナーの加勢に入った。
学生は後回しにして最大戦力を先に叩く、良い判断である。
だが、そう簡単にはいかないだろうがな。
ベルナーの苦戦を見て、イリナとロザリーが即座に魔法を発動させた。
毒緑虎にかけられた強化魔法を打ち消し、弱化魔法を付与しようとしたのだ。
しかし逆に、イリナとロザリーの魔法は生徒達の魔法によって打ち消される。
「馬鹿な! 学生レベルの魔法で、私の魔法を打ち消したですって!?」
イリナが驚くのも無理はない。
数日前までの学生を知っているのだから、自身の魔法を上回られる事など想定してはいなかっただろうし。
しかし、これが現実なのだ。
マーシャを中心として、魔法科の学生はカード魔法を習得しているのだから。
一人が覚えた魔法は、各々一つだけ。
渡したカードは一枚で、それには各自が得意とする分野の魔法を刻んでおいた。
戦術的に考えても、たった数日で複数の魔法を使いこなして連携させるなど無理な相談だ。
だからこそ、各自には得意とする魔法一つを習得させたのである。
そしてグループ毎に分かれて、数名ずつで組を作らせてある。
例えば、回復魔法を覚えたのは十五名。
その生徒達は三名ずつの五班に分かれている。
前衛は、三名。
ユリウス、カルマ、そしてモンドだ。それに加えて、毒緑虎である。
つまり一人の前衛につき一班が対応しても、まだ残った一班――三名が自由に動けるのだ。
モンドは戦闘能力としてはユリウスやカルマに劣るものの、防御能力だけを見ると中々に優秀だったのである。「そんな、僕なんて……」とオドオドしていたが、皆に説得されて大任を請け負う事になった。
六名もの回復要員が、交互に回復してくれるならば、余程のダメージを負わない限りは前衛としての役目を全う出来るだろう。
そして当然、魔法は回復だけではない。
補助系や妨害系、防御系に攻撃系と、それぞれに纏まって役割分担が為されているのだ。
今イリナの魔法を打ち消したのも、妨害系の生徒数名による干渉魔法の効果であった。
敵の魔法要員は二人。
実力はかなりの格上だが、それは旧魔法での話。
この新型魔法は、発動と再使用までの時間がかなり短縮されている。
なので実力の劣る生徒であっても、数名が連携すればかなりの確率でイリナ達を上回る事が可能なのである。
「いけるわ! 私達で、前衛を守り抜きましょう!」
マーシャが叫んだ。
それに力づけられるように、生徒達に気合が入る。
こうして、魔法戦では生徒達が有利に進むかに見えたのだが……それは少し考えが甘かった。
「なんなのかしらね、その魔法。そんなものがあるなんて、忌々しいけど想定外だわ。でもね、切り札があるのはそちらだけではなくてよ」
イリナは、新型魔法を他の教師の研究成果だとでも判断したのだろう。
さっさとこだわるのを止めて、思考を切り替えたようだ。
研究者らしく、非常に冷静な人物のようである。
そして更に、隠し持っていた自身の切り札を『空間収納』から取り出したのだ。
「最後に聞くけど、本当に私達の仲間にはならないのね?」
「イリナ先生! 先生は間違っています。他者の思想を踏み躙り、自分の考えを押し通すのは、それこそ力による支配ではないですか! それは、先生がもっとも嫌う方法なのではないのですか!?」
イリナの最後の問いに、マーシャが答えた。
それは拒絶であり、イリナを思いとどまらせようとする説得の言葉。
イリナは一瞬だけ苦痛に満ちた表情をして――
即座に冷徹な表情を取り戻す。
「そうね……。私は教師としても、そして研究者としても失格なのでしょうね。正しい判断よりも、自分の感情を優先させてしまうのだから。こんな事では貴方達を導く資格なんて、初めからなかったのでしょう。でもね、それでも……。私は、大魔王リムルがどうしても許せないのよ! 正面から喧嘩を売っても勝てないのはわかりきっているけど、それでも一矢報いたい。ここで計画を漏らされる訳にはいかないの」
イリナはどうやら、俺に深い恨みがあるようだ。
面識はないのだが、どこで何を恨まれたのやら……。
難しいな。
確かに、俺に直接恨みを晴らそうとしても、それはどう考えても現実的じゃないだろうし。
こっそりと準備して裏から世界の覇権を奪い取るとか、そんな手段しか取れないと判断したのだろう。
正面から勝てないなら、裏から手を回す。
俺でもそうするし、正しい選択に思える――が、それは学園を巻き込んでいなかったら、の話だ。
世の中には、絶対にやっては駄目な事、というのがあるのだ。
「先生……」
「せめて邪魔をしないと言うのなら――いえ、未練ね。私も覚悟を決めましょう」
そして、澄み渡る眼差しで生徒達を見渡し、手に持つソレを自身へと投与する。
一本の注射器に満たされた、液体を。
それは香草にも詳しいイリナが配合した、様々な薬効を凝縮させた人体強化剤みたいである。
「魔法が通じないのなら、私もこの肉体でもって道を切り開くまで。さあ、覚悟の定まった者から相手をしてあげますよ!」
その瞳からは、一切の迷いが消えていた。
教師としての顔は消えて、一人の戦士へと切り替わっていたのだ。
そして、ロザリーもまた……。
「マグナス様、私もお役に立って御覧に入れます!」
そう言うなり、イリナ同様、注射器にて薬剤を自分に投与したのである。
イリナとロザリーの筋肉が膨張し、人の限界を超えた力を宿す。
俺の『解析鑑定』によると、その力は上位悪魔を宿したベルナーやクラッドに劣るものではないようだ。
凄まじい強化率である。
そして今気付いたが、マグナスは悪魔を呼び出してはいないようだ。
本来の実力で、壁役三名を相手にしていた。
ユリウス達は、毒緑虎が騎士を一人だけでも倒すまでは、攻撃は考えずにひたすら耐え凌ぐ作戦なのだ。
そんな彼等にとって、マグナスが本気を出していないのは都合が良かったのだが……。
イリナ達が近接戦闘へと参加した事で、戦いの均衡が崩れたのである。
◇◇◇
「相手がイリナ女史なら、私達が相手だ!」
そう叫び、ブラウン率いる戦闘系教師三名が、戦闘に加わった。
生徒達だけに任せてみたかったが、これは仕方ないだろう。
イリナとロザリーを比べても、イリナの方が圧倒的に強いのだから。
仮にもA級の教師四名を相手にして、イリナはたった一人で対応して見せる。
イリナの戦闘スタイルは、魔法格闘士みたいだ。
魔力を直接攻撃力に変換させ、攻撃する。
武器を持つ教師達を素手で相手取れる理由だった。
「いいでしょう。生徒達を守りたいならば、私を止めて見せなさい!」
ブラウン達四名とイリナの戦いは、こうして始まったのだ。
イリナに対しては教師四名が動いたが、ロザリーは自由に動ける。
残った生徒達では相手にならず、一気に危機的状況となった。
その状況で動いたのがモンドだ。
「うわーーーー!!」
と叫びつつ、魔法班を無力化しようとしていたロザリーに体当たりを仕掛けたのである。
マグナスをユリウスとカルマの二人で抑える事になるが、咄嗟の判断としては上出来だった。
モンドではロザリーを倒せない。
だが、時間稼ぎだけならば……。
後は、モンドの頑張りに期待したいところだ。
一方、毒緑虎とベルナー&クラッドの戦いは、膠着状態に陥っていた。
「クソ、忌々しい獣めが!」
「熱くなるなベルナー。冷静に対処しなければ、こちらが敗北を喫するぞ」
「言われるまでもないわ!」
膠着状態という事は、生徒達は頑張っているようだ。
魔法班による支援と、獣人達による適切な指示。
連携が上手く機能しているようである。
この戦いの流れ次第で、勝敗も決まる。
敵側の主力戦力を片方だけでも倒せれば、一気に流れはコチラに傾くだろう。
だが、毒緑虎が倒されてしまっては、生徒達の敗北は必至なのだ。
適切な状況判断と、魔法班による回復。
実戦経験のない生徒には重い役割だが、このまま最後まで頑張って欲しいと祈るばかりだ。
そして最後の一組。
ユリウス&カルマvsマグナスだが……。
マグナスにはやはり葛藤があるのか、直接対決となると剣が鈍っているようだ。
学友をその手にかける事は、マグナスの本意ではないのかもしれない。
ユリウスやカルマの説得に、苦悩の表情を見せるマグナス。
その本心がどうであれ、そろそろ決着の時間である。
人の心は複雑で、心から理解し合うのは難しい。
それでも解り合おうと願うなら、お互い本心でぶつかるしかないだろう。
それで決裂するなら、それはそれで仕方ないのだ。
そんな事を思いながら、俺は戦いを見守るのだった。
発売日は二十四日となっていましたが、休日・祝日の関係で、既に発売している所もあるようです。
昨日、新大阪の駅構内の書店では、『転生したらスライムだった件』三巻と『ブルージャスティス』一巻が並んでいるのを確認しました。
宜しければ購入を検討してみて下さいね!




