番外編 -リムルの優雅な脱走劇- 06
※お知らせ ――漫画化―― 決定!!
ユリウスがリーダーに名乗り出たのは、良かったのか悪かったのか……。
ともかく点呼が取られ、全員に食事が配られる事になった。
「まだ学生じゃないのに巻き込まれるなんて、不運だったわね」
そう言いながら、教師の一人が手渡してくれたのだが……カロリーメイトが恋しくなるような簡易なものだった。
パックに入った携行用のもので、迷宮攻略用に開発されたものだ。
俗に言う、戦闘糧食である。
イリナと言う名のその教師は、NNU魔法科学究明学園に所属する研究教員だった。
戦闘系の教員や学生は、用心深く最低一日分のエネルギー補給用携行食を持参していたが、研究系の学生はそのような準備などしていなかった。
そんな中、このイリナが〈空間収納〉された戦闘糧食を取り出したのだ。
なんでも〈空間収納〉時における時の流れを研究している最中だったとかで、幾つかの食材を取り出していた。
残念ながら、魔法や能力による〈空間収納〉では、時の流れはそのままである。
だが、真空にして無菌状態に保った空間内ならば、腐敗する恐れは皆無なのだ。ただし、処理が不十分だったりその他様々な理由により、完全なる保存は不可能だと結論は出ていた。熱も冷めるので、こればかりはどうしようもないのだ。
実は俺の『虚数空間』ならば、時に支配されない為に完全保存が可能なのだが、それは今は関係のない話である。
戦闘糧食だけでなく、各人が所持していた食糧は回収されて、ユリウス達が管理する事になった。
百余名が一日二食と計算し、三日分の分量が集まったようだ。
戦闘系の者が余分に所持していたモノもあり、これで少しは余裕が出来たようである。
味はともかく、栄養だけは満点だ。
そして、水は魔法でなんとかなるので、何もせずとも一週間程度なら飢え死にしないで済みそうである。
なんとなく甘いが美味くはない食事を取っていると、どこからか美味そうな匂いが漂ってきた。
ユリウス達がいる区画である。
なんとヤツ等は、こういう状況であるにも関わらず、テーブルや椅子を用意して優雅に昼食を並べ立てていたのだ。
それも、簡易料理セットにて調理された、一流レストランで出されるような食事を、である。
「ユリウス様、このような状況ですので程度の低い料理である事を、何卒ご容赦下さい」
「フン、仕方なかろう。僕としては不本意だが、民の手本となるべきだと理解しているとも」
「そう言って頂ければ、恐縮であります」
戦闘糧食を吸いながら、驚き呆れてその遣り取りを眺める俺。
ユリウスに謝罪していた執事は、確かマリアとかいう女生徒の付添いである。一緒のテーブルに座っている事からも間違いない。
他にも男子一人、女子一人が同席しているのだが、二人の執事によって給仕がなされていた。
まるで別世界だ。
あの食材がどこから調達されたのかとか、今は皆で協力すべき時だろうとか、民の手本ってお前意味分かってるのか? とか言いたい事は山ほどあるが、コイツが空気を読めないヤツなのだと理解するには十分な出来事だったと言えるだろう。
カルマは苦々しげに、マグナスも苦笑を浮かべて、ユリウス達を眺めていた。
普段なら食って掛かっているのだろうが、余りにも酷すぎて、文句を言う気力も尽きたのかも知れない。
「いいなー。ボク、これだけじゃ足りないよ……」
俺の隣で、太った生徒が悲しげな溜息を吐いた。
その太った体では、これだけの量では寂しいのだろう。
「我侭言わないの! これって、栄養バランスは最適化されているし、満腹中枢を刺激して満腹感を与えてくれるハズだよ?」
その横から女生徒が、愚痴った少年を叱り付けている。
その通り、これは味はともかく品質は最上の戦闘糧食なのだ。
「うん。でもね、ボクは一応戦闘系だから……。そういう誤魔化しは通用しないんだよ……」
悲しそうに溜息を重ねる少年。
幻覚や神経毒に抵抗出来るように訓練しているらしく、自分にとってメリットのある効果さえも遮断してしまったようだ。
単に食い意地が張っているだけにも思えるが、食糧制限がある今の状況では辛いだろう。
「じゃあ、食い掛けだが半分いるか?」
と、半分程残っているパックを差し出したのだが……。
「え、いいの? じゃあ、ヘブッ――!?」
「あらあら! モンド君大丈夫? 先生が診てあげるからいらっしゃい!」
突然落ちて来た木の枝が、モンド君とやらの頭に直撃。
モンド少年は、綺麗な銀髪を靡かせながら慌ててやって来たピューリ先生に抱き起こされている。
「おい、そいつは大丈夫なのか?」
「あ、ええと君、は?」
「ああ、サトルという。巻き込まれただけの一般人なんだけど――」
「え、ええと。サトル、君ね。こっちは大丈夫だから、君は気にしなくてもいいのよ? そうそう、こういう状況ですから、他人に食事を譲ったりするのはダメだと先生は思いますよ」
眼鏡の奥の瞳を俺に向けて、一瞬迷ったようにしてからそう言った。
差し出がましいと思ったのか、先生なりの配慮なのか。
《どう見ても、主様が食事を譲るのを阻止したようにしか思えません》
だよな。
これってつまり、俺の正体が見抜かれてる、そういう事だよな。
その証拠に、落ちて来た木の枝は、綺麗な切断面を覗かせていたのだ。
《教師ならば、リムル様の顔を知る者が居ても不思議ではないでしょう。髪と目の色を変えた程度では、誤魔化すのは無理がありますし。その内接触してくるものと思われます》
というシエルの声を聞くと、それならば教師側が三択を提示した理由にも納得がいった。
要は俺の考えを知るべく、どれが正解か確かめたかったのだろう。
それならば、今夜あたりにでも打ち明けるか――引き摺られるように連れられて行かれるモンド君を眺めつつ、そんな事を思ったのだった。
◇◇◇
空気を読まないユリウス達が、自分達だけ豪勢な食事を取った事に不満を覚えたりしたようだが、その場で目立った文句は出なかった。
食事の後は、方針決定の発表である。
皆で相談などせず、ユリウス達が決めた事を実行するのみ。
ユリウスは完全に、最高決定権を有する皆の指導者になっていた。
「で、どういう方針でいくんだ?」
というマグナスの問いに、鼻で笑うようにユリウスが答えた。
「そんなの決まっているさ。戦闘系の上位者のみで、島の端部を目指す。そこで救援を呼べればそれで良し。それが叶わなくても、点数は獲得出来るでしょう」
当然だろうとばかりに、そう言い放ったのだ。
ユリウスの言い分は以下の通り。
学生には〈転移魔法〉を使用可能な者も何名かいるので、この場所を基地として設定する。
研究系や経済や政治部門の学生は、この場所にて寝床の設営に携わる。食糧も心許ないので、可能な限り調達を行うのも仕事である。
その際には、可能な限り点数を確認しながら行動する。
テント設置の手伝いをしただけでも点数が加算されたという情報が公開されており、他にも加点条件がないかを調べるのが目的だ。
「居残り組も、なるべくは点数を稼ぐように行動するように。魔素嵐を吹き飛ばせたなら問題はないが、失敗した場合はヤツ等の言いなりになるしかないからな。この島に隔離されて強制労働など、断じて認めるわけにはいかん。点数を稼ぎ、最悪でも島からは出られるようにしておく事も重要なのだ!」
ユリウスの腹心が檄を飛ばした。
確かユリウスの護衛騎士で、クラッドと名乗っていた男だ。
クラッドはユリウスから生徒の統率を任されたらしい。
戦闘系の上位者を見定めるのも、クラッドの役目のようである。
説明を終えるなり学生達を見定め、戦力として期待出来そうな学生を選別し始めたのだ。そして、五人で一班になるように組み分けていく。
「思ったよりまともな作戦だな。もっと俺達を扱き使うのではないかと、心配していたんだが……」
「カルマはなんのかんの言って、言われた通りに仕事をこなすからな。ユリウスからしたら、犬臭い獣人だと馬鹿にしたような事を言いつつも、お前の実力は無視出来ないって所だろうさ」
その横で、マグナスとカルマの二人が話す声が聞こえた。
学園同士の交流があるせいか、顔見知りなだけではなく案外親しげな様子である。
とは言っても、心の底から信頼している、という訳ではなさそうだけど。
俺はコッソリと、二人の話に耳を傾けた。
「そりゃあ協力はするさ。皆が助かるのが大事なんだし、ユリウスがまともに指揮を執るというのなら、従うのも吝かではない」
「そうか、ならばオレも様子を見るとしよう」
真面目なカルマはともかく、マグナスもユリウスに表立って逆らう気はないようだ。
確かに、今揉めるのは得策ではないのだが……。
俺以上にマグナスの言葉に驚いたのがカルマだった。
「珍しいな? お前がユリウスに従うなんて」
「そうでもないさ。ヤツの言い分が理に叶っているのは確かだ。点数を稼いでおくなら、この島に留め置かれる事もなくなる。そうすれば、誘拐犯共の言いなりになったフリをしつつ、隙を見て救助依頼を出せるかも知れないしな」
「なるほど、な。それじゃあ、俺達は暫くは共闘するとしようか」
「ああ。頼りにしているよ、カルマ」
「こちらこそ宜しく、マグナス」
驚いて聞き返したカルマに、マグナスは肩を竦めてそう言い返した。
そのもっともな言葉に、カルマも納得したようである。
結局、ユリウスが采配する事に不満はあるようだが、暫くは従うという事で話は纏まったようである。
思ったよりも理性的な対応で、協調性が皆無、という事はないようだ。
少し見直したが、まだ一週間ある。
慌てる事はないので、ゆっくりと観察させて貰うとしよう。
さてさて、この協調性が最後までもってくれたら良いのだが――そう思いつつ、結果を見るまでは評価は控えておく事にしたのだった。
班分けが終了した。
五名一班で五チームだ。
腕輪に登録出来る人数は五名なので、班員同士は互いに登録を行っている。
そしてユリウスの班に所属する者が、各班の五名を登録しているようだ。
こうしておけば、離れていても班同士の状況が確認出来るし、中々に考えられている構成だった。
ユリウスの班だけは互いに登録出来ないが、護衛者は常に傍から離れる事のないのだから問題ないという事だろう。
ユリウス本人は、基地との連絡を行う為に教師との登録を済ませていた。
こうしておけば、残された者達にも探索班の状況が判るので、不安も解消される事だろう。
このユリウスという青年、貴族然とした態度が鼻につくが、意外にも頭は回るらしい。
押えるべき点はキッチリと押さえ、的確な判断をしている。
取巻きに頭脳集団が居るのかも知れないが、それを取り入れ実行に移した点は評価に値した。
この三人、単なる問題児、という訳ではないのかも知れない。
これについては、よく見極める必要がありそうである。
◇◇◇
総数二十五名の戦闘系探索班は、意気揚々と出発して行った。
残った者は二手に別れて、夕食の準備と寝床の確保に動く事になった。
俺達が今居るのは、飛空船を降ろせる程にスペースのある場所、丘陵地帯の狭間の開けた草原である。
周囲を丘に囲まれているが、それを越えれば山や砂漠に出る。
中央に向かえば山、島の端部を目指せば砂漠だった。
そこには、各々支配者が君臨しているだろう。というか、そいつらから洩れ出た妖気のせいで、地形が変質して異常な環境を生み出しているのだ。
一方は小さな森が広がっているが、そこもまた島の支配者の一角が棲む密林へと繋がっていた。
ぶっちゃけ、四方全てに支配者が居るのだから、探索班は大変である。
上位三分の一のメンバーだが、残った者の方が楽なのは間違いないだろう。
という訳で俺は今、居残り組だった。
探索班はティアが影ながら見守る手筈なので、俺の出番はないのだ。
というか、人間並みの俺では、準魔王級どころか特殊個体にさえ苦戦する。
正確に言えば、本気を出した瞬間に俺の位置が特定される恐れがあるので、その時点をもってゲームオーバーなのだ。
なので、俺は戦わない方向で考える。
決して楽だから、ではない事を明記しておきたい。
さて、居残り組の作業だが――
一番楽そうなのは、備品のテントを組み立てる作業であろう。
用意周到な教師の一人が、野営訓練用の備品を〈空間収納〉にしまっていたのだ。
もしかしたら、倉庫にしまうのが面倒だっただけかも知れないが、それは言わぬが花である。
せっかく尊敬の目で見られて喜んでいるのだから、ここは慎重な性格なのだという事にしておいてやろう。
それに、テントには簡易魔法陣による虫除け効果もある。空間魔法により中も若干広くなっているので、こんな状況なら重宝するのだ。
三百人分――十人用テントが三十組――もあったので、男女別れても十分広く利用出来るだろう。
組み立て方は簡単で、平坦な場所に魔法開封してテントの材料を広げる。それを、片っ端から組み立てていくのみ。
ただし、俺は学院の生徒ではないので、魔法開封の式を知っているハズがない。
開封は簡単だが、それをしてしまうと完全に怪しい人になってしまうのだ。
という流れから、俺は必然的に食糧調達班になったのだった。
三分の一の生徒達がテントを組み立てるのを尻目に、俺達は森へと向かう。
俺の隣には、さっきの太った生徒――モンド君が居る。
三十人近い生徒達を二人の教師が引率しているが、それだけでは不安がある。その為、各班にも戦闘系が一人は組み込まれるように班分けされていた。
俺達もユリウス達を見習って、五名で一班になっている。
中央にいる救護班を守るように、採集班が四組だ。
救護班にそれぞれの班との連絡係も居るので、即席にしては適切な配置だろう。
その班分けに教師は含まれていないので、総勢二十七名であった。
モンド君も一応は戦闘系なので、森に向かう者の護衛役の一人に選ばれたようだ。
俺も全ての生徒を知る訳ではないので、実力に関しては教師の人選を信じるしかないのである。
まあ、シエル先生が何も言わないので、適切なのだと思うけど……。
「あ〜あ、最悪〜。よりによって、モンドのヤツに守られるなんて」
と、俺の隣で愚痴るのは、マーシャという名の少女。
先程もモンドと一緒に居た少女で、どうやら幼馴染なのだとか。
口では文句を言いつつも、それなりに楽しそうである。
だが、マーシャの友達はそうでもないようだ。
「おいおい、俺がいるんだから安心しろって。そりゃあ探索に出た連中より成績は悪いけど、実戦なら俺だって中々のものなんだぜ?」
「そうだね〜モンドに比べれば、ジョージの方がまだマシかな」
「おい、マシってなんだよ!? そりゃあ俺は、中位の成績だけどな、底辺のコイツと比べられるのは心外だぜ」
ジョージという少年が吐き捨てるようにそう言った。
それに頷くのは赤毛の少女。
アイナという名前なのだとか。ソバカスがあるが、可愛らしい少女である。
ジョージとアイナ、そしてモンドとマーシャが俺の班員なのだ。
採取班の性格を掴もうと観察していたが、どうやらモンド君、皆からの評価はよろしくないらしい。
俺を除いた四名の中で、一番下の成績なのだろう。
しかし、別に嫌われたりはしていないようで、寧ろムードメーカーになっている感じであった。
この班の者に不安が見られないのは、モンド君がいるからなのかも知れない。
自分が馬鹿にされる事で皆の不安を紛らわせるなど、モンド君には不本意かも知れないけども。
「そ、そんな事言ったって、ボクにだって得意な分野はあるんだ。持久力は足りないけど、瞬発力なら平均より上なんだよ?」
「ばーか。戦いにおいて重要なのは継戦能力だって、先生も言っていたじゃねーか」
モンド君の言い訳を、ジョージは鼻で笑う。
確かに、直ぐに空腹になるとか嘆くような根性では、継戦能力は期待出来ないだろう。だがまあ、モンド自身が言うように、瞬発力だけなら光るものを持っていそうだが。
少なくとも、抵抗力が高いというのは大きい。
神経毒など通用しない体質みたいだし、それに特化させて鍛えるなら、面白い成長を遂げそうなんだが。
「で、俺達はどうする?」
程よく森に入った所で、ジョージが班員を集めて質問した。
この班のリーダーはジョージなのだ。
「先ずは水場を探さない?」
「そうね〜先生方も言っておられたわね。水の確保は最重要だって。山から流れる水が森に入っているのが見えるから、そこを目指しましょう〜」
マーシャが答え、それにアイナが同意した。
そして俺達は、水場――つまり、川へと向かって歩き出したのである。
◇◇◇
「ひゃっはー! ここの釣り場は最高だぜ!」
と歓声を上げたのは、俺だ。
俺は今、久しぶりに釣りを楽しんでいたのである。
何故こうなったのかというと――
水を確保し、魔法で飲料に耐えうるか確認した。
若干の毒素と寄生魔蟲が居たが、煮沸魔法にて処置は完璧である。
ジョージ達四名はNNU魔法科学究明学園の生徒なので、戦闘系の魔法は苦手としている。しかしこうした生活魔法の改良研究などは行っているらしく、意外にも手際良く水を確保出来たのである。
魔法でも水は出せるが、やはり使える量を気にしなくて良いのは大きい。
水を確保出来たのは幸いであった。
更には、
「よし、完璧!」
と言いながら、マーシャがニッコリと笑う。
なんとこのマーシャという少女は、まだ在学四年目にして〈空間拡張〉の使い手なのだ。
これは〈空間収納〉の劣化版で、容量を増やす程度の効果しかない。しかし、空間系魔法は非常に難しいので、これが出来るだけでも大したものなのである。
技術として確立している〈転移魔法〉と比べたら、まだ研究途上である〈空間拡張〉の方が難易度では上なのだ。
これだけでも、マーシャという少女がかなりの才能を持っていると証明出来る程だった。
ジョージとモンドが必死に水を汲み、魔法で処理をするのはアイナの役だ。そしてマーシャが、何の変哲もないサバイバル用品の水筒に、処理の終った水をどんどんと詰め込んでいくのである。
文句を言い合っていた割りに、中々の連携であると言えた。
そして俺はというと――
「あ、サトル君は魔法が使えないんだよね? そんなに体力もなさそうだし、食べられそうなものがないかこの辺りを調べてみてよ」
と、ジョージに言われたのだ。
この辺りというのは、彼等の目が届く範囲の事である。
子供ではないので、独断行動をするつもりなどないのだが……。
どうやら俺は、彼等から見ても幼く見えるらしい。
外見年齢を十五歳くらいに設定しているというのに、この扱いはなんだろう?
だがまあ、文句を言っても始まらないので、俺は自分に出来る事を始める事にしたのである。
――という訳で、木の枝に糸を結びつけ、簡易な釣り道具を作成した。
糸は不審に思われないように、服の袖を解きほぐして用意した。
こういう時に、糸を編み込んだ服は便利である。足りない分は自分で出しているのだが、簡単に誤魔化せるのだ。
餌は、水辺の石の下にいる虫である。
部屋に出るような虫は敵であり、殲滅対象であり、触るどころか見るのも嫌なのだが――こういう場所では自分から探すのだから不思議なものだ。
万一の場合は投げつけるように言われた害獣捕縛用の罠玉を勝手にバラして、ネットだけを取り出してある。それを網代わりに、釣った魚を投げ込む事にした。
準備は完璧である。
こうして道具と餌を用意し、釣りを始めたのだ。
釣り始めてどれくらい経っただろう。
「何してるの?」
と、マーシャに声を掛けられた。
どうやら水を溜める作業を終えたらしい。
ふと見ると、マーシャ以外の三名はヘトヘトになったのか座り込んでいた。
体力と魔力が切れたのだろう。
「釣りだよ釣り。魚を釣って、夕飯に出来ないかな、ってね」
既に三十匹くらい釣っている。
どうやらこの釣り場、今まで釣りをする者がいなかったせいか、面白いように釣れるのだ。
時間当たりの釣果が二十匹なんて、自己最高記録を更新である。
いや、転生してからだと初釣りなんだけどね。
「釣り? 面白そう! 私もやっていい?」
マーシャが目をキラキラさせて聞いてくるので、俺も快く釣竿を渡して手解きしてやった。
どうやらマーシャは釣りをした事がなかったらしく、興味津々だった。
暫く教えて自分でやってみるように言うと、早速マーシャは釣りに熱中し始めた。
他の三人がへばっているというのに、一番魔力を使った筈のマーシャが元気なのだから大したものだ。
そんなマーシャにアドバイスしつつ、俺は二本目の釣竿の作製に取り掛かった――
のだが……。
二本目の釣竿が完成する頃にはアイナがやって来て、三本目が完成する頃にはジョージが参加する事になる。
そして結局最後にモンドも釣りをする事になり、その日の俺の釣果は三十三匹で打ち止めとなったのだった。
けれどまあ、水を確保した上に全員で釣った魚は百匹を超える。
十分な成果であると言えよう。
帰る際に、マーシャが網ごと固定して空間圧縮を行い、アイナが重量制御魔法で浮かせて、ジョージとモンドが身体強化で運ぶという荒業が使えなかったら、せっかく釣った魚を無駄にする所だったのは気にしないでおこう。
結果オーライである。
こうして、初日の森での採取作業は終ったのだ。
前書きに書いた通り、コミカライズが決定しました!
これも皆様の応援のお陰です。ありがとう御座います!!
活動報告にてコッソリと絵を貼り付けようかと思ったのですが、やり方が判りませんでした。
明日にでも調べて、数日中に何点か資料をUPしたいと思います。
詳細は後日になりますので、楽しみにお待ち頂ければ幸いです!




