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転生したらスライムだった件  作者: 伏瀬
色々番外編
259/304

番外編 -リムルの優雅な脱走劇- 03

 ※毎回、感想ありがとうございます!

  返信したいのですが、時間的余裕がありません。

  全て読ませて頂いておりますので、何卒ご了承下さい!

 ディアブロは短く思案すると、迷いなく歩き始めた。

 確実にリムルの行く先を知っているだろう人物の下へと、急ぎ向かう。

 ディアブロが辿り着いたのは情報統括室――ソウエイの部屋である。

 ディアブロがノックすると同時に扉が開き、ソーカが出て用件を問うた。


「クフフフフ。ソウエイ殿に用事があります。取次ぎをお願いしたい」

「ソウエイ様は今取り込んでおられます。後程もう一度お出で下さい」


 ディアブロを前に、にべもなくソーカが断りを入れた。

 だが、それで諦めるディアブロではない。


「まあまあ、そう言わずに。それとも、力で排除してみる御積りですか?」


 笑顔のままに、『威圧』を込めた恫喝を行う。

 ソーカが顔を歪めながらも、「クッ」と唇を噛み締めて耐えようとしたのだが――


「止せディアブロ。入って来たければ好きにしろ」


 と、中から静止の声が聞こえた事で緊張は消滅した。


「ええ、それではお言葉に甘えて」


 それが当然であるという自然な様子で、ディアブロは悠然と部屋へ入りソファーに座る。

 寛ぐディアブロに、いつ現れたのか悪魔騎士デモンシュバリエが給仕を始めた。

 それを横目に、ソウエイが冷たく問う。


「何の用だ?」


 ディアブロは即座に返事せず、悪魔騎士デモンシュバリエが用意した紅茶を一口啜った。

 そして、部屋の様子を観察する。

(ふむ。部下ソーカの様子からして、たった今、なんらかの遣り取りをリムル様と行っていたように見受けられますが、さて――)

 ソウエイは口が堅い。

 普通に聞いても答えが返ってくる筈はなかった。だが、ここは敢えて正面突破を試みる。

 ディアブロは軽く思案した後、そう決断した。


「クフフフフ。簡単な話です。リムル様は今何処に?」

「何を言っている? シオンとシュナ様が相手しているではないか」

「ご冗談を。貴方なら、本当のリムル様が何処におられるのかご存知でしょう?」


 ディアブロがそう言って黙ると、ソウエイもディアブロの視線を正面から受け止めて沈黙した。

 その瞬間、互いの思惑が交錯する。


 ディアブロとしては、ソウエイに付き纏うつもりだった。

 ソウエイが口を割らない以上、どこに行くにも付いていくのみ。

 そしてソウエイはそんなディアブロの思考を正確に読み取り、今から行う予定の邪魔になると即座に判断している。だが、ディアブロを排除するのは困難で、上手く言いくるめるには相手が悪すぎた。

 

「言うまでもありませんが、答えてもらえぬ以上、私は貴方から離れませんよ?」

「だろうな。知らぬと言っても信じないのだろう?」

「当然でしょう。物理的にリムル様と常に連絡出来るように繋がっている貴方が、リムル様の居場所を知らぬ筈がないではないですか?」


 ソウエイの言葉を笑顔で受け流すディアブロ。

 事実ソウエイのみが、万が一の場合に備えた数多の連絡手段の中でも唯一の、物理的連絡手段を用意しているリムルの配下なのだ。

 その手段とは、『影空間』を利用した『粘鋼糸』による接続である。

 糸電話の応用であるが、複雑な暗号通信により会話より早く意思の遣り取りが可能となっている。

 配下間の『思念通話』はある一定の者には痕跡を探知されるので、こうしたアナログな手法による伝達手段も用意されていたのだ。

 万が一に備えてリムルが用意したものだったが、それを知るのはソウエイだけの筈だったのだが……。


「何故お前が知っている?」


 殺気立つソウエイ。

 それに対するディアブロは悠然としたものだったが、珍しく感情を露にした。

 その美貌に、悪魔的な笑みを深くしたのだ。


「クフフフフ。やはりあるのですね? リムル様ならそういう手段を用意しているだろうと思っておりました。今までは必要性を感じなかったので気にしていませんでしたが、今は状況が状況ですので確認させてもらったという次第です」


 やられた、とソウエイは思った。

 誘導尋問に引っかかるとは、ソウエイらしからぬミスである。

 しかしそれはソウエイのミスというだけではなく、ディアブロが巧妙に『思考誘導』を仕掛けた結果でもあるのだが。

 普段であればかからなかったであろうが、今は緊急時。

 ソウエイとしても長々とディアブロの相手をしている場合ではなく、即座に動く必要があった。

 故に、ちょっとした焦りから誘導に引っかかってしまったのである。

 ソウエイは「チッ」と舌打ちすると、椅子に深く座り直した。


「お前にも協力してもらう事になるが、構わないな?」

「ええ、勿論ですとも」


 ソウエイが苦虫を噛み潰したようにディアブロに問い、満足そうに頷きつつディアブロは了承する。

 こうして、ディアブロとソウエイは協力して行動を開始する事となったのだ。


      ◇◇◇


 ディアブロをはぐらかす事を諦め、計画に組み込む事にしたソウエイ。


「入って来い」


 ディアブロが了承した途端、ソウエイは時間が惜しいとばかりに隣の部屋に声をかけた。


「いやー、はっはっは。ソウエイはんもまだまだですな。キッチリとディアブロはんに嵌められてもうて」

「そんな事言って挑発しちゃ駄目だよ。アタイだって、ディアブロ様に凄まれたら一発でゲロっちゃうもん」


 呼ばれて入って来たのは二人の人物である。

 ソウエイの失敗を愉快そうに笑う男と、それを仕方ないと流す少女。

 ラプラスとティアだった。


「黙れ。ディアブロの参加は予定通りだ。時間がない。さっさと段取りを打ち合わせるぞ」


 ソウエイはサラッと自分のミスをなかった事にし、ディアブロの参加は当初からの計画通りだったという風に話を進める。


「ちょ!? ソウエイはん、自分のミスはなかった事にす――」

「ソウエイ様は『黙れ』と仰いましたよ?」


 騒ぎ始めたラプラスの首筋に、ソーカの苦無クナイが添えられた。

 つつぅ、と冷や汗を流しつつラプラスは笑って誤魔化し、口を閉じた。

 ソウエイはそんな遣り取りを完全に無視し、説明を始めた。


「確かにディアブロの推測通り、俺はリムル様より密命を受けている。その命令とは――」


 ソウエイは、リムルより受けた命令の内容を包み隠さず話した。

 どの道、信用の出来る手駒は欲しいと考えていたからだ。

 リムルの命令の中の最重要課題は、シュナやシオンだけでなくミリムにも、リムルの行動及び現在位置がばれないようにするというものだった。

 シュナとシオンは残している本体に気を取られているが、ミリムは天空よりたまに遊びに来る。

 その際、何かやっているとばれてしまうと、全てを台無しにされると心配しているようだ、とソウエイは説明した。


「そりゃあ、あのミリム様なら……ワイらが何か隠してると知れれば……」

「ふむ。確かにその通りです。それで執拗なまでに痕跡を残さぬように行動しておられたのですね」


 納得するラプラスとディアブロ。

 それを踏まえた上で、今回の命令遂行に向けて相談を開始する一同。

 命令内容は以下の二つ。


 一つ目は、リムルの乗る飛空船から学生のみを拉致し、マルドランド島へと連れて行く事。

 そこで全員を解放し、徹底的に実戦の中で鍛え直させるのが目的だった。


 二つ目は、各学園の内部腐敗の調査である。

 学生の歪みの元凶を取り除く為にも学園内部に異常がないかを確かめよ、というのが命令の骨子だった。その際、一週間程度イングラシアへ生徒の到着が遅れる旨を伝えるように、との指示も出ていた。


 この二つを同時に行う必要がある。

 そして既にリムルの乗る飛空船は出発している、というのが問題だった。

 これに追いついて学生を収容するだけの空間を持つ乗り物を用意する事は、まさしく時間との勝負となっていたのである。


「ラプラス、お前を呼んだ理由は理解したか?」

「ちょ!? まさかとは思いますけど、ワイの武装空賊船を――!?」

「他に何がある? なにやら嬉しそうに自慢していただろう? 今使え」


 ソウエイの言葉に青褪めるラプラス。

 武装空賊船とは、ラプラスにとって大切なものであるらしい。


「ところで、武装空賊船とはなんですか?」


 気になったのか、ディアブロがラプラスに尋ねた。

 すると、急に元気を取り戻したラプラスが、嬉しそうに語り始めたのだ。


「気になりまっか? 実は、これはリムル様の造られたパーツを集めて組み立てる、高尚なる紳士の嗜みでしてねえ! この前もベニマルはんの船と勝負して、圧勝したんでっせ? 色を赤く塗ったら速度を三倍にしてやろうとリムル様に言われたもんで半信半疑で了承したんでっけど、あれは正解でしたわ! それに、この前の裏の仕事の報酬でもろうたチップを投入して仕入れた高速機関砲の威容! あれこそ正に空賊船っちゅうもんです。次狙っとるんは、電磁衝角でんじしょうかくなんでっけど、これには光学兵器である高出力熱線砲に――」

「ちょっと待ちなさい」


 怒涛のように自慢し続けるラプラスを、ディアブロが止めた。

 気になる事は多々あるが、今はラプラスに語らせている時間などないのだ。


「先程から聞き捨てならない言葉が幾つかありましたが、その武装空賊船とやらにはリムル様も携わっておられるのですか?」

「おい、今はそれどころではなかろう?」

「いえ、重要な事ですよソウエイ。今のチップポイントのラインナップには、そのようなものも並んでいるのですか? そしてそれを、貴方だけではなくベニマル殿も集めている、と?」

「せやで? 他にもガビルはんや、ゲルドはんも集めとるで。時間以内に他に希望者が居らんかったら早い者勝ちで、希望者が被ったら入札ゆうルールやな。今もっともホットな趣味なんや! ゲルドはんは竜骨を磨く事から始めとるしあの人は玄人やで。それから――」


 嬉しそうに語り続けるラプラスを放置し、ディアブロはソウエイに振り向いた。


「知っていましたか、ソウエイ?」

「何かやっているのは知っていたが……まさか、そこまで広がっていたとは……」


 面白くなさそうにソウエイも呟く。


「リムル様について詳しい私と貴方――だが、二人ともまだまだだったようですね。まあいいでしょう。今回はそれは置いておくとして、先に話を進めるとしましょうか」

「そうだな。終わったら詳しく調べるとしよう」

「その時は、私にも説明をお願いしますね」


 ディアブロとソウエイは頷きあい、話を進める事にした。

 ラプラスを黙らせて、武装空賊船により学生を拉致する任務を与える。


「やはり、ワイの船を――」

「リムル様からの言伝だが、今回の任務を達成したら私掠免許状しりゃくめんきょじょうを用意しても――」

「やるで! ワイに任せとき!!」


 ラプラスは満面の笑顔となり、ティアを引き連れて嬉しそうに飛び出して行った。

 人をおちょくったような道化面に悪そうな表情を浮かべているので、任せても大丈夫そうだと判断する二人。

 ミリムに気付かれないようにするには、『空間転移』なども極力控えた方がいい。今回の任務はラプラスに任せるのが最適であるというのは、リムルから命令を受けた時点でソウエイの中での決定事項だったのだ。

 ただ、飛空船にそんなブームがある事を知らなかったのは、思いもしなかった落ち度であった。

 その事を内心で反省するディアブロとソウエイ。

 それから二人は、二つ目の命令についての相談を開始するのだった。


      ◆◆◆

 

 飛空船が飛び立ってから暫く経過した。

 天候の関係で前後するが、後十時間もせずにイングラシア学園都市に到着予定である。

 が、今回はとあるイベントが間もなく起きるハズ。

 と思っていると、予定通りラプラスがやって来たようだ。

 機内アナウンスにて、緊急事態が告げられた。

 隣に座ったマグナスから、しきりに話しかけられていたので助かった。

 好きな食べ物は何だの、趣味は何だの、なんで俺がお前に教えないといけないんだよって話である。

 まさかとは思うが、マジで俺の事を口説いてるんじゃないだろうな?

 このグルグル眼鏡とマスクを装着した今の俺は、髪の色も黒いし肌も黄色系である。なので、かなり地味目になっているから大丈夫だとは思うけど……。

 まあ、ラプラスが来た時点で関係ないか。

 今からは人を口説くような余裕もなくなるだろうから。


「ひゃっはーーーあ!! この船は空賊――欲望の道化団グリードサーカス――の支配下にあーる! 泣け、喚け、そして絶望するがいーい!」


 船内に響き渡る楽しげな声。

 ラプラスの野郎、全力で楽しんでいるようだな。

 私掠免許状しりゃくめんきょじょうを欲しがっていたのは、これがやりたかったからか。

 まあ実際、それは俺にとって損にはならない。

 魔天航空会社テンペストエアラインの船を襲うのは論外だが、他国が開発した船が空に進出するのは面白くないのだ。

 一応、飛空船の開発関係の技術は、帝国から全て没収している。

 戦後交渉にて、帝国の独立を認めるという条件の一つに設定したのだ。大空の支配権は、テンペストの独占を維持したいからな。

 ないとは思うが、国家間戦争に飛空船を利用させない為にも、この案件は最重要課題だったのである。

 陸海空の中で、空を外した戦争ならば局地戦にしかならないからな。

 俺達に喧嘩を売って来るような馬鹿は百年以上は現れないと思うけど、他国間同士が争う事まで止めるのは難しいだろう。俺達は調停役にはなれるだろうが、戦争前から出しゃばると逆に反感を買う恐れもあるだろうから。

 そうした事を踏まえて考えると、民間人に影響が出ないレベルでの戦争に留めるならば、航空戦力を排除しておくのが望ましいのだ。

 飛空船は、戦争の概念を変える発明である。だからこそ、俺達が独占しておく必要があるのだ。

 なので、他国が開発する飛行機関連は潰す必要があったのだ。

 なんらかの策を弄そうとは思っていた。ラプラスに任せておけば、そうした雑務を嬉々としてやってくれそうだから丁度いい。

 後は、俺が背後にいると思わせないようにするだけである。バレるのはいいが、証拠だけは残さないように注意させるとしよう。

 そんな事を考えつつ、成り行きを見守っていた。

 すると、


「安心していいよ。君は僕が守るから!」


 マグナスとやらが、俺の手を取り恥ずかしげもなくそう言った。

 背中に走るむず痒い感覚。

 なんちゅうことを、なんちゅう事をしよるんじゃあ! と絶叫しそうになる。

 何が、「安心していいよ。君は僕が守るから!」だ。

 ふざけんなよ、馬鹿野郎。そもそも、男だっつってんだろうが。

 身体はともかく、心は紛れもない男なのだ。マグナスか、本当に人の話を聞かない野郎である。

 と、思わず愚痴ってしまった。声に出さなかっただけマシとしよう。

 マグナスの事は置いておいて、俺は俺の仕事をしなければならない。


 機体に衝撃が走り、ラプラスの船が接触した事を知らせる。

 今頃操舵室コクピットでは大慌てしている事だろう。

 先ずは安心させるとしよう。

 俺はこういう事態を想定し、全ての機体に緊急通信用の端子を用意していた。

 指先から『粘鋼糸』を出し、速やかに機体の各所に設置された端子の一つに接続する。

 これで通信暗号を利用して、モニターに文字を入力出来るようになった。

 『思念通話』を使えば簡単なのだが……。

 痕跡が残りそうな能力スキルをなるべく使わないようにしているので思った以上に苦労する。

 と文句を言っているが、実はこういう状況を楽しみたいと思ってこういう装置を仕込んでおいたのだ。

 役に立って何より。スパイになったような気持ちで楽しんでいるのは秘密である。

 操舵室コクピットのモニターに、俺からの伝言が羅列された。

 それを見て、航空通信士が青褪めつつ船長に報告しているようだ。俺の『空間把握』によって、手に取るように状況は伝わっている。

 状況を伝え、こちらが操舵室コクピットの状況を把握している事も知らせた。

 すると、流石はエリートの航空士達。

 速やかに俺の知らせた筋書きシナリオ通りに行動を開始したのである。その口元には笑みが浮かび、退屈な空の旅に良い刺激が出来たと言わんばかりであった。

 何よりも、俺の名で命令している事が大きい。

 自分達の所属会社のトップからの命令だ。

 そりゃあ、張り切るのも当然だろう。


      ◇◇◇


 それから先はスムーズに事が運んだ。


「ひゃっはーーーあ! 僕チンは、強力な手下を必要としているのだあ。若く優秀なお前達ィ! 僕チンの部下となるなら命は助けてやーーーる!!」


 ノリノリなのはわかったから、その変な言い回しはなんとかならないのだろうか?

 この調子で毎回やられて、万が一俺の部下とバレたら……。

 いや、そんな先の事を考えるのは止めておこう。

 それよりも、今を楽しむべきだ。


「き、貴様! 栄光あるテンペスト人材育成学園の教師を――グバァ!?」


 調子に乗っているラプラスに、勇敢な教師の一人が挑みかかった。

 が、言うまでもないが返り討ちにあっている。

 教師は優秀な者が多いが、学年主任がAランク相当という程度である。強さだけで選ぶ訳にはいかないので、戦闘能力だけで見ると十分だったからだ。

 一般教師はBランク〜A-ランクという感じであり、ラプラスに勝てる訳がなかった。

 あの教師は見所がある。辞められると困るので、後で見舞いの品を持って挨拶に行くとしよう。


「ふっふーーーん。僕チン最強! その程度で僕チンに勝てると思ってたのかな〜? 甘いよ、甘い甘い甘い!」


 ラプラスの演技に熱が入ってきた。

 満足していると、チラッとこちらを見て褒めて欲しそうにしている。

 俺は慌てて視線を逸らした。

 あの馬鹿、俺達が仲間だとバレたらどうするつもりだ。しかもコッソリと手で示したサインは、褒美のチップ増量を期待しているというものだった。確かに演技に熱が入っているのは認めるが、中々に図々しい野郎である。

 とまあ、俺はラプラスに呆れていたのだが、船内の客はそういう訳にいかない。パニック寸前となって席を立とうとし始める。

 しかし――


「はーーーい、ストップ! 今調べたら、この船には学園の生徒が多数乗ってるそうですねえ。船長、今回はそのガキ共を攫うってのはどうでしょう? そこのオッサンとか攫っても……今から鍛えても役に立たないでしょうし」


 あれはティアか。

 船の連結が終わったから、こちらにやって来たのだろう。

 結局、船の上での戦闘行為はそれ以上発生しなかった。

 何故なら、やって来たティアが気絶した添乗員二人を引き摺っていたからだ。

 気絶というか、演技だけどな。

 Bランク程度の達人では相手にならないと悟ったらしく、一般客はもとより学園の教師陣さえも抵抗を諦めたようだ。

 そもそも船内で本気の戦闘となった場合、この船そのものが破壊されてしまう恐れがある。

 そうなったら全員お陀仏だと判断したのだろう。

 そのままラプラスに従い、学生はラプラスの船へと移乗していく。


「いいか、絶対に船内で暴れるなよ? 暴れたらマジで僕チン大激怒するからね!」


 この台詞は本気だな。

 ラプラスはこの船を非常に大切にしている。船内を傷つけるだけで、大人気なく暴れ狂うのは間違いないだろう。

 というか、よくぞこの船の使用に納得したものだ。俺の提示した私掠免許状しりゃくめんきょじょうの魅力だけではなく、他にも理由がありそう……って、ディアブロにでも凄まれたのかもな。ラプラスはディアブロに苦手意識を持っていたし、逆らうよりも大人しく私掠免許状しりゃくめんきょじょうで手を打ったのかも知れない。

 とすると、この状況は全てディアブロに筒抜けと見るべきか。

 流石はディアブロ、俺の行動に関してはかなり正確に読み解いたようである。

 そんなこんなで学生はラプラスの船へと移乗した。

 豪華客室にいた奴等も漏れなくである。これはティアが先行して黙らせていたようだ。

 こうして俺の思惑通り、学園関係者は全てラプラスの船でマルドランド島へ移送する事に成功したのである。



 ちなみに、俺達が去った後の船内では。


「――お騒がせして申し訳ありませんでした。只今の空賊とは、我等が魔天航空会社テンペストエアライン総帥であるリムル・テンペストが考案した余興で御座います。退屈な空の旅のささやかな刺激としてお楽しみしていただこうと企画されました。尚、学園の関係者には、危機対応を学んでもらうという趣旨の下、この企画は知らされておりませんでした。緊急時の演出に真実味を持たせる為の措置としてこうなりましたことを、ここにお詫びさせて頂きたく思います――」


 という趣旨の放送が流された。

 これにより、乗客の不安や恐怖は拭い去られ、安堵感からの興奮により機内は興奮に包まれたようである。

 俺の名を出した事で苦情は出なかった。

 まあ、損害も出ていないし概ね問題はなかったのだが……。

 後に、空賊として暴れるラプラスとこの件を関連して連想する者が出るのは仕方ないと思う。

 その時はその時で、模倣犯と言い切ろうと心に誓ったのだった。


 ――それに、関係を連想されるのも計算の内なのですよ。リムル様が大空への進出を許さないという暗黙の脅しになるのですから――


 何者かがほくそ笑んでいるような気がしたが、多分気のせいなのだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 自信過剰君がリムるの手を取ったってなってるけど 多次元結界で触れられないんじゃないの?
[良い点] とっても面白いです!
[一言] シャア…ですよね~。
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