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転生したらスライムだった件  作者: 伏瀬
天魔大戦編
220/304

213話 非道なる結末

 ナイフが煌き、直刀がそれを弾く。

 先程から、激しい攻防が繰り広げられていた。

 互いがフェイントを仕掛けて、戦闘を有利に進めるべく画策する。

 高度な心理戦を交えた駆け引きが行われていたのだ。

 ソウエイとラプラスが対峙する中、轟音とともに真っ赤に灼熱したカザリームが降ってきた事により、そんな二人の戦いは中断される事となった。


 カザリームが大広間に叩き付けられた衝撃で、床が弾け飛び破片を撒き散らす。

 その身が高熱で焼かれたのだと証明するように、床に敷き詰められた大理石が溶け出していた。

 当然、カザリームは無事ではなかった。

 半身が焼失し、普通なら生きているとは思えぬ程の惨状となっている。

 だが、そんな状態になってもカザリームは生きていた。


「あ、姐さん!」


 ラプラスは驚き、慌ててカザリームへと走り寄った。

 人を食ったように飄々とした態度からは想像出来ない程の、狼狽ぶりである。

 ソウエイとラプラスの戦闘を見守りつつ負傷の手当てをしていたレオン達も、カザリームの惨状を見てその動きを止めていた。

 誰もが皆、その姿を見ただけで理解出来たのだ。

 ベニマルが勝利し、カザリームの寿命が尽きかけているという事を。

 精神生命体とは頑強な生命力を持つこの世の頂点たる者達である。

 しかし、その心が折れて負けを認めた瞬間から、生命力(=エネルギー)の減少が加速し、消滅へと至るのだ。

 カザリームの状況は正に、誰の目から見ても敗北であり、生命力エネルギーが見る見る減少を開始していたのである。


 ソウエイは警戒しつつも、ラプラスを止めはしない。

 それが演技であるとは思えなかったし、それが策であったなら、迂闊に動く方が危険だと判断したのだ。

 ソウエイの見立てでは、ラプラスとソウエイはほぼ互角であった。

 致命的な隙を見せた方が敗北すると、先程までの手合わせで理解出来ていたのである。

 油断なく、ラプラスの行動を見守るソウエイ。

 その隣に、上空から音も無くベニマルが舞い降りた。


「終わったのか? だが、少し過剰にやり過ぎたのでは無いのか?」

「いや、アイツの魔素量エネルギーは俺を上回っていたんだぜ。

 手加減なんて出来る訳ねーだろ。

 全力の一撃で沈めなければ、消耗戦になっちまう。

 そうなったら、下手すればこっちが負けてしまうからな」


 ソウエイの問いに、ベニマルは答えた。

 事実、基本的なエネルギーの大きさを比べるならば、カザリームはベニマルの2倍以上であったのだ。

 ベニマルは、魂の回廊を通じてリムルより魔素量エネルギーを借り受けて、ようやくカザリームに匹敵するパワーを得ていたのだった。

 それがディアブロより習得した、上位者の権能を借り受ける戦闘法である。

 当然条件は厳しくなっており、リムルが能力を全力使用して戦闘していたりした場合は行使出来ないのは当然だった。

 他にも、自分の最大魔素量マックスエネルギー以上には借り受ける事は不可能だ。

 制御不能となるからである。

 その他、細かな制約が幾つか存在するのだが、自分の力以上の能力を行使する事が可能となる禁断の秘儀だと言えるだろう。

 これが可能なのは、ディアブロ、ゼギオン、ベニマルの三強のみである。

 他の幹部達にも秘匿された、究極奥義であった。

(だが、ディアブロがこれを俺に教えてくれた意図だけは、未だに理解出来ん……)

 そんな疑問を胸に、ベニマルはソウエイに対しては余裕の態度を崩さないのだった。

 実際、リムルから借り受けた虚無のエネルギーを加速させて纏う事で、聖魔合一されたカザリームの攻撃を防ぎきる事が出来たのだ。

 自分だけの力であれば、かなり厳しい戦いになっていたのは間違いない話であった。

 勝てたかどうかで言えば、ギリギリ勝てただろうとは思うのだが、実際に試したいとは思わないベニマル。

 それ程に、四凶天将カザリームは強敵であった。


「それもそうだな。あんな化物クラスになると、どんな隠し技を持つかも不明だし、な」

「だろ?」


 ソウエイはそれ以上の追及はせず、軽く頷いたのだった。

 ソウエイも納得したようなので、ベニマルはカザリームに止めを刺すべく歩き出した。

 勝利は確実だが、ここでカザリームを消滅させておかないと復活する可能性もある。

 次も勝てるという保障は無い以上、キッチリと消し去るつもりだったのだ。

 だが、ベニマルが近寄ろうとした時、カザリームがボソボソと話始める声が聞こえた。

 その言葉を耳にして、ベニマルが歩みを止める。


「なあ、ラプラス……俺、どこで間違ったんだろうな?」


 最早、見えない筈の目を虚空に向けて、カザリームがそう呟いたのが聞こえたのだ。

 カザリームの述懐は続く。


「最初は、俺達が楽しく暮らせる場所が欲しかっただけだったな……

 その近道が魔王になる事で、俺が魔王になって――

 で、調子に乗ってしまったのかな……」

「ええですやん、そんなん。誰かて調子に乗る事はありまっせ!」

「そうだ、思い出した。人間の癖に魔王を名乗るレオンがムカついたんだ。

 ツマンネー事に拘って、レオンに喧嘩売って……

 ははっ、寝た子を起こすように覚醒させちまったんだったな……

 そしてワタクシは殺されて、ずっとレオンを恨んで生きてきたのよね……

 でも、不思議ね。

 どうして、そんな事にずっと――

 俺達は、ただ楽しく生きて……

 ラプラス、お前は間違える、なよ……ワタクシ……、俺みたいに、失敗す、るぞ……

 また、楽しく――――――」


 カザリームの意識は、深い闇の底へと沈んでいく。


 ――ああ……そうだ……クレイマンにも謝らないと――


 それが、カザリームが最後に思い浮かべた言葉だった。


「姐さん? カザリーム様!? おい、アカンて、しぶといのダケがアンタの取り得やん!

 諦めたら、そこで終わってまうやん。嘘やん、こんなんないわ……

 ワイは騙されへんで、ふざけんなや! また一緒に、楽しく――

 ワイ等を置いて、勝手に行ってまうんか!? う、うぁ、うおおぉ―――ん!!!」


 号泣するラプラス。

 それは余りにも無防備で、ベニマルの動きを止めるのに十分だった。


「え、そんな……嘘だ、カザリーム様!?」


 ティアは力無く座り込み、現実が受け入れられないのか放心してしまった。

 時が止まったような静寂が大広間を満たし――


「ほぉーーーっほっほっほ! 今こそ、これの出番ですね!」


 突如、機械仕掛けのような不自然な動きで、フットマンが跳ね起きた。

 手には、禍々しい丸い玉を持っている。

 その手に持つ玉を天に翳した時、それは起きた。


『やあ、ボクの名はヴェルダ。

 どうやらカザリームが敗北したか、洗脳が解けてしまったのかな?

 ま、どっちでもいいけどね。

 さて、長く話すのも何だし、ボクはさっさと目的のモノを回収させて貰うね』


 玉が光を放ち、空中に少年――ヴェルダ――の姿を描き出す。

 その像は形を結び、少年の姿を明確に現した。

 そして言葉を発したのだ。

 告げられた言葉に、一同は動きを止めた。少年の話に興味がある訳ではなく、その目的を察する事が出来なくて迷った為だ。

 加えて、少年から感じる確かな威圧感。

 本体が降臨したのか、或いは分身体なのか。

 上位存在であるミザリーやレオンでさえも、その少年から感じる覇気オーラに圧倒され、迂闊に行動する事が出来なくなっていた。

 油断なく身構えるのみである。


「何やと……? カザリーム様を、洗脳してた、やて!?」


 反応したのはラプラスだった。


「貴様ぁ! ワイの、ワイの仲間達を何やと思っとるんや!!」


 滅多にない怒りを見せるラプラス。

 だが、ヴェルダにその声は届かない。ラプラスに興味を持つ事なく、淡々と目的に沿って行動する。

 ヴェルダは周囲の反応を気にする事なく、右手をカザリームに向けて翳した。

 その瞬間、カザリームの燃え残った肉体から光が分離し、ヴェルダの手へと吸い込まれていく。


「させるか!」


 ソウエイが神速の突きをヴェルダに放ったのだが、その突きは像をすり抜けてしまい、必殺の効果を発揮する事は無かった。


「幻影、ではない? 実体を持つ幻影……?」

「これは!? 並列存在の一種?」


 レオンとミザリーの分析に対し、


『ああ、ボクの事は気にしなくていいよ。これは単なる記録映像さ。

 君達の行動を予想して話しているから、若干違和感があるかもね。

 さて、目的のものは回収が終わったし、消えるとするよ。

 そうそう、最後にプレゼントをあげようかな――』


 自分から記録された映像であると告げるヴェルダ。

 異常に真っ先に気付いたのはベニマルだった。

 ヴェルダの実態が記録された映像であると事前に察知していたベニマルは、混乱する事なくフットマンの持つ玉の行く先を追っていたのだ。

 玉は光を放ち終えると鼓動を開始し、フットマンの肉体を侵食し始めていた。


「気をつけろ! そこのデブが何か――」


 ベニマルの警告と同時だった。

 カザリームの身体が発光し、強烈な光と破壊の力を周囲に解き放った。

 残った全ての聖魔混合エネルギーを暴走させて、圧縮爆発を生じさせたのだ。

 自らの器の中で、最大限に魔力を膨張させた上で、それを一気に解き放つ。

 閃光が走り、城の大広間を熱を伴わぬ滅びの光が満ち溢れる。

 それは、圧倒的な殺傷力を撒き散らし、生きている者達へと襲い掛かった。

 ヴェルダの意思がカザリームに与えていた自らの能力を回収するのと同時、その身に宿すエネルギーを操り、暴発の引き金を引いていたのだ。


「ッチ!」


 対応出来た者は少ない。

 そんな中、ベニマルは爆発の閃光を全て回避するという離れ業にて難を逃れつつ、周囲の状況を観察する余裕まであった。


 カザリームから離れていたソウエイは、瞬時にフットマンを盾にするように位置取り、多重結界による防御を行った。

 ミザリーは表情を変える事もなく、全身を覆う結界魔法を発動させたが、無効化出来たのは半分程度。残りのエネルギーを浴びてダメージを受けたようだが、精神生命体の面目躍如により瞬時に外傷の再生を行ったようだ。

 カザリームの傍でヴェルダに対する怒りを顕にしていたラプラスだったが、その予知能力が彼の命を救ったようだ。

 爆発の一瞬前に反応出来ないでいたティアの元まで移動して、ティアに覆いかぶさりつつ結界を生じさせる。それでも背中に大怪我を負っていたが、辛うじて死を免れたようだった。

 そして、レオンの仲間達は――

 魔王レオンの生み出した防御結界とレオンが自らの身体を盾にして守った事で、全員が無事だったようだ。

 だが、自分の防御より仲間を守る事を優先したレオンは、無効化出来なかった滅びの光を浴びた事で動く事すら出来ない大ダメージを受けてしまっていた。

 しかしそれでも、レオンの目には不屈の意思の光が輝いており、ヴェルダから視線を離さない。


 今の攻撃は凶悪であったが、死亡した者は居ないようだ。

 そんな状況を見て取りホッと息を吐くベニマルだったが、その認識に小さな違和感が生じる。

 その違和感は、フットマンから感じ取れた。

(何だ……?)

 そう疑問に感じたのだが、


『どうだった? 花火、綺麗だったかな?

 さて、ではプレゼントだけど、そろそろ混じった頃だと思う。

 そこのフットマン君には、ヴェガの卵を与えた。

 究極能力アルティメットスキル邪龍之王アジ・ダハーカ』を移植した複製体だけど、性能は同等なんだよ。

 今のカザリームの爆発エネルギーを吸収して聖魔気を獲得出来ていたら成功なんだけど、どうなっているかな?

 まあ、成功でも失敗でもどっちでもいいんだけどね。

 それじゃあ、精一杯楽しんでね。バイバイ!』


 ヴェルダの映像が発した言葉の意味を理解するのに、一瞬だけ意識を奪われてしまったのだ。

 今告げられた言葉が、それだけ衝撃だったのである。

(転移術式、か? カザリームに埋まっていたコアのみを手元に戻したのか?)

 ベニマルは分析するが、正解かどうかは自信が無かった。

 今はそれどころではなく、生み出された邪悪な化物の方が問題だった。

 ヴェガという四凶天将が暴れたという話と、その戦闘能力についての報告は受けていた。かなりの不死性を有する凶悪な化物である、と。

 そんな化物に対する有効手段は、圧倒的なエネルギーによって消滅させるしかない。

 それなのに、そんな化物が聖魔属性を持ってしまったなら、通用する攻撃手段が激減してしまう事を意味する。

 それこそ、下手をすれば倒せぬような化物が生み出された事を意味するのだ。

(不味いな。さっき陽光黒炎覇加速励起プロミネンスアクセラレーションは使ってしまったし、まだ魔力パワーが回復しきってねーぞ……)

 ベニマルが持つ最強攻撃を叩きつけるならば、確実に消滅させる事が可能だろう。しかし、リムルの虚無エネルギーを借り受けるにも、ベニマル自身の魔素量エネルギーの損耗率が大き過ぎると危険だと冷静に判断する。

 つまり、現状でヴェガ級の――それも聖魔属性に耐性を持つ――化物に対処するには、戦力が足りないと判断せざるを得ないのだ。

 ベニマルがカザリームに対し、最大最強の攻撃を放ったのが裏目に出たのだ。

 時間を掛けて倒す事も出来ただろうが、勝負を速攻で終わらせてラプラスも始末する。それがベニマルの判断だった。

 ラプラスを相手にするだけなら、残った魔力でも十分にお釣りがくる。ソウエイも居るし、覚醒魔王級が4名も居るのなら何も問題ないという判断だったのだ。

 早期決着を狙ったベニマルの判断は、決して間違ってはいなかったと言える。

 ただし、今となっては早計だったと悔やまれるというだけの話。

 現有戦力では、レオンは満身創痍でミザリーも無事とは言い難い。

 ソウエイは無傷だが、対個人特化の能力が主である。広範囲攻撃を所有していないので、ヴェガを消し去るには向いていないのだ。

 何より、ラプラスがどう動くか不明な以上、そちらへの備えも必要となる。

 それ以下の者達は、最早戦力外。

 ここで取れる作戦は、ベニマルが主となりミザリーに補助を頼む戦術しか無いだろう。

 ミザリーが、カレラ級の特大攻撃手段を有している事に期待するしかないのだ。

 もしその手段が無いならば、ベニマルのエネルギーが回復するまでの時間を稼ぐのみ。

 ヴェルダは自分の言いたい事だけ言うと、痕跡も残さず唐突に消え去ってしまった。

 本人の言った通り、事前に登録してあった映像であったようだ。

 警戒すべきは、ヴェガの卵を宿したフットマンのみ。



 ベニマルが思考を纏め終えるのに要した時間は、一秒の千分の一以下という短い時間だった。

 だが、その一瞬の思考時間が、決定的な隙となってしまっていた。

 ベニマルがフットマンに視線を戻した時、既にそれは行われた後だった。


「ほーーーっほっほっほ。見ましたか、ラプラス?

 憎たらしいレオンは、たった今、このワタシ、怒った道化アングリーピエロのフットマンが殺しました。

 カザリーム様の無念も含めて、今こそ、この怒りを晴らして見せましょう!!」


 得意の絶頂と言わんばかりのフットマン。

 その声に裏打ちされるように、レオンの胸からフットマンの抜き手が突き出している。

 流れ出る大量の血液。


「「「レ、レオン様!!」」」


 慌てふためくレオンの配下達。

 そんな中、ゆっくりとした動作でレオンが崩れ落ち、口から大量に吐血する。

 心臓を穿たれて、誰の目にも致命傷であるのが理解出来た。

 ヴェルダに意識を奪われていたのも原因の一つだろうが、満身創痍のレオンでは、既にフットマンの動きに対処出来なかったのだろう。

 八星魔王オクタグラムの一角であるレオンが、今正に崩されたのだ。

 精神生命体であるミザリーであれば、コアを破壊されぬ限り再生可能だっただろう。

 しかし、レオンは人間の上位種である聖なる肉体を持つ者である。

 覚醒した勇者であり、寿命も無いに等しい存在ではあったが――肉体に依存しているのは間違いないのだ。

 精神生命体へと進化し、半神半人デミゴッドに至っていれば、話は違ったのだろうけれども。




 高笑いを続けるフットマン。


「アホか……今はそれ所やあらへんで……

 姐さんの最後の言葉を聞いてなかったんかいな……」


 そんなフットマンに、重症ながらも突っ込みを入れるラプラス。

 しかし、フットマンの耳には入らない。

 既にフットマンは、自分の妄想の中に生きており、理性も心も何もかもをヴェガの卵に喰われているのだ。


「何や、フットマン。君も、既に壊されとったんかい――」


 ラプラスは悔しそうに呟いた。

 その目にハッキリと、フットマンが壊れゆく未来が視えたから。

 ヴェガの力は侵食を続け、フットマンの怒りも想いも記憶すらも喰い尽くす。

 そうすれば、残るのは単なる破壊の化身のみ。


「許さんで、ヴェルダ!!!」


 ラプラスは、怒りとともに復讐を胸に誓った。


「ティア、ちょっと離れとき。ワイ、本気で切れたん、久しぶりやから」

「え、でも……フットマンは……?」

「フットマンは操られとるんや。ヴェルダの糞野郎に。

 せやから、さっさと楽にしたらなアカンねん」

「――わかった。無茶しないでよ!」

「ところで、君はヴェルダから何も預かったりしてへんやろね?」

「アタイには何も……。多分、ずっとカザリーム様にくっついていたからかも。

 ラプラス、アタイを一人残したりしないでよ……?」

「ははは、任しとき。ワイは実は、カザリーム様より強いんやで?」

「うん。知ってた」


 何や知っとったんかい、と言いつつラプラスはフットマンに視線を向けた。

 その目は既に全ての感情を飲み込み、一切の心の乱れは消えている。

 魔人ラプラスは、飄々と立ち上がった。

 そして、ベニマルの傍まで気楽に歩み寄り、


「なあ、一時休戦といこや」


 そう、抜け抜けと提案したのだった。




 ベニマルはその提案を受け入れた。

 嘘や罠である可能性もあったのだが、それを含めて利用する気でいたのだ。

 最大攻撃を期待していたレオンが脱落した以上、使える手は何でも使う。

 何より、ラプラスの警戒を解く事で、ソウエイも戦力に加える事が出来るのだから。

 ソウエイは何も反対する事なく、分身によりラプラスの動向を探らせている。その辺は阿吽の呼吸であった。

 暴れるフットマンを牽制しつつ、作戦会議を行う。

 レオンの容態も気になるが、今はフットマンを倒す事を優先する。


「確か、ヴェガって野郎は大地から魔素を吸い上げていたよな?」

「大地に接触する限り、無限増殖が可能だった筈だ」


 ベニマルとソウエイの言葉に、


「では、ご安心下さい。

 この城は、大地からも隔絶した球状結界にて現し世と隔離しております。

 先程ベニマル様とカザリーム様によりあけられた穴も、既に修復が終了致しました」


 ミザリーが答える。

 卒なく仕事していたようだ。

 ただし、ベニマルが期待するような広範囲攻撃手段は持ち合わせないとの事。

 当然ミザリーでも核撃魔法は使えるが、単なる魔法では効果が薄いと判断する。


「じゃあ、ピエロ。お前は何か、大技は持ってないのか?

 再生力が高すぎるから、多少削っても直ぐに元通りになるぞ?」

「ラプラスと呼んでや。

 で、質問への答えでっけど……スンマセンな。

 ワイも、そっちの兄さんのように、対個人に特化しとるんですわ」

「何だよ、使えねーな……お前さっき、カザリームより強いとか自慢気だっただろうが!?」

「アホ言いなや! 覚醒魔王化や熾天使セラフィム吸収とかの裏技を使われなかったら、の話ですわ。

 あんな反則されたら、いくらワイでも勝てる訳あらしませんやろ。

 せやけど、聖霊爆弾スピリットボムが後10個ありますよって、コレを連鎖爆発させれば――?」


 抜け目ないラプラスが、懐からチラリと爆弾を見せる。

 ほう? と頷くベニマル。

 フットマンの機敏な動作から繰り出される攻撃を回避しつつ、会議を行う4名。

 威力は壮絶なものがあるのだが、攻撃速度が遅いので助かっていた。

 どうやら、身体能力はフットマンに準じるようだが、それも時間の経過とともに速さが増している。

 今は良いが、その内に対処出来ない速度になる可能性もあった。悠長に時間を掛けるのは自殺行為となるだろう。


「よし、今のアイツの存在値エネルギーは、カザリームの残りカスを吸収しただけでそこまで大きくない。

 倒すなら、今だ!

 それに、時間をかければ肉体が完全にヴェガの性能に馴染んでしまいそうだしな」

「――そうだな。徐々に攻撃速度が上がってる。

 あの攻撃が聖魔属性を持つ以上、喰らってしまえば完全な防御は不可能だぞ」


 事実、聖魔両方の結界を張れる者でなければ、どちらかの属性は素通りするのだ。

 カザリーム並に使いこなせるようになってしまったならば、両属性の結界があったとしても無効化されてしまうだろう。


「ミザリーは、結界維持を全力で頼む。万が一にも、これ以上ヤツに力を補給させるな!

 ソウエイとラプラス、二人で爆弾をセットしてくれ。完了の合図はソウエイに頼む。

 合図と同時に俺が全てを爆破するから、お前らは逃げ遅れるなよ!」


 ベニマルの指揮の下、4名が一斉に動き出した。

 即席であったが、見事な連携を発揮し、ソウエイとラプラスの糸により、フットマンは固定される。

 その周囲を10個の聖霊爆弾スピリットボムが漂い、ソウエイが合図を発した。


「今だ!」


 同時に、ベニマルは起動させていた結界を慎重に重ね掛けする。

 周囲の探査を念入りに行い、フットマンの残滓がないかを見極めていた。

 その上で、分身増殖の余地が無いように封じ込めを行ったのだ。


「喰らえ、黒炎獄龍覇ヘルプロミネンス!!!」


 結界内を地獄の炎が吹き荒れる。

 同時に爆破された聖霊爆弾スピリットボムが、連鎖大爆発チェインエクスプロージョンを生じさせて結界内で暴威を振るった。

 本来であれば、聖魔属性の防御不可能の攻撃であったのだ。

 そう、本来であれば……。


「う、嘘やろ!? フットマンのヤツ、あの爆発エネルギーを喰ってるやん!!!」


 聖魔属性に合一化したエネルギーは、カザリームの属性を得たフットマンに相性が良すぎたのだ。

 身を焼かれつつも、超回復能力によりその身を再生させつつ、失ったエネルギーを補給する。最早フットマンの原型を留めぬ程に肥大化し、3メートル近い暴力の化身となって再生をしてのけたのだ。


「何で聖魔属性の爆弾なんか使うんだよ!」

「酷っ! アンタかて賛成したやないか!」


 ギャアギャアと言い合いをするベニマルとラプラスだったが、それは少しでも空気を軽くするための演技であった。

 状況は最悪であると言えた。

 今の攻撃が通用しなかった時点で、残された方法はベニマルの魔素量エネルギーが回復するのを待つという消極的なものしかないのである。

 それも、確実に通用するかどうか不明であったし、それだけの時間をかければフットマンがヴェガの力を使いこなせるようになるのも明白であった。

 今のフットマンは怒りで暴走し、その自我を失っている。

 この場に生きる者全てを殺し尽くすつもりなのだ。

 自我がなく攻撃が短調という点だけが、ベニマル達にとっての活路であった。


「仕方ねーな……持久戦になるが、やるしかねーか」

「だな、他に手段は無い」

「お供致します」

「しゃーなし、でんな。何よりも、生き残るのを優先、でんな」


 4名が覚悟を決めた。

 だが、そんな4名の悲壮感溢れる決意は、次の瞬間に崩壊する事になる。


「クフフフフ。だから、詰めが甘いと言うのですよ、ベニマル殿」


 いつの間にやって来たのか、邪悪な悪魔が突如フットマンの背後に出現し、その頭を掴んだ。

 そして、そのまま地面へと叩きつける。

 悪魔は振り向き、やれやれと肩を竦める。


「この程度の雑魚に、何を遊んでいるんですか皆さん?」


 嫌味ったらしい爽やかな笑顔で、そう言ったのだった。

 美味しい所を攫っていくとは……まさに非道!

 そういう意味は込められておりませんので、ご注意下さい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 太ったフットマンで爆発はまぁまぁライン際やな笑笑
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