クラリカ
翌日。今日は月曜日だ。つまり学校がある。憂鬱だ。
「浮かない顔をしてるな、奏多」
学校に着くやいなや、和人が声をかけてくる。まぁ、昨日は疲れたし、疲労の色があってもおかしくはないだろう。
「まぁ昨日は疲れたから……」
「そうか、それはお疲れさん。ところでこの写真の人知ってるか?」
そう言って和人が写真を見せてくる。銀髪のロングストレートで、赤い瞳。白いパーカー、黒のプリーツスカート。まて、これ俺じゃん。なんで和人が写真持ってるんだ?
「秋田で三並さんと一緒に居たって言われてネット上で話題になってた。めっちゃ美少女だし拡散数もやばかったよ」
盗撮なのでは……? まぁ高校生でBクラスの人ってもはや芸能人見たいなもんだし、有名税か。
にしても俺は……。俺はこの姿に関しては俺だってわからないだろうし構わないか。訴えても法的根拠がないしな。
「そうだな……。どこの国の人だ?」
よく見ると俺、見た目いいな。変身後ではあるけども。見ようによってはロシア系に見えなくもない。色白だからな。
「それはわからん。でもめっちゃかわいいよな。この人がアイドルだったらめっちゃ推すわ」
「へぇ、誰を推すって?」
和人の後ろに般若のような表情を浮かべた女子生徒が立っている。和人の彼女の青柳 はなだ。
「は、はな? ど、どうしてここに?」
和人が挙動不審になった。あー、こいつ終わったわ。
「何、私が居たらダメな理由でもある?」
「いや、それは……」
確実に尻に敷かれるタイプなんだな、和人は。
「で、誰を推すって?」
「えっと、この人です」
和人が敬語になった。こんなに弱気な和人はなかなか見ないぞ。
「へぇ……。確かにかわいいわね」
「でしょう!?」
「だからと言って私以外を推すのはちょっとねぇ」
和人が弱気になる理由も多少はわかる。圧がすごいなはなさん。
「すいませんでした!」
和人が席から立って深々と頭を下げる。うーん、現在進行形で尻に敷かれてますね。
「で、この子のSNSとかは判明してるの?」
どうやらはなさんも興味がある様子。この人、SNSないんだよなぁ。俺だし。
「いや、それが三並さんと仲がいいことぐらいしか判明してないんだよな」
それは昨日初めてこの世にでた人だからな。判明してるわけない。
「奏多は……。さっき初めて知ったもんな」
「お? おう」
唐突な話題に少々驚いたが、まぁそういうことにしておこう。
「そう……。まぁいいわ。この子にその肌の秘訣とか質問してみたかったんだけどね」
「はなは十分綺麗じゃないか?」
和人がそんなことを言う。確かにそうだな。なんも手入れしてない奴よりかは多分綺麗だ。俺、変身してるとはいえ何もしてないしな。
「この人と比べたら全然よ。この人名前はなんていうのかしら」
「そこも含めて不明なんだよな~。三並さんも何も言わないらしいし」
彩佳はどうやら俺の立場を守ってくれているようだ。単純に言いたくないだけなのかもしれないが。
「あや……三並さんと仲がいいんだっけ? それはどこ筋の情報なんだ?」
「あや……? いや、多分三並さんと一緒に居たから仲がいいんだろうという予測だと思うぞ。俺も写真の距離感的にはたぶん仲いいと思うし」
危ない、彩佳と呼ぶところだった。
なるほど、少し距離が近すぎたということか。変身してなかったらもっとよくない噂を流されるところだったかもしれない。
「まぁ続報に期待だな~。やっぱこの子めっちゃかわいいし気になるじゃん?」
「和人さぁ、彼女がいるとこでそういうこと言っちゃう?」
絶対に地雷踏み抜いただろ。
「和人」
はなさんが和人の名前だけを呼んで振り向かせる。声の冷気というか圧が凄まじいことになっている。
「は、はい」
「放課後、家に行くから。覚悟しておいてね」
「ハ、ハイ。ワカリマシタ」
そう言い放ったはなさんは時間なのか4組の教室から出て行った。和人が沈んでる。自分が悪いと思うのは俺だけだろうか。
というかリア充は自重してくれ。滅びろとは言わないから。
「お疲れ和人。そろそろホームルーム始まるぞ」
「あ、ああ」
ダメだ、完全に魂が抜けている。
◆◆◆
放課後、ホームルームが終わると直ぐに和人ははなさんに連行されていった。可哀そうなことだ。
バスで30分ほど揺られる間に、スマホで今日言われていた情報でも眺めてみるとしようか。
『おい、この銀髪の子かわいくね?』
『三並ちゃんの友達かな?』
『ロシア系の超絶美少女じゃん。いや、これロシア系?』
ネットの拡散力は恐ろしいものがあるな。彩佳とめっちゃ可愛い子を見つけたというSNSでの発信はすでに250万インプレッションを超えている。
バスに揺られながら返信等を見ていると、特定したい班が難航していることに気が付いた。
まぁ特定なんて監視カメラの情報にアクセスできなきゃ無理があるだろうよ。
『恐ろしいほどに情報がないぞこの子』
『家族らしき人の情報もないし、三並ちゃんもだんまり。詰みでは?』
『でもこんなかわいい子の情報は諦められねぇよ……』
ネットの民の執念に多少おびえながらも、まぁばれることはないなと安心しきっていたところで家に着いた。
自室で、鞄を置いたのち、自身に鑑定をかけてウィンドウを出す。そういえば、念じればこの腕輪が透明になるって話、彩佳にしたっけ?
スマホを取りだし、LUINで彩佳に連絡を飛ばす。
『なに?』
すると、すぐに頭の中で声がした。え、ここでも聞こえるんだ。
『いや、この念話できる腕輪透明化させる方法伝えたかなと思って』
『いや、聞いてないけど……』
そうだよな、やっぱり。言っておけばよかったか。
『別に不便はないから教えてもらわなくても大丈夫だよ』
『学校の校則とかに引っかからないのか?』
『なんかマジックアイテムが何たらって先生方も納得してたし大丈夫』
なるほど、多分Bクラス探索者としての特別措置みたいなものを使ってるのだろう。
『そうか? じゃあこれで以上だな』
『あ、待って?』
話を打ち切って帰宅してからの作業を行おうとしたが、彩佳に止められる。
『変身した後の名前も奏多のままでいいの? 名前だけでも教えてほしいってすごい言われるからめんどくさくて』
彩佳と初対面だったころを思い出す。あの感じで皆に対応しているんだったらそれは確かに面倒だろう。
名前、か。正直奏多のままだと見た目にそぐわなすぎるからな。
ロシア人とよく言われているくらいだし、ロシア系の名前を付けるとしよう。
その透き通るような白さにちなんで、クラリカというのはどうだろうか。
『そうだな、じゃあ俺のあの姿の名前はクラリカにしようか。ロゼリアにもそう伝えておいてくれ。あの姿の時はそう呼ぶようにってね』
『わかったのじゃ~』
ここまで何も言わなかったから忘れていたが、そういえばロゼリアにも聞こえるんだったな。
『了解、じゃあクラリカね、わかった。ありがとう』
クラリカね……。まぁ、悪い印象はないだろう。確かクリアであるといった意味の名前だったはずだからな。
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