第13話 ストーカー(包丁)VS俺(手ぶら)
お昼の1時に上げる。
「こ、こんなに貰って良かったのでしょうか……?」
姫野芽衣が申し訳なさそうに言う。
しかしそれは決して彼女だからではない。
俺も逆の立場ならそう思わざるを得ないだろう。
だって———
「全部で100万は優に稼いでるもんな」
「ん、驚愕」
———取れた景品の数も価値も異常だから。
姫野芽衣はマジもんの天才……いや、幸運の持ち主でしたわ。
もうね、凄いなんてもんじゃなかったね。
あの後も様々なクレーンゲームを柚がやらせていたが、何故か基本1回で大抵のものが取れるので、俺も柚も姫野芽衣も、既に手で抱えきれない程の景品を持っていた。
俺達の来ているゲーセンは日本でも有数のクレーンゲームの数と種類を取り揃えており、1000円クレーンゲームとかもあるわけですよ。
それでお掃除ロボット取って、P◯5にゲーミングPC、Ai◯Po◯sにイ◯ンで使える10万円分の商品券などなど……取りまくった。
お陰で本当に『ゲーセン泣かせのクレーンゲーマー』の称号を手に入れていたよ。
姫野芽衣の家庭環境を聞いて何とか出禁は免れたが、やるなら3回までにしてくれと懇願されていた。
人生でズルなしでこんなこと言われる人初めて見たわ。
「ん、完敗。クレーンゲームの女王」
「姫野さん……上手すぎだろ……姫野さんさえ居れば、この世の全てのクレーンゲームの景品が手に入るぞ」
「そ、そうですかね……? ですが、2人に言われると嬉しいですね」
少し嬉しそうにはにかむ姫野芽衣。
これこそ真の天使の微笑みと言うべき代物であろう。
その美しさに心が浄化されそう。
「ん、次はゲーム———」
「いや目的忘れるな? 俺達はあくまでストーカーを探しに来たんだろ?」
「…………」
今思い出したとでも言いたげな表情の柚に俺はため息しか出ない。
「それで……俺はどうやって1人になるんだよ?」
「ん、お手洗い」
「あぁ……流石にストーカーも女子トイレには入らないし、1番俺が1人になる理由としては妥当だな」
寧ろ、2人が御手洗いに行く以上に良い方法などない気がする。
まぁこんなので引っかかる様な馬鹿はいないと思うがな。
「こんな危険な事に巻き込んでしまい、ほ、本当に申し訳ありませんっ!」
「全然良いよ。元はと言えば俺のせいだし」
俺が告白しなければ、俺が標的になることなどなかったのだから。
「うっ……な、なら! 私達はトイレから見ていますので! 警察への通報も任せてください!」
「ん、任せろ」
「何だろうな。柚だと全く頼りにならないのに、姫野さんだと安心感が段違いだわ」
流石学年のマドンナと言われるだけある。
こんなマイペース無口な不思議ちゃんとは比べ物にならないか。
「ん、ストーカーがやる前にやってやる」
「やめてくれ柚。……おい、ファイティングポーズ取るな! 本当にごめん! ごめんなさい! 謝るからその拳をおさめて!」
「だ、ダメです柚さん———めっ、です!」
口の前で人差し指を交差させてバッテンを作ると奥義『めっ』を発動した姫野芽衣。
その姿はオタクの俺には突き刺さった。
「あっ……」
「……次はない」
柚も姫野芽衣が可愛かったのか、予想と違ってあっさりと引き下がった。
その後、柚と姫野芽衣が俺から離れ、女子トイレの中に入る。
2人が居ないだけで途端に静かになる。
周りの大量の景品に埋もれる様に1人取り残される俺は、小さくため息を吐いた。
「あぁ……一気に現実に引き戻されるこの感覚……嫌だなぁ……」
そもそもわざとゲーセンから少し離れたあまり人の通らないベンチに座っているので、余計辺りは静まり返っていた。
ほんと、何でこんなことしなきゃいけないんだよ……。
俺、一応どっちにも振られたんだぞ?
正直、気不味くて死にそうだわ。
それなのに噂のせいで女子に目の敵にされるわ、男子は柚とL◯NE交換していると知って嫉妬心を爆発させるわ、変なストーカーに目をつけられるわ…………本当に碌なことしか起こってないな。
「こんなのでストーカーなんぞ———」
「———き、君が……さ、佐々木瑛太だよね?」
はい、釣れたー。
見事に釣れましたー。
「…………人違いなんじゃないですかね?」
「ぜ、絶対有り得ない……僕が見て、調べた顔と同じ……!」
なら何でわざわざ『貴方は(名前)ですか?』って聞くんだよアホ。
分かってんなら質問すんなや馬鹿野郎。
「それで、俺は貴方のこと存じ上げないんだけど、どちらさん?」
「ふへっ……ぼ、僕の名前は……お、教えない……!」
うざぁ……うぜぇよぉ……今すぐにでも張り倒したいんだが。
俺が心の底からそう思っていると、深くフードを被った男は、気持ち悪い笑い声を上げ、後ろから俺の背中に包丁を当てて言った。
「た、ただね———ぼ、僕の芽依ちゃんに近付くな……!! 僕達は、あ、愛し合っているんだ……!」
———はい、ありがちな勘違い乙!
「———ってことで、とりま警察行こうか」
「えっ……? い、痛っ———!?」
俺は、ストーカーの手を捻って背中に当たる包丁を一瞬で落とさせると、身を翻しながらストーカーの腕をキメた。
ふっ……厨二の時に包丁を突き付けられた時の対処法を調べまくってて良かったぜ。
俺は包丁を少し離れた所に蹴ると、柚達に目配せをした。
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