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とりあえず平和な日常をくれ!  作者: ネームレス
月島雪音との日常
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87.永遠に愛してる

「……どういうことだ」


 現在、昼休みになってから五分ほど経過していた。俺は誰もいない空き教室で独り言のように疑問を口にしていた。


「どうして、俺は月島雪音の名前を知っていたんだ」


 そう、俺はまだ、月島雪音が自分を月島雪音と言う前に、その名を口に出した。

 初めての感覚ではなかった。呼び慣れた感覚だった。


「……月島、雪音」


 妙に馴染む音。その名を口にするとどこか落ち着き、そしてざわめく。


「何なんだ、あの女は」


「呼んだ?」


「っ!!」


 心臓が跳ねた。


「な……お……に」


「ふふっ、“前も”ここに来たよね。紅ってここが好きなの?」


「……別に。あと、前もってどういうことだ。俺がここに来たのは今日が初めてだぞ」


 まあ、嘘だが。

 実際はこの前机を運びに来た時に一人になる時丁度よさそうだったから目を付けておいたのだ。

 案外、こういう隠れスポットが他にもあって、そこに木崎双子はいるのかもしれない。

 っと、話しが逸れた。


「嘘はダメだよー? 私の机を運ぶ時に目を付けたんだよね?」


「なっ!?」


 何故こいつが知っている!?

 いや、待て。もしかしたら晶辺りに聞いたのかもしれない。

 だが、俺が机をここから運んだのは昨日で、期間もクソもない。来るのは二度目でしかない。いくら長い付き合いでも、晶が気付くとは思えない。

 さらに言うなら、俺は何処かに行くと誰にも言ってない。なのにこいつは、たったの五分足らずで俺の場所を突き止めた。

 もうこれは、誰かに聞いたどころでは無い。こいつは、“初めてのはずの学校の形状に詳しい”のだ。

 どれほどマップがあろうと、初めて学校に来れば一度や二度は道を間違うし、そもそもこんな人気の無い場所、初めてで五分足らずで来れるのか?


「……誰だ、お前は」


「敵意出されると傷付くな……これでも、背中を任せたパートナーだったんだけどな」


「そんな記憶、俺には無え」


 だが、俺の脳は、月島雪音が一言一言話すたびに、弾けるように記憶を掘り起こそうとする。

 あるはずのない記憶を。


『ハァハァ、やっと見つけた』


『うわっ!? な、何でここが!?』


『何でここが!? じゃないよ! 走り回ってやっとか見つけたんだからね!』


『あ、ええっと…ごめんなさい?』


『よし、許す』


『何だそりゃ……』


「何か思い出した?」


「っ!!」


 知らない! こんな記憶知らない!!


「しょうがないなぁ」


 雪音は困った風にした後、いきなり膝に手を付き、肩で息をする。

 な、なんだ?


「ハァハァ、やっとか見つけた」


「な、何でお前がそれを」


「何でここが!? じゃないわよ! 走り回ってやっとか見つけたんだからね!」


「もういい! やめろ!」


 これ以上、こいつの寸劇に付き合うと頭が壊れそうだった。

 思い出さなきゃいけない、思い出してはいけない。矛盾した思いが頭に渦巻く。


「……それより、そろそろ勘付いてもいいと思うんだけど」


「……何にだ。俺はお前なんか記憶に無い」


「そっちじゃ無くてね? ほら、陽桜烈さんから何か聞いてない?」


「烈から? ……まさか、俺と烈を助けたのは……」


「そう、私だよ」


「じゃあ、俺に不死性を別けたのも……」


「私」


「……何で、そんなことを」


「あなたが、私の最愛の人だから」


「……は?」


 何を言ってるんですかこの人は。


「今の君には早いかもだけど、やっぱり抑えられないから、言うね」


 月島雪音が顔を赤らめながら言う。

 ……な、何だこの状況。

 男と女。

 人気の無い場所。

 二人きりの教室。

 まずい、何かかはわからないが、これは非常にまずい!!


「俺ちょっとトイ」


「好き」


 心臓が止まるかと思った。

 そして、教室から脱出することは叶わなかった。

 目が月島雪音に集中する。離せない。


「It loves forever.

 何百回でも、私はあなたに恋をする」


 相手は何度も俺を好きになったかのような口ぶりで、俺にその言葉を告げた。

 俺の人生発になる告白は何と相手からで、その相手は、“初めて会ったはずの少女”だった。


「……雪音」


 俺は自分の口から、“名前”が出ていることに、気付かなかった。

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