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77.いつも通りに

 鬼化。

 人の負の感情が一定のラインを超えるとなってしまう現象。理性を引き換えに、猫を切り離しながらも巨大な力を振るうことができる。

 だが、一定のラインと言っても爆発的な負の感情がなければならない。言わば、選ばれし者がなれるというものだ。

 理性を失い、猫という制御役を切り離し、巨大な力を振るえるようになり、鬼化した人間のなすことはただ一つ。

 破壊活動。

 全てを壊し、崩し、そして、消していく。

 世界の全てが消え去るその日まで。


 *


『でもありえない…陽桜烈の憎しみはかなり弱まってたはず…』


「その鬼化の説明がその通りなら、たしかにありえねえ。烈は…悪になりきれない善人だぜ」


 目の前の烈は、体が黒く染まり目が赤く光る。唸り声を上げ、もはやこちらの声は届かない。


「…まさか、未来が変わった?」


 だったら、さっきの“烈と俺が殺し合う記憶”はなんだ?

 烈はまだ最後の『お前の正義、壊してやる』を言っていない。

 だが、この状態の烈がそれを言えるとは思えない。


「…どうなってるんだ」


 考えても考えてもわからない。

 そんな時、あちらが動いた。


「グルア!」


「ちぃっ!」


 黒岩瘴気のようなものを纏った大剣を、突風の如く振ってくる烈。その攻撃は過激で苛烈。地面をも粉砕した。


「パズズ!戻す方法は!」


『…ありません』


「なっ!?」


『鬼化になった人は過去7人。全員が今の烈さんのように荒れ狂い、そして圧倒的な力により敵味方問わず巻き込み、最後には…死をもって粛清されています』


「…じゃあ、烈も」


『…そうなるかもしれません』


「…嘘だろ」


 烈を…殺す?

 死?

 …そんなの、


「許せるわけ、無えだろうがああ!」


「ガアアアアア!!」


 大剣を弾き、風で吹っ飛ばすが、烈は雄叫びと共に拳で地に穴を穿ち、その場にとどまる。

 その目には、怒り、憎しみ、殺意が入り混じっていた。

 …だが、ダメなんだそんなの。

 お前は俺の正義を超えるって言った。そんなお前が誰かを殺してはいけないんだ。

 殺さず、助ける。

 俺が死ぬわけにもいかない。


「あるはずだ、解決策が…」


 鬼化と言っても、突発的なもの。幾ら何でもおかしすぎる。なら、これは人為的なもんだ。

 つまり、本来の鬼化では無い。原因さえ取り除けば元に戻る可能性がある。


「…原因がわかれば」


『…紅。難しいですが少しこの辺りを回ってください』


「なんで?」


『いいから!」


「お、おう」


 パズズに言われたとおり、この辺りを回る。だが、暴れ狂う烈が俺の動きを邪魔する。


「そこをどけ!烈!!」


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 袈裟斬りを弾き、地から噴出する水を風で抑え、拳、足と格闘戦。

 駆け引きも型も戦術戦略も無い、ただ力をぶつける攻撃。だが、鬼化によって引き上げられた力は充分に必殺の威力を持っていた。そのため無視も出来ず、上手く動けなかった。


「くそ!」


「ガルゥア!」


 烈が吠える。それが合図だったのか、大量の水…否、津波が現れた。


「ちっ!ストーム…!?」


「ウギャウ!」


 最初と同じように穴をあけ避けようとしたら、そこを烈に斬られた。

 やっべ!?


『馬鹿ですか!?敵の目の前で技を使うとか!?』


「っせえ!」


 追撃をしかける烈に対し、ダメージを受けた俺は抑えきれず、逆に押さえつけられてしまった。


「ぐ…ぬぉ」


『津波がっ!』


 そして、津波が俺ごと街を飲み込む。

 烈はポントスの加護か、プールで泳ぐが如くすいすいと進む。

 俺は、あまりの流れの強さに逆らえず、されるがままに流された。


「…ぐっ」


 やばいやばいやばい!このままじゃ窒息する!か、風!

 だが、風を生み出すも水の流れで霧散する。


「っ!」


 徐々に体から酸素が消えていく。

 体も冷え、徐々に四肢が麻痺していく。

 …死ぬ?

 …報い?

 由姫の願いとでも言うのか?

 徐々に消えうる意識の中、思い出が走馬灯のように浮かび上がる。


 晶を女の子扱いしてボコボコにされた。

 焔のお菓子を食べた次の日、学校の女子全員から怒られた。

 和也にゲームで100連敗した。

 輝雪に弁当の中身全部取られた。

 九陰先輩の寝顔を偶然見て可愛いと思ってたら皆からロリコンにされた。


 ………あれ?これ全部本編でやってないよな?しかも流れ的には由姫との思い出じゃないの?ていうか思い出が全部ひでえ!?


『…いつまでギャグやってるんですか?』


 ギャグ言うなっつーの!


「ギャオウ!!」


 そこに空気を読まず烈が攻撃してくる。まともに手を動かせない俺はその一撃をくらい、肺から空気が出る。


「がばぁっ!」


 死ぬ!死ぬ!マジで死ぬから!

 …ああ、もう!


「ぐぅぅ!」


 死なば諸共!全部、凍りやがれえええええ!!


「ぼゔぇあ"ーぶ!(ボレアース)!」


 凍て付く風が、周りの水を凍らしていく。


「ギャルオ!?」


 もはや大した知性も持ってない烈でさえ、この状況に驚いている。

 全てを流す津波を少しずつ、氷が侵食していく。

 そして、流れが弱まった。その瞬間を逃さず、放つ。


「がぶとい"んゔぁぐど(ガスト・インパクト)!」


 水が弾け飛び、一瞬空間が空く。地面を北風(ボレアース)で凍らし飛ぶ。さらに上空からも凍らし、烈を閉じ込める。


「少し待ってろよ」


 パズズが言っていた、ここら辺を回る。


『…やっぱり』


「何がだ?」


『鬼化は人間と猫が切り離される。だけど、ここらには猫の代わりであるエクス・ギアが無い。つまり、烈さんの中にまだ残ってるはず。なら、原因として考えるのは…』


「…エクス・ギアだけっていうことか」


 そして、背後からバキン、という破砕音が聞こえる。


「…随分早えな、烈」


 そこにいるのは、やはり烈だった。

 …もうちょい稼げると思ったんだがな。


「ウウウウウ…ンギャオオオオオオオオオオオオオオ!!!」


「…エクス・ギアの破壊つっても、どこにあんだよ」


『エクス・ギアは我々と同じと考えるなら、融合はしてないはず。なら、纏っている装備、どこかにあるはずです』


「…なーんか、大分遠回りしたな。それってつまり」


 テンプレというかなんというか、よくある展開ってわけだ。あそこまで苦労して…。


「ぶっ倒せばいいんだろ」

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