53.魔獣の悪影響
「なあ蒼」
「なに？お兄ちゃん」
「俺はお前が人外キャラと言うよりヤンデレブラコンキャラとして定着している可能性があると踏んでいるぞ」
「今そんなこと関係無いよね！？」
魔獣に囲まれている現状。
・・・
・・
・
ジャンプして飛び降りたあと、見事に魔獣に囲まれてしまった。
「どうしますかね」
「決まってる」
『何を言ってるんですか？紅』
『今更だぜ』
「まあ、そりゃあな」
わかってるけどさ。雰囲気というか、な。
『殲滅する！』
二人と二匹の声が重なる。
「蒼！じっとしてろよ！」
「うん！」
九陰先輩とは逆方向に向かう。
囲まれてる以上、拡散して倒した方がいい。
「風！」
一体一体丁寧に倒してる暇は無い。
一気に吹っ飛ばす！
イメージしろ。風の特性はわからない。だが、今の俺にはイメージして形作るしか無い！
前方に攻撃出来ればいい。そう。遠くまで攻撃が届けばいい。
威力が高いイメージ。一撃の威力に賭けるイメージ。
イメージは、風の砲弾！
「暴風の一撃！」
力を拳に溜め、一点に集中し、拳を突き出すと同時に放つ。
荒れ狂う風は地を抉り、建物を崩し、進路上のあらゆる物を倒していく。
進路上の魔獣の大半は暴風の一撃で片付く。他の魔獣も憖知能がある分、混乱し動ける者は少ない。
「一気に方を付ける！風！」
『はい！』
足の裏に力を溜め、加速する。
「らあっ！」
地にめり込むほどの踏み込み、全体重を拳の先へと集める。
魔獣の兜は凹み、さらに吹き飛ぶ。
俺は動き回り、魔獣の動きを撹乱しながら一撃一撃を決めて行く。
－－これなら大丈夫か？
そう思った矢先だ。
「…ん？」
人影？魔狩りか？
だが、その人影は武装も何もしてないようで、さらには今日買ったのであろう食材などが入った袋も持っている。
ならば、あれは…。
『例えば魔獣の被害で関係無い人がエルボスに転移されたとするわ。目の前には魔獣が居る場合が多いし、逃げ切れると思う？』
俺が魔獣がいるとどんな悪影響があるか、輝雪に聞いた事があった。そして輝雪はそう答えたのだ。
…何故失念していた。俺は体験者だろう。
魔獣は、魔獣の存在は、“関係無い人でもエルボスに連れて来る”！
「チッ！」
「お兄ちゃん！？」
「紅！？」
先ほど見た人影の所までダッシュで向かう。
『紅！？一体何を！？」
「一般人を発見した！」
『な！？』
くそ！くそくそくそ！
運が無え。無さ過ぎる！
「いた！」
先ほどの人影を確認した。どうやら女性のようだ。
そして同時に、“魔獣も剣を振りかざしていた”。
「っ！？」
くそ…本当に何処までも！
近づく死の予感に、頭がスパークする。
血の気が引いた顔。流れ出る血。光の無い瞳。冷たい体。
…違う。…違う…俺は。
“また、助けられない”？
“いや、助けるんだ”。
「きゃあああああああああああああああああ！！！」
女性が悲鳴を上げた瞬間、俺の意識は一気に現場へと引き戻される。
「う…ぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああ！！！！」
『ダメえええええええええええええええええええええええええええええええええ！！！！』
ザシュ、と鈍い音が鳴った。
どこから鳴ったのか、もはや意識の外で、体が熱かった。まるで灼熱に包まれているかのように。
熱い、熱い熱い熱い。
「お兄ちゃん！いt…え？」
「っ！」
痛みが体を駆け巡る。だが、俺の意識は冴えず、逆に闇へと引っ張られていった。
