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30.嵐

和也side

なんなんだこの女は。


「痛い~~」


頭に包帯を巻いているところから怪我人。そんなの常識だ。

だが、この女は何故か、“床に突っ伏している”。頭の包帯からも血が滲んでいる。


「うぅ~」


「…大丈夫か?」


「誰かいるの?…うーん、大丈夫~」


自分で言っていてなんだが、絶対大丈夫じゃない。


「早く、行かなきゃ」


「………………」


しょうがない。


「ほら、肩を貸す」


「え?あ、ありがとう」


「そう思うぐらいなら最初から保健室にいろ。で、何処に行きたいんだ?」


「うー、教室ー」


「わかった。ほら、しっかりしろ」


「うー!」


いつもなら紅の出番だろうに、紅は何処に行ったんだ?


輝雪side

勝負あったかしら?

…何の勝負かもわからないけど。


「…だったら」


ここで赤伊くんが切り出す。


「だったら!誰が犯人なんだよ!」


「だからこそ、本人に聞かなきゃね」


だけど晶くんは、それを気にする風も無く、切り返す。


『…………………………』


何の関係も無いクラスの人も、何故か緊張に包まれる。

…ごめんね。

さて、ここからは嵐のような一幕だったため、一気に流れます。

ガララッ、と教室のドアが開いた瞬間だった。


「くぉらああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!そおおおーーーーーらあああああーーーーー!!!!!はああああーーーーーのおおおおおおーーーーーーーやあああああああああーーーーーーーーー!!!!!」


「う、海!?」


「っ!?!?!?」


「あんたらあああああーーーーーーーー!!!何を私の恩人に手を上げとんじゃあああああーーーーーー!!!」


「ちょ、ちょっと待て!」


「待てるか!ほら!さっさと来る!」


「髪引っ張るな!行く!行くから!」


「ほおー。あんたはそう言って何回逃げたことがあ・る・か・な!」


「それは…」


「全部だ全部!毎回毎回毎回毎回毎回毎回!いっつも逃げ出そうとするじゃない!」


「そこまで多くねえ!?」


「そんぐらい多いって事よ!」


「理不尽だろ!?」


「生徒指導室にいる(クレナイ)くんもそう思ってるでしょうねえ!」


「っ!」


「おらそこ!葉乃夜!逃げるな!逃げたらどうなるか、わからないはずは無いでしょう?」


「…ぐっ」


「ほら!二人とも!泣いて正座して地べたにデコ擦り付けて紅くんに土下座しに行くわよ!」


「待てよ!だったらお前を襲った犯人は誰だよ!」


「ああ!?そんなん3年のタバコを日常的に吸って、授業のサボる人類の最下層に位置するクソ野郎に決まってるでしょう!」


「決まってるって、知るかんなもん!」


「…!…!」


「い・い・か・ら!さっさと来い!」


そして、教室から彼女(アラシ)は去った。二人の人間(ギセイシャ)を連れて。


「これはいったい、どういう騒ぎだ?」


そこにやってくるお兄ちゃん。それは私が聞きたい。

クラスの殆どが呆然としてしばらく動かなかったのは言うまでもない。


和也side

俺は女子生徒を連れて教室へと向かっていた。俺の所属する教室ではなく、この女子生徒や輝雪、紅たちが所属するクラスの教室だ。


「にしても、こんな無理をしてまで何をしに行くつもりだ?」


「ちょっとね。親友の勘違いを正しに」


真面目な奴だ。それとも、そんなに大切な事なのか?


「それは、無理をしてまで必要な、というか大事な事なのか?」


「んー、どうだろう。わからないや」


わからないって、こいつは何のために行動しているんだ。


「でも、いつもの事だから」


「いつも?」


「うん。私が無理をして、親友が私のために動いて、空回りして、私が注意して、いつもの流れ」


「…そうか」


「うん。そうなの」


“いつもの事だから”、か。そんな流れがいつもの事とは、こいつはどんな日常を送ってるんだ。

…そういえば、似ている奴がいたな。

紅 紅。

あいつも、ありえないような日常を日常的に生きてる奴だったな。

面白い。


「くっく」


「どうしたの?」


「いや、お前に似た奴が近くにいたなと思ってな」


不思議な世の中だ。こんな不思議な人間がこうも近くにいるのか。

…まあ、人の事は言えんが。


「お、そろそろ教室だ。痛みは大丈夫か?」


「うん。大丈夫。ありがとう」


「いや、いい」


「さてと、集中集中。あ、今から私、キャラ変わるから」


そう言うと、目を閉じ集中する女子生徒。少しして、女子生徒は目を開けるが、その目は先ほどと違い、剣呑としたものだった。


「お、おい」


思わず止めてしまうが、時すでに遅し。


「くぉらああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!そおおおーーーーーらあああああーーーーー!!!!!はああああーーーーーのおおおおおおーーーーーーーやあああああああああーーーーーーーーー!!!!!」


女が怖いと思った瞬間だった。

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