29.今も紅は生徒指導室
焔side
「紅、来ないね」
「そうだね」
一時間目が終了し、私と晶は紅が来ないことが気になっていた。
「どうしたんだろ?」
「一時間目には間に合うと思ってたんだけどね」
互いにため息をついた。紅、どこに行ったんだろう。
「あ、晶くん、火渡さん」
「輝雪。…名前でいいよ」
私の主張はいつもの如くスルーされる。が、私は輝雪ちゃんが放つ次の言葉に意識が集中される。
「紅くんが生徒指導室に拘束されたって、聞いた?」
「紅が!?」
ガタン!と椅子を倒しながら叫ぶ。周りの人の視線が私に集中するが気にしない。
「どうして!何で!」
「お、落ち着いて焔」
「これが落ち着いていられるかああああーーーーーー!!!」
「落ち着かなきゃ喋らないわよ」
ぐっ、酷い。
深く息を吸い、吐く。深呼吸して無理矢理に私の心を鎮める。
「で、何?」
「女子生徒暴行」
「誰だあああああーーーーー!!!勘違い野郎はあああーーーーーー!!!」
紅が女子に対して暴力!?普段から男女平等とか言ってるけど、やっぱり女子の体は男子に比べて脆いから、殴る際は相手をちゃんと見極めてから殴る紅が、女子を殴る?それは勘違いか女子がクソな奴に決まってるのに!
「殴られた女子生徒ってのは誰!?今すぐ話を聞きに行く!」
「落ち着いてって。焔、僕らが騒いだって状況は変わらないよ」
「でも!」
「だったら聞いてみたら?目撃者に」
え?
「誰誰誰!?」
「そこにいるじゃない。さっきからこっちを睨んでる、赤伊 空くんに白 葉乃夜くん」
輝雪に言われた方向を見ると、そこには憎々しげにこちらを睨む男子が2人いた。
空side
こいつらはダメだ。やはりあの紅と同類だ。同情の余地も無い。
勘違い野郎?ふざけんな。あいつが、あいつ、俺たちの親友の“葵 海”を傷つけたんだ。葉乃夜も怒りの表情だ。
「そこにいるじゃない。さっきからこっちを睨んでる、赤伊 空くんに白 葉乃夜くん」
不敵な笑みを浮かべてこちらを見てくる木崎 輝雪。現在、男子の間でかなりの人気があるらしいが、俺はどうも好きにはなれない。
「君たちが……?」
火渡がこちらに問いかける。ここで黙っても意味は無い。ならば、応答してやる方がいいだろう。
「だからどうした」
「…本当に、紅がやったの?」
「そうだろうが!俺たちの親友が、海が!頭から血を出してたんだぞ!?あの倉庫には紅と海以外、他に人間はいなかったんだ!」
「でも!紅がそんなことやるはずが」
「やるはずが無い。そう言うのか?」
ここで葉乃夜が入ってくる。
「そうだよ!」
「お前たちが紅をどれだけ理解できてると言うんだ?」
「人間性だよ」
「それはお前たちが幼馴染だから、贔屓目に評価してるだけじゃ無いのか?」
「そんなこと無い!」
「人間とは無意識の生き物だ。どんなに否定しようと、親しい者の意見など、役には立たん」
「紅を知らない人が好き勝手言わないで!」
「熱くなるなよ。客観的に判断した結果を言ってるんだ」
「客観的?真実はどうなるのよ!」
「時間が教えてくれるさ」
「っ!」
さすが葉乃夜。論破しやがった。これであいつらは何も言えな…
?木崎と氷野 晶、だったよな?まず、氷野が笑ってる?
「何笑ってんだよ」
「いや。随分穴だらけな推理だと思ってね。つい笑っちゃった」
「そうねー」
…は?
「…ざけてんのか?」
「ふざけてないよ。至極真面目さ」
「どこが真面目なんだよ!」
「教えてあげようか?1から10まで。全部」
「ああ!?」
こいつ、何言ってんだ?
「まず一つ。君は紅とその海さん?が一緒にいたところを見たんだよね?どういう状況だったの?」
「はあ?そんなの聞いてどうすんだ?」
「いいから言えよ」
っ!イラつく…。
「…海が頭から血を出してたんだ。紅が海を抱えてた」
「それだけかい?」
「はあ?」
「穴一。海さんが“縛られても吊るされてもいない”」
「っ!?」
づいうことだ?何で葉乃夜は驚いてんだ?
「おかしいよね?縛らず吊るさず、ましてや多人数で囲みもせず。たった1人が被害者を抱えてる状況って不自然だ。せめて手足ぐらいは結ばないとね」
…そういうことか。
「次。逆に君は、紅の何を知ってるの?」
「あいつはどっからどう見ても不良だろうが!」
「穴二。見た目による思い込み。及び判断」
こいつ、イラつく!
「たしかに君たちの言うとおり、幼馴染だからって、全てを知るなんて不可能だよ。でも、僕たちは時間があれば一緒にいた仲だ。どんな行動してるかぐらいわかる」
「大層なこと言って、ケンカをしてるとこなんか見たこと無いとでも言うつもりか?」
「いいや。違うよ」
「じゃあ何」
「君たちにはできるかい?見ず知らずの他人を、助けることが。紅はできるよ。車に引かれそうな人がいて、咄嗟に迷わず動き、その人を抱えて飛び回避するんだ。鉄骨が上から落ちてることに気づかない人がいて、突き飛ばして安全圏まで押すんだ。ひったくりに会う人がいて、すぐにひったくり犯を捕まえるんだ。物を落とした人がいて、見つかるまで探してあげるんだ。不良に絡まれてる人がいて、割って入って不良を倒すんだ。
紅は自分を偽善者、て言ってた。たしかに紅は見ず知らずの他人に何を頼まれたところで無視するだろう。でも、目の前で起きてる事を黙認する人間じゃ無いよ紅は。絶対に」
「逆にそこまでの事故事件に会ってる方が不思議でしょうがないわ!」
そうだね、と苦笑いする氷野。どういう人間だよ紅って奴は。
「次。無意識と客観的、だったよね。だとしたら、君たちの意見も怪しいところだ」
「何?」
「穴三。無意識と言うのなら、君たちが無意識に紅の容貌から悪人と判断した。そうは考えられないかい?
客観的に、と言っても、僕たちから見たら君が見た状況は、紅が倒れてる女子を抱えている、だ。決して暴行を行ったとは思わない」
「だからそれはお前らが」
「身内だよ。でも君たちだってそうだ。その海さんという人の身内だ。無意識のうちに、紅を不良だと判断し、そこから客観的に紅が海さんに暴行を行ったと見えたんじゃないかい?」
「…こじつけだ」
「お互い様だね」
「………………」
「………………」
お互いに睨み、一歩も譲らない。教室は、険悪なムードで満ちた。
???side
「…………?」
ここは、どこ?
…保険、室?
「私……何してたっけ」
朝、一人で行くことになって、登校して、それで、それで、
不良に会った。
「ぐっ!?」
ああ、そうだ。煙草吸ってたんだ。思わず、注意して、その後、捕まって、そして………
「ああああああーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
大事な事を忘れてた!
「また勘違いして!あのバカ二人が…!」
早く行かなきゃ。教室へ!




