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245.何でもありで御都合主義の神様④

「ここは……どこだ」


 真っ暗。

 何も見えない。

 何も。

 ここはどこ?


「どこだ……どこだ紅紅。僕を何と繋げた!」


「心だ」


 声がする。

 紅紅の声だ。

 どこからだ。

 わからない。

 辺りを見回しても見つからない。

 どこにも居ない。


「いるさ。ここに」


「どこに!」


 声を荒げる。

 全体を見回す。

 どこにもいない。


「だから、ここだよ。目の前」


「え?」


 目の前……何も見えない。


「見えない……何も」


「俺は見えるぜマキナ。お前が見えないのは見ようとしないからだろ? まずは見てみろ。見ようとしてみろ」


「見ようと……見えない……何も見えない」


 その時、熱が手を包む。


「あっ」


「俺はここにいる」


 ぼんやりと輪郭が浮かび上がる。

 少しずつぼんやりとした線ははっきりとなっていき、見覚えのある人物を目の前に作り出す。


「紅……紅」


「“まずは一歩だ”」


 何を言っているんだこいつは。

 こいつは僕に何を求めている?

 何を……。


「何を……求めてるんだ」


 遅まきながらに気付く。

 今の音はなんだ?

 言葉のようのも聞こえた。


「え……なに……これ」


 僕は驚愕した。

 失ったはずの声が出ている。今までテレパシーを代用してもう何億年と聞くことの無かった自分の声。


「マキナ」


 僕の混乱を他所に紅紅の声がかかる。

 僕は自分の声を意識してしまい、返って喉が詰まったかのように言葉が詰まり、口をパクパクさせてしまう。


「…………」


「いや、ちゃんと声を出せよ」


「……なに」


 今にも消え入りそうな声だった。それが今の僕の限界だった。さっきまで子どものようにはしゃげてたのが嘘みたいだ。

 だが、そんな心配も紅紅の次の言葉で吹き飛ぶ。


「俺はお前を殺す気は無い」


 ……ナニヲイッテイルンダ。


「もしお前が“自分の死”を物語の終着点にしてるなら……それは叶わねえ」


 コイツハナニヲイッテイルンダ。

 コイツハナニヲカンガエテイルンダ。

 ワカラナイ。ナニモワカラナイ。


「お前の物語はここで終了だ」


 *


 あの時の僕は何を考えていたのだろう。

 あの日、マキナ・セカンドを壊し、そして研究所を壊したあの日。僕は最初で最後の涙を流した。

 あの時の僕は何を考えていたのだろう。

 思うがままに力を振るい、世界を壊しては別の時間枠の世界を巻き込み、物語を始めたあの日。

 どれもが突発的で、今にして思えばどうしてそんな事をしたのかと思ってしまう。

 あの涙にはどんな意味があったのか。

 物語にはどんな意味を込めたのか。

 僕は僕の事がわからない。

 だけど、一つだけわかっていることがある。

 僕は、僕の望む形で死にたかったのだ。

 紅紅に「お前を殺す気は無い」と言われて初めてその事に気付いた。


 *


「……はは、ふざけるな紅紅。殺す気は無い? 何を甘いこと言ってるのさ。僕は今までたくさん殺戮してきた。そんな僕を殺さない? ついにとち狂ったかい?」


「かもな」


「……かもなじゃない! じゃあ君は何のためにここまで戦ってきたんだ! 何のために力をつけたんだ! 月島雪音の歯を確定させたのは僕だ! 憎いだろう!? 今すぐ僕と最終決戦の続きをしようよ! そして僕を」


 __殺してくれ。

 その言葉だけは言えなかった。自分の本心を知られたくなかった。

 それにこの男は死にたがってる奴を殺してくれるような奴ではない。


「……知ってるかマキナ」


 紅紅は僕を諭すように言う。


「お前の作ったこの世界に救われた人もいるんだ」


 何を言われたのかわからなかった。

 この世界に救われた?

 何を、


「何を、言っているんだ」


「そのままの意味だよ」


「そんな……こんな世界に救われた人がいるわけ」


「いるさ。しかも俺の仲間に。その人の名は氷雨冷華。この世界のおかげで刀夜に会え、そして苦しかった生活も立て直せた」


 その名は覚えがあった。

 氷雨冷華。紅紅と同じで偶然で猫を手に入れこの世界に入ってきた存在。

 その人は、この世界で救われた?


「他にもそういう奴らはいっぱいいるはずだ。戦いを楽しんでる奴もいた。そういう戦闘狂もこの世界を十分に楽しんでるはずだ。それに魔狩り本部とかから魔獣討伐の報酬だってたんまり出る。……この世界で苦しい思いをしてる奴はそういない」


「そんなわけない。少なくとも、少なくとも君は苦しんだはずだ。何故なら君は不幸でこの世界に巻き込まれ、僕の手によって月島雪音は死を確定された。なら、君は僕を恨むはずだ」


 恨んでくれ。怒ってくれ。憎んでくれ。

 そうでなきゃ、僕は


「たしかにこの世界のおかげでいろいろ大変な目にあった。死ぬ思いもした。だけど、俺はこの世界のおかげでいろんな奴と繋がれた。由姫の死も見据える事が出来た。だから、俺はお前を恨まない」


 __僕はまた、自分の存在に意味を見出せない。


「……嫌だ。また空っぽだ。それだけは嫌だ。また……また無意味になるのが嫌だ。恨んでよ、怒ってよ、憎んでよ。……でなきゃ、でなきゃ僕は」


「マキナ」


「嫌だ……嫌だ……嫌だ……」


「俺はお前に生きてもらう」


 そんな言葉に怒りを感じる。

 何を甘いこと言ってるんだ。

 何を生温いことをしてるんだ。


「……だから、お前はさっきから何を」


「今まで空っぽだった分、お前にはちゃんと満ちてもらう。そして、お前は自分のしてきたことを後悔しながら死んでもらう。それが俺がお前に望むことだ」


 紅紅の後ろには、二人の少女の姿が見えた。

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