243.何でもありで御都合主義の神様②
(行くよ! 太陽域!)
「それは……! ……どっかで見たことあるような!」
『あなたの脳みそはスポンジかなんかですか! 日差 太陽が使っていた広範囲を熱する技ですよ! さっさと冷やしてください!』
「東風と北風のコンボは継続中だからこれ以上は無理!」
マキナの周りが陽炎にいって揺れ、高温になっていることがわかる。紅の東風と北風によって気温は実のところ恐ろしいほど下がっていたが、太陽域によって相殺どころかプラスになってしまっている。
(まだまだ行くぞー! 精製、発射!)
「なっ!」
紅のよく知る閃光が一直線にこちらへ走る。咄嗟に風で氷をかき集めるが、コンマ一秒でこちらに届いた閃光は紅のわき腹に当たり焦がした。
「刀夜のか!」
『こちらの知る技は全部コピー出来る、ということでしょうか』
(ふふ、どうかな)
相当余裕があるらしいマキナはにこやかに答える。
その態度に紅は遊ばれていると感じた。敵意も向けられず、ただただ遊ばれていると。
「……こっちはかなり力出してんだが」
『まあいいんじゃありません? こちらの当初の予定に狂いはありませんし、それに__都合がいい』
「ああ、右手が使える」
__任せて。
(ほら! ノヴァノヴァ!)
紅へと二つの閃光が走り、
「由姫友」
紅の宣言とともに、二つの閃光は紅の手中へと収まる。
(……は?)
「南風、西風」
さらに二つの風を解除、南風と西風を展開する。南風による熱風と西風による烈風が辺りを吹き荒らす。同時に、太陽域を打ち消すものも消え一気に気温が上昇する。
「悪いなマキナ。熱いから少し離れろ」
(ふ、ふん! もう君の風には当たらないよ!)
「どうかな。ほら、“返すぜ”。暴風の一撃!」
紅の右手へと風が集中し、そして放たれる。ここまではいつもと同じだった。__そして、ここからがいつもと違った。
(無駄だよ……!?)
紅の放った暴風の一撃は“閃光”の如き速度でマキナへと向かう。
予想外の事にマキナは回避行動が取れず、その一撃をモロに食らってしまう。
「よし!」
__成功!
マキナは腕を重ねてガードし、場所もそこまで下がらなかった。だが、その顔は驚愕の色を帯びていた。
(い、今のは……上乗せ?)
「ああ。由姫友。俺のルーツであり、俺と晶、焔と蒼の中心で俺たちを“繋げた”陽桜由姫の力だ。あらゆる力を繋げる。それが太陽右手の能力だ。さっきのはお前の閃光と俺の風を繋げた」
__まあ、条件付きだけどね。
紅の心の中で由姫が呟く。勿論、その言葉はマキナには届かない。
(陽桜……由姫。はは、そうか、君が……)
「……由姫を知ってるのか」
(さあ、どっちだろうね。でも、少しやる気を出してもようかな! 氷雨!)
「その技は使わせねえ!」
マキナは由姫の名を聞き、明らかに雰囲気が変わる。
マキナは氷の鏃を作り出し、紅へと降らす。紅は南風によって対抗する。
氷と熱の対決。それは偶然にも先ほどの紅とマキナの立場を逆転させたような状況だった。
(君の能力は風! 幾ら熱を加えたところでこの氷は溶かせない! それに、君の由姫友は右手のみが効果範囲と見た!)
「あ、ばれてーら」
『いいから防ぎなさい!』
由姫友は強力な分、幾らか規制が厳しい。ゆえに、氷雨のように効果範囲に雨を降らすような攻撃は防ぎきれない。
そして、熱風の膜を抜け氷の鏃は地面へと突き刺さり溶けていく。
(咲き誇れ、冷華!)
「これなら! 由姫友!」
地面より咲き誇る氷の花に紅は右手を触れさせ吸収っていく。だが、すぐには吸収りきれず、その間紅は動けない。そして、マキナはその隙を逃さない。
(ロイヤルストレートフラッシュ!)
「げぇっ!」
『赤木弾の必殺技です!』
致死の威力を込めた弾丸が五発並び、その列が五本、十字状に放たれる。
「ええい! 月島守護!」
__ホイきた!
(まだあるのか! 君は僕をとことん楽しませてくれる!)
宣言とともに紅の体は金の光に包まれ、その五×五の合計二十五発の弾丸を全てノーダメージで受ける。
同時に、氷の花も吸収りきる。
(あはは! 今度はどんな事をしてくれるの!)
上空でマキナが笑う。その笑顔は無垢で、どんな悪意も見れない。
__マキナ。お前はいろいろとやり過ぎた。
__だから、最後まで見届けてもらうぜ。
「パズズ。そろそろ突っ込むぞ」
『はい。わかりました』
「悪ガキは殴って黙らせる。ずっと昔からやってきたことだ」
__手が早かったもんね、紅。
__うんうん。とくに不良相手には容赦ないよね。
__うんうん。
「おいそこ盛り上がってんな。とにかく、やることは変わらねえ!」
紅は強く地を踏んだ。




