242.何でもありで御都合主義の神様①
(これまでとは……)
今日、僕は紅紅がどれだけ成長したかを確認するために来たと言っても過言じゃ無かった。
幾ら“相当手加減する”と言っても、弱い奴に負けるつもりは毛頭ない。そのつもりでこの場に来たのだが……これは予想外だった。
「太陽右手。月光左手」
右手に銀が、左手に金が宿る。それはそれら一つだけでも圧倒的存在感を示す。
さらに、目を見張るのは纏う風だ。あれは空気全体を操っている。それだけの優先権を紅紅は手にいれている。
時間の神が時間に、影の神が影にそれぞれの神が司るものに干渉できるのはもはや当たり前だ。だが、それに対しどれだけの優先権を持ち、操れるかは猫との親和性と本人の実力。
(……いいよ。待った甲斐があるよ。さあ、始めよう!)
「グダグダ言ってんじゃねえ。テメエに勝って、終わりだ」
*
紅は今までに感じたことの無い空気をその身に感じていた。
体を潰してしまうような重圧。あまりにも濃密で、息が詰まる。
だが__それでも風は吹く。
「北風! 東風!」
凍てつかす風と、不吉な風が一箇所に吹き荒れる。
暗雲が集まり、徐々に雨が吹き、いつしかそれは土砂降りへと変わる。さらに北風によって凍りついた雨はそれら一本一本が鋭い針となり振り注ぐ。
(そんな小細工!)
マキナの体全体から業火が溢れる。
爆発に近い勢いで放たれたそれは氷の針を次々に気化させていく。
だが、紅は怯まない。
「氷礫」
本来、気体中の水分を集めてやっとか形となるそれは、今や雨が降る中で恐ろしい規模となり具現化する。
紅の右手は氷が幾重にも重なり、そして覆われて行く。
(うわぁ、凄い凄い)
マキナは笑う。ただ笑う。
「らぁっ!」
紅は氣と風を使いマキナの場所まで飛翔する。
「突風の一撃!」
(硬化)
必殺の威力を持った一撃はマキナの右手に防がれる__が、その右手は微かに抉られていた。
(おっ)
「竜巻の一撃」
右足にはすでに大量の風が渦巻き、そしてマキナの顔面を捉えていた。
「ゼアアアアア!!」
(ぐっ)
紅の追撃は続く。
氷の針を集めて形を成していく。それは巨大な鉄杭のような形をしていた。
「くらえ、暴風の一撃!」
荒々しい風と共に放たれた氷の杭は一直線にマキナの元へと向かい、その胸を捉えた。
「……どうだ」
『フラグ』
「うぐっ」
杭に捉えられたマキナはそのまま地中深くまでめり込んで行ったのだが、その程度で終わるわけが無いと紅は確信していた。
そして、確信は現実へと変わる。
(あはは。いい、いいよ紅。もっと、もっと僕を楽しませてよ! 全てを忘れられるくらいに!)
「お前を楽しませるつもりはねえ。俺は……俺のやるべきことを、俺の信じたことを、俺自身が決めた事をやるだけだ」
__どれだけ甘い最後だとしても。
『本当にあなたは甘い』
紅の内心を唯一知るパズズが声を出す。
『甘くて甘くて、頭の中にあるのは味噌では無く水飴だと勘違いしてしまうくらいに、甘い。ですが、その決断がこの先どんな最後を迎えようと、この命果てるまで、一生ついて行きますから、覚悟してくださいね?』
「……ああ。俺は俺のやり方でこの戦いに勝つ」
(さあ、行くよ!)
マキナの声が響いたかと思うと、地上が爆発し、そこから“太陽”を纏ったマキナが現れた。




