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235.崩壊の器

「キヒャヒャヒャヒャ!」


「チッ」


 斬れば斬るほどに傷口が不気味に膨張し、その度に力が増して行く。だからと言って放置しても力が膨れ上がり、さらには能力をめちゃくちゃに使い接近戦まで仕掛けてくる。

 最初から引く気は無かった九陰としては大した問題では無かったが、時間経過でどんどん攻撃の速度と威力が上がって行くのを文字通り肌で感じ取っている九陰は攻撃がくる度に冷や汗をかいていた。


『九陰!』


「うん。わかってる」


「死ンジャエ!」


 九陰はこれ以上厳しくなる前に次の行動へ移った。

 白坂雪音の攻撃に合わせ宙の短刀二本を動かし、その両腕を斬り落とす。しかし、殆どタイムラグ無しに再生する。

 今の白坂雪音の行動パターンは攻撃に攻撃を繋げてさらに攻撃をしていくという防御も回避も何も考えないものへとなっている。それを支えるのは驚異の再生力と狂気に染まった思考。

 限界超突破(リミットバースト)はその名の通り限界突破(リミットアウト)の上位互換だ。(テン)は主にスピードに重みを起き、さらに空中での移動と短刀二本を浮かす事が出来る効果がある。だが、スピードでは相手は怯まない。

 __なら。


限界超突破(リミットバースト)()!」


 背中から漆黒の腕のような触手が生えては宙に浮いていた短刀を掴む。

 両手の短刀とさらに生えた触手で掴んだ短刀を重ね、白坂雪音が再生の勢いで伸ばした両腕を受け止める。

 ドスン、と重い衝撃が空気を振動させるが九陰の足元を見るとその場から全く動いていない事がわかる。逆に、白坂雪音の方が後退していた。


「キヒ?」


「戦闘においてその隙は致命傷」


 九陰は両の腕に力を込め、白坂雪音の腕を弾く。さらに肩の触手を弾く寸前で同時に振り上げ、直後に振り下ろし敵の肩に短刀を刺した。

 白坂雪音は刺された短刀でその場から動く事が出来なくなった。

 九陰は右足を引き腰を落とし右手を引き絞る。そして、全力で白坂雪音の腹を殴り付けた。


「セァッ!」


「ガァッ!?」


 渾身の威力が込められた拳はその腹に大きな空洞を空けた。白坂雪音の足は僅かに宙に浮き、支えを失う。

 __一気に畳み掛ける。

 九陰は止まらない。さらに加速する。

 肩の触手を振り回し思い切り振り上げた瞬間、白坂雪音の肩から短刀が抜け、その体は遥か上空へと舞った。


限界超突破(リミットバースト)(テン)


 触手が消え、短刀は上空へと飛翔する。九陰もその後に続き、短刀と共に白坂雪音を追い越す。


「これで……!」


 短刀を操り、右足を左肩に短刀を刺し、そのまま下へと落として行く。数秒後にはガキン、と短刀が地面に突き刺さった音が聞こえる。

 九陰はその音が鳴る前に、空を蹴り、重力により加速。必殺の威力を込めたかかと落としを地面に固定された白坂雪音の頭部へと叩き込んだ。

 ブチュリ、という気持ち悪い感触と共にその衝撃は地面に蜘蛛の巣状のヒビを広範囲に作り出し、一瞬遅れて砂塵が噴き上がる。

 砂煙はしばらくその場に留まり、少ししてその中から一つの人影が飛び出す。


「……ふぅ」


 飛び出たのは黒木九陰だ。


『流石に死んだろ死んだよな死んだはずだ!』


「うん死んでないフラグをありがとう」


 その呟きの通り、砂煙の中から空気のトンネルを作るように勢いよく飛び出したのは黒い触手だ。

 九陰はすぐに地を蹴り宙に逃げる。が、背後から漆黒の剣、天羽々斬が突っ込んでくる。


「なっ!?」


 流石の九陰も予想外だったのか、反応が遅れる。身を必死にひねり回避をしようとするが、剣は僅かに九陰の背中を引っ掻く。

 ……引っ掻く。それだけで九陰の背中からおびただしい出血が噴き出る。


「がぁっ!」


『九陰!』


 黒い触手は空中で静止した九陰の四肢を絡め取る。九陰は抜け出そうとするも力が出ない。

 九陰は全身の力を抜いた。


「アハハハ。捕マエタ。ヤットカ捕マエタヨ。デモドウシタノ。モット抵抗シテモイインダヨ」


  ギリギリ笑顔とわかる程度には肉と皮が残った顔は見た者によっては発狂するだろう。体ももはや最初の面影は無い。

 だが、九陰の心は静かだった。


「早くトドメ刺したら」


 確信していたからだ。


「アハハハ。勿体無イヨソンナノ。モットモット苦シメテ」


「でないと、私の仲間が来る」


 突如、白坂雪音の右半身を氷が覆った。


「っ!!?」


多重影(マルチシャドウ)……まとめて持ってけえええええええええええええ!!!」


 九陰の背後から巨大な漆黒の斬撃が白坂雪音へと高速で飛んで行く。それに対し左手を突き出し能力で壁を出現させるが、斬撃はそれをすり抜け左半身を吹き飛ばした。

 さらに四つの発砲音。四発の弾丸が九陰を捕まえていた触手を正確に撃ち抜く。そして落下する九陰をキャッチするように抱える人影。


「大丈夫か」


「ん。遅い」


「これでも急いで来たんだが……」


 和也だ。少し離れた所に輝雪と奈孤の姿も確認する。


「私も」


「あ、冷華さん」


 辿り着いた輝雪が声を掛ける。

 ライフルを持った女性、氷雨冷華の姿もそこにはあった。


「うっわ。隣の地区なの私だけじゃない」


「ほら気にしない。……ていうか、あれマジでユッキー?」


「そうらしい。さっさと終わらして月と合流するぞ」


「ん。自然治癒特化(ヒーリングフォース)


「わかった」


 五人がそれぞれ構える。

 ……しかし、目の前の存在は先ほどまで暴れていたのが嘘のように大人しい。


「……え? 死んだ?」


 輝雪がそう言って一歩前に出た瞬間に、和也が気付いた。

 “白坂雪音の目がある一点、ある人物のみに向けられていることに”。


「輝雪!」


「え?」


 和也は輝雪の服を強引に引っ張り、自分の背中へと隠す。

 それがトリガーだったかのように笑い声が響く。


 __アハ。

 __アハハハ。

 __アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ


 笑い声は静かに空間に響く。

 どこまでもどこまでも響く。

 狂った人間は笑い続けた。

 ……不意に、その笑い声は止まる。


「きせつちゃんだ〜」


「っ」


 甘ったるい声だった。

 狂った狂人のような雰囲気も無い。

 機械音のようなエコーも無い。

 ただ子どもが母親に甘えるような、そんな声。この状況下では逆に不気味さが際立つ。


「見て見て。私強くなったよ」


 子どもが自慢するように言った。


「一発でビルだって壊せるよ」


 その声音はどこまでも純粋だ。


「見てて」


 ごくごく自然に、白坂雪音は自分の左半身を再生させた。


「ほら。凄いでしょ」


 褒めて、と言わんばかりに白坂雪音はそう言った。その言葉は誰もが自然と木崎輝雪ただ一人に向けられていると悟った。


「だから輝雪ちゃん。私と」


「来ないで」


 それは明確な拒絶。


「とも……だちに……」


「無理よ。今更なれるわけない。“あなたみたいな化け物と”」


 数秒間、静寂が辺りを埋め尽くす。

 白坂雪音の表情はその間に目に見えて絶望しているのがわかった。


「……何で」


「あなたが敵だから」


「何で何で何で! 輝雪ちゃんに認めてもらいたくて! 輝雪ちゃんと遊びたくて! 必死に! 必死に!」


 もはや白坂雪音を支えていた強靭を通り越した域に達していた精神力は崩壊しかけていた。

 それは、その身に蓄えた世界を覆うほどの負を溜め込んでいた器の崩壊と同義だった。

 それをただ一人、和也だけが感じ取る。


「もういい!輝雪ちゃんなんか__」


「来るぞ!」


「__死んじゃえええええええええええええ!」


 器は破壊された。

 感情と負が結びつき、さらには他の猫の力をエクス・ギアを通し一つの力へと強引に変換されていく。

 白坂雪音の身が爆発する。

 辺りは光と轟音で埋まる。五人は和也のおかげで先に目と耳を塞ぎ耐える事が出来た。

 そして、目の前に見えたのは……恐ろしく巨大な鬼。


「ウヴォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 鬼は咆哮し、空気は震え地面は揺れる。

 四人はその姿にただただ目が奪われる。その中でただ一人、声を出す者がいた。


「え。これ私のせい?」

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