216.マキナ②
「……ここが、外…………?」
何もない空間。
建物や街灯。電柱など、いろいろな物がここにある。
だけど、何故か“何もない”と感じてしまうような、そんな寂しい街。
「あ、出れる時間は限られてるんだった。探検探検」
僕は研究所をこっそり抜け出した身。いつまでもここにいるのはまずい。
「よーし!」
僕は元気良く地を踏み出した。
・・・
・・
・
「……つまんない」
うん。僕の能力を使えば地形の把握など一瞬で済むんだった。
「はぁ、それにしてもヒトが一人もいないなんて……街ってこんなものなの?」
街、という物を知らない僕が知識としてしか収めていない。それでもヒトがたくさん暮らす場所、だと思っていたのに生体センサーにも全く引っ掛からない。
まるで、僕だけが取り残されてしまったかのようだ。
「……もう帰ろうかな」
そう思って踵を返した時だった。
センサーのギリギリ端っこに、センサーが反応したのだ。
「お! ヒト発見!」
僕にかかれば距離は距離としての役割を果たさない。一瞬で目的地に着く。
「……ぐすん」
「大丈夫?」
「きゃっ!」
その子は病的に白く、触ったら溶けてしまうんじゃないかと言うくらい細い体だった。
「だ、誰?」
「僕? 僕は……」
そこでマキナ、と名乗っても良かったのだけど、僕は神様だからもっと偉く聞こえる名前がいいなと思った。
何がいいだろう。そうだな……あ! じゃあマキナの元のデウス・エクス・マキナってのはどうだろう! かっこいいし長いから偉くも聞こえるしね!
「デウス・エクス・マキナ! よろしくね! 君は?」
「わ、私?」
「そう!」
「……由姫。陽桜、由姫」
「へ〜。由姫ちゃんか〜。可愛い名前だね!」
「あ……ありがとう」
こうして僕は第一住人と対面を果たした。
そこで僕はいろいろと話した。研究所内での生活とか、好きな能力とか。由姫ちゃんの話も聞いた。でもそれは、すぐに信じられるような話では無かった。
「消える?」
「うん」
「ホントに?」
「うん。私、病院にいたんだけどお医者さんとか、病気も人とかがだんだん少なくなって、お父さんもお母さんもいつの日か来なくなって、それでいつの間にか誰もいなくなってた」
由姫ちゃんの顔はとても寂しそうだった。
でも、僕の力ならどうにか出来るかもしれない。だって僕は、神様なんだから。
「だったら僕に任せてよ!」
「え?」
「僕が全部まとめて解決してあげる!」
「……本当?」
「任せて! 僕はデウス・エクス・マキナ! 何でもありの神様だよ!」
僕がそう言うと由姫ちゃんは微笑んだ。僕はそれが嬉しくて、だから聞き逃してしまってたんだ。本当に大切な事を。
僕と由姫ちゃんの別れは、そう遠くない事だった。




