210.嵐①
「クレナイ……」
「コウ……!」
「お前ら……誰だ?」
その場にいた全員がずっこけた。
『紅……わざとですよね?』
「まあ」
「……お前」
「絶対に許さない!」
憤怒の形相でエレキとゲイルが突っ込んでくる。が、まあ俺の敵じゃねえな。
「邪魔だ」
『っ!?』
俺が右手をさっと振ると、突如吹き荒れる風に双子は吹き飛ばされた。
「な、なななな……」
「くっ。なら!」
双子は下がるとそこに重々しい音を立てながら頭が現れる。
「刀夜」
「……なんだ」
「双子は俺が抑える。頭の処理は任せていいか」
「……しかし」
まあ、あいつらは腐っても八柱会。多少は手間取るかもしれない。
だけど、今は時間かけてる暇はない。
だが、刀夜はどこか迷っているようだ。そんな刀夜に助け舟を出すように、冷華さんが声をかける。
「刀夜は行って」
「……冷華」
「大丈夫。あんなのろい魔獣。何十体来ようが負けはしない」
「……頼んだ」
「冷華さん。えーと、本当に大丈夫か?」
「紅くん。大丈夫」
そう言うと、冷華さんは目をスッと細めた。その瞬間、冷華さんの足元からパキパキと地面が凍り、冷気が空気中に浸透していく。
俺の北風が嵐だとしたら、冷華さんの冷気は凪のように静かだった。まるで、冷華さんの周りだけ別空間のようだ。
「……行くぞ紅。……対頭戦において冷華の右に出るものはそういない。……討伐数は俺より上だ」
「え"」
衝撃の告白とともに刀夜は先に走ってしまう。すぐに行動に移るのは信頼の証なんだろうな。
……冷華さんって、いろいろと実力が謎だ。
・・・
・・
・
「うわっ!? 追ってきたよ!?」
「というか雷獣を追ってきた!?」
「……発射」
「暴風の一撃!」
雷を纏う獣に跨り逃走する双子に対し、風の砲弾と一筋の閃光をそれぞれ放つ。
雷獣はそれを避け、空を駆ける。……あれやっぱ空飛べんのか。
「あれどうやって撃ち落とす!?」
「……数撃てば当たる……なら苦労はしないな。……少し足止めされれば一撃で方をつけれるが……」
少し、ね。
「OK。外すなよ」
「……どうにか出来るのか」
俺はこちらに極真剣に話しかけてくる刀夜に対し、ニヤリと笑いかけ答えた。
「ランダム攻撃だ。当たんなよ」
「……は?」
俺はそれ以上の刀夜の返事を待たず、“新しい風”を用意する。
「行くぞパズズ!」
『……使うんですね。自分にも来るんですから注意してくださいよ』
「威嚇になりゃいいんだ。要はな」
俺は氣を使い、体中の力の流れを変えて行く。
「来い、東風!」
俺がそう叫ぶと、空気が重くなる。
辺りが暗くなり、空からは水滴が落ちてくる。雨だ。雨の勢いはだんだん強くなり、いつしか前を見るのも難しいくらいに降り注いでいた。
「……おい紅。……強過ぎだ」
「は? 知らねえよ。制御なんか出来てねえし」
「……は?」
「ほれ。もっかい行くぞ」
「……行くって、何が」
「北風!」
「……!?」
俺は氣のお陰で、二つまでなら風を同時展開出来るようになった。
さらにもう一つ。天候そのものに干渉する東風も覚えた。
そんで、このコンボだ。
全てを凍てつかす風の東風。
雨を降らす東風。
さて、この二つが合わさるとどうなるか。
答えは、
「痛い痛い痛いいいい!?」
「うわわわ!? 雨が刺さる!?」
これである。
霰とも雹とも呼べない。氷の針が落ちてくる。
そんでこっちは、風で上手いこと散らす。あっちにも風使いはいるが、残念ながら来ることが分かってるか分かってないかでは、その後の対応は天と地の差だ。
俺は風を使い、なるべく威力を軽減させた。
「いてて……ほれ刀夜! 出番だ!」
「……くっ! ……お前はもう少し自分の技をコントロールしろ!」
「考えとくよ! この世界が残ってたらな!」
刀夜は銃を構え、ふらふらと移動する雷獣に狙いをつけた。
双子はもうこっちに意識を向けていない。刀夜の雷を回避出来ず、地面に思い切り墜落する。
「追撃! 確実に息の根止めっぞ!」
「……分かってる!」
俺たちは双子の墜落地点を急いだ。
*
「おやおや。これは派手にやられましたね」
「げ、ウェザー」
「う、見つかっちゃった」
「相手は誰ですか?」
「……雷と風だよ」
「なるほど……あの二人」
それは非常に厄介だ。
白木の方は戦闘能力の面で十分に厄介。紅のもマキナ様が目をつけている時点で台風の目だ。
……ここは確実に息の根を止めるのが先決。
「エレキ。ゲイル。私も手伝います。確実に殺しますよ」
「え? でもウェザーの担当は」
「そうだよ。怒られちゃうよ」
「その点は大丈夫です。大した強敵もいませんでした。もう“全滅”させてます」
「……うわ」
「……さすが」
「さて。いつかの分もまとめて返さなければなりませんね」
私は自分の能力を使い天候を操り、あの目障りな雨雲を消した。




