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206.暗闇の姉妹③

 体はボロボロ。

 対して、お姉ちゃんはピンピンしている。

 さらにお姉ちゃんは私より強い。そんな私がどうやったら勝てるか。

 ……弱い者が強い者に勝つ時、その時は決まって強い者には無い強みを発揮させる事で弱い者は勝ってきた。

 なら、私にあってお姉ちゃんには無い、私の土俵で戦う必要がある。


「行くわよ。九陰」


「……!」


 しかし考える暇は与えられない。

 とにかく今は、現場を打開する!!


限界突破(リミットアウト)__」


「無駄よ! その技は長くは続かな」


__閃(セン)


「い!?」


 体から溢れた闇は手足を染めるようにまとわり、爆発的な力を生み出す。さらに、氣を使って不完全だった限界突破を完成させるに至った。

 私の能力は特化。何か一つを飛躍的に伸ばすのに優れた能力だ。初期の限界突破は方向性が決まってなく、がむしゃらに特化した結果だった。故に効率が悪く、体への負担も大きい。だが、氣を使った限界突破は一点に集中させれる。負担も軽減され、長時間の特化が可能になった。


「なっ!?」


「遅い」


 今の私には一挙手一投足が手に取るように見える。

 これなら……!


「っ! 甘い!」


 ガキイイン、と金属音が鳴り響く。


「基本に忠実過ぎるのよ!!」


「っ!」


 空いている側の短刀で今度はお姉ちゃんが切りつけてくる。

 すぐさまこちらも空いた側の短刀で防御に移るが……攻撃側の方が手薄になってしまった。


「何回甘いって言わせる気よ!」


 力が抜けた一瞬を狙われ、攻撃側が弾かれる。


「しまっ」


「遅い」


 全く同じ言葉で返され、空いた脇に蹴りを入れられる。

 だが、蹴りが当たる瞬間に“切り替える”。


「“(ヘキ)”」


「っ!?」


 蹴りが当たった瞬間、硬度を極限まで上げる。

 私の体は吹っ飛ぶが、地面に短刀を突き刺しブレーキ。さらに、硬度を上げたおかげでダメージは削げた。逆に、お姉ちゃんは顔をしかめていた。


「……九陰。お前」


「限界突破は三形態ある。でなきゃ、わざわざ閃、とか付けない」


「……そうね。あんたはそういう奴だったわ。生真面目で分かりやすさ重視。やめときゃいいのにわざわざ敵にヒントを与えるような名前も平気で付ける良くも悪くもまっすぐなバカ」


「そう。お姉ちゃんみたいに臨機応変は諦めた。だから」


 私は短刀を突きつけ、宣言する。


「一転突破あるのみ」


「……同じ特化でも使用者で違うのね。状況に応じて変える私に、状況に応じて“更に伸ばす”あなた。本当、あなた私の妹なの?」


「血は繋がってる」


 まあ、たしかにお姉ちゃんと私は対局だ。

 そんなお姉ちゃんに憧れていた気持ちもあった。お姉ちゃんの事で悩んでる時に紅に言われてやっとか自分の道を進む覚悟が出来たが。


「まあ、いいわ。はっきり言って私にはあなたみたいに奥の手は無い。もう出し切った、出し切っていると言っても過言じゃない」


「……だからって、諦めてる口調でも無い」


「そうね」


 お姉ちゃんはそう言うと、エクス・ギアを取り出した。


「本当は使わずに終えたかったんだけど、仕方ない。不確実な勝利で満足するほど、私も酔狂じゃないもの」


 その言葉に、私の不安は急激に増加する。


「私は八柱会が一人、ダーク。マキナ様に忠誠を誓う者。どんな勝負にも負けるわけにはいかない」


「お姉ちゃん! 何を」


 言い終える前に、事態が動いた。

 エクス・ギアから異質な力が溢れ出す。


「なっ!」


 これは、紅が言っていたエクス・ギアによる強制鬼化!?


「う……ぐ、キツイ」


「お姉ちゃん……正気があるの」


 だが、その状況でも正気を保つお姉ちゃん。その姿には言い知れぬ畏怖を感じた。


「持って三分……一気にクライマックスに行くわよ」

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