204.暗やみの姉妹①
「ああ、もう! 多いのよ!!」
「ぎゃっ!」
また一人。敵を撃ち抜く。
苦痛に表情を浮かべマキナ側の魔狩りは膝を折る。
私は思い切り蹴りを入れて、魔狩りを倒す。
「な、何を」
「あんたは悲鳴をあげてなさい」
ストレスの溜まっていた私はここいらで少しでも解消すべく、傷口を踏みつけてグリグリと足を押し付ける。
「ぐ、ぎゃああああああああ!!!」
「あははははははは!! もっと鳴きなさい! その悲鳴が私の糧となる!」
「完全悪役のセリフだぞそれ」
弾から声がかかるも無視。
いいのよ。これが私の進む道。
『くそ! 人を痛めつけて喜ぶ悪魔が!』
『我々の業界ではご褒美です』
『……え?』
『我々の業界ではご褒美です』
『……ええと』
『美少女に微笑んでもらえる。美少女の足に踏まれる。美少女に触れれる。何を戸惑うことがある』
『い、痛いぞあれ? というか微笑み?』
『プロなら痛みすら快感に変えれる』
『へ、変態だあああああ!!』
『失礼な! おいお前! 我々のモットーを教えてやれ!!』
『下心は上心おおおお!!』
『エロを隠すな! エロを恥じるな! エロを躊躇うな! エロこそ本能! エロこそ真理! 全ての根元がエロにある! 下心を隠すな! 全てを大衆の元にさらけ出せ!!』
『全ては奈孤様の名の下にー!』
『ぎゃああああああああ!!!』
「……お前。どういう教育してんの?」
「少し教えを説いただけだけど」
「少し!?」
あの軍団の九割は私が目をつけた者たち。
ある者はイジメられっ子。ある者は根暗。ある者は臆病。
だが私のSは彼らの中にあるMを見逃さなかった。
生かさず殺さず絶妙な匙加減で痛めつけ、調教した結果、こうなったのだ。はっきり言って悲鳴好きな私からしたらドMな彼らとは相性が悪いのだけど、こういう時は戦力として有効活用させてもらっている。
そして彼らは、私の号令により理性が外れ狂戦士となる。彼らの暴走を止めることは遥かに難しい。さらに、あのテンションに混ざるのも。
「だってのに、どうしてあいつは混ざれるのよ」
「なんか言ったか?」
「何であの混戦の中に太陽が混ざってられるのかって話よ」
「……ああ」
今回の太陽は太刀を使っている。
獅子奮迅の勢いで敵を駆逐していく。
……あ。光纏った。これヤバイやつだ。
「天照の大太刀ぃぃいいいいいい!!!」
光が刀身を伸ばし、光の刃は天を貫くほどに伸びる。
それを大上段に構え、振り下ろした瞬間に地面が融解する。
そして、あのバカは振り下ろすだけじゃ止まらなかった。
「っ!! 全員飛びなさい!!!」
「日輪!!」
天照の大太刀の刃を水平に構え、あろうことか一回転し始めた!
『飛べー! 焼け死ぬぞー!』
『いや、これはあえて進行方向に向けて走った方が……ぎゃああああああ!!』
『ああ、ピチュりやがった!』
『溶けたくなけりゃ全員全力で飛べええええ!!』
何人か犠牲になったが、気にしちゃいられない。
刃をギリギリまで引きつけて、飛ぶ!
「よっと!」
「まだ来るぞ!」
そして太陽が一回転で終わるはずもなく、二回転三回転と回転を続ける。
ええい! ままよ!
「……ねえ。こうやって飛んでるとさー」
「何だ」
「縄跳び思い出すよね」
「……まあ、わからなくもない」
だが、敵はだいたい殲滅できた。
とりあえずあの周りの見えてない奴に声を……!!
上から、なんか来てる!?
「太陽! 上!」
「ぬっ!?」
私の声を聞いてか、太陽の声が聞こえる。
だが、太陽の回転は止まらない。それどころか、急な失速にタイミングが外れ被害が拡大する。
だが、気にしちゃいられない。太陽の上空から“黒い何か”が飛んできていた。
私の銃じゃ今から作ってんじゃ間に合わない!
「太よおおおおおおおおおおおおおおおおおう!!」
「っ!!」
やばい。うちの最大火力が殺られ……
「任せて」
「え?」
私の脇を“黒い何か”が電光石火の速さで駆け抜けた。
天照の大太刀にその黒い何かが寄り添うように接触した瞬間、硬質な金属音がキィィイインと鳴り響いた。天照の大太刀は回転を止め、黒い何かは上空から降下してくる黒い何かに衝突する。
ドスン、という衝撃が響き渡った。
黒い何かはそれぞれ距離をとり、太陽を中心に互いに向かい合うように立つ。
徐々にシルエットが露わになっていく。そこにいたのは……
「黒木、九陰……」
「ん。待たせた」
*
対面してるのは黒い女性だった。
全身が黒で統一された装備。それはどこか私に通じるものがある。
……いや。
通じる、というよりは、あっちがオリジナルなのかもしれない。
「……お姉ちゃん」
「ええ!?」
遠くから驚いた声が聞こえた。
まあ、家族内で魔狩りとマキナ・チャーチに別れていたら、いろいろと複雑だろうから驚く気持ちはわかる。
「……久しぶり。私の影さん」
「私たちはどちらも闇。影もなにもない」
「それもそうね」
久しぶりの姉妹水入らずの会話。
あれほど待ち望んでいた再開。なのに、今はどこか悲しかった。いや、虚しい、だろうか。
目の前の女性を前にしても、何も感じられない。
「今じゃ一葉高校で風紀委員長なんですって? 凄いじゃない」
「……ん。魔狩りで鍛えられたから」
「そうよねえ。だって、あなたは何一つ私に勝てないもの。ただ一つを除いて」
姉は優秀。
私は全てにおいて姉よりも劣っていた。
ただ、白夜に、猫に契約を求められた事に関してだけは違った。
求められたのは私。
姉はどの猫にも、契約を求められることは無かった。
「……会いたかった」
「そう。私は会いたくなかったわ」
「お姉ちゃん。今すぐマキナ・チャーチを抜けて」
「……何を言うかと思えば」
黒木八陽はこめかみを抑え、すぐにこちらを睨みつける。
すると、短刀二刀を両手で構える。
私と同じ構え。
私が追いかけた構え。
同じ構えを反射的にとる。
「九陰。姉として最後の教えよ。敵は殺しなさい。それが一般人でも、知り合いでも、友達でも……身内でも」
「お姉ちゃん……」
「いざ」
そう言って、お姉ちゃんが足に力を溜めたところで……銃声が響き渡る。
お姉ちゃんは少し驚いたように、しかし楽々と避けてしまう。
「……ああ、忘れてたわ」
「悪いけど、身内のいざこざは持ち込まないでよ。今は戦闘。殺るか殺られるか。邪魔だ、なんて言わせないわよ」
「俺もいr」
「俺もいるぜ! この日差 太陽がな!!」
「熱血キャラブームうるさい」
「………………」
「みんな……」
危ない、逃げて、なんて言えなかった。
私のエゴに付き合わせてはいけない。
私は覚悟を決める。
「……力尽くでいく」
「相変わらず甘いわね。言っとくけどね九陰。忘れたわけじゃないでしょう?」
途端、肌を刺すような強烈な殺気を受ける。
本能的に一歩下がってしまう。
「私はあなたの、倍強いわよ」




