201.時空①
この時、この瞬間を待っていた。
空間をあまり消費せず、廻間との戦闘で全力で振るえる、この時を。
例えこの空間が崩れようと、ここでこの男を仕留める。
手を振るう。
「次元烈断」
「物騒な……!」
一瞬にして廻間がいた空間が縦に横にズレる。領域内の建物は全て裂けていく。
だが、そこに廻間の姿は無い。
「後ろ!」
「セヤッ!」
私は空間を“凝縮”させ、“距離の密度”を大きくさせる。おかげで、廻間の剣が私に到達するまで一瞬遅れた。
それだけあれば十分だ。
私は手を伸ばし、廻間へと触れようとする。
「っ!!」
廻間は一気に余裕を無くし、剣を離しすぐさま飛びのこうとする。
私の手は廻間へと触れようとし、しかし先ほどの空間の凝縮により周りの空間が“薄く”なってしまい、距離も一瞬で開いてしまう。
「……久しぶりの技だな。凝縮。空間の密度を高めて距離を増やす。その代わり、周りの距離は減り、さらに空間も壊れやすくなるがな。更に、今、触ろうとしたな?」
「……ええ。まさかあのタイミングで避けられるとは思いませんでしたが。接触破壊」
私は足元の石ころを持ち上げ、握ると、石ころは豆腐を握りつぶすかのように簡単に潰れる。
握り潰した場所では、次元の穴が広がっていた。
「触ることで直接干渉、破壊することでラグゼロで目標だけを破壊する技。私にも被害が来るので普段は使うのを避けますが、まあ今回はいいでしょう」
「こちらは全然良くない」
「そうですか。じゃんじゃん使わせてもらいます」
「じゃんじゃん、か」
廻間は自嘲気味に笑う。
多分それは、元々私の能力も廻間の能力も長期戦にむいていないからだ。
いつも私と廻間が本気で戦うと、ものの数分で決着が着く。
技もそんなに用いる事はない。使う前に、終わる。
「ならば、此方は出し惜しみせずに行こう」
廻間は新たな剣を出す。
その剣へ力を注ぐ。
刀身が仄かに青白い光を放ち始める。
「それは……」
「時止めの剣」
ブン、と剣を振るう。
剣が通った空間はまるで色彩を失ったかのように黒ずんでいく。
まるで、“時が止まったかのように”。
__違う。
「久しぶりですね」
「これは消費が激しいからな。しかし、知っているだろう。これは読んで字のごとく時を止める剣なのだから」
「……ええ。昔はよくその剣の辛酸を嘗めさせられました」
空間の時が止まる。
それは、私の空間制御を無効果するということ。
全く出来ないというわけではない。
だが、もし時が止まっている空間を動かそうとすると互いの力が干渉しあう。属性が空間の私の方が優先されるとしても、自分の空間と同等の時の力が干渉しているのだ。私の能力で上書きするのに少し時間がかかってしまう。
そのせいで、私は何度も負けた。
「お前も出すがいい。空間を引き裂く剣を」
「………………」
だが、ただ負け続けたわけではない。
私も勝つ方法を模索した。
その結果、私の望んだ形は“剣"だった。
「ええ。そうしましょう」
私は空間に穴を開け、その中に腕を入れる。
そして形を固め、引き抜く。
私の手に収まっていたのは、異様な色合いをした剣。次元を押し固めた、型破りな剣だ。
「空裂剣。まさか、また使うとは思いませんでした」
「お互いに消費が激しいからな」
「ええ。世界が壊れてしまいます」
私の剣は、振るえば空間を引き裂く。
一太刀でも受ければ、どんなモノも容易く両断する必殺の剣。
対して廻間の剣は、振るえば時を止める。
一太刀でも受ければ、どんなモノの時間でも止める剣。
両者共に奥の手。最後の技だ。
さらに、両者共に昔とは違う技を身につけている。
立体。
歪。
あと幾らかの打ち込みで、勝負が決まる。
「行きます」
「行くぞ」




