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200.負けず嫌い

「割けなさい」


 私が指定した座標の空間が少しだけ“ズレる”。それだけで、その座標にいた存在は胴が千切れ血を吹き出しながら絶命する。


「凶悪ねー。避けるには動き続けて特定されないようにしなきゃいけない。でも触れられればその時点でズラされるから迂闊にも近づけない。だからと言ってうかうかしてると今度は先読みでズラされる。空間への不可が大きいために長時間使うことが出来ない。その一点だけを除けば最強の能力よね」


「そうでしょうか。これ、制御するの凄く大変なんですよ?」


 戦闘にも余裕が出始め、攻めてくる魔獣を殺しながら奈孤ちゃんと話す。ついでに、この子の軍団は更なる血と肉と戦乱を求めて何処かへ行ってしまいました。


「奈孤ちゃんはその年で人殺しは平気なんですか?」


「年頃の女の子になんて質問よ……。別に平気じゃないわ。血とか見てると興奮するし幸福になるし優越感みたいなのも満たせるし。たしかに「こっちの方が私に合ってるかも」て思った時期もあったしね」


「今はどうなんですか?」


「ふと我に変えれば辺りに充満する血や腐敗した肉の匂いで吐き気がするし、いいもんじゃない。でも、相手だって殺しにかかってるんだから黙って殺られたくもない。殺られそうなら殺り返す、て感じね。私にとって殺しは義務であり手段よ」


「……複雑なんですね」


 高校生ですからね。

 例え正義の為とか自分に都合のいい大層な理由を掲げても、どんな理由であれ人殺しというのは社会で生きて行く故で精神的に異常をきたす。

 義務であり手段。

 その言葉には身勝手ながら、こんな世界を残し続けてきた事への罪悪感や普通の高校生活を送れなくなった事への寂しさを感じてしまいます。


「あ、でも精神的にも肉体的にも徹底的に追い詰めて、飴と鞭を使い分けしつつ人の心を弄ぶのは大好きよ」


「……複雑です」


 なんだかさっきまで真面目に考えてあげたのが馬鹿らしくなってしまいました……。

 この子、どこか輝雪ちゃんと似てますね。領土戦の時にいっつも仲が悪いのは同族嫌悪なのでしょうか。

 私は過去の二人の会話を思い出してしまいます。


 小学低学年

『いっつもお兄ちゃんの後ろにいて。ブラコーン』


『ふぇぇ……』


 小学上学年

『ああ、来てたんだ。気付かなかったわ』


『ひ、ひぃ!』


 中学生

『あら。性懲りも無く来たの? ブラコンはさっさと家に帰ってお兄ちゃんにでも甘えて』


『ブラコンで悪いの? 家族を大切にするのはおかしいことかしら』


『っ!?』


『あ、もしかして自分はお兄ちゃんとかいないから寂しいんでしょ。そうならそうと言ってくれれば嘲笑ってあげたのに』


『へ、へぇー……。随分と嫌味な性格になったものね。私、昔のあなたの方が好きだったのに』


『あらほんと? 嬉しい。私はあなたの事が昔から大嫌いだったけどね』


『……うふふ』


『ふふふ』


『あんたの顔面ぶち抜いてくれるわ!』


『上等! 上半身と下半身を掻っ捌いてご対面させてあげるわ!』


 今思えば本当に輝雪ちゃん変わりましたね。魔狩りでちょくちょく会う機会はあったので知ってましたけど。

 白坂 雪音、という人物が関係してるんでしょうか。輝雪ちゃんの天敵という。


「にしても余裕ねー。相手もこんな戦力を小出しにしてる余裕なんかあるのかしら」


「そうですねー」


 私は能力で空間の状況を広範囲に渡り察知していきます。

 その時、此方に不自然に小刻みに加速と減速を繰り返す存在が近付いて来ました。


「どうやら、そういうわけでもなさそうですよ」


「え?」


「刀夜さん。冷華さん。ここはいいです。別の場所へ」


「……わかった」


「舞さん。頑張って」


「はい。頑張ります。奈孤ちゃんも弾さん連れて移動してください」


「どうしてよ。敵なら私も手助けを」


「奈孤ちゃん」


 私は先ほどまでの緩んだ空気を払い、真剣な表情で奈孤ちゃんを見つめる。

 空気を読み取ったのか、奈孤ちゃんもふざけた雰囲気を取っ払う。


「奈孤ちゃんは言いましたよね。私の能力は最強だと」


「……言ったわよ」


「たしかに、私の能力は強い。ですが、それは同時に他の能力との確執も生むのです」


「ど、どんな」


「“最強であるが故に、私の能力はどの能力とも相性が悪いのです”。多分、今近づいて来てる相手は手加減出来るレベルの敵ではありません。気持ちは嬉しいのですが、一緒に戦うという行為は私にとっては邪魔以外何物でもない」


「……!」


「お願いします」


「……わかったわ。弾! 別のポイントに移動するわよ!」


「え? あ、おう!」


 人払いは出来ましたね。

 増援が来る様子もありません。


「一騎打ち、ですね」


「そうだな」


 声が聞こえる。

 ついこの前、連続引き分け記録が途絶え、私が“負けた”相手。


「すいませんが、今回は勝たせてもらいます」


「無駄だ。今回も勝たせてもらう」


 時乃 廻間。


「私はこう見えて負けず嫌いなんですよ」


「だからどうした」


 私はクスリと笑い、敵を見据えて、言った。


「“これが最後の戦いになるのに、負けっぱなしは嫌なんですよ”」


 リベンジマッチ。

 今日、この時を持って、長年の戦いに終止符を打つ。

 廻間を、殺す。

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