188.もう一人の仲間の元へ
紅たちは騒がしいな。何があったというのだ。
「そういえばお兄ちゃん。月は?」
不意に声がかかる。
ここに着いた時、その場に月の姿は無かった。だが、まあ大丈夫だろう。
「ああ、月なら」
「転移中に引っ張られちゃいました〜」
「ええ!! それって、舞さんのゲートに干渉したってこと!? 大丈夫なのそれ!?」
「大丈夫だ。多分本部だろう。こんな事が出来るのは」
「……本部ってかなり謎よね」
「そうだな」
月はその謎の組織で働いているわけだが。
何にしても、
「疲れた……。たしか今は夏休みだったよな」
「そうねー。夏休みねー。というかマジで疲れたわー」
「……宿題終わらせたか」
「この緊急時に宿題なんてどいでもいいよ!」
「わかった。もういい」
やってないんだな。
「だが、実際問題どうするんだろうな。このあと」
マキナとの決着を付けるのだろうか。
だがどう付ける。
あっちは何処にいるのかもわからないと言うのに。
「……お兄ちゃん」
「どうした」
「もう戦わなくていいのかな」
「………………」
今にして思えば、幼少の時から戦い付けの日々だった。
家に帰れば訓練。学校でも周りと話が合わない。魔獣が出れば幼くとも戦力になるのなら駆り出された。
輝雪は大変だったな。クロにいつまでも気を許さず、数年の時を経て中三の時にやっとか相棒にったもんな。
というか、時間かかり過ぎだろ。
まあ、俺も似たようなものだったがな。輝雪が心配で、いつまでも輝雪から離れられなかったか。そんな俺を変えてくれたのは月だったか。今思えば、あいつと付き合い始めたのもあの時か。
だが、この出会いや出来事は全て魔狩りを中心に起こっていた。
戦いの中で起こった事だ。
戦わなくていい。
これが終われば、本当にもう終わりなのだろうか。
「……そうだといいな」
こういう所で断言が出来ない。それが俺の悪いところだ。
俯いていると輝雪が俺の背中をバシン、と叩く。
「ま、終わってからのことは終わってから考えようか!」
「……輝雪」
終わってから考える、か。
「刀夜。この戦いが終わったら私結婚したい」
「……そうか。……勝手にすればいい」
「刀夜と結婚したい」
「……断る」
「ダメ?」
「……ダメだ」
「ケチ」
「……ケチじゃない」
「……こうなったら既成事実」
「……待て。……何をする気だ」
「覚悟」
「結婚式には呼んでくださいね〜」
「……結婚なぞしない!」
………………。
ま、まあ、終わってからの事は終わってから考えるか。焦る必要なんてない。
「輝雪。強くなったな」
「誰の妹だと思ってるの?」
輝雪はクスッと笑うと、胸を張って言った。
「私は木崎 和也の双子の妹。木崎 輝雪よ!」
「……ああ、そうだな。なら俺も、お前の双子の兄として恥ずかしくないよう努力しよう」
「なら私は二人の先輩の風紀委員長として頑張る」
「私は大家ですね〜」
「私は刀夜の正妻として」
「……誰が正妻だ誰が。……俺は二人の目上の者として頑張ろう」
『いつの間に……』
これから神に立ち向かおうとは思えないメンバーだな。
だが、これでいいのかもしれない。
気取らず、俺たちらしい俺たちの戦いを。
『な、何なんだよこれ!!』
上から叫び声が聞こえる。
紅か。
「全く。最後までせわしない奴だなあいつは」
「ふふ……。じゃ、行きましょうか」
俺たちの、もう一人の仲間の元へ。




