180.二人の紅①
深い……。
月島に飛ばされての最初の感想は、ただそれだった。
……ここが俺の精神か。
「……くっら」
「そう見えるだけだ」
薄暗い空間の中で、俺以外の声が聞こえた。
突然の事に驚き、すぐに飛び退く。
「……俺?」
「ああ。俺だ」
そこに居たのは“黒い俺、黒い紅 紅”だった。
……紅なのに黒ってどうなんだろうな。
「お前が鬼化した部分か」
「ああ。俺がお前の闇の部分だ」
「……というか、何で目を瞑ってんだ?」
「ん? ああ、これは後のお楽しみだ」
「俺にそんなサービス精神なんかあったかなぁ……」
「ねえ紅。何をやってるの?」「それは後でのお楽しみだ」なんて、どんなテンプレだおい。
「で? お前はここに何しに来たんだ?」
「体を取り戻しに来た」
「取り戻しに? ……くくく、ああ、そういうことか」
「……何だよ」
「“お前は何も分かっちゃいない。お前は何も理解しちゃいない。お前は何も考えちゃいない”」
「……は?」
俺はちゃんと説明を受けたし、現場の事はよく分かっているつもりだ。
なのに、分かっちゃいない理解しちゃいない考えちゃいないの三拍子を揃えられた。
まだ、俺の知らない事があるってのか?
「で? 無知なお前が体を取り戻すために何をしてくれるんだ?」
「決まってんだろ。お前を倒す」
「……く、ふは、ははは、ははははははははははははは!!」
黒い俺は、高らかに笑う。
まるで、先に穴があるのを知っていて、その穴に何も知らない人が気付かずに近付いている状況を見てるみたいに、全てを知っていて不正解を答えられたみたいに、笑う。
「はぁ、はぁ……笑い疲れた。……いいぜ。やってみろよ。テメエの力でテメエを倒せんならな」
「倒してみせる。和也たちが作ってくれたこのチャンス、無駄にはしない」
「……まあ、月島の奴は自分で気付かなきゃ意味が無くなってしまうから、真の意味で理解しなきゃ解決にならないから教えなかったんだろうが、完全に失策だな」
「どういう意味だ。月島が俺に伝えなかったって」
「自分で考えろよ。とりあえずお前は……眠っとけ」
黒い紅が目を開く。
__紅
ドロドロと黒く濁り、それでいて紅く輝く紅い目。
俺の緑の目とは違う、紅い目。
それを俺は、思わず
「血の色、みたいだろ?」
内心で思っていることを当てられてしまう。
「怒り、憎しみ、殺意、そういう負の感情が詰まった目だ。今にお前も、この目と同じ色に染めてやるよ」
「……はっ。やれるもんなら」
精神世界。
概念のみの世界。
ここでのバトルは、イメージこそが鍵だ。
だから、だろうか。俺の服装もあの世界で着ていた制服ではなく、パズズと契約した時と同じ、特攻服のようなものだった。
相手もデザインは同じで、だが、やはりと言うべきか、真っ黒だった。
睨み合い、構えて、全く同じタイミングで、踏み出す。
「やってみろ!!」
拳と拳が交差し、風が吹き荒れた。




