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とりあえず平和な日常をくれ!  作者: ネームレス
領土戦での日常
178/248

177.紅の世界③

「紅。先に帰ってるから」


「お先〜!」


「おう、じゃあな晶、焔」


「さ、私たちも行こ、紅」


「そうだな」


 学校も終わり、それぞれの放課後を迎える。

 俺と由姫は、手を繋いで買い物へと向かう。


「今日は何を作るの?」


「あー、肉が余ってたから野菜買って炒めてっかな。楽だし」


「えー。もうちょっと手の混んだのにしようよー」


「作る側の立場が分かってから言え」


「私はいいのよ」


「何でだよ」


「紅が作ってくれるもの」


「っ」


 不意打ちだった。

 俺は赤面した顔を隠すように逸らす。由姫は何故か勝ち誇っている。


「ふふ、私の勝ち」


「……何がだよ」


「言っていいの?」


「……ダメだな」


「はーい」


 それにしても、こいつも元気になったもんだ。

 昔は病弱で、儚い感じだったのに、烈が作った新薬が効いて……


『お前のせいで!』


「っ!」


「紅! 大丈夫!?」


「あ、ああ」


「……本当に?」


「大丈夫だって。ほら、な?」


「……うん」


 何だ、今の。

 烈に凄い形相で睨まれたような、そんな気がした。

 でも、そんな記憶は無い……はずだ。


「ほら、行こうぜ」


「うん」


 きっと俺の顔は強張っていたと思う。

 でも由姫は笑顔で返してくれた。

 その心遣いが今はとても嬉しく……とても心をかき乱す。

 何か、忘れている気が……


「紅! 見て夕日! 凄く綺麗だよ!」


 何かに焦ったように叫ぶ由姫。

 でも、夕日は確かに綺麗で、心の中にあった“何か”を溶かしていった。


「……ああ、綺麗だ」


 ・・・

 ・・

 ・


「いやー買った買った。というかこの量は日曜の方が良かったと思うんだが」


「いいじゃない。殆どお菓子だし」


「全く良くないな」


 そしてそれを持つのは俺だ。

 うん、男の宿命だとわかっていても納得出来ないものがあるな。


「……あれ?」


「どうしたの紅」


「いや……」


 俺の視線はある場所に釘付けになった。

 裏路地だった。

 何の変哲もない裏路地。

 だけど、俺はとても懐かしく感じた。

 ここで何かが始まったような……


「紅!」


「うわ!? 由姫!?」


 後ろから抱きつかれる。

 ななな、何だ!?


「……ダメ」


「……由姫?」


 何かに怯えるような……そんな風に由姫は震えていた。


「お願い……もう」


「紅」


 それは突然だった。

 由姫と全く同じ声が、別の方向から聞こえた。

 俺と由姫はバッ、とその方向を見る。

 そこには由姫と瓜二つの人物がいた。

 あいつは……朝の……。


「お前は……」


「どうしてここにいるの!!」


 俺が何かをいう前に、由姫が叫ぶ。

 怒りの形相で睨んでいた。

 だが。あっちの由姫(?)は平然と、そして静かに言い返す。


「どうしてここにいるの、ね」


 由姫(?)の目は静かに俺を見据えていたのだと思う。

 何故かはわからない。

 だけど俺は、耳を傾けていた。


「この世界を壊しに来た」

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