177.紅の世界③
「紅。先に帰ってるから」
「お先〜!」
「おう、じゃあな晶、焔」
「さ、私たちも行こ、紅」
「そうだな」
学校も終わり、それぞれの放課後を迎える。
俺と由姫は、手を繋いで買い物へと向かう。
「今日は何を作るの?」
「あー、肉が余ってたから野菜買って炒めてっかな。楽だし」
「えー。もうちょっと手の混んだのにしようよー」
「作る側の立場が分かってから言え」
「私はいいのよ」
「何でだよ」
「紅が作ってくれるもの」
「っ」
不意打ちだった。
俺は赤面した顔を隠すように逸らす。由姫は何故か勝ち誇っている。
「ふふ、私の勝ち」
「……何がだよ」
「言っていいの?」
「……ダメだな」
「はーい」
それにしても、こいつも元気になったもんだ。
昔は病弱で、儚い感じだったのに、烈が作った新薬が効いて……
『お前のせいで!』
「っ!」
「紅! 大丈夫!?」
「あ、ああ」
「……本当に?」
「大丈夫だって。ほら、な?」
「……うん」
何だ、今の。
烈に凄い形相で睨まれたような、そんな気がした。
でも、そんな記憶は無い……はずだ。
「ほら、行こうぜ」
「うん」
きっと俺の顔は強張っていたと思う。
でも由姫は笑顔で返してくれた。
その心遣いが今はとても嬉しく……とても心をかき乱す。
何か、忘れている気が……
「紅! 見て夕日! 凄く綺麗だよ!」
何かに焦ったように叫ぶ由姫。
でも、夕日は確かに綺麗で、心の中にあった“何か”を溶かしていった。
「……ああ、綺麗だ」
・・・
・・
・
「いやー買った買った。というかこの量は日曜の方が良かったと思うんだが」
「いいじゃない。殆どお菓子だし」
「全く良くないな」
そしてそれを持つのは俺だ。
うん、男の宿命だとわかっていても納得出来ないものがあるな。
「……あれ?」
「どうしたの紅」
「いや……」
俺の視線はある場所に釘付けになった。
裏路地だった。
何の変哲もない裏路地。
だけど、俺はとても懐かしく感じた。
ここで何かが始まったような……
「紅!」
「うわ!? 由姫!?」
後ろから抱きつかれる。
ななな、何だ!?
「……ダメ」
「……由姫?」
何かに怯えるような……そんな風に由姫は震えていた。
「お願い……もう」
「紅」
それは突然だった。
由姫と全く同じ声が、別の方向から聞こえた。
俺と由姫はバッ、とその方向を見る。
そこには由姫と瓜二つの人物がいた。
あいつは……朝の……。
「お前は……」
「どうしてここにいるの!!」
俺が何かをいう前に、由姫が叫ぶ。
怒りの形相で睨んでいた。
だが。あっちの由姫(?)は平然と、そして静かに言い返す。
「どうしてここにいるの、ね」
由姫(?)の目は静かに俺を見据えていたのだと思う。
何故かはわからない。
だけど俺は、耳を傾けていた。
「この世界を壊しに来た」




