11.必殺料理人
帰ってきた俺が最初に目にしたもの。
それは、“惨劇"だった。
「…何だよ…これ」
「…酷い」
そのあまりの悲惨さにパズズも息を呑む。
誰が作ったかわからない料理が部屋全体に飛び散り、テーブルは逆さまになり、焔や晶が吐いたであろう吐瀉物。
「う…うん…コ……ウ?」
「!!焔!大丈夫か、焔!」
かろうじて意識を保っていた焔に駆け寄る。
…震えてる。
「何があった!誰がこんな事を!」
「コ…ウ。ゴメン……ね?」
「謝んな!クソ!誰がこんな!」
俺の平和の一部、いつも隣にいた幼馴染。それが、それが!
「生きて…紅。…最後に会えて……よか…た」
「焔あああああーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
何でだよ!俺は、自分の平和を守る為に戦うって決めたのに!なのに、
「何も…守れなかった」
いったい、誰がこんな事を…
「あれ?紅くん。帰ってたの?」
突然聞こえる女の声。聞こえた方向に目を向けると、そっちには台所があり、エプロンとお玉を装備した輝雪がいた。
「………」
徐に俺は立ち上がり台所へ向かう。
「紅くん?」
輝雪の声はもう届いていない。
台所には見た目は美味しそうな料理があった。俺はその料理と部屋全体に飛び散っている料理を見比べる。色、具材、臭い。全てが一致する。
俺は輝雪の目の前に立ち、
「お前が原因かああああーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
俺の人生の中で一番と言っていい威力の拳を目の前の元凶に振るった。
ドゴオ!!!
輝雪は体ごと吹っ飛び壁に当たり意識を失う。
これが俺の平和を荒らした報いだ!
・・・
・・
・
「申し訳ない」
「いや、和也が謝る事じゃあ」
現在、俺は木崎の部屋に来ている。和也と輝雪が二人で借りてるし、この言い方が妥当だろう。
何故木崎の部屋にいるかというと、俺と晶と焔の部屋…こっちも長いな。幼馴染の部屋でいいか。で、その幼馴染の部屋がとても散らかってるからである。
いやさ、ゴミがどうとかだったら兎も角、吐瀉物とかあるんだぜ?流石に無理。だから晶と焔も移動させたいし、木崎の部屋にきたわけだ。二人は奥の方に寝かせてる。
「言っておくべきだったな。輝雪の料理の事を」
「…まあ、今更だし。とりあえずあいつの料理が何なのか教えてくれ」
一番の謎だ。人が吐いて気絶するんだぜ?どういうことだよ。毒か?
「輝雪の料理はポイズン◯ッキングでは無いとだけ最初に言っておく」
毒では無い。ならばいったい?
「輝雪の料理は…ひたすら辛い」
「…どんくらい?」
「ブート・ジョロギアを軽く超える」
…何?それ。
「ブート・ジョロギアとはギネスにも認定されている世界一辛い食べ物だ。唐辛子の一種でハバネロを軽く凌駕する」
おいおい。そんな物を簡単に超える物を作れる輝雪っていったい。
「見た目は美味しそうな料理だからな。二人は不意打ちでやられたんだろう。だが、まだ良い方だと言っておく」
「は?何で?」
不意打ちくらっての激辛だぜ?
「輝雪の料理は身構えると逆に危ない。最初から辛いとわかってるからな。なかなか気絶できない。延々と辛さと痛みに襲われる」
「最悪過ぎる…!」
何それ?酷すぎて罰ゲームにもできねえよ。
「さらに輝雪はゆういつにして自分の料理を食べれる。そのためか、自分の料理は美味しいと勘違いしている」
「たちが悪過ぎんだろ!指摘の仕様が無えじゃん!」
何だろう。怖くなってきた。
「今回の見回りは俺たちだけだな」
「見回り?」
「夜のうちに街中歩いて魔獣が居ないかチェックするんだ。夜が出やすいからな。…日中でも出る時は出るが」
「…そうだったのか」
夜中にかー。まあ、散歩だと思えばいいよな。
ドタドタドタ
「ん?」
「輝雪か」
「紅くん!酷いじゃない!殴った挙句そのまま放置なんて!」
「うっせえ!誰のせいだと思ってんだあの惨状!」
「さあ?」
「お前だああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
こいつ、何て奴だ。自分のせいだとマジで思ってねえ。
「とりあえず輝雪。お前、こいつらの部屋掃除して来い」
「お兄ちゃん!それは理不尽よ!私は料理を振舞ってただけよ!」
「その料理が原因だと言ってるんだ」
「そんなわけ無いじゃない」
「どうしてそう言い切れるんだお前は…」
和也も大変なんだな。
こうして、輝雪の料理は人智を超えた辛さだということが発覚し、晶と焔にトラウマを刻み付けたのであった。
…俺はこいつらとちゃんと連携を取れるんだろうか?




