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115.動向

『………………』


「いい加減機嫌を直したらどうだ」


 あの後、問題なく現実世界に戻るも、あの二人は互いに睨み合う状態を続けていた。

 ……エルボスに入った場所は別々だから、戻った時も別々のはずなんだが、何故俺たちが合流するよりもこの二人が会う方が早いのだろうか。


「和也先輩。この変態に気を許せという方が無理です」


「和也。このクソ生意気なガキに気を許せという方が無理だ」


「……勝手にしてろ」


 何をどうしたら初対面でこうなるのだろうか。


「というか和也くん、この子と知り合い?」


「……まあ。俺と言うより、輝雪や九陰先輩もだが」


 だが、少し紹介された程度でしかない。


「では、私から紹介します」


「蒼ちゃんも知ってるの?」


「はい。彼女は音音(オトネ)音音(ネオン)。魔狩りにして私の監視及び護衛、そして友達です」


「蒼ちゃんの?」


「そういえば晶さんと泥棒猫は知りませんでしたね。少々魔狩り関連でいろいろあって、監視対象なんですよ、私」


「た、大変な事もあったね」


 信頼は置ける人物だ。

 まあ、何故か休日でも常時学生服に白衣を着ているという人物ではあるが。

 メガネもかけて、外見はインテリだし、武器は楽器だから音楽の嗜みもある……という風に誰もが最初に思う。だが、その実在は服装は趣味で武器も使えるから使ってるだけで頭の上には「なんちゃって」が付く残念な人物ではあるが。


「ぜぇ、ぜぇ」


「あー、よしよし。良く頑張ったね」


「お疲れ」


 そしてライフがすでに0の火渡。体力の少なさに泣ける。

 まあ、輝雪と九陰先輩に任せておくか。


「……とりあえず帰らないか」


 頼むから休ませてくれ。


 *


 蒼ちゃんのお兄ちゃんと言うからどんな人かと思えば、女の人じゃないですか!

 脱げと言えば恥ずかし気も無く脱ぐし、いったいどんな生活をしてきたのやら。

 これは、もう徹底的に更生させるしかありません。

 変態から一般人へとランクアップさせる。これが私の指名!


「蒼ちゃん!」


「どうしたの音音ちゃん」


「私、頑張ってあの人を真人間にさせるね!!」


「……あー、また暴走して自己完結してるパターンか」


 *


「というか和也先輩たちも来るなんて聞いてませんよ!?」


『今更!?』


 凄く今更の質問だった。

 というか、紅の家に着いてから言うか?


「いやいや音音ちゃん。お兄ちゃん“たち”が来るって言ったじゃん」


「嘘お!?」


「本当!」


「あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわ………」


「あわあわ言い過ぎじゃない?」


「聞いてないよ!!」


「言ったよ!!」


「言ってよ!!」


「言ったよ!?」


 なんのコントだ。


「やばい、和也先輩たちをモデルにしたBLが今出回ってるなんてしれたら大変なことに……」


 今何か聞こえた気がするが気のせいか? 背筋が寒いのは何故だろう。


「あ!」


「どうした紅」


「蒼の部屋のBLを全部処分しねえと!」


「私も協力するわ。私も見た……いからね」


「輝雪、せめて言い訳しようよ」


「素直過ぎる」


「自分の気持ちに嘘は付けないわ!!」


「お兄ちゃーん!? 後生ですからBLだけはー!」


「……心配だから僕もついて行くね」


 ドタバタと、騒がしい連中は上へと行った。

 ……さて。こちらも済ませるか。


「おい、音音(オトネ)


「………………」


「音音?」


「……あ、はい! 先輩は攻めですか受けですか?」


「何を言ってるんだ?」


「……あ、いえ! 何でもありませんので忘れてください!!」


 何故だろう。何もやっていないのに、たくさんのものを失っている気がする。


「まあ、いいんだが。それより、聞きたい事がある」


「はい。アニメゲーム漫画アニソンラノベ週刊誌同人誌諸々網羅してる私に隙はありません」


「……魔狩りのことなんだが」


「も、もっちろんそうに決まってるじゃないですかー!」


 オタク……何だろうな」


「それでだ」


「ああ、その目。いい、いいです最高です! もっと、もっと冷たく睨んでくださいぶひぃぃ!」


「ダメだこいつ。早くなんとかしないと」


「和也さんと晶先輩の絡み。触れ合う肌、かかり合う息、見つめ合う目、通じ合う心、性別の壁を超えた恋! 頬を赤く染めた晶先輩に強気攻めの和也先輩、抵抗するも徐々にその愛を受け入れて行く晶先輩に徐々にハードになる絡み……漲ってキタアアアアアアアアアアアアア!!!」


 違う。手遅れだった。


「邪魔したな」


「待ってください。今大丈夫です。OKですオールグリーンです」


「……本当か?」


「はい。今は賢者のように心が澄み渡っているので」


 ……深く考えるな。理解したら負けだ。


「……聞きたいのはマキナ・チャーチについてだ」


「………………」


 途端、険しくなる表情。伊達にこちら側にいてないということか。


「動きはあるか?」


「蒼ちゃんを狙った動きは今のところ。ですが、相手の情報なんですが、たしか脱出用のエクス・ギアを持ってるんですよね?」


「それがどうした」


「その逆は無いんでしょうか」


「……どういうことだ?」


「おかしいんですよ。今にして思えば、私たちの猫に付けられている共鳴転移(マーキング)は、秘匿されている技術。マキナ・チャーチの連中は知らないはずでよね?」


「そうだな」


「じゃあ、何故あいつらはエルボスで私たちと会えるんですか?」


「…………!!」


 たしかにそうだ。

 エルボスは現実の千倍の時間が流れている。会おうとして会わなければ、それこそかなりの確立になるはずだ。

 なら、どうやって遭遇するのか。


「あいつらは、月や空間の力無しに、エルボスに行ける方法があるということです」


「……かなり厄介だな」


 魔獣と戦ってる途中に乱入されたら敵わんな。


「動きとしては微妙です。二回ほどちょっかい出されたので氷付けにして、本部に送っといたのですが、舌を噛み切って自害されたため情報も無いようです」


「自害か。大した忠誠心だ」


「ですね」


「……ふむ」


 こちらにあるカードは紅と月島。


 *


「ルナって呼んでよ!!」


「ど、どうした雪音」


「あ、いや。なんかルナってせっかく付けてもらったのに定着してないような気がしたから。カグヤもルナって呼んでね」


「はいはい……」


 *


 ……今、変なものが間に入ったような。……気にしたら負け。

 とにかく、この二人をどう使うか、どう動かれるのが一番相手にとって嫌なのか、それを見極める必要がある。

 だが、ゆっくりしてる暇も無い、か。


「……仕掛けてくるかもな」


「何がですか?」


「マキナ・チャーチ」


「まさか」


「そのまさかだよ。紅の特技は、周りを不幸の穴へ道連れのように落とす事なんだから」


「酷い言いようですね」


「それだけ知ってるということだ」


「なるほど」


 まあ、願わくば、


「平和が続きますように」


「同意」


 ……面倒くさい。

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