102.ガス抜き戦
「で、なぜ野郎三人で飯食わなきゃならんのだ」
「女三人から逃げてきたんだ。ちょうどいいだろ」
「全員紅狙いだけどね……」
ほんと、どうしてこうなるんだが。
野郎三人でのマックって……。
あ、いや。正確にはもう二匹いるが。
「焔は最近焦ってるかのように全力で絡んでくるし、ルナはよくわからんし、九陰先輩は突拍子もないし、輝雪は一番俺の理性を壊しにくるし……」
「いやー、ハンバーガーうまいですね」
「……秘密とは何だったのか」
「まあまあ、そう言うなよ」
そう。二匹というのはパズズとクロだ。晶の前で喋ってるように、もはや秘密どうこうはどっかに飛んで行ったとしか思えない。
まあ、人間モードなんだが。フードを被って耳もカバーだ。
「なあ、晶。野郎三人に子ども二人。これってはたから見たらどう見える?」
野郎三人というよりは、野郎二人と美少女一人だが。
「……今、とても失礼なこと考えたでしょ。そうだね、弟と妹と一緒に遊びにきてるって感じかな。多分ね」
「そうだといいな……」
「にしてもいいですねハンバーガー」
「照り焼きうめ〜」
おかしい。俺の記憶ではハンバーガーには玉ねぎがあり、猫は玉ねぎダメだった気が。
まあ、それを聞いたら
「常識? 何それ。うまいのか?」
素で返してきやがったけどな。
もうどうにでもなれ……。
「さて、キャラ設定ですが。私は紅のことを「お兄ちゃん♡」と呼べばいいのでしょいか?」
「やめろ」
寒気がする。
「なら俺は……」
「いつも通りでいい」
「了解だ和也」
あっちもあっちで決まったようだ。
「さて、このあとどうする」
女三人があのままだとは思えない。
「なに。俺が少し本気出せばこの町の全てが把握できる」
「お前の天然チートぶりが凄いな」
「本当だね」
「お前もな」
超索敵能力と超隠密能力。
岩をも砕く破壊力。
俺、よくこんな奴らと連んでるな。
「お前もだからな」
「紅も大概だよ?」
俺とこいつらの間にここまで意識の差があるとは思わなかったぜ。
「で。行き先決める前に和也。女三人がどこにいるかわかるか」
「ここの表口と裏口を固めてるな」
「よし、相手の場所もわかったことだし、見つかる前に移動をって見つかってるじゃねえか!!」
ばんっ! と机を叩きつけてしまったため、周囲から注目されてしまった。
……やべ。
「はぁ……。まずは動きながらだ」
「じゃあ行こっか」
あ〜、済まぬ。
「紅」
「ん?どうしたパズズ」
「肩車お願いします」
「理由は?」
「ズボンだから大丈夫です」
「理由はって聞いてんだ」
「歩くの、疲れるじゃないですか」
膨れたように言うパズズ。うん、可愛いな。可愛いけどしないからな。
「美少女の可愛い顔を見てその反応は無いと思うのです」
「うっせーな。行くぞ。だまって歩け」
「はいはいわかりました。歩いた結果疲れ果てた私はその場から動けなくなり誰かに誘拐されてしまうかもしれませんし、いざという時に動けないかもしれません。もしかしたら親切な人が迷子センターまで連れてってくれるかもしれませんが、その時は全力で紅お兄ちゃんと泣きついて」
「はいはいわかったわかりました。すればよろしいのでしょう」
「わかればよろしい」
「腹黒ネコめ」
「黒? そんな色と同列にしないでください。私の黒は黒にあらず。一筋の光すら入らぬ拒絶の色。深淵より深き闇より濃い異質な何かこそが私の色です」
「うん。お前が魔王だってことはよーくわかった」
「違います。神です。魔神です」
「どっちにしても厄災の中心だな」
と、やり取りしてる間にも、俺は屈み、パズズは肩に足をかけ乗る。俺は膝に力を入れ立ち上がる。
「苦しゅうない」
「叩き落すぞ。……わりっ。待たせたな」
「う、うん。凄いやり取りだったね」
「パズズがあんな喋るの、初めて聞いたぜ」
「お前らはいつもそうなのか?」
「まーな」
実際にはパズズのコンディションが最高の時だけだが。どうやら今日は最高のコンディションらしい。
「良かったですね紅。美少女の太ももですよ。嬉しいでしょう?」
「あー、はいはい嬉しい嬉しいですよー」
「適当ですね。こうなれば私の魅力で紅を陥落させるのもまた一興」
「幼児体系が何をほざいてやがる。今まで焔とずっと一緒にいたんだから今更お前程度欲情も何もせんわ」
「それ、焔さんを暗に幼児って言ってますよね」
「まーなー。少なくとも恋愛対象じゃ無いな」
*
「う、えぐ」
「あれぇ!? 焔ちゃん何で泣いてるの!?」
私と焔ちゃんは今、紅たちがいるはずの店の表口と裏口を固めていて、ルナこと月島雪音と焔ちゃんがペアで裏口に待機していた。
のだが、
「うぅ〜、紅が紅で紅なんだよ〜」
どうやら紅くんが焔ちゃんを幼児体系と言った挙句恋愛対象にはならないと言った……気がしたらしい。
う〜ん、何故こんなにも思ってくれてる子の好意を見逃し続けるのか。恋愛対象じゃないからだろうか。
まあ、今までもそうだったけど。
「うーん、どうしよっか」
後でわかったんだけど、私は焔ちゃんと姉妹に見えてたみたい。その事実を知った焔ちゃんは目に熱い衝動を溜めて走り去ってしまった。……20mほどで体力尽きたらしいけど。
*
「紅、なんと非道な」
「焔が可哀想だよ……」
「最低だー」
「最低ですー」
「え? 何で俺こんな責められてるの?」
みんなロリコン推奨?
『べっつにー』
何なんだよ……。
というか話の流れがやばい。何とか変えないと!
「あ、あれだよな。夏休みも近いよなー」
「あ、うん。あと一週間だよね」
「お前は予定はあるのか?」
「あー、まぁ、予定っつーか」
罪悪感抜きにしても、これだけは外せない。
「墓参り、だよね」
「ああ、まぁ……」
「……そうか」
話題を変えて自爆って、俺はアホか。
「じゃあ夏休みはいないのか?」
「まあ、そうなるわな」
あ。
「そういえば魔狩りはどうなるんだ?」
なるべく声を潜めて和也に聞いてみる。
夏休み中に来られたら大変……というか、俺が抜けるだけだからたいして変化は無いか。
「大丈夫だ」
「何が?」
「お前がいなくなればこっちも落ち着くだろう」
…………人を台風の目みたいに。
「というか、僕もいるんだけどいいの?」
「今更だろ」
「今更だな」
「今更ですね」
「今更だ」
「……アバウトだね」
だが、実際のとこ今更だ。
「だが、ガス抜きという意味でも起こるかもな」
「何が?」
「魔狩り」
「まっさかー」
幾ら何でも、なあ?
「紅、それフラグ」
「フラグですねわかります」
「いやいや、そんな都合よく」
景色が一変した。
『………………』
………………。
「さあ戦闘準備だ!!」
『おい』




