9.前を見続ける
「来たか」
「遅いよー!」
………。
俺の目が狂ったか?俺は“あの世界”について聞くために和也と輝雪の部屋へついてきた。
ドアを開けて目の前には喋る二匹の黒い子猫。
………。
さてと、回れ右。
「紅くん、どこに行くの?」
「ちょっと眼科と脳外科に」
「あなたは正常だから安心しなさい」
へ?そうなの?…ダメだ。全く信じられん。
「紅、こいつらは“パズズ”と同じ存在だ」
パズズと同じ?つまり、
「こいつらはお前らのパートナー、て事か?」
「そうなる」
「私の相棒がクロね」
「クロか。よろしく」
「よろしくね♪」
「俺の相棒がコクだ」
「よろしくな、コ「気安く俺の名前を呼ぶんじゃねえ」……」
……よし。
「和也。こいつ殴っていいか?」
「ふん。お前に俺が殴れるのか?」
「お前こそ、相手の力量を考えてから物言えや。…和也」
「別にいいぞ」
「ちょっと和也!?コク、やめた方がいいって!」
「安心しろ。俺は絶対に負けない」
「それを言って勝てるのは主人公だけなんだよ!」
「は!来い!」
こうして、俺と猫の戦いの火蓋が切って落とされた!
・・・
・・
・
「ぐ…あ」
「ひゃーはははは!口ほどにも無えなコク!早く何か負け惜しみ言ってみろよ!ひゃーはははは!」
そこには、特殊な力を持っているとはいえ、子猫相手に本気になり、ボッコボコにした挙句、仁王立ちしてその子猫を見下しながら罵倒を吐き続ける男がいた。
というか俺だった。
「…俺、何やってんだ」
orzの体制をとりながら自己嫌悪に陥る俺。
何か凄え死にたい。
・・・
・・
・
「…では、気を取り直して。紅くん、何か質問ある?」
質問か。そうだな、
「じゃあ、輝雪のスリーサ「てい☆」ぐほあ!?」
何だよ「てい☆」て!☆で誤魔化せるような威力じゃ無かったぞ!?
「次ふざけたら殺すわよ」
………。
本気の殺気に怯えて“ふざける”という行動の選択肢を無くす俺であった。
「なら、お前らは一体何者なんだ?」
「俺たちは“魔狩り”だ」
「………」
どストレートなネーミングだな、おい。
「私たちみたいなのが担当の地区とか決めていろんな場所にいるのよ。そんで、戦うと」
こいつらみたいなのがまだ居るのか。
「そうだな。じゃあ、こいつらは何だ?」
俺は猫を指して言う。
「この子達は何処にいるか、存在さえ定かでは無い神から力を貰い、契約者にその力を行使する権利を与える存在ね」
「言ってしまえば神の使いみたいなもんだ」
その言い方はあんまりではないか和也?でも猫の方も納得してるっぽいのでいいか。
「えーと、じゃああの世界の名前は何て言うんだ?」
「エルボス。どっかの誰かがそう言ってそのまま残っているわ」
「エルボス…」
不思議な名前だな。一体何処からきたのやら。
「じゃあ、あの狼みたいな奴は何だ?」
「魔獣よ。闇が深まると個体を増やす存在」
「魔獣が居るとどんな悪影響があるんだ?」
「あなたは実際に体験してる筈よ」
は?俺が?
「俺が体験したって……せいぜいそのエルボス、て言う世界に飛ばされ「それよ」へ?」
エルボスに飛ばされる事が悪影響?どういう意味だ?
「例えば魔獣の被害で関係無い人がエルボスに転移されたとするわ。目の前には魔獣が居る場合が多いし、逃げ切れると思う?」
「…無理だな」
今思えば、俺だってパズズに助けられたから生きてるんだ。それにあの狼の速さは以上だし、しかも魔獣を倒さなきゃ元の世界に帰るための出口も現れない。無理ゲー過ぎる。
「でしょ?それに魔獣だって一体って訳じゃ無いしね」
「は?」
一体じゃ無いの?
「一体だったら対処に困んないわよ。パズズも頑張ったわ。パートナーも居ないのに一人で13体も倒してね」
あれを…13体も?
「もしかして、パズズって凄い?」
「能力的にはトップクラスね」
マジか。そんな奴が、俺の相棒に?
「でもね。敬遠はしないでね?あの子は力が強くても中身は私たちと何ら変わりないのだから」
輝雪がそう言うと、今まで喋らなかったクロとコクも話し出す。
「…パズズのパートナーは、お前で4人目なんだ」
「…は?」
「まず私たちの事を説明しないとね」
そう言うクロはとても辛そうな雰囲気を出した。
「俺たちとの契約は俺たちの命の保証でもあるんだ」
「命の…保証?」
どういう意味だ?
「私たちは魔獣に対抗する為の武具。何処から生まれたかもわからない。でも、巨大な力を行使でき、人間との契約でその力をさらに伸ばす事も出来る」
「だが、俺たちは非常に繁殖しにくいんだ」
「私たちの種族は何処からか供給されてくる神の力を糧に生きている。その為に生後1カ月以内に力を覚醒させ、力を供給してもらわないと、衰弱して死ぬの」
「何…だと」
「だが、そんな俺たちが何故今もこうやって子孫を残せると思う?それは力を覚醒させ、契約者さえ出来れば、こんな戦闘の中で生きてるような生活でも、生き続けられる“保証”が付くからだ」
「保証?」
「人間の命をスケープゴートにすること」
「!!!」
「つまりは、俺たちが死んでも、契約者の命で払っちまう、て事だ」
「……パズズの契約者は?」
意味の無い質問だと思う。何故ならその答えはわかりきっているのだから。
「死んだわ」
「パズズの力は強力過ぎた。その力が慢心を生み出し、油断を誘う。扱いきれずに死ぬ、というのもあった」
「…そうか」
「パズズはパートナーが死ぬたびに苦しんだ。そりゃそうだ。俺だって、和也が死ぬと悲しい。自分の無力さに泣きわめくと思う。だが、パズズはもっと弱い。精神的な意味でな」
「パズズが一人で戦うのも、パートナーを作って死なせないためね。もう、自分のせいで誰かを死なせたくないのよ。だから、パズズにまた新しいパートナーが出来た、て聞いた時は驚いた。それはパズズが認めた、て事だから。だからお願い。パズズの事は敬遠しないであげて」
「……」
今更だが、この長い説明を聞かなくても、俺の考えは決まっている。まあ、さらに強固なものになったけど。
「それだけか?」
「「「「………は?」」」」
和也と輝雪も驚いてるな。そんな驚く事か?
「残念だが、パズズの過去なんか知るか。俺は俺の平和の為に戦う。パズズには助けてもらった恩があるから一緒に戦う。それだけだ」
「でも!パズズのパートナーは死んで」
「俺には関係無い」
そう、関係なんか無い。これっぽちも。
「過去に死んだ?それが俺の死ぬ理由になるのか?ならねーだろ。それに俺は死なねーし」
「どこにそんな根拠があるんだ!」
「無い」
「だったら!」
「死ぬってか?何でだ?根拠が無いと死ぬのか?なら逆に俺が死ぬ根拠があるのか?あるとしても最初から死ぬと思って戦ってたら勝てるもんも勝てねーぞ」
全てはそいつ自身のありよう。パズズには誇るべき強い力があるのだ。だったら、もし死ぬとしたらもっと強い奴が出たか、あとは使用者の問題だ。
「俺はそもそもパズズを道具だと思って無え。俺は戦ってる最中、常にパズズから指示があった。俺はあの魔獣に勝てたのは自分の力だと思わない。戦いの怖さも知ってる」
「だが、お前はまだ、パズズの力を扱いきれてないだろう?」
「俺には、死ねない理由がある」
「…そうか」
「…俺は戻る。パズズは任せろ」
そう言って俺は部屋を後にした。
和也side
死ねない理由、か。
「面白い奴だ」
「お兄ちゃん?」
あいつはきっと生き続けられる。戦い続けられる。
「もしかしたら近い将来、あいつは凄い奴になるかもな」
「どうかしらね」
と、素っ気なく返すが俺にはわかる。輝雪も内心、楽しんでいる事が。
「あいつには先輩として教える事がいっぱいありそうだ」
紅紅、一体どんな風に育つのか。今から楽しみでしょうがない。




