最終話:私が、あなたと
私の告白は、この静寂の中にただ溶けて消えていく。
それで良かった。
そう思っていた。
彼女のその瞳から、一筋の雫が零れ落ちるまでは。
「…え?」
時が止まった。
涙。リリアの瞳から、涙が。
私は信じられない思いで震える指を伸ばし、その透き通った雫にそっと触れた。
温かい。それは紛れもなく、本物の涙だった。
私が彼女の瞳を覗き込んだ、その瞬間。
その涙に濡れた濃紺の瞳の奥に、私はあり得ない光景を見た。
雨が降る街。見たこともない様式の建物。ガラスの向こう側で、湯気の立つカップを前に一人本を読む、見知らぬ少女の姿。
その幻はほんの一瞬だけ映り込み、そしてすぐに消えた。
(…そうだったのね)
私は全てを悟った。
失われた魂が戻ったのではない。
記憶も感情も、きっと失われたまま。
けれどこの涙は、確かに新しくここに生まれた、あなたの魂の最初の産声なのだと。
数ヶ月後。
復興が進む白氷城の領地は活気に満ちていた。
民と語らう私の隣には、穏やかに微笑むリリアの姿があった。
彼女はもうかつてのように饒舌に話すことはない。けれどその静かな微笑みは、誰よりも雄弁に彼女の心を伝えてくれていた。
そして私たちは再び、あの始まりの場所へと戻ってきた。
王都の屋敷。その書斎。
私は一冊の新しい本を、彼女に差し出した。
それは、まだ何も書かれていない、真っ白な日記帳。
「今度は、どんな物語を始めましょうか」
私の問いかけに、リリアは花が綻ぶように微笑んだ。
昔とは違うのかもしれない、でも、これも『推し活』であることは間違いない。
「あなた様と、ご一緒なら」
書斎に差し込む西日が、真っ白なページと、微笑む二人を、優しく照らし出していた。
ここまで37話、前作から合わせると164話という長い道のりを共に歩んでいただき、本当にありがとうございます。
セレスティーナとリリアの物語は、ここで一旦の区切りとさせていただきます。
セレスティーナとリリアは、私にとって初めて本格的に描いた思い入れの深いキャラクターでもあり、こうして物語に一つの区切りを迎えることに、少し寂しい気持ちもあります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
前作に引き続き、この物語もお楽しみいただけましたら、ぜひ感想や評価、ブックマークで応援のお声を届けていただけますと幸いです。皆様からのお声が、今後の創作活動の大きな励みとなります。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【今後の活動のご案内】
また、同じ世界観で紡がれる別の物語もございます。あわせてお楽しみいただけましたら、この世界の奥行きをより一層感じていただけるはずです。
この他にも、新作を続々と投稿していく予定です。もしよろしければ、フォローなどで今後の活動を見守っていただけますと幸いです。
活動報告やX(旧Twitter)でも、制作の裏話などを更新しています。
・作者マイページ:https://mypage.syosetu.com/1166591/
・Xアカウント:@tukimatirefrain
《新連載のご案内》
『魔王軍の法務部』
https://book1.adouzi.eu.org/n6390ku/
『虫めづる姫君の死因究明録』
https://book1.adouzi.eu.org/n5466kw/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
改めて、心より感謝申し上げます。
また別の物語で皆様とお会いできる日を、楽しみにしております!




