第三十五話:聖地巡礼・吹雪の山小屋にて
天媒院の温室を後にしてから、私たちは次の「聖地」を目指していた。
王都の華やかな喧騒は次第に遠のき、馬車の窓から見える景色は日に日にその彩度を失っていく。目指す先は、ヴァイスハルト領との境にそびえる、険しい山脈の麓。
あの、吹雪の山小屋。
私とリリアが初めて互いの弱さを見せ合い、そして固い誓いを立てた、思い出の場所。
山道に差し掛かる頃には、空は厚い灰色の雲に覆われ、冷たい雪が舞い始めていた。まるで、あの夜の記憶をなぞるかのように。
やがて私たちは、雪の中にぽつんと佇む古い山小屋にたどり着いた。
扉を開けると、ひやりとした空気が私たちの体を包む。
私はリリアの手を引き中へ入ると、まず暖炉に薪をくべ、火を熾した。
ぱちぱちと炎が爆ぜる音が、静寂に満ちた室内に温かく響き渡る。
炎に照らされたリリアは、ただ静かにそこに佇んでいるだけ。
私はそんな彼女の横顔に、あの夜のことを語り始めた。
「酷い吹雪だったわね、あの夜も。私たちはここで、凍えながら朝を待った」
あの時、私は自らの無力さに打ちひしがれていた。全てを諦めかけていた私に、あなたは言ってくれた。
「あなたは、わたくしの剣にも盾にもなると誓ってくれました。そして、その通りになりましたわね」
私の声は震えていた。感謝と、彼女が払った犠牲への痛みで。
「…今度は、わたくしが」
私は立ち上がりリリアの前に膝をつくと、その冷たい両手を自分の手で包み込んだ。
「わたくしが、あなたの全てを守ります」
それは、新しい誓い。
心を失った、今のあなたも。
魂の奥底に眠る、かつてのあなたも。
その全てを、この手で守り抜くという、私の覚悟。
リリアの硝子玉のような瞳が、私を見下ろしている。
その時、暖炉の炎が一際大きく燃え上がり、私たちの影を壁に大きく映し出した。
リリアの瞳が、ほんの僅かに揺らめく炎の光を映して、きらりと輝いたような気がした。
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