表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/37

第三十四話:聖地巡礼・温室にて

白氷城を出て、数日。

私とリリアが最初に目指した場所。それは王都にある、天媒院の温室だった。

かつて私が学生として過ごした学び舎。そしてリリアと多くの時間を共にした、思い出の場所。


北への決死の旅とは違う。穏やかな日差しの中、馬車に揺られて進むその道のりは、私の心をどこまでも安らかにした。


温室の中は、あの頃と何も変わっていなかった。

暖かく湿った空気。甘い花の香り。ガラスの天井から降り注ぐ、柔らかな光。

私はリリアの手を引き、温室の一番奥にあるベンチへと向かった。

二人でよく、ここでお茶を飲んだものだ。


私たちはその思い出のベンチに、並んで腰掛けた。

リリアは相変わらず何も言わない。その瞳は、ただ前方の異国の花を見つめているだけ。


私はそんな彼女の横顔に、静かに語りかけた。

「覚えているかしら、リリア。ここであなたは、いつも私の愚痴を聞いてくれたわね」


あの頃、私はまだ未熟で、貴族社会の息苦しさに一人苛立っていた。

そんな私の心を解きほぐしてくれたのは、いつもあなたの言葉だった。


「わたくしには友人がいなかった。いいえ、友人の作り方さえ知らなかった。そんなわたくしに、あなたは初めて対等な言葉をくれた」


私は懐から一輪の白い月光花を取り出す。ヴァイスハルト家に咲く、特別な花だ。

そしてその花を、そっとベンチの上に置いた。


「ここで、あなたはわたくしに友人という宝物をくれました。…ありがとう、リリア」


それは、感謝の言葉。

そして、かつてのあなたへの、別れの言葉。


私はもう、思い出の中に生きるあなたを追い求めはしない。

私の隣にいる今のあなたと、共に歩いていく。


一陣の風が吹き、月光花の花びらが一枚、ひらりと舞った。

その花びらは、まるで何かに導かれるように、リリアの膝の上に落ちる。


彼女は、その花びらを払いのけるでもなく、ただ静かに受け入れていた。

その光景が、まるで過去の私と今の私が、静かに和解した証のように思えた。

ご覧いただきありがとうございました。感想や評価、ブックマークで応援いただけますと幸いです。また、世界観を共有する作品もあるので、そちらもご覧いただけるとお楽しみいただけるかと存じます。HTMLリンクも貼ってあります。

次回は基本的に20時過ぎ、または不定期で公開予定です。

活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話等を更新しています。

作者マイページ:https://mypage.syosetu.com/1166591/

Xアカウント:@tukimatirefrain

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ